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番外編

おまけのおまけ ある朝の二人(ダニエラ&ディーン視点)

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 瞼を開けると、眉間に皺を寄せたまま眠っているディーンの顔が直ぐ側に見えた。
 魘されている様な声がした気がして目を覚ましたけれど、それは気の所為では無かったみたい。

「……申し……あり……お母……ま」

 途切れ途切れに聞こえてくるのは、謝罪の言葉のようで、ディーンは何度もそれを繰り返し、謝罪を繰り返す度眉間の皺はどんどん深くなり、呼吸も苦しそうになっているように見える。
 謝罪の言葉から、ディーンは義母の夢を見ているのだと察するけれど、どうしてあげればいいのか分からない。
 彼女はディーンの前に二度と姿を見せることは無いと、お兄様から言われてから数年の時が経っている。
 その間に私達は四人の子供の親になったというのに、それでもなおディーンはたまに義母の夢を見て、こうして魘されている。

「謝らなくていいのよ、あなたは何も悪くないの」

 寝言を言っている人に声を掛けてはいけない。というのは、前世で言われていた言葉だったと思う。
 それでも私は声を掛けずにはいられない。
 こんなに苦しそうにしている夫を、慰めてあげられるのは私だけ、それは夢の中でも現実でも同じはずだから。

「お母……ま、許し……悪……子で申し訳……ません」
「ディーン、謝らなくていいの、あなたは悪くないのよ」

 苦しそうにしているディーンの額にキスをして、彼の頭を胸に抱きしめながら、何度も何度も「あなたは何も悪くない。謝らなくていいの」と繰り返す。

「ディーンは悪い子なんかじゃないわ。謝ることなんて、あなたは何もしていないのよ」

 片腕でディーンの頭を抱きしめたまま、もう片方の手でディーンの背中を撫で始めると、漸くディーンは謝罪の言葉を止め、苦しそうな寝息が落ち着いてきた。

「ディーンは幸せになるのよ。私の側でずっと幸せに生きるのよ」

 初めてディーンに出会ったあの頃より、ディーンはよく笑うようになったと思う。
 ゲームの中では、ほんの少しの行き違いがヤンデレ理由になり、ヒロインを傷付ける言葉を口にして、それでも相手が許すかどうか、所謂試し行為というのを繰り返している超ヤンデレキャラだったディーンは、現実でもその傾向があったものの、今はその不安要素もだいぶ少くなっている。
 このままいけば、ゲーム開始時期になっても私達は幸せのままでいられるのではないかと思えるほど、今のディーンは落ち着いているし、私の周囲はとても平和だ。
 ディーンがこの悪夢を見なくなれば、もっともっと平和に幸せでいられるでだろうけれど、そう上手くはいかないようなのが歯がゆい。

「あなたの苦しさが無くなるといいのに」

 悪夢に魘されたせいか額に浮かんだ汗、額に張り付いた髪をそっと指先で避けてもディーンは目を覚ます様子はない。
 日頃は気配に敏感で、何かあればすぐに目を覚ます人なのに、ディーンは悪夢を見ている時だけは何故か目を覚まさない。

「神様、どうか夢の中のディーンに安らぎを贈って下さい」

 ディーンの頭を片腕に抱き、もう片方で背中を優しく撫でながら「どうせなら私と夢の中でも幸せに過ごして」と囁き目を閉じる。
 今日は前世ならクリスマスの日、この世界にクリスマスは無いけれど私は数年前からこの日にはジンジャークッキーを焼き、ディーンとくぅちゃんと夜空を見上げながらクッキーを食べる。
 日頃料理やお菓子作りをしない私が作る特別なクッキーは、ディーンが愛するお菓子でもある。
 味が好きなのではなく、私が作るものだから好きなのだと言うディーンがとても愛おしい。
 子供達はだいぶ大きくなり、もうすぐ乙女ゲーム開始の年齢になる。
 ゲームには登場しない子供達もいるし、私がディーンの妻というのが既にゲームの設定と違っている。
 だからもしかすると、ゲームの様にはならないのかもしれない。
 そうは思っても、不安はどんどん私の心を押しつぶす。

「ディーン、愛しているわ」

 出会った時、こんなにディーンを愛するようになるとは思わなかった。
 夫が亡くなり、夫の裏切りを知り、そして前世の記憶が戻ったばかりのあの頃、私に突然求婚してきたディーンを、私はゲームに出てくるディーンのようにヤンデレになるのが怖かった。
 今でもたまにヤンデレの気配を感じることはあるけれど、それでも気配だけで終わっているのはディーンが私を愛し、私もディーンを愛しているからだと思う。

「ずっと一緒にいましょうね。ずっとずっと」

 センチメンタルな気持ちになるのは、今日がクリスマスだからなのだろうか。
 日頃は忘れている前世を、なぜかクリスマスの日には思い出してしまう。
 家族、友達、恋人、クリスマスには沢山の思い出があり過ぎるから、クリスマスの無いこの世界で思い出すのは悲しい。
 遠く遠くの世界に来てしまった。
 もう会えない、家族、友達、恋人、誰にも。

「愛しているわ、ディーン」

 会いたいと思うけれど、二度と会えない大切な人達、それは悲しいけれど、私は今の世界でこれからも生きていく。
 
 目を閉じているのに、私の目から涙が流れ落ちる。
 私は流れる涙を拭うこともせず、ディーンを抱きしめ続けた。

※※※※※※※※※

「夢?」

 母の夢を見ていたのは覚えている。
 他の夢を覚えていることは殆ど無いのに、母の夢は絶対に覚えていて、目覚めた時胸が苦しくなるのだ。
 それなのに、今日はなぜか平気だった。
 温かいものに包まれ守られた、そんな不思議な感覚に疑問を覚えながら目を開けると、いつも見えるものとは違っていた。

「……ダニエラ? えっ!」

 驚きに飛び起きようとして、ダニエラの両腕が私を抱きしめているのだと気が付き動きを止めてしまう。
 なぜか私がダニエラの胸に顔を埋めるようにして眠っていたのだ。
 恐る恐る片腕をダニエラの腰に回し、華奢な体を引き寄せぴたりと二人の体を密着させる。
 それでも起きず眠り続けるその姿が、ダニエラが私を信頼してくれている証拠のようで幸せ過ぎて胸が一般になってしまう。

「ダニエラ、もう少しだけこのままでいてもいいでしょうか」

 なぜか私を抱きしめたまま、ぐっすりと寝ているダニエラの体温が伝わってくる。
 こんな風に抱きしめていてくれたから、多分胸の痛みが無かったのだろう。

「……ダニエラ」

 顔が見えないのは淋しいけれど、ダニエラの柔らかな胸にそっとそっと頬を寄せると、それを許すかの様にダニエラの腕が私の頭を引き寄せた。

「愛してます、生涯あなたを愛し続けます。死があなたと私を引き裂こうとしても私の心は永遠にあなただけのものです」

 眠るダニエラに誓う。
 ダニエラは私の妻で、私の最愛で、私が生きる理由だ。
 ダニエラがいるから、私は暗い夢と記憶に囚われず悲しまずにいられる。

「愛しています」

 眠るダニエラに囁きながら、腰に回した腕に力を込めて私は瞼を閉じた。
 
 
※※※※※※※※
おまけ番外編の途中ですが、メリークリスマスの小話です。
皆様良いクリスマスをお過ごし下さいませー!
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