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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑26 (デルロイ視点)
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「ボナクララ、それはデルロイの婚約者だな」
「……いいえ、まだ候補です」
父上達は私とボナクララの婚約も正式にはしていない。
兄上とエマニュエラの婚約が決まっていないからなのだとずっと思っていたけれど、ボナクララを兄上の妻にするためだったのかもしれない。
急に思い立ち不安になる。兄上だってきっとボナクララとの婚約を望むだろう。
エマニュエラと婚約したいなんて、本心から思っているとは思えない。
「兄上は、魔法陣の話を知っているのでしょうか」
兄上がエマニュエラを選んだ理由が分からなかった。
とんでもない性格の彼女は、それでも能力だけは高くて魔力量も多くて、王妃になれるだけの力があるから。
それが理由だとしても、それだけとは思えなかった。
兄上は私と違い、将来父上の跡を継ぎ王になる。その心構えが幼い頃から出来ていた。
だから自分の幸せでなく、国のためになる女性を妻にしようとしているのだと思っていた。
でも、その根底に魔法陣の契約があったのだとしたら、兄上は選びたくても他の女性を選べなかったとしたら。
「私は兄上の大事な女性を奪おうとしているのかもしれません。兄上はもしかしたらボナクララを」
「デルロイ。お前はまだまだ幼いな」
「幼い、はい。私は幼くて、世間知らずで、未熟です」
私は皆からボナクララとの婚約を反対されていないと信じ切っていた。
魔法陣の事があるから、この国では余程のことが無い限り他国から王子王女を迎えた婚姻を行わない。
王子も王女も、王族の中から相手を選ぶことが殆どだ。
王族以外の家との結婚も増えて来てはいるが、多くはない。
だから安心していた。誰も私とボナクララの未来を奪ったりしないと。
「私の幸せが兄上の犠牲によって成り立つものなら、私は、私は」
ぎゅうっと上着の裾を握りしめる。
ボナクララと添い遂げられない未来に、私の幸せがあるのだろうか。
でも、エマニュエラを妻にした兄上の幸せは?
「王位継承してからずっとお前の両親は魔法陣の研究をしていた。お前の母親は正式に王妃として契約出来ず、王妃として必要な魔力を魔法陣に流せず、魔力切れギリギリの魔力を毎日魔法陣に流している。お前の父親は、魔法陣に魔力を吸われ続けている。デルロイが魔力を流し、その結果魔法陣にお前の魔力が過剰に吸い取られた」
「それが私が魔力切れを起こした理由なのですね」
だとすると、留学生の彼が言った魔力切れというのはやはり正しかったのだ。
父上は常に魔力切れ寸前になっている。もしかしたら魔力切れを常に起こし掛けているのかもしれない。だとしたら外から魔力を補う事で今よりは体調も良くなるのかもしれない。
「おじい様、父上を守る方法は何かありませんか」
「ひとつだけある。エマニュエラに王妃として魔法陣と契約させることだ」
「それは兄上が王になるということでは」
「今、魔法陣は常に魔力が不足している。一番多く魔力を流す筈の王妃が魔力を魔法陣に流していないからだ」
私の問いに答えずに、おじい様は魔法陣の現状を語る。
魔法陣の魔力不足を解消すれば、父上は元気になるのだろうか。
「王位継承せずとも、すでにエマニュエラが魔法陣にとっての王妃なのだ」
「それでは、父上が王のままエマニュエラに王妃として契約せよというのですか」
そんなことが可能なのだろうか。
不安になる私に、おじい様は頷きで答える。
「エマニュエラの性格を考えれば王妃にするのは不安でしかない。だがダヴィデならあれを抑え込めるだろう」
「兄上なら。でもそれでは兄上の幸せは」
「王妃など飾りでもいいのだ。密かに大切な者を、それでもダヴィデなら満足するだろう」
おじい様の言葉に私は目を見開いた。
言葉にしようとして、はくはくと口が開くだけで音にはならない。
おじい様は、兄上に神の教えに背けというのか。
「それではシード神の教えに背くことになります」
