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番外編
兄の寵愛弟の思惑76
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「兄上、少しお時間を頂くことは出来ますか?」
ボナクララの屋敷を後にして、マーニ先生の屋敷にトニエを送ったついでに採取したばかりの日薬草を受け取り王宮に戻った。
兄上と共に父上へ日薬草を届けに伺い少し会話をしてから部屋を辞した後、兄上にそうお願いすると「私の時間は常にデルロイの為にあると知らなかったか?」と冗談の様に言われてしまった。
兄上が私に気を遣わせない様に言ってくれたのは分かるが、エマニュエラを予定外に王宮に住まわせることになったのだから執務以外の用事も出来てしまっているだろう。
共有していないといけない話をするためとはいえ、兄上の忙しさを考えると申し訳なくなる。
「ありがとうございます。兄上」
兄上の執務予定を考えているだろう兄上の従僕は、微笑みを浮かべて私を見ているが内心執務の邪魔だと思っていないだろうかと少し不安になる。
兄上は私のお願いは断ることはないから、本当は先に従僕に兄上の予定を確認していた方がいいのだが、つい兄上の優しさに甘えてしまう。
「丁度第二王子殿下のお気に入りの茶葉が届いたばかりでございます。王太子殿下は自ら手配され第二王子殿下とのお茶の時間を楽しみにされていたのですよ」
私にそっと近づき従僕が囁く。
「兄上が?」
「こら、そういうのは本人に知らせるものではない」
兄上が従僕を軽く睨むけれど、従僕は慌てる様子もなく微笑んでいる。
彼が忙しい兄上を気にしている私にわざと知らせていると、兄上は理解していると従僕も分かっているから平気なのだろう。
「兄上、ありがとうございます。兄上の心遣いのその茶葉を、これから兄上と頂けるのですね。とても嬉しいです」
私がお礼を言うと、兄上は小さく頷いた後で私の背中に腕を回す。
「今日は甲高い声を聞き続けて耳が辛いのだ。お前の心地よい声で私を癒してくれ」
寄り添い歩きながらそう囁く。
父上の執務室から兄上の執務室までの距離はそう遠くないし今廊下に人気はないが、兄上とこうして寄り添い歩くのはちょっと居心地が悪い。
ちらりと従僕を見れば、先程とは違う嬉しそうな笑みを浮かべている。
彼は兄上至上主義で、兄上の機嫌が良ければすべて良いと判断しがちだ。
私に寄り添っている時の兄上はとても嬉しそうだから、それを間近で見られるだけで自分の寿命が延びる。と、よくわからないことを昔言っていたのが忘れられない。
王家の人間に心酔し心からの忠誠を向けるというのは、この従僕や私の友人達の様に幾人も存在する。
父上や兄上は分かるのだが、自分にそういう感情を向けられる理由が分からない。
二人に比べたら、私は出来ることも少なく頼りないと自覚している。
こうなりたいという理想はあっても、なかなかそこまでの道のりが遠い。
兄上が簡単に行えることが私には出来ない、そもそも国の為とはいえ、あのエマニュエラを妻にしようと決断出来る兄上には頭が上がらない。
「どうした、デルロイ何を考えている」
「……兄上の様な素晴らしい人に、どうしたらなれるのかと……あっ、いえ、忘れてくださいっ!」
考えながら歩いたせいで、迂闊に恥ずかしいことを言ってしまい慌ててしまう。
兄上の機嫌を取るため、わざと兄上の喜びそうなことを失言した振りで言うことはあるが、今のは完全に無意識だった。
「私は、素晴らしいか?」
兄上は意地悪く私の顔を覗き込むから、失敗したと内心舌打ちを打つ。
「……兄上は私の目標です。至らぬ私ですが、きっと兄上の片腕として、兄上の役に立てる者に絶対になります。兄上の側には私がいます、ずっと側にいます」
