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緊張と落胆2
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「ありがとう。さすがジョーシーだな。俺が好きなものを刺繍してくれたんだな」
「え、ええ」
「あと……その、なんだ。すまなかった。ジョーシーに恥ずかしい思いをさせてしまった」
ハンカチに視線を落としながら、ディアス兄様が謝罪するのを私は動揺しながら聞いていました。
今まさに告白しようとしていたというのに先に謝罪されるのは、なんて間が悪いのでしょう。
「気になさらないで、あんな格好していた私が悪かったのですから」
思い出すだけで恥ずかしさで顔が赤くなってしまいますが、今はそれどころではありません。
「あの、それよりも私」
「なんだ?」
「急にこんなこと言い出したら驚くと思います。あの、私」
言ったら後悔しないでしょうか。
告白して振られても、普通の顔で接するなんて出来るでしょうか。
恐ろしくて手が震えます。
ぎゅうぅっと目を閉じて、勇気を振り絞ります。
「私はディアス兄様が好きです。妹としか思われていないと分かっていますが、私は妹じゃありません。一人の女性として私を見てほしいのよ。ずっとずっと好きだったの」
緊張で声が震えます。
言葉を遮られないよう早口で一気に言った後恐る恐る目を開けると、ディアス兄様は呆然と私を見ていました。
「ジョーシー」
「は、はい」
「ありがとう」
ありがとう? え、お礼を言われたの?
それはつまり?
「そんな風に思ってくれていたなんて思っていなかった。ごめん」
お礼を言われて、ごめん?
カレン、どうしたらいいの。
私もう泣きそうよ。
「ずっと、ジョーシーのこともカレンのことも、妹の様に思っていた。いつまでも俺の後ろを着いてくる可愛くて幼い妹の様に思っていたんだ」
「はい、分かっています」
これはお断りの言葉を、傷付けないように言っているのよね。
私、我儘言っては駄目よ。
「二人を同じように妹だと思っていた。だけど、カレンが王子殿下に求婚されたと聞いた時俺は相手がジョーシーじゃなくてホッとしたんだ」
え。それは、どうして?
「おじさんから、第三王子殿下から侯爵家に求婚があったと聞かされて、ジョーシーに来た話だと思ったんだ。その時俺はジョーシーと第三王子殿下なら似合いだと思ったと同時に、その、喪失感というかそういう感情が湧いてきて、戸惑ったんだよ」
なぜ何も言われていないのに私に来た縁談だと思ったのか、不満に思いながら普通は姉に来た縁談だと思うのかと、思い直しました。
確かに第三王子なら婿入りは可能です。
婚約者のいない嫡子がいるのですから、そう思うのは不思議ではありません。
「元々ジョーシーとその結婚相手が侯爵家を継いで、俺は領主の補佐としてどこか領地の一部を管理する代官になるのだと思っていた。第三王子殿下は武に優れた方で、でもとても思慮深い方だとも聞いているから、未来の主としてなんの不満もない筈なのに、なぜか戸惑いと喪失感の方が大きくて」
そこで私に縁談が来て良かったと思われなかったのは、私にとって良いことなのかわかりません。
だって妹の様に思っていたとはっきり言われたのですから。
「俺が何も言わないのを見ながら、おじさんは求婚はカレンに来たものだと話してくれたんだよ。それでどうしてか俺はホッとしてしまったんだ。ジョーシーに来た話では無かったのかと、喜んでしまったんだ」
わけがわかりません。
ディアス兄様ははっきりと私を妹の様に思っていると言ったくせに、どうして私の縁談ではないと喜ぶのでしょう。
私では王子殿下の相手には、到底なりえないからなのでしょうか。
「それからずっと悩んでいた。どうしてそんな風に感じたんだろうと」
「理由は分かったのですか」
「分からなかった。ジョーシーをエスコートするのは、俺の役目だとはずっと思っていたし、ジョーシーがあんな風に誰かに足を見せるのは嫌だとも思った」
あんな風に足を? え、足って。
ディアス兄様は何を言っているの!
