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恥ずかしい、悔しい、そして後悔

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「す、すまないっ」

 開いた扉は焦った声と共に勢い良く閉められました。

「え」

 今の声はディアス兄様でしょうか?
 私はスカートをたくしあげたまま動きを止め、呆然と閉じた扉を見つめていました。

「お、お姉様っ。足、は、早くドレスを整えなくちゃ」

 あまりの衝撃に動けなくなった私に駆け寄り、カレンがドレスの裾を整えてくれました。
 ドレスの裾を整える?
 私は今のどんな姿をしていましたっけ?

「カ、カ、カレン」
「はい、お姉様お気を確かになさってくださいませ」
「まさか、ディアス兄様、私の足を?」

 状況を理解した途端顔がカッーと熱くなり、それと同時に羞恥のあまりの涙が浮かんできてしまいました。
 さっきまでしていたのはドレスのスカートを両手でたくしあげた、はしたない格好です。
 こんな格好、メイドすらいないカレンだけがいる部屋だから出来たことです。
 
 ドレスと言ってもダンスの練習の為、外出や夜会等に着るドレスの様にスカートをふんわりと膨らませる為の重ねは着込んでいません。
 しかも動きやすい様にとスカートの下は太ももの半分程を覆う丈の下着と、膝丈の靴下です。
 
 こんな姿を他人に見せるのは私の着替えや入浴をメイド達が手伝う時、それ以外があるとすればその相手は将来の旦那様だけです。

「私、私なんていうことを」

 恥ずかしさから私は床に蹲ってしまいました。
 妹にしか思われていないと知っていますが、私にとっては彼は大好きな人です。
 その人に不可抗力とはいえこんな恥ずかしい姿を見られてしまうなんて。

「お姉様、そんなに見られてはいない筈です。ほんの少し、ひざ下を見られた程度だと。あ、今丈の短い下着を着けられていましたから、もしかしたらもう少し……でも、きっと見えても一瞬です」
「それ、全然慰めになっていないじゃないのっ。私はすでに成人しているの、成人女性が足を見せていいのは旦那様になる方だけなのよっ!!」

 大好きな、大好きで仕方ない人、だけど私を妹としか見ていない人。
 そんな人にこんな姿を見られて、私はただ泣きたくなっていました。

 所謂冒険者の職についている女性は、成人していても足を見せる姿をしている人もいるそうですが私は魔獣狩りの時でもくるぶし丈の長いローブを身に着け、その下には厚手のズボンを履いていますし、足は膝丈のブーツです。
 防御の意味もありますが、仮に戦闘で激しく動いてもはしたない姿にならない様にという考えからです。
 
「狩りの時でさえ十二分に気を付けていたというのに、私もうディアス兄様と顔を合わせられないわ」

 恥ずかしい気持ちの他に、私は浅ましい思いを一瞬の間に考えていたと気が付いて涙が零れてしまいました。
 ディアス兄様にとって私は妹でしかありません。
 幼いころから兄妹の様にして育てられてきたのですからそう思われていても仕方がない事ですし、成人したというのに私をいつまでも幼い女の子だとしか思っていないのでしょう。

 それでも私は、例え妹にしか思って貰えなくても年相応の女なのだと気づいて欲しいと心の奥底で願っていました。
 私は幼い子供ではなく、大人の恋をしているちゃんとした女性なのだとそう理解して欲しいとずっと思っていました。

 はしたない私の姿を見て、少しでも意識して貰えないでしょうか。

 はしたない姿を見せた衝撃よりも、たった一瞬でそんな浅ましい事を考えてしまった私は、自分自身を嫌悪してどうしようもありませんでした。

「お姉様」
「カレンのせいよ。あなたがちゃんと出来ないから、カレンのせいよ」

 女性として見られていない惨めな私を受け入れられず、そんな考えを一瞬の間にしてしまった等カレンにすら言えません。そんな惨めで恥ずかしい思いを妹にすら打ち明けられません。

 八つ当たりだと分かっていながら、私は行き場のない感情を目の前にいる妹にぶつけました。
 最近のカレンに感じていた苛々と共に、酷い言葉を言い放ったのです。

「あ、カレン。違うの、これは本心ではなくて」

 言ってから気がついて慌てて否定しても、もう遅かったのです。

「いいんです。お姉様、私が悪いの。刺繍だってダンスだってお姉様に少し見ていただいただけで半分程度は改善したんですもの。私は努力しているつもりで間違ったことを延々続けていただけなの。お姉様みたいに出来ないのは、私に能力がないからだって諦めて、努力したつもりになって拗ねていただけなの」

 カレンは大きな瞳に涙を浮かべ、それでも泣くまいと堪えていました。

「甘えていたの、でき損ないの私でも治癒魔法だけは出来るから、社交が出来なくても結婚出来なくてもいいんだって。家を出て治癒師として生きていくなら、失敗して恥ずかしい思いをすることも、でき損ないだと影口を言われて悲しい思いをすることもないんだって」
「違うのよ。カレン、話を聞いて」

 そんなつもりじゃ無かったと何度言っても、もうカレンは信じてはくれないでしょう。

「ごめんなさい、お姉様もうご迷惑は掛けません。私一人で頑張れますから」

 涙を浮かべたままカレンは綺麗に笑って、そして部屋を出ていきました。

「ごめんなさい、カレン。ごめんなさい」

 一人になった部屋で、私はただ謝罪の言葉を繰り返していました。
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