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「ああ、着いたみたいだね」
ライアン様の優しさに感動していると、突然馬車が停まって驚き思わず立ち上がって小窓から外を見てしまう。
まだ家を出てから半刻も過ぎてはいない学園はもっと先の筈なのに、その疑問は小窓から見えた景色に確信に変わる。
見えたのは学園の門でも校舎でも無く、お店の様な建物だった。
「ライアン様?」
手を引かれて馬車を降りると、やぱり何かの店の前の様だった。
埃一つ無く掃き清められた石の階段を上った先には、重そうな木製の扉が待っている。看板は無いけれど何かの店らしいのは扉から少し離れた場所にある窓から見える中の様子から分かる。
「ここは?」
「リナリアが変わろうとして、勇気を出してくれたから私からの応援の気持ちをね」
「応援の気持ち、ですか」
わけが分かっていない私がライアン様が導くままに中へ入ると、店員らしい女性にすぐに奥へと通された。
私は殆ど外出した経験が無いし、店で自分が何かを購入した経験も無い。
店だと判断出来るのは、数少ない外出(その殆どはライアン様のいらっしゃるお屋敷に向かう時だ)の際に馬車の中からジゼルが色々教えてくれたからだ。
お母様に叱責されない様に屋敷の中で息をひそめる様にして生きていた私には、馬車の中から見える景色はとてもキラキラしている様に見えていて大人になったら自由に出かけられるのだろうかと夢を見せてくれる景色でもあった。
「いらっしゃいませ、ライアン・ムーディ様」
「久しぶりだね。用意は出来ている?」
「はい、ご要望にお応えできれば良いのですが」
店の主人なのだろうか、恰幅のいい男性がライアン様に挨拶し、私にもにこやかに会釈する。
「そうか、楽しみだな。こちらは私の婚約者のリナリア・バーレー嬢だ。彼女へ入学の贈り物を選びたくてね」
「そうでしたか、私はこの店の主ブラウンと申します。どうぞよろしくお願いいたします。おや、またこれは懐かしいものを」
ブラウンと名乗った店主は、名乗りの後私の髪の辺りを見て顔を綻ばせた。
「リナリア・バーレーです。よろくしお願いしますね。それであの、懐かしいと言うのは」
ライアン様は贈り物をと言っていたけれど、急にどうしたのだろう。
戸惑いながらも、店主の言葉の方が気に掛かって尋ねてしまう。
「失礼致しました。お嬢様がお使いになられています飾り櫛は、私が若い頃に手掛けた物でしたもので」
「え、ライアン様?」
「店主は彫金師でね、私は彼の作るものが好きなんだ」
ライアン様の言葉に思わず飾り櫛に手を伸ばす。
まさか、当時七歳のライアン様が自らこれを選んだというのだろうか。
飾り櫛は、金の小さな櫛の上部に三つの花が付いている可愛らしいものだ。花はそれぞれ小さな緑色の丸い石を囲むように琥珀色の花びらが五枚付いている。
とても品が良く、でも七歳の少女が使うに適した意匠だと思う。
私はお母様から酷い言葉を向けられる度、部屋に戻ってこの飾り櫛を眺め心を慰めていた。
あまり会うことが出来ないライアン様の瞳と同じ琥珀色の花びらに、何度慰められたか分からない。
この飾り櫛をライアン様が当時下さった事に意味など無いと思っていた。
多分侯爵夫人が用意したもの、そう思っていたのに。
「こちらの意匠をお決めになったのはライアン様ですが本日は、私の作でよろしいのですか」
私の勘違いなどでは無いと言うように、店主が告げる。
いくつかある飾り櫛の中から選んだのでは無く、ライアン様自ら意匠を決めたという言葉に、耳が熱くなる。
「彼女の好みが無ければ困るが、君が作るものはどれも素晴らしいから問題ないだろう。今度時間がある時にゆっくり彼女に意匠を選んで作ってもらうよ」
私の願望なのだろうか、それではまるでもう一度二人でここに来て……そんなの本当に?
