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謝って仲直り

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「カ、カレン」

 休憩になってお父様に背中を押されて私はカレンが待つ馬車へと向かいました。
 カレンの乗っていた馬車は先に休憩場に到着していた為所用を済ませていたのか、それとも私と顔を合わせたくなかったからなのか、カレンは外に出ておらず私はいつでも出発できるように準備を整えて馬車の扉を開いて待つ御者に微笑み中へと入ったのです。
 椅子に座ったのを確認して御者は静かに扉を閉めました。

「あのね、カレン」
「お姉様、謝罪はいりません。悪いのは私です」
「いいえ、聞いてカレン。昨日のは本心じゃないの。あれは私の醜い嫉妬心からの八つ当たりなのよ」
「八つ当たり? お姉様が誰に嫉妬するというのですか?」

 私の嫉妬の言葉にカレンは大きな目を更に見開いて私を見つめ、とりあえず聞く姿勢になってくれました。
 こういうところがカレンの優しいところだと再認識します。
 私は周囲には上手く隠しているつもりですが、結構怒りっぽくしかもその怒りが長続きする性格です。
 あの暴言を吐いたのが私ではなくカレンだったとしたら、私は今頃カレンを馬車から追い出しているでしょう。
 それだけ私は性格が悪いのです。

「私が、あなたによ。カレン」

 こんな告白する位なら、神殿の懺悔の部屋で神官様に向かい罪を告白する方がどれだけ簡単に出来るでしょう。
 私をずっと慕ってくれていた妹に、私は醜い嫉妬心を頂いていたのだと告げなければいけないのですから。

「私はね、カレンがずっと羨ましかったの。お母様そっくりの愛らしい顔立ちで、誰からも愛される性格をしていて優しくて思いやりがある。領民達からも愛されているカレンは、私が欲しくても手に入れられなかったものを生まれながらにして持っていると妬んでいたのよ」

 呆れられてしまったのでしょう。
 カレンは目を見開いたまま何も言いません。

「カレンは私がダンスや刺繍が得意だから凄いと良く言ってくれたけれど、そうじゃないの。カレンが苦手なものだからせめてこれだけは負けたくなくて、それで努力をしただけなの。私は長女で家を継がなくてはいけないから。次期当主としての勉強は勿論当たり前に出来なくてはいけないわ。それはだから出来て当たり前のことよ。それ以外は魔物を狩ることも、刺繍も、ダンスも、カレンが出来ない事だからだから、私は」

 ギュッとドレスのスカートを握りしめながら、カレンに打ち明けました。
 姉として最低な感情で私は今まで生きてきたのです。
 可愛い妹だと言いながら、カレンの前で両親達から魔物討伐の腕を褒められたり、夜会でダンスを踊ったことをカレンに話しをしたりする度に心の底ではそれを自慢に思っていたのです。

「それが嫉妬ですか?」
「そうよ。呆れたでしょう?」
「では私に優しくしてくれていたのは?」
「それは姉だもの、嫉妬していてもカレンが私の可愛い妹なのは変わらないもの」

 複雑な心境だったのです。
 妹を愛しているのに、大好きなのに、それでも羨ましくてたまらなかったのです。

「お姉様は私を嫌っていないですか?」
「嫌うわけないわ。嫌いになれたらと何度思ったかしれないわ、そうしたら心置きなくあなたを妬めるもの。でも出来なかった。だって大好きな妹なのよ。こんな性格の悪い姉など嫌だと思っただろうし、呆れてしまったでしょうけれど」

 嫌いというよりも羨ましかったのだと思います。
 カレンの周囲にはいつも笑顔の人たちが沢山いて、ディアス兄様も本当はカレンのことが好きなんじゃないかと疑ってすらいたのです。だって兄様は私よりもカレンに優しいのですから。

「良かった」
「え」
「私、馬鹿だから」
「カレン?」
「馬鹿だからお姉様を怒らせてしまったのだと、私が出来損ないだから呆れてしまったのだと。だから疲れてしまって怒らせたんだって、そう思って……」
「そんな事で怒るわけないでしょう? 怒るのはあなたが馬鹿なことを言った時位よ」

 カレンの的外れな考えに思わず呆れてそう言うと、カレンは突然立ち上がり私に抱き着いてきました。

「お姉様、良かった。私を嫌いになったのかと本気で心配しました」
「カレン、私の話を聞いていたの? 私はあなたに嫉妬して妬んでいたと言っているのよ」
「そんなの私がお姉様から嫉妬される価値なんてないって知ってますもの。私は単に親しみ易いだけでお姉様は領民達皆から慕われていますし、尊敬されています。私はそんなお姉様が誇りなんですよ。私なんて外見詐欺なだけの出来損ない令嬢ですし。王子殿下はどうして私を見初めて下さったのか分かりませんし」

 カレンが私の思っているところと違う方向に思い悩んでいたことは今の言葉で理解しました。
 
「カレン聞いていた? 私はあなたに嫉妬していたのよ」
「聞いていました。お姉様に嫉妬される様なものが私にあったことは嬉しいです。治癒魔法を頑張ってきた甲斐がありました。例えお姉様でも治癒魔法の腕なら負けない自信があります。というか私に誇れるのはこれだけです」
「カレン、それは嬉しいと言っていい話ではないのよ。それにあなたが誇れるものは治癒魔法以外にも沢山あるでしょう?」
「ありません」
「どうしてそこだけ断言してしまうの。もう、私が崖がら飛び降りるつもりで告白したというのにあなたって子は」
「昨日私はお姉様を私が悲しませ怒らせてしまったのだと思って、死にそうな気持になりました」
「カレン」

 それはそうでしょう。
 私はそれだけ酷い事を言ったのですから。

「でも、お姉様が私に嫉妬して下さっていた為の八つ当たりだったと知って、気が楽になりました」
「どうして」
「私にとってお姉様は完璧な貴族令嬢でした。苦手なものが何もない完璧な人だと私は妹だけれど、お姉様の足元にも及ばない出来損ないで、だから大好きなお姉様は少し遠い存在でもありました」
「そんな」

 カレンがそんな風に私を思っていたとは知りませんでした。

「でも、お姉様でも嫉妬したり八つ当たりしたりすると知って何だか身近に感じてしまいました」
「身近って、私はあなたの姉なのよ」
「はい。お姉様です。私にとってただ一人のお姉様です。だから私を嫌いにならないでくださいね」
「なるわけないわ。あなたがこんな性格の悪い姉を持って不幸だと思うけれど、この関係は一生続くのよ」

 それでいいと言って欲しくて、私はわざとこんな言い方をしました。

「一生私はお姉様の妹です」
「ええ、あなたはずっと私の可愛い妹よ」
「良かった」
「カレン、私を許してくれる? 嫉妬して八つ当たりしてしまう様な姉でも許してくれる?」
「勿論です。一生私の姉で居続けて下さるなら」
「勿論よ。カレンありがとう」

 抱き着いたままのカレンの体を抱きしめて、私は安堵の息をついたのです。 
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