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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑74 (トニエ視点)

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「なるほど、薔薇園の土の方が育ちがいいのか。育てる土の条件を変えて確認すると聞いた時は何の違いがあるのかと思っていたのだが、王家の森の土と薔薇園の土だけでも差が出るとは思わなかった。さすが薬師だな」
「いえ、私は王家の森の土が一番良い結果が出ると考えておりました。薔薇園の土の方が上というのは嬉しい誤算というものです」

 第二王子殿下の素直な賞賛の声が、とても面はゆく感じる。
 子爵家の息子と王子、母国では気軽に言葉を交わす関係には決してならない組み合わせだというのに、この王子もその婚約者も私の親の爵位等関係無いとばかりに話し、こういう風に手放しで褒めるのだから困る。
 まるで親しい友人なのでは無いかと錯覚してしまいそうだ。

「誤算?」
「はい、土を運んで頂いた時、薔薇園は王宮の敷地内にあると伺いました。つまり王宮の敷地内で日薬草を育てられるということですから、私が留学を終え帰国しても、容易に日薬草を確保出来る様になります。日薬草は新鮮であればあるほどいいですし王宮内で育てるなら諸々の管理もしやすいかと」

 今はマーニ先生がこっそりと運んでいるが、王族お抱えの薬師が日薬草を育てられる様になれば、それをしなくても良くなるからマーニ先生の負担も減るし良いことだらけだ。
 
「そこまで考えてくれていたのか、無理を言っている中色々考えてくれてありがとうトニエ。君が関わってくれた善意に感謝する。君と出会わせてくれたシード神の采配にも感謝を」

 私に向かい微笑みながらそんな事を言うから、この人のこういうところは問題だと頭を抱えたくなってしまう。
 他国の、それも下級貴族の私にこんな無防備に笑いかけ礼を言うなど、母国の王族ならありえない。
 王族どころか、上級貴族ですら絶対にしないと言い切れることを、この人はしてしまうのだ。

「どうした?」
「いえ、礼など恐れ多いことでございます。私は薬師として対価を頂いております。ならば患者のために精一杯出来ることを考え行動するのは当然のことです。ただ、私はこの国の民ではございません。私が去った後も患者を守る術を用意するのも役目の一つと考えております」

 不思議そうに私を見ている目に焦り、言い訳めいたことを早口で告げると「そうか帰るのだものな」と第二王子殿下はぽつりと呟いた。

「……トニエ、君は薬師として引き受けた仕事をしているだけだと言いたいのかもしれないが、それでも私達は君に感謝している。君の薬と献身が私達の大切な方の辛さと私達な不安を減らしてくれたのだから、どれだけ感謝しても足りないのだ」
「大袈裟です」

 第二王子殿下は私の手を取り両手で包むと、ご自分の額の側に導いたから、驚いて手を引こうとしてギリギリのところで留まった。

「大袈裟なものか、兄上も今ここにいればきっと同じことをされるだろう」

 第二王子殿下は真顔で言うが、王太子殿下に同じことをされたら驚きと恐ろしさで死んでしまいそうな気がするから、絶対に止めて欲しい。

「そのお言葉だけで、十分でございます。それにこの仕事は薬師の勉強にもなっておりますから、私にとってもありがたいことなのです」

 これは嘘ではない。
 土を変え薬草を育てるというのは、思いついたからと言って簡単に出来ることではない。
 費用も掛かれば、土の確保も普通なら難しい。
 王家の森は一般人は入ることすら難しい、王宮管理の迷宮だ。
 その土が栽培に適しているからといって、安易に持ち出しは出来ないし、魔素が多いからと他の迷宮に入り土を持ち帰るのも難しいのだ。
 何せ母国で私が簡単に出入り出来る迷宮は、岩ばかりで土そのものがないのだから。

「そうか、トニエのためにもなっているなら良かった」

 穏やかに笑う第二王子殿下、そしてそれを見つめるサデウス嬢の視線がとても優しい。
 この方たちの信頼に応えなければ、私に出来ることを精一杯。
 私はそう心に誓ったのだ。


※※※※※※※※
トニエ君の母国は結構あれなので、デルロイ達の緩さというかのんびりさに驚いています。
トニエ君の母国の王族は、彼ら自身が身分の差に厳しくプライドも天井知らずな上男尊女卑も厳しいですが、デルロイ達は割と距離感がゆるゆるです。ただ貴族達は、王族は神と同じく尊い存在とばかりに崇め奉ってます。
ちなみに、学校内では第二王子殿下と同じ空気を吸っているだけで幸せ、第二王子殿下の笑顔を見られたら奇跡と思っている人だらけです(*´艸`*)
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