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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑43 (デルロイ視点)

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「トニエ、急な依頼に応じてくれた事感謝する。マーニ先生もご協力感謝します」

 レモが私の決断を護衛達に伝えている間、私は教官室にやって来たマーニ先生とトニエを迎えた。
 トニエは昨日より幾分疲れている様に見えるが、もしかするとユニコーンの魔石の加工の為睡眠時間が満足に取れなかったのだろうか。

「私が殿下方の為に尽力するのは当然です」

 マーニ先生は微笑みながらそう言うが、トニエは感情を見せない微笑みを浮かべて小さく頷くだけだった。

「昼の休憩時間も残り少ない。トニエ君殿下に」

 口を開かないトニエにマーニ先生が声を掛けると、緩慢な動きで懐から小さな革袋を取り出した。

「材料が足りず、携帯用の袋までは作成出来ませんでしたが、取り急ぎこちらの袋を常時お持ち下さいますようお伝え下さい」
「中を見ても?」

 革袋は表面がつるりとしている。

「この革は」
「これはユニコーンの皮を加工したものですが、魔石の方が格上の為このこの革袋では長く使えないかもしれません」

 トニエの説明に私は内心首を傾げる。
 魔石もユニコーンのものだと聞いていたが、ユニコーン同士でも格上格下があるのだろうか。

「……あぁ、説明不足でしたね。これは虹のユニコーンの魔石なんです。宝物庫の管理担当は区別がついていなかった様ですね。これは献上品とのことでしたし、献上した者が詳しく話をしなかったのかもしれませんね」

 王宮の宝物庫の管理担当の能力が低いと暗に言われた様で、恥ずかしくなる。
 鑑定の能力を持ち、盗みなど働かない為人が信用できる者且つそれなりの家柄の者となると鑑定能力を重点にとはいかないらしい。
 能力と信用に足る為人だけで良いのではないかと思うが、それなりの家柄という方が重要視されているのが現状らしい。
 今は確か、伯爵位を息子に譲った者が主担当として働いていたと記憶している。

「トニエ、少し言葉を控えなさい」
「嫌ですね。あの人はあんな宝の山の様な場所に常時いられるというのに、自分の能力を高める努力を怠っている。それが最も腹立たしいですが、それを良しとしている周囲にも問題がある。最悪です」

 急に饒舌になったトニエに、ボナクララが私の隣で戸惑っているのを感じる。
 それは私も同じだ、トニエが何に怒っているのか分からない。

「あなたは何に憤りを感じていらっしゃるの?」

 先程挨拶をしたばかりのボナクララは、普段なら会話に自分から口を挟んだりしない。
 だが、トニエの様子に思わず尋ねてしまったのだろう。

「鑑定の能力は魔法の中でも特殊です。光属性の魔法を使える者でなければ基本的に能力を覚えられません。私の場合錬金術師でもあり薬師でもあるため光の属性無しで無理矢理に覚えました」
「成程?」

 光の属性といえばボナクララもそうだが、彼女は鑑定を使えただろうか?

「鑑定の能力はひたすら物を見ていく事でその能力を高めていきます。剣術でいえば素振りを繰り返すようなものです」

 素振りを繰り返すのは、腕の筋力を付け体力を付ける意味がある。だがそれだけでは強くなれない。

「鑑定するたびに魔力を消費します。それでも同じものを繰り返し鑑定し続けると、最初に見えなかった情報も分かるようになってきます。ただこれだけでは能力は上がりません」
「ふむ? ではどうする」

 私がトニエの態度に何も言わず話を聞く姿勢になっているためなのか、マーニ先生はトニエのしたいようにさせることにしたようだ。
 マーニ先生は礼儀にうるさい人だから、本来であればトニエの態度は見過ごせないのだろうが、それよりもトニエの話が興味深いのかもしれない。

「知識を増やすのです。魔石なら魔物についての資料、素材についての資料です。鉱物ならそれについての資料を読み込み知識を増やす。そして資料と照らし合わせながら再度鑑定するのを繰り返す」
「繰り返す」
「同じものがいくつもあるのであれば、それを見比べ優劣の判断をつける。例えばこれ、加工してしまいましたが、これが宝物庫からお預かりした虹のユニコーンの魔石です。そしてこちらが私が持っているユニコーンの魔石の欠片」

 革袋から虹のユニコーンの魔石を取り出しテーブルに置いた後、トニエは首に下げていた革袋から小さな魔石の欠片を取り出し、その隣に置いた。

「鑑定の能力が無くとも色の違いなどは判断出来ると存じますが、如何ですか」
「確かに、虹のユニコーンの魔石はとても美しい色をしているし中に輝く様な筋が見える」

 対して欠片の色は薄く光もない。
 私のように鑑定能力の全くないものでも、これは判断が出来る。

「虹のユニコーンの魔石は、魔石の中の輝き、この筋が特徴ですが、加工前はこれほど明るくありませんから鑑定の能力のない者が判断するのは難しいでしょう」
「難しい? それでも出来ないわけではない?」
「はい。ですが、宝物庫の担当者は、宝物庫の中に収められているものの一覧からこれを見つけ、箱の中をざっと目視で確認した後手渡してきた。これはその箱に入っていたものの一つです」

 目視で確認、それがトニエが荒れている理由なのだろう。
 だが兄上は昨日何もその件について言っていなかったのが気になる。

「王太子殿下は呆れて、でもすぐには改善は難しいと頭を悩まされていました」
「そうか。王宮勤務の貴族に鑑定の能力を持つものは少ないからな」

 光の属性が使える者は神殿に入ることが多い。
 私がそれを考えトニエに伝えると、彼は大袈裟にため息を吐きつつ首を横に振った。
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