「デ、デ、ディアス、兄様っ!」
「すまないっ。だけど、本当にそう思うんだ。これが身内への感情なのか、それともジョーシーが言ってくれたみたいに好きだからなのか、まだ自信がないけれど。でも、あんな姿他の誰にも見せたくないし、ジョーシーを悲しませたくないし守りたいとも思っているのも本心なんだ」
なんでしょうこれ。
この嬉しいのと戸惑うのと、それ以上に感じる落胆はなんなのでしょう。
つまりディアス兄様が私をどう思っているのか、分かってしまったのです。
身内としては好きで、大切で。
でも、男女の思いとしては好きかもしれない程度、でも、なぜか独占欲的なものだけはある。
なんて中途半端な感情でしょう。
「では、私を守ってください。生涯夫として」
それでも好きだから、こんな事を言ってしまう。
私ってなんなのでしょう。
「こんなあやふやな気持ちの俺でいいのか」
「嫌いだとか、妹以上には見られないとかなら諦めますけれど、そうでないなら私はディアス兄様が良いです。カレンの婚約が決まれば私は問答無用に婚約者を決められてしまうかもしれませんよ。ディアス兄様はそれでいいのですか?」
それも仕方ないと言われたら、私は一生立ち直れませんが、流石にそこまでのことは言われませんでした。
「もう兄様とは言いません」
「うん」
「ディアス」
「不甲斐なくてごめん」
「今はそれで十分です。でも、いつかちゃんと好きになって下さい」
断られたわけではないのに、何だか惨めな気持ちで私は笑顔を作ると、自分からディアス兄、いいえディアスの胸に飛び込みました。
「ジョ、ジョーシーッ!」
「お父様達には両思いになったと報告します。婚約の話も進めて貰います。いいですよね」
多分涙が浮かんでます。
そんな顔でディアスを見上げて、ぎゅうぎゅうと抱きつきました。
「うん。全部言わせてごめん」
「いいです、でも少しだけこうしていてください」
こんな気持ちで婚約するのは私くらいでしょうか。
落ち込む気持ちを飲み込んで私はディアスに抱きついたまま、必死に鳴き声を堪えるのでした。
※※※※※※※※※※
恋愛ベタな二人。
どちらも不器用で正直なのでこんな展開に。
「え、ええ」
「あと……その、なんだ。すまなかった。ジョーシーに恥ずかしい思いをさせてしまった」
ハンカチに視線を落としながら、ディアス兄様が謝罪するのを私は動揺しながら聞いていました。
今まさに告白しようとしていたというのに先に謝罪されるのは、なんて間が悪いのでしょう。
「気になさらないで、あんな格好していた私が悪かったのですから」
思い出すだけで恥ずかしさで顔が赤くなってしまいますが、今はそれどころではありません。
「あの、それよりも私」
「なんだ?」
「急にこんなこと言い出したら驚くと思います。あの、私」
言ったら後悔しないでしょうか。
告白して振られても、普通の顔で接するなんて出来るでしょうか。
恐ろしくて手が震えます。
ぎゅうぅっと目を閉じて、勇気を振り絞ります。
「私はディアス兄様が好きです。妹としか思われていないと分かっていますが、私は妹じゃありません。一人の女性として私を見てほしいのよ。ずっとずっと好きだったの」
緊張で声が震えます。
言葉を遮られないよう早口で一気に言った後恐る恐る目を開けると、ディアス兄様は呆然と私を見ていました。
「ジョーシー」
「は、はい」
「ありがとう」
ありがとう? え、お礼を言われたの?
それはつまり?
「そんな風に思ってくれていたなんて思っていなかった。ごめん」
お礼を言われて、ごめん?
カレン、どうしたらいいの。
私もう泣きそうよ。
「ずっと、ジョーシーのこともカレンのことも、妹の様に思っていた。いつまでも俺の後ろを着いてくる可愛くて幼い妹の様に思っていたんだ」
「はい、分かっています」
これはお断りの言葉を、傷付けないように言っているのよね。
私、我儘言っては駄目よ。
「二人を同じように妹だと思っていた。だけど、カレンが王子殿下に求婚されたと聞いた時俺は相手がジョーシーじゃなくてホッとしたんだ」
え。それは、どうして?