心安らぐ相手を妻に出来ない兄上の側から絶対に離れない。
そう心に誓うと、兄上は嬉しそうに頷いたのだった。
ボナクララの屋敷を後にして、マーニ先生の屋敷にトニエを送ったついでに採取したばかりの日薬草を受け取り王宮に戻った。
兄上と共に父上へ日薬草を届けに伺い少し会話をしてから部屋を辞した後、兄上にそうお願いすると「私の時間は常にデルロイの為にあると知らなかったか?」と冗談の様に言われてしまった。
兄上が私に気を遣わせない様に言ってくれたのは分かるが、エマニュエラを予定外に王宮に住まわせることになったのだから執務以外の用事も出来てしまっているだろう。
共有していないといけない話をするためとはいえ、兄上の忙しさを考えると申し訳なくなる。
「ありがとうございます。兄上」
兄上の執務予定を考えているだろう兄上の従僕は、微笑みを浮かべて私を見ているが内心執務の邪魔だと思っていないだろうかと少し不安になる。
兄上は私のお願いは断ることはないから、本当は先に従僕に兄上の予定を確認していた方がいいのだが、つい兄上の優しさに甘えてしまう。
「丁度第二王子殿下のお気に入りの茶葉が届いたばかりでございます。王太子殿下は自ら手配され第二王子殿下とのお茶の時間を楽しみにされていたのですよ」
私にそっと近づき従僕が囁く。
「兄上が?」
「こら、そういうのは本人に知らせるものではない」
兄上が従僕を軽く睨むけれど、従僕は慌てる様子もなく微笑んでいる。
彼が忙しい兄上を気にしている私にわざと知らせていると、兄上は理解していると従僕も分かっているから平気なのだろう。
「兄上、ありがとうございます。兄上の心遣いのその茶葉を、これから兄上と頂けるのですね。とても嬉しいです」
私がお礼を言うと、兄上は小さく頷いた後で私の背中に腕を回す。
「今日は甲高い声を聞き続けて耳が辛いのだ。お前の心地よい声で私を癒してくれ」
寄り添い歩きながらそう囁く。
父上の執務室から兄上の執務室までの距離はそう遠くないし今廊下に人気はないが、兄上とこうして寄り添い歩くのはちょっと居心地が悪い。
ちらりと従僕を見れば、先程とは違う嬉しそうな笑みを浮かべている。
彼は兄上至上主義で、兄上の機嫌が良ければすべて良いと判断しがちだ。
私に寄り添っている時の兄上はとても嬉しそうだから、それを間近で見られるだけで自分の寿命が延びる。と、よくわからないことを昔言っていたのが忘れられない。
王家の人間に心酔し心からの忠誠を向けるというのは、この従僕や私の友人達の様に幾人も存在する。
父上や兄上は分かるのだが、自分にそういう感情を向けられる理由が分からない。
二人に比べたら、私は出来ることも少なく頼りないと自覚している。
こうなりたいという理想はあっても、なかなかそこまでの道のりが遠い。
兄上が簡単に行えることが私には出来ない、そもそも国の為とはいえ、あのエマニュエラを妻にしようと決断出来る兄上には頭が上がらない。
「どうした、デルロイ何を考えている」
「……兄上の様な素晴らしい人に、どうしたらなれるのかと……あっ、いえ、忘れてくださいっ!」
考えながら歩いたせいで、迂闊に恥ずかしいことを言ってしまい慌ててしまう。
兄上の機嫌を取るため、わざと兄上の喜びそうなことを失言した振りで言うことはあるが、今のは完全に無意識だった。
「私は、素晴らしいか?」
兄上は意地悪く私の顔を覗き込むから、失敗したと内心舌打ちを打つ。
「……兄上は私の目標です。至らぬ私ですが、きっと兄上の片腕として、兄上の役に立てる者に絶対になります。兄上の側には私がいます、ずっと側にいます」
心安らぐ相手を妻に出来ない兄上の側から絶対に離れない。
そう心に誓うと、兄上は嬉しそうに頷いたのだった。
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