195 / 244
番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑18 (デルロイ視点)
しおりを挟む
「モロウールリ国から参りましたロマーノ・トニエと申します。私は薬師であり錬金術師でもあります。必要な素材を自分で採取するため魔物を狩ることもあり、冒険者としての活動も多く行っております」
冒険者の言葉に鍛錬場に散らばっている生徒達から声が上がる。
魔物を狩り生活の糧を得る冒険者という者達は、私からかなり遠いところで生きているという印象だ。
剣で戦う騎士達、魔法を使い戦う魔法使いは周囲にいても、王宮に勤める彼らと冒険者達は考え方が違うだろう。
「私の剣は魔物を屠る為に鍛錬して来たものです。人様にお見せできるものではございませんし、一般的な剣術とは遠いものになりますが、何かの参考になれば嬉しく思います。どうぞよろしくお願い致します」
緑色の瞳が細められる。
モロウールリ国の学校を卒業後こちらに留学して来たと聞いたから、兄上と年齢は変わらないと思うが、何て言うか落ち着いていて、……幼い頃から私を診てくれている治癒師のじいやの様な印象を受ける。
「それでは、始めようか。君は普段何を使っている?」
「はい、私はこちらの短剣と片手剣を使っております。対人ですと短剣の方ですが、こちらは模範試合には向かないかと存じます」
マーニ先生の問いに、彼は落ち着いた控えめな態度で答える。
彼の手には短剣と片手剣、どちらも使い込まれている様に見える。
「そうか。今回は模擬剣になるが、いいか?」
「はい。得意なのは今申し上げたものですが、両手剣も使えますので、ご指定下さい」
態度は控えめだが、自分の腕に自信があるのだろう。どんな剣でも大丈夫だと言い切った。
「そうか、ではあちらにある剣から好きなものを選んで欲しい」
「畏まりました」
先生が指さしたのは、私達も使っている模擬剣が置かれている棚だ。
彼は足音をたてることなく、でもかなりの速度で棚に近付き剣を選ぶとすぐに戻って来た。
「それでいいんだな、では始めよう。剣のみの攻撃とする、その他の攻撃は今回は無しだ」
「畏まりました」
頷くと彼はすぐに剣をかまえて先生と対峙する。
ほんの僅かな動きで、彼の印象が急変した。
「彼はかなりの腕ですね。まったく隙がない」
「その様だな。先生のあんな顔、兄上でもなかなか引き出せない」
マーニ先生は、私達に指導する時は余裕の顔をしている。
兄上はかなり強くなっているから、剣を交えていると時々先生も真剣に戦っているように見えるが、私とだとまさに大人と子どもの戦いでしかない。
「始めっ!」
審判の役目らしい助手の先生が声を上げたが、二人はすぐには動かなかった。
互いの様子を見て、相手の隙を見ているのだろう。
沢山の生徒に見られている中、互いの目に映っているは目の前にいる相手だけのように見える。
「……見ているこちらの方が緊張しますね」
テレンスがじっと二人を見つめながら呟く声に、私も頷く。
私が先生と対峙する時、エベラルドやテレンスと対峙する時、こんな肌がひりつくような空気にはならない。
鍛錬場にいる者達は誰もが真剣な顔で二人を見ている。
それは生徒だけでなく、マーニ先生以外の先生達も同じだった。
「……どちらが先にしかける?」
じりじりと互いの動きを見ながら動いていく二人から目が離せない。
私の呟きがシンと静まり返った鍛錬場に響き、それに応えるように先生が動いた。
「っ!」
素早い攻撃にロマーノ・トニエが瞬時に反応した。
ガツンと剣がぶつかり合う音が響いた後、すぐさまロマーノ・トニエは先生から距離を取り、次の瞬間先生の胴目掛けて剣を振り切った。
「っと」
僅差で避けた様に私の目には移ったが、避けるのを想定していたかの様に第二、第三の攻撃が繰り出される。
ロマーノ・トニエの動きは、私が今まで習って来た剣術とは違っている様に見える。
なんだろう、剣を交えていると言うよりは的確に急所を狙っている様な、そんな動きに見える。
「……そこまで!」
暫く打ち合いが続いた後、決着がつかぬまま助手の先生が声を上げた。
「はぁ、お前少しは遠慮というものはないのか」
「遠慮は……魔物相手にしていたら自分の命が危うくなりますので」
息を切らせているマーニ先生は、それでも機嫌よくバンバンとロマーノ・トニエの背中を叩いている。
マーニ先生が息を切らせている姿を見たのは初めてかもしれない。
「皆どうだ、良い参考になっただろう。これが魔物と戦う者の剣だ」
ロマーノ・トニエはマーニ先生の声に何の反応も示さず、ただ立っている。
今激しい剣の打ち合いをしていた者にはとても見えない姿に、私は彼となんとかして話が出来ないかと考え始めていた。
冒険者の言葉に鍛錬場に散らばっている生徒達から声が上がる。
魔物を狩り生活の糧を得る冒険者という者達は、私からかなり遠いところで生きているという印象だ。
