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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑56 (デルロイ視点)
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「母上、のんびりしていらっしゃいますが、今日は晩餐会があるのでは?」
「そうよ、もうそろそろ準備をしなくてはね」
抱き締められたまま、母上の後ろで困った顔をしている母上の侍女と視線が合いそう言うと、彼女は大袈裟に頷くから吹き出しそうになる。
彼女は母上に付いて長く、私も幼い頃から知っている気心の知れた相手だ。
だからこそ、たまに呑気な母上と私に表情を取り繕うこと無く接してくる時がある。
「名残惜しいけれど座って、紅茶一杯飲む時間はあるから」
「はい、頂きます」
「ありがとうございます、王……お義母さま」
王妃と言いかけたボナクララに、母上が抗議の視線を向けると、素直にボナクララが言い直すからつい笑ってしまった。
「可愛いわ、ボナクララ。エマニュエラには断られてしまったけれど、あなたはそのまま呼んでくれると嬉しいわ」
「断られた?」
「ええ、結婚しても呼び方は変えないそうよ」
朗らかに言っているけれど、母上の目には怒りを感じる。
エマニュエラはどうしてそんな風に断りを入れたのだろうか、その理由が分からない。
「あなた達は正式に婚約が決まりました。後日良い日を選び婚約式とお披露目を行います。それは王太子とあなた達同時にね」
「同時に? 兄上はそれでいいと?」
エマニュエラの機嫌をそこねた理由は、これかと気付き母上に問えば愚問だとばかりに頷かれてしまった。
「結婚は流石に一緒に出来ないけれど、婚約の披露目なら自分の希望を通しても良いだろうと、そう言うのよ」
「そうですか兄上が」
まさか一緒にするのが兄上の希望だとは思わなかったが、もしかすると魔法陣の関係だろうか。
「あなたも別々が良かった?」
母上は私にではなく、ボナクララに尋ねる。
あなたも、とはまさかエマニュエラは母上に嫌だとそう言ったのだろうか。
「いえ、私は王太子殿下がその様に望まれていらっしゃるのでしたら、決定に喜んで従います」
「本当にいいの?」
ボナクララの答えが意外だったのか、母上は驚いた様子を見せる。これは、エマニュエラは相当嫌がったのかもしれない。
「嫌ではないのね?」
「はい、嫌だなんて思いません。王太子殿下はデルロイ様と共に祝われたいのでしょう。お二人は仲が良いですし」
確かに兄上ならそう言いそうだ、でもエマニュエラが嫌がっているなら、何か問題が起こしそうな気がする。
「ボナクララは理解があって嬉しいわ。そうそう披露目の時のドレスとデルロイの礼服を仕立てるけれど、二人の都合の良い日を教えて欲しいわ」
「兄上はどうなさるのですか? 私は婚約して初めて公の場に出るのですから、揃いになるようなものが良いと思います。出来れば私達の目の色とか、でも兄上達と似たようなものになるのは避けなければいけませんよね」
ボナクララとエマニュエラの好みは全く違うけれど、兄上が選ぶ場合は予想がつかない。
そう思って聞けば母上は扇をひらりと広げ表情を隠しながら「エマニュエラは王太子妃用の装飾品を着けるから、深紅の石に合う色さえ避ければ問題はないでしょう」と教えてくれた。
「王太子妃の装飾品、なるほど」
「私母から聞いたことはありますが、どの様なものなのでしょう?」
母上から聞いてすぐにどんなものか思い浮かんだけれど、ボナクララは詳しく知らないらしい。
「流石に受け継ぐ本人より先に、実物をあなたに見せるわけにはいかないわね。私達の婚姻の時の絵があるから、時間があるなら後で見に行くといいわ」
「はい、ボナクララ時間はどう?」
「私は特に用事はございません」
「じゃあ後で一緒に見に行こう。母上、薔薇園の後に絵を見に行きたいと思います」
今予定を伝えておけば、ここにいる女官達が良いように準備を整えてくれるだろう。
それより楽しいことの前に、憂鬱な報告をしなければ。
「母上、お耳に入れておかなければいけないことがございます」
「なにかしら」
「実はここに来る前ですが……」
エマニュエラの女官への嫌がらせを話し、女官からも母上に報告する。
靴のことも話したら、母上の目が鋭くなってしまった。
