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微妙な反応と盛り下がる気持ち

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「お嬢様、とてもお似合いですわ!」
「美しい御髪を緩く巻いただけですが、とても華やかでございますね!」
「いえいえ、これは清楚というのです。清楚なのに麗しい、まるで一輪の薔薇の様です」

 メイド達から何時にない賛辞を受けて、流石に照れながら私はディアス兄様が待つ玄関に向かいました。
 足を進めるたびに緩やかに揺れる髪を背中に感じながら、この髪型に合わせて少し甘めに見える様化粧をした私をディアス兄様がどの様に思ってくれるか気になりました。

「褒めて下さるかしら、おかしいと言われないかしら」

 不安をつい口にすれば、後ろを歩いていたメイド達が口々に励ましてくれました。
 私付きのメイドは私の気持ちも、先日のダンスの練習の時の騒ぎも知っているのですから私の不安を手にとるように分かるのでしょう。

「お嬢様はいつもお綺麗ですが、今日は更にお綺麗ですし、可愛らしくもありますわ。きっと素敵だと言ってくださいます」
「ええ、間違いなく」
「そうだと言いけれど」

 ディアス兄様が私に関心があるのかすら、自身がないのです。
 普段との違いとか、二人で出掛ける為だけにお洒落をしたのだと察してくださるでしょうか。

「お待たせしました」
「いや、大丈夫だよ」

 ディアス兄様は一瞬目を大きく見開いた後、にっこりと笑いました。

「へえ、そうしているとカレンと君は姉妹なんだと実感するね」

 なんとも微妙な言葉に私は絶句し、背後のメイド達からも微妙な雰囲気を感じて居た堪れなくなってしまいました。
 
「王都で個人的に出掛けるのは久し振りだから、いつもと変えてみたのよ。おかしいかしら」
「いや、似合っているよ」

 似合っているなら、普通礼儀としてももう少し褒める筈です。
 実際、今朝王宮に出掛けるカレンには「今日のカレンはいつも以上に愛らしいな。ドレスとても似合っているよ。王子殿下も見とれるだろうね」と褒めていたのです。

「それなら良かったわ」

 どうして何も言ってくれないのとか、全然似合っていないのかしらとか、私の心の中は後ろ向きな言葉で溢れてしまいそうです。
 でもそれを口にするのは悔しく悲しいので、私は思いを隠して笑顔を作りました。

「出掛けましょうか」

 笑顔の私にディアス兄様は満足げに頷きエスコートして馬車へと乗せてくれますが、私はすでに出掛ける意欲をうしなっていました。
 ディアス兄様と婚約して初めての二人きりの外出に、メイド達と張り切ってお洒落をした私が馬鹿みたいです。
 カレンの様な愛らしい子がするなら、この髪型をディアス兄様は褒めたのでしょうか。
 似合っているよと言ってくれたのは、私がおかしいかと聞いたからでそうでなければ何も言って貰えなかったのです。
 
 可愛いカレンと姉妹だと実感するというのは、まさか誉め言葉として使ったのでしょうか。
 カレンにはあんなに言葉を尽くしていたというのに。
 仮にも婚約した相手に、こんな風な言い方をするものでしょうか。カレンだけあんな風に褒められるなんて。
 もやもやした気持ちのまま、私は座席に座り俯きました。

「まだ気になっているのか?」
「え?」
「カレンはジョーシーがつきっきりで指導したんだから大丈夫だよ」

 当然の様にそう言われて、カレンへの心配等どこかへ行ってしまっていた私は苦笑いするしかありません。
 私は本当に嫌な女だと思います。
 社交に慣れていない妹が緊張しながら王子殿下と顔合わせをしている最中だと分かっているのに、自分の事ばかり考えているだけでなく、カレンへの賛辞を妬んでいたのです。

「私がここで心配しても仕方がないのは分かっていますが、あの子は社交慣れしていないでしょう? どうしても心配になってしまうの」

 気落ちしているのを隠すには、カレンの件は丁度いい言い訳になります。
 本当に私は嫌な女だと思いながら、妹を心配する姉の振りをしていたのです。
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