ごめん、好きなんだ

木嶋うめ香

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カラムの気遣い

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「屋敷に呼ぶのですか?」
「そうだ、屋敷に呼んで吟遊詩人にキティの好きな歌を歌ってもらおう」

 カラムが当然の様に言うから、キティは目を丸くして驚いてしまう。

「そ、そんな私のためになど贅沢すぎますっ!」

 キティが慌てて出した声は、悲鳴に近かった。

「贅沢?」
「こんな豪華なお昼を頂くのも恐れ多いのに、私の為に吟遊詩人を呼ぶなんて、いけません」
「昼食が恐れ多い?」

 キティが喜ぶならと提案したことを即座に否定されて、カラムは何が悪かったのだろうと内心悩みながら、更に意味が分からなかったキティの叫びを繰り返した。

「キティ、私は他人の心の機微を察するのが苦手なのだ。だから気に入らないことや困ったことは遠慮なく言葉にして欲しい。そうしてくれないと私は自分勝手な判断で物事を強引に進めてしまう」

 カラムは戦場でずっと暮らしていたせいで感情よりもその場の状況で瞬時に動く癖がついていた。
 迷っていたら死に直結する場に致し、カラムは単独行動が多かったから、状況を判断するのも何かを決定するのもカラム自身だったのだ。
 勿論最初はそうでは無かった。十代前半の頃は上官の指示が絶対でカラムの気持ちは関係なく戦わされてきた。
 何百、何千と人を魔法で倒して味方を守るうちにカラムは死神と呼ばれる様になり、軍の中での位も上がっていった。
 そこには部下はいても仲間は居なかった。
 偉大すぎる魔法使いは、敵にも味方にも恐れられていたのだ。

「食事が気に入らなかったか?」
「いいえ、どれもとても美味しいです。だから申し訳なくて」
「申し訳無い?」
「残してきた家族に」

 カラムが借金を肩代わりしてくれたから、取り立てに怯えることはなくなったけれど、キティの父親はきっとカラムに少しでも早く借金を返そうとするだろう。だから、お金に困ってしまう生活は続くのだとキティには分かっていた。
 しかも家計の足しにと働いていたキティがいない。食費等がキティの分減ったとしても、稼ぎも減るのだから。そう考えつくとキティは自分ばかりが良い思いをしているのが辛かった。

「それならば心配いらない。こちらから食料は十分な量を毎日運ぶし、料理人もいる」
「え」
「キティの母上にはしっかり栄養を取らねばならぬし、弟妹達は育ち盛りだ食事は大事だろう? ロークだってそうだろう?」
「でも、そんな」

 キティを娶ったせいでカラムの出費ばかりが増えていく。
 カラムの言葉にキティは落ち込んでしまった。
 キティ自身貴族の女性としての教育をカラムの母にお願いする立場だから、現在お飾りの妻さえまともに出来ていないというのに、カラムに負担ばかりかけている状況が辛かった。

「私迷惑ばかり……」

 家族に申し訳無い等言えばカラムが気にすると発言する前に気が付かない迂闊さに、キティは自分自身に呆れながら俯いた。

「夫が妻の実家を大切にするのは当然の事だろう。そんな風に気にすることなどない」

 俯くキティにカラムは感情のこもっていない声で言い放つ。

「ですが……。料理人の皆さんにも余計な仕事を増やして」
「キティの弟妹達は家の料理人の焼いたクッキーを気に入ったそうだ。菓子作り等母や姉が居なければ頻繁にする機会もなかったから料理人達も張り切っている。私は食事等栄養が取れれば良いとしていたから、あれ達も張り合いが無かったのだ」
「カラム様」
「それに、キティが喜んで食事しているから料理人達のやる気に繋がっている。女主人がいれば屋敷をより良い場所にしようと、今まで以上に使用人達も仕えてくれるだろう。仕事で殆ど屋敷にいない主人相手では仕えようがないからな」
「女主人?」
「キティはまだデビューすらしていないが、昨日からこの屋敷の女主人となったのだ。その自覚を持ってこれから少しずつ覚えていけばいい」
「はい。ありがとうごさいますカラム様。私だけでなく実家の事まで気遣って下さって、本当にありがとうございます」

 キティはこんなに優しくしてくれるカラムのためにも一日も早く立派な女主人になろうと心に誓うのだった。
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