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特訓、特訓、また特訓
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「いったぁい」
ここ数日当たり前になってしまったカレンの叫び声が、今日も屋敷内に響きました。
「慌てずに、カレン」
「う、針って爪の間に刺すととても痛いのですもの」
「カレン、泣かないで。ルル、カレンに甘くした紅茶をいれてあげて頂戴な」
「畏まりました」
泣きながらカレンは自分の指に治癒魔法を掛けています。
本当にカレンの魔法の才能は素晴らしいです。
息をするより簡単に魔法を使うのですから、本当に聖女様の生まれ変わりなのかもしれません。
「カレンは本当に魔法が上手ね」
「お姉様だって、魔法は得意ですよね。私と違って攻撃魔法ですが」
「これはお母様の血ね」
外見詐欺の異名を持つお母様は、お父様と一緒に魔物狩りに行くのが大好きです。
領地の民が安心して暮らせるのはお母様の魔法の力も大きいのですが、攻撃魔法の適性がありお母様から直接指導を受けていた私も最近は民の安全な生活に貢献できる様になってきました。
ちなみに私は攻撃魔法が大得意治癒魔法は小さな傷が何とか治せる程度で、カレンは攻撃魔法は全く使えず治癒魔法ならどんな大きな怪我も簡単に治してしまいます。
治癒魔法の発動も早く、魔力量も多いのか一日神殿の治療院で治癒魔法を使い続けても平気です。
領主の娘である侯爵令嬢が一日中治療院で働き続けるなんてという声は、我が領地に限りありません。
なにせ領主の妻であるお母様や、長女の私が魔物狩りに率先して出掛けるのですから他の領地とは価値観が違うのです。
「お嬢様、甘くした紅茶でございます」
「ほら、これを飲んで少し休みなさい」
「はあい」
がっくりと肩を落としながら、メイドのルルに刺繍道具を渡してカレンは紅茶を飲み始めました。
私付きの優秀なメイドであるルルは、私には精神安定の効果のあるハーブティーを入れ、私の大好きな木の実がたっぷり入ったクッキーも用意してくれました。
指示を出していないのに、こういう気遣いが出来るのがルルのいいところです。
「まさか承諾されてしまうなんてね」
「殿下はそれだけカレンを気に入ってくださっているのよ」
あの後帰宅したお母様も交えて王家への返事をどうするか話し合いをし、カレンは持病があるわけではないが体があまり丈夫ではなくダンス等を今まで練習をしてこなかった為殆ど出来ない。
他家に嫁入りすることを想定していなかった為、貴族令嬢としての教育も完全ではない旨を伝えとても殿下に嫁げる人間ではないと告げ、それでもいいのか判断してもらうことにしました。
第三王子殿下イグナス・アーデン様から恐れ多いことに、気持ちは変わらないから自分に嫁ぐことを嫌悪しているのでなければ、是非一度顔合わせをして自分を知って欲しいという前向きなお返事が来てしまったのです。
「体が弱くダンスが出来ないと言えば、話が流れると思ったのにぃ」
騒ぎ声を上げながらも、紅茶のカップを音を立てる事なく受け皿に戻し、淑やかにクッキーを食べています。
家族と使用人だけの時はだいぶ気を抜いて話していますが、それなりの立ち居振る舞いは出来るのです。
「刺繍の見本が出来たわ、これを参考に一種類ずつ刺せる様になりましょうね」
騒ぐカレンを横目に見ながら出来上がった刺繍見本をルルに渡すと私もお茶の席に着きました。
出来上がったばかりの刺繍見本は、一つの刺し方で出来る模様をハンカチ程度の大きさの布に幾つも刺した物です。これを十枚作りました。
基本中の基本から徐々に難易度を上げていき、十枚目の最後は幾つかの刺し方を組み合わせて殿下の紋章である月桂樹の冠の中に鷹を刺しています。
「最初が一番簡単な刺し方を九種類、これは基本だけれど上手に出来る様になれば組み合わせて素敵な刺繍になるのよ」
「お姉様凄いです、額装して飾りたいくらいに素敵!」
カレンはこちらが恥ずかしくなる程に大袈裟に誉めてくれます。
でも、こういう無邪気なところが可愛いのです。
「紅茶を頂いたら、一番最初の刺し方を一緒にやってみましょうね」
「頑張りますっ」
殿下との顔合わせは二十日後に決まりました。
それまで少しでもカレンに自信をつけさせなくてはなりません。
「ひいぃん。いたぁいっーー」
カレンの泣き声が響き続けても、甘やかずに指導しますよ。
お姉様は頑張ります!!
