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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑65 (ボナクララ視点)
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「それで、エマニュエラに部屋で反省をさせているのですか? あの子には罰にもならないでしょう」
「ドナトス、面白がっている場合ではないぞ」
夕食の席で、エマニュエラの話を聞き笑っているお兄様をお父様が咎める。
お兄様は若い頃のお父様そっくりだと王妃……お義母様は仰るけれど、物静かなお父様と何でも面白がるお兄様の性格は似ていないと思う。
「申し訳ありません。ですが、エマニュエラの癇癪に真剣に付き合っていたら私達の方が具合が悪くなりますよ。ボナクララはどれだけ八つ当たりをされているか分かりませんし、最近は母上の言うことすら馬鹿にしていますからね」
「あの子の我儘は昔からだが……」
エマニュエラの八つ当たりの話にお父様は心配そうに私とお母様を見るけれど、お母様は微笑みながらお父様とお兄様を見るだけだから私もそれに倣い微笑みながら夕食を頂く。
エマニュエラは常に私に嫌味を言うし、八つ当たりとも言える暴言を吐く。だから今更お兄様に話したりしていないけれど、お兄様の耳には入っていたらしい。
「そんなに酷いのか? しかもクロティルデの言うことすらきかないのか?」
先日まで領地にいたお父様は最近のエマニュエラの事を把握していなかったのか、お兄様に話を聞きながらお母様を心配そうに見ている。
「エマニュエラは、正式に王太子殿下との婚約が決まりましたから、彼女の立場はもう私より上なのだそうです。ですからもう私の言う事を聞く気はないと言われましたわ。今までは屈辱に耐えていたのだとか」
「は?」
お母様は小さくため息を吐いた後でエマニュエラの行いの理由を話すと、お父様の目が驚きに見開いた。けれどそれは、私もお兄様も同じだった。
未来の王太子妃になると決まっても、母親という立場は変わらないと思う。
「最近のエマニュエラは取り繕うことを止めた様に見えていましたが、気のせいでは無かったのか」
「旦那様とあなたは兎も角、私とボナクララは格下だとか」
魔鴨肉の香草焼きをテーブルに並べた後、給仕達は全員食堂を出てしまい私達家族以外は家令が一人控えているのみだけど、話している内容は食事の席には相応しくないものだ。
その証拠に、お母様の話を聞いて私の食欲はすっかり失せてしまった。
「エマニュエラがそんなことを? 確かに王太子妃となれば公爵家の我々より上の立場となるが、それでもまだ今は婚約者でしかないし、親になんということを」
「父上、エマニュエラの暴言は昔からです」
エマニュエラはお父様の前では比較的大人しくしていたから、お母様の話が信じられないのかもしれない。
でもそれはお兄様にも同じだったと思うのに、お兄様は全て分かっていると言わんばかりだ。
「我儘でも優秀な子だ、話せば分かってくれるとばかり思っていたのだが、間違いなのか」
「ええ、私もこれほどとは思いませんでした。ボナクララに対する態度の悪さは目にする度に注意しておりましたが、それも不快だったと言われてしまいましたのよ」
お義母様とくらべると、私の両親は少しおっとりしている気がする。
私とエマニュエラの教育は、家庭教師と王宮の教師達が担っていたし、エマニュエラは優秀だから教師達は彼女を悪く言うものはいない。
今迄は、エマニュエラの我儘は少し注意すれば反省するだろう程度に考えていたのかもしれない。
「ボナクララへの当たりが強いのは、姉妹で比較されやすい故だと考えていたのだが」
「それは勿論あるでしょう。エマニュエラはなんでも自分が一番にされないと気が済まない。実際エマニュエラは優秀ですが、ドレスや髪型すらエマニュエラはボナクララより良いと褒められなければ機嫌を損ねてしまうのです」
お兄様はなぜ、こんなにエマニュエラの性格を理解しているのだろう。