剣で戦う騎士達、魔法を使い戦う魔法使いは周囲にいても、王宮に勤める彼らと冒険者達は考え方が違うだろう。
「私の剣は魔物を屠る為に鍛錬して来たものです。人様にお見せできるものではございませんし、一般的な剣術とは遠いものになりますが、何かの参考になれば嬉しく思います。どうぞよろしくお願い致します」
緑色の瞳が細められる。
モロウールリ国の学校を卒業後こちらに留学して来たと聞いたから、兄上と年齢は変わらないと思うが、何て言うか落ち着いていて、……幼い頃から私を診てくれている治癒師のじいやの様な印象を受ける。
「それでは、始めようか。君は普段何を使っている?」
「はい、私はこちらの短剣と片手剣を使っております。対人ですと短剣の方ですが、こちらは模範試合には向かないかと存じます」
マーニ先生の問いに、彼は落ち着いた控えめな態度で答える。
彼の手には短剣と片手剣、どちらも使い込まれている様に見える。
「そうか。今回は模擬剣になるが、いいか?」
「はい。得意なのは今申し上げたものですが、両手剣も使えますので、ご指定下さい」
態度は控えめだが、自分の腕に自信があるのだろう。どんな剣でも大丈夫だと言い切った。
「そうか、ではあちらにある剣から好きなものを選んで欲しい」
「畏まりました」
先生が指さしたのは、私達も使っている模擬剣が置かれている棚だ。
彼は足音をたてることなく、でもかなりの速度で棚に近付き剣を選ぶとすぐに戻って来た。
「それでいいんだな、では始めよう。剣のみの攻撃とする、その他の攻撃は今回は無しだ」
「畏まりました」
頷くと彼はすぐに剣をかまえて先生と対峙する。
ほんの僅かな動きで、彼の印象が急変した。
「彼はかなりの腕ですね。まったく隙がない」
「その様だな。先生のあんな顔、兄上でもなかなか引き出せない」
マーニ先生は、私達に指導する時は余裕の顔をしている。
兄上はかなり強くなっているから、剣を交えていると時々先生も真剣に戦っているように見えるが、私とだとまさに大人と子どもの戦いでしかない。
「始めっ!」
審判の役目らしい助手の先生が声を上げたが、二人はすぐには動かなかった。
互いの様子を見て、相手の隙を見ているのだろう。
沢山の生徒に見られている中、互いの目に映っているは目の前にいる相手だけのように見える。
「……見ているこちらの方が緊張しますね」
テレンスがじっと二人を見つめながら呟く声に、私も頷く。
私が先生と対峙する時、エベラルドやテレンスと対峙する時、こんな肌がひりつくような空気にはならない。
鍛錬場にいる者達は誰もが真剣な顔で二人を見ている。
それは生徒だけでなく、マーニ先生以外の先生達も同じだった。
「……どちらが先にしかける?」
じりじりと互いの動きを見ながら動いていく二人から目が離せない。
私の呟きがシンと静まり返った鍛錬場に響き、それに応えるように先生が動いた。
「っ!」
素早い攻撃にロマーノ・トニエが瞬時に反応した。
ガツンと剣がぶつかり合う音が響いた後、すぐさまロマーノ・トニエは先生から距離を取り、次の瞬間先生の胴目掛けて剣を振り切った。
「っと」
僅差で避けた様に私の目には移ったが、避けるのを想定していたかの様に第二、第三の攻撃が繰り出される。
ロマーノ・トニエの動きは、私が今まで習って来た剣術とは違っている様に見える。
なんだろう、剣を交えていると言うよりは的確に急所を狙っている様な、そんな動きに見える。
「……そこまで!」
暫く打ち合いが続いた後、決着がつかぬまま助手の先生が声を上げた。
「はぁ、お前少しは遠慮というものはないのか」
「遠慮は……魔物相手にしていたら自分の命が危うくなりますので」
息を切らせているマーニ先生は、それでも機嫌よくバンバンとロマーノ・トニエの背中を叩いている。
マーニ先生が息を切らせている姿を見たのは初めてかもしれない。
「皆どうだ、良い参考になっただろう。これが魔物と戦う者の剣だ」
ロマーノ・トニエはマーニ先生の声に何の反応も示さず、ただ立っている。
今激しい剣の打ち合いをしていた者にはとても見えない姿に、私は彼となんとかして話が出来ないかと考え始めていた。
13
お気に入りに追加
2,628
あなたにおすすめの小説
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』
*書籍化2024年9月下旬発売
※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。
彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?!
王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。
しかも、私……ざまぁ対象!!
ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!!