こんなお店に入るのは最初で最後の様に考えていたのに、ライアン様はまた一緒になんて私は夢でも見ているのかもしれない。
「リナリア、どんな物が好き?」
「あの、私……」
どんな物と言われても、私は自分で何かを選んだことが無い。
お母様にドレスも靴も私は希望を聞かれたことが無いし、飾りなど醜いお前には過ぎたものだと言われ続けてきたのだから。
「私、あの。この飾り櫛のお花の花びらみたいな色が……」
ずっとずっと私を励ましてくれていた飾り櫛、その櫛についていた琥珀色の花びら。
好きとは違うのかもしれないけれど、ライアン様からの贈り物でそれを頂けたら私はこれからも変わる努力をし続けられると思うから。
ライアン様の優しさに感動していると、突然馬車が停まって驚き思わず立ち上がって小窓から外を見てしまう。
まだ家を出てから半刻も過ぎてはいない学園はもっと先の筈なのに、その疑問は小窓から見えた景色に確信に変わる。
見えたのは学園の門でも校舎でも無く、お店の様な建物だった。
「ライアン様?」
手を引かれて馬車を降りると、やぱり何かの店の前の様だった。
埃一つ無く掃き清められた石の階段を上った先には、重そうな木製の扉が待っている。看板は無いけれど何かの店らしいのは扉から少し離れた場所にある窓から見える中の様子から分かる。
「ここは?」
「リナリアが変わろうとして、勇気を出してくれたから私からの応援の気持ちをね」
「応援の気持ち、ですか」
わけが分かっていない私がライアン様が導くままに中へ入ると、店員らしい女性にすぐに奥へと通された。
私は殆ど外出した経験が無いし、店で自分が何かを購入した経験も無い。
店だと判断出来るのは、数少ない外出(その殆どはライアン様のいらっしゃるお屋敷に向かう時だ)の際に馬車の中からジゼルが色々教えてくれたからだ。
お母様に叱責されない様に屋敷の中で息をひそめる様にして生きていた私には、馬車の中から見える景色はとてもキラキラしている様に見えていて大人になったら自由に出かけられるのだろうかと夢を見せてくれる景色でもあった。
「いらっしゃいませ、ライアン・ムーディ様」
「久しぶりだね。用意は出来ている?」
「はい、ご要望にお応えできれば良いのですが」
店の主人なのだろうか、恰幅のいい男性がライアン様に挨拶し、私にもにこやかに会釈する。
「そうか、楽しみだな。こちらは私の婚約者のリナリア・バーレー嬢だ。彼女へ入学の贈り物を選びたくてね」
「そうでしたか、私はこの店の主ブラウンと申します。どうぞよろしくお願いいたします。おや、またこれは懐かしいものを」
ブラウンと名乗った店主は、名乗りの後私の髪の辺りを見て顔を綻ばせた。
「リナリア・バーレーです。よろくしお願いしますね。それであの、懐かしいと言うのは」
ライアン様は贈り物をと言っていたけれど、急にどうしたのだろう。
戸惑いながらも、店主の言葉の方が気に掛かって尋ねてしまう。
「失礼致しました。お嬢様がお使いになられています飾り櫛は、私が若い頃に手掛けた物でしたもので」
「え、ライアン様?」
「店主は彫金師でね、私は彼の作るものが好きなんだ」
ライアン様の言葉に思わず飾り櫛に手を伸ばす。
まさか、当時七歳のライアン様が自らこれを選んだというのだろうか。
飾り櫛は、金の小さな櫛の上部に三つの花が付いている可愛らしいものだ。花はそれぞれ小さな緑色の丸い石を囲むように琥珀色の花びらが五枚付いている。
とても品が良く、でも七歳の少女が使うに適した意匠だと思う。
私はお母様から酷い言葉を向けられる度、部屋に戻ってこの飾り櫛を眺め心を慰めていた。
あまり会うことが出来ないライアン様の瞳と同じ琥珀色の花びらに、何度慰められたか分からない。
この飾り櫛をライアン様が当時下さった事に意味など無いと思っていた。
多分侯爵夫人が用意したもの、そう思っていたのに。
「こちらの意匠をお決めになったのはライアン様ですが本日は、私の作でよろしいのですか」
私の勘違いなどでは無いと言うように、店主が告げる。
いくつかある飾り櫛の中から選んだのでは無く、ライアン様自ら意匠を決めたという言葉に、耳が熱くなる。
「彼女の好みが無ければ困るが、君が作るものはどれも素晴らしいから問題ないだろう。今度時間がある時にゆっくり彼女に意匠を選んで作ってもらうよ」
私の願望なのだろうか、それではまるでもう一度二人でここに来て……そんなの本当に?
こんなお店に入るのは最初で最後の様に考えていたのに、ライアン様はまた一緒になんて私は夢でも見ているのかもしれない。
「リナリア、どんな物が好き?」
「あの、私……」
どんな物と言われても、私は自分で何かを選んだことが無い。
お母様にドレスも靴も私は希望を聞かれたことが無いし、飾りなど醜いお前には過ぎたものだと言われ続けてきたのだから。
「私、あの。この飾り櫛のお花の花びらみたいな色が……」
ずっとずっと私を励ましてくれていた飾り櫛、その櫛についていた琥珀色の花びら。
好きとは違うのかもしれないけれど、ライアン様からの贈り物でそれを頂けたら私はこれからも変わる努力をし続けられると思うから。
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