やっとの思いでそれを口にすると、おじい様は「お前は本当にまだ子どもなのだな」と呆れた様に仰るだけだった。
※※※※※※
十五歳のデルロイは本当にお子ちゃまです。
「……いいえ、まだ候補です」
父上達は私とボナクララの婚約も正式にはしていない。
兄上とエマニュエラの婚約が決まっていないからなのだとずっと思っていたけれど、ボナクララを兄上の妻にするためだったのかもしれない。
急に思い立ち不安になる。兄上だってきっとボナクララとの婚約を望むだろう。
エマニュエラと婚約したいなんて、本心から思っているとは思えない。
「兄上は、魔法陣の話を知っているのでしょうか」
兄上がエマニュエラを選んだ理由が分からなかった。
とんでもない性格の彼女は、それでも能力だけは高くて魔力量も多くて、王妃になれるだけの力があるから。
それが理由だとしても、それだけとは思えなかった。
兄上は私と違い、将来父上の跡を継ぎ王になる。その心構えが幼い頃から出来ていた。
だから自分の幸せでなく、国のためになる女性を妻にしようとしているのだと思っていた。
でも、その根底に魔法陣の契約があったのだとしたら、兄上は選びたくても他の女性を選べなかったとしたら。
「私は兄上の大事な女性を奪おうとしているのかもしれません。兄上はもしかしたらボナクララを」
「デルロイ。お前はまだまだ幼いな」
「幼い、はい。私は幼くて、世間知らずで、未熟です」
私は皆からボナクララとの婚約を反対されていないと信じ切っていた。
魔法陣の事があるから、この国では余程のことが無い限り他国から王子王女を迎えた婚姻を行わない。
王子も王女も、王族の中から相手を選ぶことが殆どだ。
王族以外の家との結婚も増えて来てはいるが、多くはない。
だから安心していた。誰も私とボナクララの未来を奪ったりしないと。
「私の幸せが兄上の犠牲によって成り立つものなら、私は、私は」
ぎゅうっと上着の裾を握りしめる。
ボナクララと添い遂げられない未来に、私の幸せがあるのだろうか。
でも、エマニュエラを妻にした兄上の幸せは?
「王位継承してからずっとお前の両親は魔法陣の研究をしていた。お前の母親は正式に王妃として契約出来ず、王妃として必要な魔力を魔法陣に流せず、魔力切れギリギリの魔力を毎日魔法陣に流している。お前の父親は、魔法陣に魔力を吸われ続けている。デルロイが魔力を流し、その結果魔法陣にお前の魔力が過剰に吸い取られた」
「それが私が魔力切れを起こした理由なのですね」
だとすると、留学生の彼が言った魔力切れというのはやはり正しかったのだ。
父上は常に魔力切れ寸前になっている。もしかしたら魔力切れを常に起こし掛けているのかもしれない。だとしたら外から魔力を補う事で今よりは体調も良くなるのかもしれない。
「おじい様、父上を守る方法は何かありませんか」
「ひとつだけある。エマニュエラに王妃として魔法陣と契約させることだ」
「それは兄上が王になるということでは」
「今、魔法陣は常に魔力が不足している。一番多く魔力を流す筈の王妃が魔力を魔法陣に流していないからだ」
私の問いに答えずに、おじい様は魔法陣の現状を語る。
魔法陣の魔力不足を解消すれば、父上は元気になるのだろうか。
「王位継承せずとも、すでにエマニュエラが魔法陣にとっての王妃なのだ」
「それでは、父上が王のままエマニュエラに王妃として契約せよというのですか」
そんなことが可能なのだろうか。
不安になる私に、おじい様は頷きで答える。
「エマニュエラの性格を考えれば王妃にするのは不安でしかない。だがダヴィデならあれを抑え込めるだろう」
「兄上なら。でもそれでは兄上の幸せは」
「王妃など飾りでもいいのだ。密かに大切な者を、それでもダヴィデなら満足するだろう」
おじい様の言葉に私は目を見開いた。
言葉にしようとして、はくはくと口が開くだけで音にはならない。
おじい様は、兄上に神の教えに背けというのか。
「それではシード神の教えに背くことになります」
やっとの思いでそれを口にすると、おじい様は「お前は本当にまだ子どもなのだな」と呆れた様に仰るだけだった。
※※※※※※
十五歳のデルロイは本当にお子ちゃまです。
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