ここ数日当たり前になってしまったカレンの叫び声が、今日も屋敷内に響きました。
「慌てずに、カレン」
「う、針って爪の間に刺すととても痛いのですもの」
「カレン、泣かないで。ルル、カレンに甘くした紅茶をいれてあげて頂戴な」
「畏まりました」
泣きながらカレンは自分の指に治癒魔法を掛けています。
本当にカレンの魔法の才能は素晴らしいです。
息をするより簡単に魔法を使うのですから、本当に聖女様の生まれ変わりなのかもしれません。
「カレンは本当に魔法が上手ね」
「お姉様だって、魔法は得意ですよね。私と違って攻撃魔法ですが」
「これはお母様の血ね」
外見詐欺の異名を持つお母様は、お父様と一緒に魔物狩りに行くのが大好きです。
領地の民が安心して暮らせるのはお母様の魔法の力も大きいのですが、攻撃魔法の適性がありお母様から直接指導を受けていた私も最近は民の安全な生活に貢献できる様になってきました。
ちなみに私は攻撃魔法が大得意治癒魔法は小さな傷が何とか治せる程度で、カレンは攻撃魔法は全く使えず治癒魔法ならどんな大きな怪我も簡単に治してしまいます。
治癒魔法の発動も早く、魔力量も多いのか一日神殿の治療院で治癒魔法を使い続けても平気です。
領主の娘である侯爵令嬢が一日中治療院で働き続けるなんてという声は、我が領地に限りありません。
なにせ領主の妻であるお母様や、長女の私が魔物狩りに率先して出掛けるのですから他の領地とは価値観が違うのです。
「お嬢様、甘くした紅茶でございます」
「ほら、これを飲んで少し休みなさい」
「はあい」
がっくりと肩を落としながら、メイドのルルに刺繍道具を渡してカレンは紅茶を飲み始めました。
私付きの優秀なメイドであるルルは、私には精神安定の効果のあるハーブティーを入れ、私の大好きな木の実がたっぷり入ったクッキーも用意してくれました。
指示を出していないのに、こういう気遣いが出来るのがルルのいいところです。
「まさか承諾されてしまうなんてね」
「殿下はそれだけカレンを気に入ってくださっているのよ」
あの後帰宅したお母様も交えて王家への返事をどうするか話し合いをし、カレンは持病があるわけではないが体があまり丈夫ではなくダンス等を今まで練習をしてこなかった為殆ど出来ない。
他家に嫁入りすることを想定していなかった為、貴族令嬢としての教育も完全ではない旨を伝えとても殿下に嫁げる人間ではないと告げ、それでもいいのか判断してもらうことにしました。
第三王子殿下イグナス・アーデン様から恐れ多いことに、気持ちは変わらないから自分に嫁ぐことを嫌悪しているのでなければ、是非一度顔合わせをして自分を知って欲しいという前向きなお返事が来てしまったのです。
「体が弱くダンスが出来ないと言えば、話が流れると思ったのにぃ」
騒ぎ声を上げながらも、紅茶のカップを音を立てる事なく受け皿に戻し、淑やかにクッキーを食べています。
家族と使用人だけの時はだいぶ気を抜いて話していますが、それなりの立ち居振る舞いは出来るのです。
「刺繍の見本が出来たわ、これを参考に一種類ずつ刺せる様になりましょうね」
騒ぐカレンを横目に見ながら出来上がった刺繍見本をルルに渡すと私もお茶の席に着きました。
出来上がったばかりの刺繍見本は、一つの刺し方で出来る模様をハンカチ程度の大きさの布に幾つも刺した物です。これを十枚作りました。
基本中の基本から徐々に難易度を上げていき、十枚目の最後は幾つかの刺し方を組み合わせて殿下の紋章である月桂樹の冠の中に鷹を刺しています。
「最初が一番簡単な刺し方を九種類、これは基本だけれど上手に出来る様になれば組み合わせて素敵な刺繍になるのよ」
「お姉様凄いです、額装して飾りたいくらいに素敵!」
カレンはこちらが恥ずかしくなる程に大袈裟に誉めてくれます。
でも、こういう無邪気なところが可愛いのです。
「紅茶を頂いたら、一番最初の刺し方を一緒にやってみましょうね」
「頑張りますっ」
殿下との顔合わせは二十日後に決まりました。
それまで少しでもカレンに自信をつけさせなくてはなりません。
「ひいぃん。いたぁいっーー」
カレンの泣き声が響き続けても、甘やかずに指導しますよ。
お姉様は頑張ります!!
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