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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑40 (デルロイ視点)

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「蛇蝎のごとく……」

 生徒会長から自分に向けられた、ねっとりと絡みつく様な気持ちの悪い視線を思い出すが、彼がボナクララをどのように見ていたかまでは思い出せなかった。
 私はまだまだ周囲に目を配れていないのだと、自覚して落ち込みそうな心を奮い立たせる。
 足らない部分を自覚したら、そこから己を鍛えれば良いだけだ。落ち込み拗ねる時間など私には無い。
 自分の幸いを捨て、国の為にエマニュエラを妻にしようとしている兄上を支えると、私は誓ったのだから。
 兄上を支えるのも、私の婚約者になるボナクララを守ることもどちらも私には大切なことなのだから。

「ボナクララ、あなたに危害が及ばぬように護衛に申し付ける。勿論私の守りも今まで以上にさせる」
「デルロイ様?」
「兄上が結婚し跡継ぎとなる子が生まれたら、私は臣籍降下する。だから学生の今から貴族達との関わりを気楽なものとしていようと考えていたが、あなたに害が出るのでは意味が無い」

 将来父上の跡を継ぎ王になる兄上と私の立場は違う。
 兄上に息子が出来れば私は王弟として王宮に留まる必要はなくなるから、臣籍降下し公爵家を興す。
 それは両親も兄上も想定している私の未来だから、私は王子としてより公爵家の当主になる者として他の貴族家と関わっていくべきだと考えていた。
 だからあの男が少々行き過ぎた関りをしようとしていても、即不敬だなんだと騒がずに様子を見ていたのだ。

「でも、デルロイ様は学生の間だけでも自由にお過ごしになりたかったのではありませんか?」

 私の気持ちをボナクララは察していたのだろう、それが私の未熟さだと言われている様で情けなくなる。

「そうだね。今まで王子宮で守られていただけだった、それが有難く、でも少しだけ息苦しかった。だから学生の身分になって、外に出て気持ちが浮ついていた」

 父上や兄上が私に相応しいと決めた友人以外との関わり、幼き頃から周囲を警護の者で囲み守られ育ってきた私は自分で選んで誰かと話す。それすら嬉しくて、ある意味浮かれていたのだ。

「デルロイ様は常に王太子殿下に庇護されていらっしゃいましたから」
「そう、兄上に守られていた。だから学生になり王宮の外に出る事が嬉しかった、でもね喜んでいるばかりでは駄目なのだと遅まきながら気が付いた」

 昨日、自分で浅はかな行動をしなければ、そしてボナクララと今話さなければ気が付かなかっただろう。
 私は守られてばかりの子供のままではいけないのだと、私がぼんやりと何も疑問に思わず周囲に守られているだけでは駄目なのだと。

「大人にならなければならないのだと、そう気が付いたんだ」
「大人に」
「周囲と波風立てずに、穏やかな王子のままでは駄目だということだね」

 まだ候補の段階でエマニュエラはすでに傲慢な態度で周囲に接しているのだから、正式に王太子殿下の婚約者となり兄上と結婚し王太子妃となれば、どれだけの我儘を言い始めるか分からない。
 勿論兄上も両親もエマニュエラの勝手は許さないだろうが、それでも目が届く限界はある。
 今でさえ仲が良いとは言えないエマニュエラとボナクララの関係は、兄上の結婚で大きく変わってしまうだろう。
 何せ、ボナクララは未来の公爵夫人で、エマニュエラは未来の王妃なのだから。

「具体的にどうなさるおつもりでしょうか」
「まずは生徒会長、彼の無礼な行いを止めさせる。最初は警告、次に侯爵家へ抗議、それでも改めないのであればそれなりの対処を行う。他の者へも同様だが、彼の様な愚かな者はそういないだろう」

 気安く私に近付いてこようとする女子生徒は今のところいない。
 入学初日に私に近付こうとした女生徒の様子を皆が見ていたからかもしれないし、ボナクララが常に私の傍にいることもあるのだろう。
 男子生徒はエベラルドとテレンスが私のとりまきの様に常に近くにいるからかもしれないが、私に声を掛けて来る時は礼儀正しく不快に思うことはない。
 これからは少しずつ彼らとの接触を増やして行こう、いつまでも守られた雛の様ではいけないのだから。

「畏まりました、第二王子殿下。護衛達にはその様に伝えます」
「頼りにしているよ、レモ」

 レモは私の言葉に微笑みを返し、深く頭を下げた。

※※※※※※
デルロイパパが成長し大人になるには色々経験が必要だなと、そんな感じのまだまだお子ちゃまです。

エベラルドとテレンスはデルロイの側にいて、少しでも役に立てるだけで幸せ。自分達はデルロイに一番目を掛けられている下僕だと思っています。
下僕というか、ご主人様大好きで忠義な犬でしょうか???
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