※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。
感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。
回帰令嬢ローゼリアの楽しい復讐計画 ~拝啓、私の元親友。こまめに悔しがらせつつ、あなたの悪行を暴いてみせます~
星名こころ
恋愛
ルビーノ公爵令嬢ローゼリアは、死に瀕していた。親友であり星獣の契約者であるアンジェラをバルコニーから突き落としたとして断罪され、その場から逃げ去って馬車に轢かれてしまったのだ。
瀕死のローゼリアを見舞ったアンジェラは、笑っていた。「ごめんね、ローズ。私、ずっとあなたが嫌いだったのよ」「あなたがみんなに嫌われるよう、私が仕向けたの。さようならローズ」
そうしてローゼリアは絶望と後悔のうちに人生を終えた――はずだったが。気づけば、ローゼリアは二年生になったばかりの頃に回帰していた。
今回の人生はアンジェラにやられっぱなしになどしない、必ず彼女の悪行を暴いてみせると心に誓うローゼリア。アンジェラをこまめに悔しがらせつつ、前回の生の反省をいかして言動を改めたところ、周囲の見る目も変わってきて……?
婚約者候補リアムの協力を得ながら、徐々にアンジェラを追い詰めていくローゼリア。彼女は復讐を果たすことはできるのか。
※一応復讐が主題ではありますがコメディ寄りです。残虐・凄惨なざまぁはありません
お幸せに、婚約者様。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
恋愛
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
いえ、絶対に別れます
木嶋うめ香
恋愛
結婚して一年たったのだから、もういいわよね。
私実家に帰ります。
拙作『いえ、絶対に別れます』は、第16回恋愛小説大賞で優秀賞を頂き、レジーナブックス様より書籍化致しました。
書籍版はかなり書き直ししており(書籍版はフェデリカとキリアンのエピソードを増やし、かなり読みやすくなっていると思います)台詞等が変わっているため、一旦番外編は削除して書籍版に沿った内容に書き直して再UP致します。
またブルーノ編も一旦削除し大幅修正します。
こちらは再UPの際は、この作品と切り離して別作品として連載していく予定です。
遅筆なりに今後も頑張りますので、皆様どうぞよろしくお願い致します。
悪役令嬢は断罪回避のためにお兄様と契約結婚をすることにしました
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
☆おしらせ☆
8/25の週から更新頻度を変更し、週に2回程度の更新ペースになります。どうぞよろしくお願いいたします。
☆あらすじ☆
わたし、マリア・アラトルソワは、乙女ゲーム「ブルーメ」の中の悪役令嬢である。
十七歳の春。
前世の記憶を思い出し、その事実に気が付いたわたしは焦った。
乙女ゲームの悪役令嬢マリアは、すべての攻略対象のルートにおいて、ヒロインの恋路を邪魔する役割として登場する。
わたしの活躍(?)によって、ヒロインと攻略対象は愛を深め合うのだ。
そんな陰の立役者(?)であるわたしは、どの攻略対象ルートでも悲しいほどあっけなく断罪されて、国外追放されたり修道院送りにされたりする。一番ひどいのはこの国の第一王子ルートで、刺客を使ってヒロインを殺そうとしたわたしを、第一王子が正当防衛とばかりに斬り殺すというものだ。
ピンチだわ。人生どころか前世の人生も含めた中での最大のピンチ‼
このままではまずいと、わたしはあまり賢くない頭をフル回転させて考えた。
まだゲームははじまっていない。ゲームのはじまりは来年の春だ。つまり一年あるが…はっきり言おう、去年の一年間で、もうすでにいろいろやらかしていた。このままでは悪役令嬢まっしぐらだ。
うぐぐぐぐ……。
この状況を打破するためには、どうすればいいのか。
一生懸命考えたわたしは、そこでピコンと名案ならぬ迷案を思いついた。
悪役令嬢は、当て馬である。
ヒロインの恋のライバルだ。
では、物理的にヒロインのライバルになり得ない立場になっておけば、わたしは晴れて当て馬的な役割からは解放され、悪役令嬢にはならないのではあるまいか!
そしておバカなわたしは、ここで一つ、大きな間違いを犯す。
「おほほほほほほ~」と高笑いをしながらわたしが向かった先は、お兄様の部屋。
お兄様は、実はわたしの従兄で、本当の兄ではない。
そこに目を付けたわたしは、何も考えずにこう宣った。
「お兄様、わたしと(契約)結婚してくださいませ‼」
このときわたしは、失念していたのだ。
そう、お兄様が、この上なく厄介で意地悪で、それでいて粘着質な男だったと言うことを‼
そして、わたしを嫌っていたはずの攻略対象たちの様子も、なにやら変わってきてーー
愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
モブですが、婚約者は私です。
伊月 慧
恋愛
声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。
婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。
待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。
新しい風を吹かせてみたくなりました。
なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる