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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑44 (デルロイ視点)

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「失礼ながら、あなたには危機感が足りない」

 トニエの言葉へのマーニ先生の反応は早かった。

「トニエ君!」

 がばりと立ち上がると、トニエの頭を片腕で抱えてもう片方の手で口を塞ぐ。
 初めは抵抗なく口を塞がれていたトニエは、ポンポンと先生の手を叩き始める。

「マーニ先生、息が出来ない様ですよ」

 呆然と先生の動きを見ていた私は、ボナクララの声に我に返る。
 
「あ、悪い」
「先生、もう少しお手柔らかにお願い致します」
「お前、自分がしたこと理解してるのか?」

 頭の拘束はそのままに口元だけ開放されたトニエは、気分を害した素振りもなくマーニ先生と会話している。

「理解していますよ。甘やかされ過ぎの王子殿下にこんなことを言えば、兄君から無礼だと切り捨てられかねないでしょうね」

 頭を拘束されたまま、腕を組み、ふんっとこちらを睨むトニエに、ここに兄上がいたらそうなるだろうと想像出来た。

「トニエ君! 無事に国に帰りたくないのか!」
「私を殺せば薬は手に入らなくなる。そうなった時に困るのはどちらでしょうね」
「お前っ」

 余裕のあるトニエと違い、マーニ先生は段々顔が険しくなっていく。

「殿下の前で、何というっ!」

 マーニ先生がトニエの拘束を解き、今度は短剣を抜こうと身構えた瞬間「先生、止めてください」と二人の間に入った。

「殿下?」
「へえ、そうきますか」

 驚くマーニ先生と面白そうに口の端を引き上げまるトニエ、二人の顔を交互に見ながら私はため息を吐いた。

「先生、過剰に反応しなくてもトニエを罰したりしませんから」
「それは……」
「トニエも無理して悪い態度を取らずとも、話ならちゃんと聞く。教えてくれるか?」

 マーニ先生は、本気でトニエを切ろうとしていたわけではない。
 そうでなければ、私が二人の間に立つより前にトニエの喉元にマーニ先生の短剣が向けられていただろう。
 そもそも先生は、さっきまでトニエの話を聞く姿勢を取っていた。トニエの態度に私への遠慮が無くても見過ごそうとしていたのだ。
 だから、先生は私がどう動くか試していたかもしれない。

「先生、座って下さい」
「分かりました」

 私が元の場所に戻ると、渋々といった風にマーニ先生が座り直し、トニエは魔石の欠片を手に取り私の前に見せる。

「この欠片だけで、上級の回復薬が十人分作れるのはご存知ですか? 勿論そのその他にも材料は必要ですが、たったこれだけで下級の薬が上級に引き上がるのです」
「なるほど」
「そして、虹のユニコーンの魔石であれば同じ大きさの欠片で百人分の上級回復薬が出来るのです」

 トニエの言葉に、間抜けにもぽかんと口を開いてしまう。
 欠片は本当に小さな物だ、それが百人分の薬の材料となるなら、この魔石全部ならどれ程の量になるか分からない。

「そんなに虹のユニコーンの魔石に力があるとは知らなかった」
「ええ、力があるのです。でもどんな優れた薬効を持つ素材でも、過ぎれば毒になります」
「毒に?」
「ええ、もし虹のユニコーンの魔石だと知らず普通のユニコーンの魔石のつもりで薬を作れば、過剰反応を起こして回復どころか患者ががされる場合があるのです」

 どうしてそうなるのか分からず、私は考えながらテーブルの上の魔石を見つめる。
 下級の回復薬ですむところを上級の薬を飲む、というのは良くある話だろう。
 それとは違うのだろうか。

「ユニコーンの魔石には、薬として加工し服用することで本人の魔力に結びつき体を治す働きがありますが、これを必要以上接種すると魔力が活性化し過ぎて暴走を起こすことがあります。それが起きなくても薬に使っている薬草等の効能が強力になり過ぎて服用した時に体に負担が掛かるのです」

 トニエの説明で理解する、成程それが過ぎれば毒になるということなのか。

「第二王子殿下。この国は平和です、戦もなく疫病も流行っていない。ですが急に大量の薬が必要になった時、薬を作るためも王宮の宝物庫からも魔石を出そうとした時、正しいものが出されなければどうなると思いますか?」
「それは……だが、薬を作る過程でトニエの様に気がつくのであれば……」

 どのように薬の素材になる様魔石を加工するのか分からないが、知識があれば分かるのなら。そう思い聞けばトニエは話しにならないとばかりに首を横に振ったのだ。
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