確かにエマニュエラは、双子として生まれ育った私が自分より目立つことを嫌がるし、私の持ち物の方がよく見えるらしく、自分の方が似合うと言っては奪っていく。
でもお兄様の前では大人しかったというのに、こんなに詳しく知っているのは何故なのだろう。
「ドナトス、面白がっている場合ではないぞ」
夕食の席で、エマニュエラの話を聞き笑っているお兄様をお父様が咎める。
お兄様は若い頃のお父様そっくりだと王妃……お義母様は仰るけれど、物静かなお父様と何でも面白がるお兄様の性格は似ていないと思う。
「申し訳ありません。ですが、エマニュエラの癇癪に真剣に付き合っていたら私達の方が具合が悪くなりますよ。ボナクララはどれだけ八つ当たりをされているか分かりませんし、最近は母上の言うことすら馬鹿にしていますからね」
「あの子の我儘は昔からだが……」
エマニュエラの八つ当たりの話にお父様は心配そうに私とお母様を見るけれど、お母様は微笑みながらお父様とお兄様を見るだけだから私もそれに倣い微笑みながら夕食を頂く。
エマニュエラは常に私に嫌味を言うし、八つ当たりとも言える暴言を吐く。だから今更お兄様に話したりしていないけれど、お兄様の耳には入っていたらしい。
「そんなに酷いのか? しかもクロティルデの言うことすらきかないのか?」
先日まで領地にいたお父様は最近のエマニュエラの事を把握していなかったのか、お兄様に話を聞きながらお母様を心配そうに見ている。
「エマニュエラは、正式に王太子殿下との婚約が決まりましたから、彼女の立場はもう私より上なのだそうです。ですからもう私の言う事を聞く気はないと言われましたわ。今までは屈辱に耐えていたのだとか」
「は?」
お母様は小さくため息を吐いた後でエマニュエラの行いの理由を話すと、お父様の目が驚きに見開いた。けれどそれは、私もお兄様も同じだった。
未来の王太子妃になると決まっても、母親という立場は変わらないと思う。
「最近のエマニュエラは取り繕うことを止めた様に見えていましたが、気のせいでは無かったのか」
「旦那様とあなたは兎も角、私とボナクララは格下だとか」
魔鴨肉の香草焼きをテーブルに並べた後、給仕達は全員食堂を出てしまい私達家族以外は家令が一人控えているのみだけど、話している内容は食事の席には相応しくないものだ。
その証拠に、お母様の話を聞いて私の食欲はすっかり失せてしまった。
「エマニュエラがそんなことを? 確かに王太子妃となれば公爵家の我々より上の立場となるが、それでもまだ今は婚約者でしかないし、親になんということを」
「父上、エマニュエラの暴言は昔からです」
エマニュエラはお父様の前では比較的大人しくしていたから、お母様の話が信じられないのかもしれない。
でもそれはお兄様にも同じだったと思うのに、お兄様は全て分かっていると言わんばかりだ。
「我儘でも優秀な子だ、話せば分かってくれるとばかり思っていたのだが、間違いなのか」
「ええ、私もこれほどとは思いませんでした。ボナクララに対する態度の悪さは目にする度に注意しておりましたが、それも不快だったと言われてしまいましたのよ」
お義母様とくらべると、私の両親は少しおっとりしている気がする。
私とエマニュエラの教育は、家庭教師と王宮の教師達が担っていたし、エマニュエラは優秀だから教師達は彼女を悪く言うものはいない。
今迄は、エマニュエラの我儘は少し注意すれば反省するだろう程度に考えていたのかもしれない。
「ボナクララへの当たりが強いのは、姉妹で比較されやすい故だと考えていたのだが」
「それは勿論あるでしょう。エマニュエラはなんでも自分が一番にされないと気が済まない。実際エマニュエラは優秀ですが、ドレスや髪型すらエマニュエラはボナクララより良いと褒められなければ機嫌を損ねてしまうのです」
お兄様はなぜ、こんなにエマニュエラの性格を理解しているのだろう。
確かにエマニュエラは、双子として生まれ育った私が自分より目立つことを嫌がるし、私の持ち物の方がよく見えるらしく、自分の方が似合うと言っては奪っていく。
でもお兄様の前では大人しかったというのに、こんなに詳しく知っているのは何故なのだろう。
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