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12(ライアン視点)
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「ピオ、明日これを父に届けて来て欲しい」
リナリアを女子寮の入口まで送り、自分の部屋に戻ってきた私はすぐに手紙を書き始めた。
リナリアに姉がいたなんて、私の両親は知っているのだろうか。
姉だというモーラ・バーレーを私は見たことが無い。
大抵の貴族令嬢は学校に入学した年辺りから夜会に出てくる様になるが、この国の成人年齢は十八歳だからそれまでは母親と共に茶会に出る程度に留める令嬢がいないわけではない。
ただそれは夜会用のドレスが用意できないとか、母親が他界している等理由があると公言しているの同じだ。
令息の場合は早い者は十三歳辺りから父親や兄等に連れられて社交界に出入りを始める。
私が初めて夜会に出たのは十四歳の春だった。
親しくしている家の者達も同じ様に夜会に出入りし始めるから、同世代や少し上の世代との繋がりを強化する為頻繁に夜会には顔を出す様にしている。
そんな私が、リナリアの姉の姿を見たことも噂を聞いたことも無い。
養父母が亡くなっているから成人するまでそういったことに関わらない様にしているのか、それとも庶子だから控えているのか分からない。
もしかして、リナリアの父が表に出ないようにしているのだろうか。
「坊ちゃま浮かれておいでですね」
「浮かれる?」
「これからは毎日婚約者様と過ごせるのですから当然でしようけれど、浮かれ過ぎない様にお気をつけ下さい。旦那様に私が叱られますので」
「お前こそ学校に来てのびのびし過ぎじゃないのか?」
恨めしくピオを見つめながら諫める。
ピオは私より十歳程上だが、まだ独身で色々と軽いと思う。
私の従僕をしているが、父は将来の私の片腕と見ているのだからもう少ししっかりして欲しい。
ちなみに、私は自分自身が浮かれている自覚はある。
リナリアが私を頼ってくれたのも、秘密にしていた前髪の事を話してくれたのも嬉しすぎて浮かれるなという方が無理だと思う。
リナリアは前髪で顔の半分が覆われていても、言動が可愛かったし、優しくて素直な性格が好きだったから、親しくなりたいし私のことを好きになって欲しいと願っていたんだ。
それが私の隣に立つに相応しい人になりたいと、変わる努力をしてくれたのだから嬉しくないわけがない。
「えーと、それはその、あれですよ。今日は初日なのでほんの少し気を抜いてしまっただけです」
「まあ、明日から気を付けてくれればいい。もう下がっていから、手紙頼むよ」
「畏まりました」
言い訳めいた事を口にするピオに苦笑しながら頷くと、ピオは慇懃無礼に頭を下げる。
「坊ちゃま、僭越ながら一つ申し上げてもよろしいでしょうか」
「なんだ」
「リナリア様は、侯爵夫人になるには少しお気持ちが弱すぎませんか」
ピオは忠臣だと思う。
私がまだ至らない主人だから、正式にはピオの主人は父なのかもしれないがそれでも父にも私にも誠実に仕えてくれている。
この言葉はだからこそなんだと、思う。
「そう思うのか。それは父もそうだと?」
冷ややかな視線、そして声。
それは無意識にピオに向けてしまったものだ。
だからこそ、ピオは驚いた表情を隠さずにいる。
「いえ、旦那様ではなく私の意見です」
「そうか。……なあ、ピオ」
「はい」
「私は自分の両親を誇りに思っている。互いを大切にし子供達を大切にする、勿論領主としても父は私の理想だ」
貴族として、天と地程の違いがある者は多いというのが私が社交界に出入りする様になっての感想だ。
私の父は貴族としても領主としても私の理想の存在だと思う。
両親は私達兄弟に素晴らしい環境と教育を用意してくれて、私達に十分な愛情を注いでくれた。
貴族の御奴関係というものは、その家々により異なる。
私の家の様に親子関係が親密な家もあれば、子の教育は使用人に任せてしまう家もある。
リナリアの家は、後者なのだとずっと思っていた。
だが、今日その考えは間違っていたと分かったのだ。
「リナリアは、育った環境が悪すぎる。家に閉じ込められて実の母に虐げられていた。令嬢としての教育はされていたようだが、自己否定を基礎とするようなリナリアの母親の行動は異常だと思う」
あんなに愛らしい彼女を醜いと罵り、顔を隠す様に前髪を伸ばさせる。