「そう……そんなことが」
ミシミシと、母上の扇が嫌な音を立ててはじめ考え込む様子に、私達は黙って母上が口を開くのを待つしか無かった。
「そうよ、もうそろそろ準備をしなくてはね」
抱き締められたまま、母上の後ろで困った顔をしている母上の侍女と視線が合いそう言うと、彼女は大袈裟に頷くから吹き出しそうになる。
彼女は母上に付いて長く、私も幼い頃から知っている気心の知れた相手だ。
だからこそ、たまに呑気な母上と私に表情を取り繕うこと無く接してくる時がある。
「名残惜しいけれど座って、紅茶一杯飲む時間はあるから」
「はい、頂きます」
「ありがとうございます、王……お義母さま」
王妃と言いかけたボナクララに、母上が抗議の視線を向けると、素直にボナクララが言い直すからつい笑ってしまった。
「可愛いわ、ボナクララ。エマニュエラには断られてしまったけれど、あなたはそのまま呼んでくれると嬉しいわ」
「断られた?」
「ええ、結婚しても呼び方は変えないそうよ」
朗らかに言っているけれど、母上の目には怒りを感じる。
エマニュエラはどうしてそんな風に断りを入れたのだろうか、その理由が分からない。
「あなた達は正式に婚約が決まりました。後日良い日を選び婚約式とお披露目を行います。それは王太子とあなた達同時にね」
「同時に? 兄上はそれでいいと?」
エマニュエラの機嫌をそこねた理由は、これかと気付き母上に問えば愚問だとばかりに頷かれてしまった。
「結婚は流石に一緒に出来ないけれど、婚約の披露目なら自分の希望を通しても良いだろうと、そう言うのよ」
「そうですか兄上が」
まさか一緒にするのが兄上の希望だとは思わなかったが、もしかすると魔法陣の関係だろうか。
「あなたも別々が良かった?」
母上は私にではなく、ボナクララに尋ねる。
あなたも、とはまさかエマニュエラは母上に嫌だとそう言ったのだろうか。
「いえ、私は王太子殿下がその様に望まれていらっしゃるのでしたら、決定に喜んで従います」
「本当にいいの?」
ボナクララの答えが意外だったのか、母上は驚いた様子を見せる。これは、エマニュエラは相当嫌がったのかもしれない。
「嫌ではないのね?」
「はい、嫌だなんて思いません。王太子殿下はデルロイ様と共に祝われたいのでしょう。お二人は仲が良いですし」
確かに兄上ならそう言いそうだ、でもエマニュエラが嫌がっているなら、何か問題が起こしそうな気がする。
「ボナクララは理解があって嬉しいわ。そうそう披露目の時のドレスとデルロイの礼服を仕立てるけれど、二人の都合の良い日を教えて欲しいわ」
「兄上はどうなさるのですか? 私は婚約して初めて公の場に出るのですから、揃いになるようなものが良いと思います。出来れば私達の目の色とか、でも兄上達と似たようなものになるのは避けなければいけませんよね」
ボナクララとエマニュエラの好みは全く違うけれど、兄上が選ぶ場合は予想がつかない。
そう思って聞けば母上は扇をひらりと広げ表情を隠しながら「エマニュエラは王太子妃用の装飾品を着けるから、深紅の石に合う色さえ避ければ問題はないでしょう」と教えてくれた。
「王太子妃の装飾品、なるほど」
「私母から聞いたことはありますが、どの様なものなのでしょう?」
母上から聞いてすぐにどんなものか思い浮かんだけれど、ボナクララは詳しく知らないらしい。
「流石に受け継ぐ本人より先に、実物をあなたに見せるわけにはいかないわね。私達の婚姻の時の絵があるから、時間があるなら後で見に行くといいわ」
「はい、ボナクララ時間はどう?」
「私は特に用事はございません」
「じゃあ後で一緒に見に行こう。母上、薔薇園の後に絵を見に行きたいと思います」
今予定を伝えておけば、ここにいる女官達が良いように準備を整えてくれるだろう。
それより楽しいことの前に、憂鬱な報告をしなければ。
「母上、お耳に入れておかなければいけないことがございます」
「なにかしら」
「実はここに来る前ですが……」
エマニュエラの女官への嫌がらせを話し、女官からも母上に報告する。
靴のことも話したら、母上の目が鋭くなってしまった。
「そう……そんなことが」
ミシミシと、母上の扇が嫌な音を立ててはじめ考え込む様子に、私達は黙って母上が口を開くのを待つしか無かった。
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