「おじさんから、第三王子殿下から侯爵家に求婚があったと聞かされて、ジョーシーに来た話だと思ったんだ。その時俺はジョーシーと第三王子殿下なら似合いだと思ったと同時に、その、喪失感というかそういう感情が湧いてきて、戸惑ったんだよ」
なぜ何も言われていないのに私に来た縁談だと思ったのか、不満に思いながら普通は姉に来た縁談だと思うのかと、思い直しました。
確かに第三王子なら婿入りは可能です。
婚約者のいない嫡子がいるのですから、そう思うのは不思議ではありません。
「元々ジョーシーとその結婚相手が侯爵家を継いで、俺は領主の補佐としてどこか領地の一部を管理する代官になるのだと思っていた。第三王子殿下は武に優れた方で、でもとても思慮深い方だとも聞いているから、未来の主としてなんの不満もない筈なのに、なぜか戸惑いと喪失感の方が大きくて」
そこで私に縁談が来て良かったと思われなかったのは、私にとって良いことなのかわかりません。
だって妹の様に思っていたとはっきり言われたのですから。
「俺が何も言わないのを見ながら、おじさんは求婚はカレンに来たものだと話してくれたんだよ。それでどうしてか俺はホッとしてしまったんだ。ジョーシーに来た話では無かったのかと、喜んでしまったんだ」
わけがわかりません。
ディアス兄様ははっきりと私を妹の様に思っていると言ったくせに、どうして私の縁談ではないと喜ぶのでしょう。
私では王子殿下の相手には、到底なりえないからなのでしょうか。
「それからずっと悩んでいた。どうしてそんな風に感じたんだろうと」
「理由は分かったのですか」
「分からなかった。ジョーシーをエスコートするのは、俺の役目だとはずっと思っていたし、ジョーシーがあんな風に誰かに足を見せるのは嫌だとも思った」
あんな風に足を? え、足って。
ディアス兄様は何を言っているの!
「デ、デ、ディアス、兄様っ!」
「すまないっ。だけど、本当にそう思うんだ。これが身内への感情なのか、それともジョーシーが言ってくれたみたいに好きだからなのか、まだ自信がないけれど。でも、あんな姿他の誰にも見せたくないし、ジョーシーを悲しませたくないし守りたいとも思っているのも本心なんだ」
なんでしょうこれ。
この嬉しいのと戸惑うのと、それ以上に感じる落胆はなんなのでしょう。
つまりディアス兄様が私をどう思っているのか、分かってしまったのです。
身内としては好きで、大切で。
でも、男女の思いとしては好きかもしれない程度、でも、なぜか独占欲的なものだけはある。
なんて中途半端な感情でしょう。
「では、私を守ってください。生涯夫として」
それでも好きだから、こんな事を言ってしまう。
私ってなんなのでしょう。
「こんなあやふやな気持ちの俺でいいのか」
「嫌いだとか、妹以上には見られないとかなら諦めますけれど、そうでないなら私はディアス兄様が良いです。カレンの婚約が決まれば私は問答無用に婚約者を決められてしまうかもしれませんよ。ディアス兄様はそれでいいのですか?」
それも仕方ないと言われたら、私は一生立ち直れませんが、流石にそこまでのことは言われませんでした。
「もう兄様とは言いません」
「うん」
「ディアス」
「不甲斐なくてごめん」
「今はそれで十分です。でも、いつかちゃんと好きになって下さい」
断られたわけではないのに、何だか惨めな気持ちで私は笑顔を作ると、自分からディアス兄、いいえディアスの胸に飛び込みました。
「ジョ、ジョーシーッ!」
「お父様達には両思いになったと報告します。婚約の話も進めて貰います。いいですよね」
多分涙が浮かんでます。
そんな顔でディアスを見上げて、ぎゅうぎゅうと抱きつきました。
「うん。全部言わせてごめん」
「いいです、でも少しだけこうしていてください」
こんな気持ちで婚約するのは私くらいでしょうか。
落ち込む気持ちを飲み込んで私はディアスに抱きついたまま、必死に鳴き声を堪えるのでした。
※※※※※※※※※※
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どちらも不器用で正直なのでこんな展開に。
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