それが実の母親の行いだと聞いて感じるのは、その異常性だ。
嫌っている義母と似ているからと言って、それを自分の娘を虐げる理由にするなどありえるのか。
私は母にも父にも愛されて育った自覚があるから、だからこそ、信じられないんだ。
「それは、あの私の理解を超えるとしかお答えできません」
「そうだろうな、私だってそうだ」
使用人達が味方でも、弟は母親に愛されているのに自分は嫌われていると自覚する。
そんな生活が苦痛でないわけがない。
「リナリアは、自分から寮の暮らしを選んだ。自分で父親に許可を願い出てそうした。そして今日、私の目の前で顔を晒したんだ。変わりたいと言って」
それがどれだけ勇気がいる行為だったか。
突然の告白は驚いたけれど、私はそのリナリアの告白に正直なところ興奮した。
興奮して、この上ない喜びを感じた。
リナリアは私の為に自ら変わろうとしていたんだ。
「リナリアは強くないのかもしれない。私と結婚して未来の侯爵夫人になるには何もかも足りないのかもしれない。でもそれは経験が足りない故かもしれないだろ」
「そうかもしれませんが」
「弱ければ弱いなりに、それでもリナリアは変わろうとしている。私はそれで良いと思っているよ」
家に閉じ込められて、子供達の社交すら満足にさせて貰えなかった。
リナリアには圧倒的に経験が不足しているし、自分は劣っているという感情を実の母親に植え付けれられているようにも見える。
そういう意味ではリナリアは、劣っている令嬢なのだろう。
「良いのですか」
「ああ、自分に何が足りないのか理解して、変わろうとしている。リナリアは自分から変わろうとしているんだよ。なら私はその気持ちを大切に守るよ。リナリアが変わろうとしている、その思いを守った上で強力する」
「坊ちゃまはそれが良いと」
「リナリア以上の令嬢なんていくらでもいるのかもしれない、だが私が将来共にいたいのはリナリアだけだ。リナリアに足りないものがあるなら私がそれを補えばいい。逆にリナリアが私の足りない部分を補ってくれる可能性もあるだろう。父だって完ぺきではないし、母だってそうだろう? 違うか」
どうして私はこんなにリナリアに惹かれるのだろう。
理由は分からないけれど、私と共に居たいと願う彼女の思いが私は嬉しくて仕方がないから、だから共に生きる未来の為に努力したいんだ。
リナリアを女子寮の入口まで送り、自分の部屋に戻ってきた私はすぐに手紙を書き始めた。
リナリアに姉がいたなんて、私の両親は知っているのだろうか。
姉だというモーラ・バーレーを私は見たことが無い。
大抵の貴族令嬢は学校に入学した年辺りから夜会に出てくる様になるが、この国の成人年齢は十八歳だからそれまでは母親と共に茶会に出る程度に留める令嬢がいないわけではない。
ただそれは夜会用のドレスが用意できないとか、母親が他界している等理由があると公言しているの同じだ。
令息の場合は早い者は十三歳辺りから父親や兄等に連れられて社交界に出入りを始める。
私が初めて夜会に出たのは十四歳の春だった。
親しくしている家の者達も同じ様に夜会に出入りし始めるから、同世代や少し上の世代との繋がりを強化する為頻繁に夜会には顔を出す様にしている。
そんな私が、リナリアの姉の姿を見たことも噂を聞いたことも無い。
養父母が亡くなっているから成人するまでそういったことに関わらない様にしているのか、それとも庶子だから控えているのか分からない。
もしかして、リナリアの父が表に出ないようにしているのだろうか。
「坊ちゃま浮かれておいでですね」
「浮かれる?」
「これからは毎日婚約者様と過ごせるのですから当然でしようけれど、浮かれ過ぎない様にお気をつけ下さい。旦那様に私が叱られますので」
「お前こそ学校に来てのびのびし過ぎじゃないのか?」
恨めしくピオを見つめながら諫める。
ピオは私より十歳程上だが、まだ独身で色々と軽いと思う。
私の従僕をしているが、父は将来の私の片腕と見ているのだからもう少ししっかりして欲しい。
ちなみに、私は自分自身が浮かれている自覚はある。
リナリアが私を頼ってくれたのも、秘密にしていた前髪の事を話してくれたのも嬉しすぎて浮かれるなという方が無理だと思う。
リナリアは前髪で顔の半分が覆われていても、言動が可愛かったし、優しくて素直な性格が好きだったから、親しくなりたいし私のことを好きになって欲しいと願っていたんだ。
