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番外編

おまけ 兄の寵愛弟の思惑21 (デルロイ視点)

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 昼休み、マーニ先生が呼んでいるとレモに言われテレンスと共に講師控室に向かうと、そこには留学生ロマーノ・トニエの姿があった。
 ちらりとレモを見ると、にっこりと笑っている。
 剣術の授業の後でレモがマーニ先生に頼んだのだろうか、仕事の早さに驚きながらマーニ先生が勧めるままソファーに腰を下ろした。

「マーニ先生」
「先程の剣術の授業で私と剣を合わせたロマーノ・トニエ君です。トニエ君こちらは我が国の第二王子殿下であらせられるデルロイ・ウィンストン様だ」
「第二王子殿下にご挨拶申し上げます。私はモロウールリ国から参りましたロマーノ・トニエと申します」

 深く腰を折り挨拶するのは、向こうの国の下級貴族の最敬礼だったと記憶している。
 彼の国も我が国も、元々は同じ帝国に属する国だったが数代前に帝国が無くなりそれぞれ独立国家となった。
 モロウールリ国が元々皇帝陛下が住まわれていた国になるが、今の国王の血筋は皇帝陛下の血筋とは異なる。
 我が国に嫁いで来た皇女殿下は、帝国時代の姫だった。

「楽にしてくれ。私はデルロイ・ウィンストンと言う。先程は見事な剣の腕を見せてもらった。あなたは薬師で錬金術師でもあると聞いていたが、魔物を狩る腕もあるとはすばらしいな」
「ありがとうございます。私の家はモロウールリ国でも田舎の方に領地がございます。必要な素材を自ら狩るのため日々鍛錬をしております」

 すぐに直立しながら、視線を下に向け視線を合わせない。
 彼はかなりしっかりと教育をされている様だ。
 体の大きさはエベラルド程度あるだろうか、私は我が国の薬師や錬金術師と会ったことはないが、彼らがこんなに体を鍛えているとはとても思えない。

「そうか。トニエ家は優秀な者が多いと聞くが、この国では何を学ぶ予定だ?」
「はい、殿下。薬学と魔法陣学を学びたく参りました。下級の回復薬一つとっても作り方は様々ございます。私は体に負担が少なく良く効く薬の作り方を研究しているのです」
「そういうものなかのか、あとは魔法陣か」
「はい、魔法陣を私は錬金術で使用致しますが、わが国ではあまり研究が進んでおりません。高度な魔法陣を使えるようになりたいと考えております」

 魔法陣学の研究が我が国の方が進んでいると聞いた事がない。
 モロウールリ国が遅れているのかどうかも分からない。

「そうか。君はどんな薬でも作れるのか」
「どんな薬と言われましても、薬に使う素材が手に入るかどうかにもよりますが、ある程度のものは」

 今ここで聞く事は出来ないが、父上の体を治療する薬が無いか兄上はずっと探しているのを私は知っている。
 元々体が強くない父上は、ここ数年でだいぶ弱られている。
 兄上が卒業したからという理由で父上の仕事だったものをいくつか引継ぎを始めているが、兄上はそれを早めにすべて引き継ごうとしている。
 それはすべて父上のお体が心配だからだ。
 だが、治癒師は父上に気休めの回復魔法を掛けるだけだ。
 体の疲れが溜まっているから、体力が落ちているだけだと言う。
 あれだけ顔色が悪く、疲れやすくなっているというのに、治癒師は病ではないというのだ。

「そうか。だが病ではなく薬を使う程でもない疲労などを癒す方法等は知らないだろうな」

 父上の事は話せない。
 だが、兄上の事が心配だという程度ならどうだろう。実際兄上は多忙だ。その上エマニュエラのせいで心労もあるのだから、兄上を思う弟は心配だという程度ならどうだろう。

「薬を使うほどでもなく、病ではない疲労でございますか。患者を診て見ないとはっきりしたことは申せませんが、一般的な疲労であれば必要なのは睡眠と栄養でございます」

 それは当たり前の話だ。
 誰でも、私でも思いつく。勿論治癒師は父上へそれを施している。
 
「一般的な食事で栄養を取るのが難しいのであれば、日薬草が育てられる環境であればそちらをお勧めいたします。魔物肉を常食するのもいいですが、例えば体力が落ちている方ですと魔物肉の消化が難しい場合もありますので」
「日薬草というのはどういうものだ。私は初めて聞く」

 マーニ先生やレモを見ても、首を横に振っている。

「日薬草は魔素が多い土地で育ちやすい、栄養豊富な植物です。ただ葉を採取して一刻も経たないうちに干からびてしまうため、売りにだされることはほぼありません」
「そんなに早く」
「はい。王都では魔素が多い場所は限られるでしょうし、魔素が少ない場所ではあまり栄養が期待出来ませんから、あとはそうですね。魔物肉を迷宮産の野菜と一緒に野菜が蕩けるまで煮たものを食されるのが良いかもしれません」

 魔物肉は私や兄上は食べるが、父上はどうだろう。
 そもそも迷宮産の野菜は手に入りにくい。そんなものを仕入れる様に言えば何かあるのかと疑われてしまうかもしれないし、そもそも野菜が蕩けるまで煮たものなんて、料理人は父上に出せないだろう。

「そうか、食事だけでも私の知らない事は多いな。勉強になったありがとう」

 日薬草、魔物肉と迷宮産の野菜を煮たもの、それだけでも父上を見ている治癒師からは得られなかった話だ。
 治癒師は遠慮して、父上には出せないと除外していたのかもしれないが、兄上と私は何でもいいから情報が欲しいのだ。

「お役に立てたなら幸いです」
「知らない話を聞く事は楽しいな。よければまた話を聞かせて欲しい。先生その時はご協力くださいますか」
「勿論でございます。トニエ君お願い出来るか」
「畏まりました。私の知識が少しでも第二王子殿下のお役に立てるのであれば、喜んで参りましょう」
「そうか、ではまた時間を作って欲しい。礼は何か考える」

 本心かどうか分からないが、了解は得た。
 後は兄上に聞いて、もっと詳しく話を聞く事にしよう。私が駄目でも治癒師と話をしてもらうのでもいい。
 打つ手がないと諦めかけていたが、もしかしたら何か出来るかもしれないのだ躊躇っている時間は無かった。
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