それが私の隣に立つに相応しい人になりたいと、変わる努力をしてくれたのだから嬉しくないわけがない。
「えーと、それはその、あれですよ。今日は初日なのでほんの少し気を抜いてしまっただけです」
「まあ、明日から気を付けてくれればいい。もう下がっていから、手紙頼むよ」
「畏まりました」
言い訳めいた事を口にするピオに苦笑しながら頷くと、ピオは慇懃無礼に頭を下げる。
「坊ちゃま、僭越ながら一つ申し上げてもよろしいでしょうか」
「なんだ」
「リナリア様は、侯爵夫人になるには少しお気持ちが弱すぎませんか」
ピオは忠臣だと思う。
私がまだ至らない主人だから、正式にはピオの主人は父なのかもしれないがそれでも父にも私にも誠実に仕えてくれている。
この言葉はだからこそなんだと、思う。
「そう思うのか。それは父もそうだと?」
冷ややかな視線、そして声。
それは無意識にピオに向けてしまったものだ。
だからこそ、ピオは驚いた表情を隠さずにいる。
「いえ、旦那様ではなく私の意見です」
「そうか。……なあ、ピオ」
「はい」
「私は自分の両親を誇りに思っている。互いを大切にし子供達を大切にする、勿論領主としても父は私の理想だ」
貴族として、天と地程の違いがある者は多いというのが私が社交界に出入りする様になっての感想だ。
私の父は貴族としても領主としても私の理想の存在だと思う。
両親は私達兄弟に素晴らしい環境と教育を用意してくれて、私達に十分な愛情を注いでくれた。
貴族の御奴関係というものは、その家々により異なる。
私の家の様に親子関係が親密な家もあれば、子の教育は使用人に任せてしまう家もある。
リナリアの家は、後者なのだとずっと思っていた。
だが、今日その考えは間違っていたと分かったのだ。
「リナリアは、育った環境が悪すぎる。家に閉じ込められて実の母に虐げられていた。令嬢としての教育はされていたようだが、自己否定を基礎とするようなリナリアの母親の行動は異常だと思う」
あんなに愛らしい彼女を醜いと罵り、顔を隠す様に前髪を伸ばさせる。
それが実の母親の行いだと聞いて感じるのは、その異常性だ。
嫌っている義母と似ているからと言って、それを自分の娘を虐げる理由にするなどありえるのか。
私は母にも父にも愛されて育った自覚があるから、だからこそ、信じられないんだ。
「それは、あの私の理解を超えるとしかお答えできません」
「そうだろうな、私だってそうだ」
使用人達が味方でも、弟は母親に愛されているのに自分は嫌われていると自覚する。
そんな生活が苦痛でないわけがない。
「リナリアは、自分から寮の暮らしを選んだ。自分で父親に許可を願い出てそうした。そして今日、私の目の前で顔を晒したんだ。変わりたいと言って」
それがどれだけ勇気がいる行為だったか。
突然の告白は驚いたけれど、私はそのリナリアの告白に正直なところ興奮した。
興奮して、この上ない喜びを感じた。
リナリアは私の為に自ら変わろうとしていたんだ。
「リナリアは強くないのかもしれない。私と結婚して未来の侯爵夫人になるには何もかも足りないのかもしれない。でもそれは経験が足りない故かもしれないだろ」
「そうかもしれませんが」
「弱ければ弱いなりに、それでもリナリアは変わろうとしている。私はそれで良いと思っているよ」
家に閉じ込められて、子供達の社交すら満足にさせて貰えなかった。
リナリアには圧倒的に経験が不足しているし、自分は劣っているという感情を実の母親に植え付けれられているようにも見える。
そういう意味ではリナリアは、劣っている令嬢なのだろう。
「良いのですか」
「ああ、自分に何が足りないのか理解して、変わろうとしている。リナリアは自分から変わろうとしているんだよ。なら私はその気持ちを大切に守るよ。リナリアが変わろうとしている、その思いを守った上で強力する」
「坊ちゃまはそれが良いと」
「リナリア以上の令嬢なんていくらでもいるのかもしれない、だが私が将来共にいたいのはリナリアだけだ。リナリアに足りないものがあるなら私がそれを補えばいい。逆にリナリアが私の足りない部分を補ってくれる可能性もあるだろう。父だって完ぺきではないし、母だってそうだろう? 違うか」
どうして私はこんなにリナリアに惹かれるのだろう。
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