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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑15(デルロイ視点)
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「おはようございます。第二王子殿下」
剣術の授業のため、エベラルド達と鍛錬場に向かっていると男に突然声を掛けられた。
教室内ならともかく外での挨拶にいちいち応えているときりが無いから、軽くうなづく程度で通り過ぎようとしたが男はそのまま私の横に並び歩こうとする。
「何かご用がおありでしょうか。殿下は次の授業に向かわれるところでお忙しいのですが」
ちらりと視線を向ける間もなく、レモが私と男の間に割って入る。
「第二王子殿下を煩わせるつもりはありません。先日お願いしました話のお返事を頂ければと」
「それはすでにお断りしたはずです」
「私は直接殿下からお返事を頂きたいのです」
レモの言葉を無視して私に返事を求めているこの男、入学式でも私に話しかけてきた。名をアルティエロ・ビンダールというこの学校の生徒会長だ。ビンダール侯爵家の嫡男、成績優秀で生徒からの人望もあるらしい。
「……何度聞かれても断り以外の返事はないが」
「何故ですか、入学したばかりとはいえ第二王子殿下程優秀な方が生徒会に来てくださればこれほど心強いことはありません」
「生徒会の役員はすでに揃っていると聞いた。それに王族は役員にはなれないのは校則で決まっている。それを会長である君が知らないとは思えない。だから、これ以上話す必要を感じない」
役員以外生徒会室には入ることは出来ないという決まりもあるのに、先日この男は「是非生徒会に入って欲しい」と言い出したから、呆れながらレモが即座に断っていた。
「殿下どうかお考え直し下さい」
「会長個人の考えで役員を追加するのは、そもそもおかしな話ではないのか」
「会長だなんて、アルティエロとお呼び下さい」
「……話が通じないようだな。皆行くぞ」
エベラルドとテレンスはすぐにでも飛びかかろうと身構えている様子に、こういうのを番犬というのだったかと昔読んだ本を思い出す。
何代か前の国王陛下が昔犬を飼っていたのだそうだ。隣国からの贈り物で常に父上の側にいて守っていたが、ある時毒見が気付かなかった遅延性の毒が盛られた菓子にその犬が気が付き陛下が食べようとした菓子を奪って食べたそうだ。
人には後から効く毒でも、体の小さな犬には早く毒の症状が出てその場で倒れてしまった。
そのお陰で陛下の生命は守られた。そんな話だった。
「あれは役員として招きたいだけじゃないな」
「私もそう思う」
まだ騒いでいる男が護衛に止められている間に歩みを進めていると、私の後ろを歩いていたエベラルド達はテレンスがヒソヒソと話をしているのが耳に入ってきた。
「名前を呼べなど図々しいものだ」
「そうだな、それは王太子殿下からお許しがあって初めて叶うもの。それを自ら申し出るとは」
兄上の許しがなければいけないと言うことはない。少なくともエベラルドとテレンスの名を呼ぶのは私が決めた。
彼らは時々暑苦しい程の熱量で接してくるが、それだけだ。私に害を及ぼすことは決してないし、己を真摯に鍛えようとする姿は素晴らしいと思っている。
「殿下いかが致しますか」
「続くようであれば、生徒会の顧問に抗議を入れておけ」
「畏まりました」
レモが小声で聞いてくるからそう指示を出せば、私が不快だと護衛達にも通じる。
好き嫌いを露骨に見せるのは、人だろうと物だろうと褒められることではないが、あの者は少し問題があるように思うから早目に周囲にも知らせておいた方がいい。
『第二王子殿下、聡明なあなたに是非生徒会でそのお力を示して頂きたいのです』
先日馬車乗り場で彼に生徒会入りを頼まれた。許してもいないのに手を握られそう告げられた瞬間、嫌悪感から鳥肌がたった。
相手が害のない相手だと油断していたが、精神的な害は十分にあった。
生徒会の仕事で忙しいはずの彼が、馬車乗り場で私を待ち伏せしていた段階で警戒するべきだった。
『あなたは人の上に立つべき方だ。この学校の王として君臨され、ゆくゆくは……』
ゆくゆくは、何を言い出されるのか恐ろしくて、レモが即座に断っている間に手を振りほどくと、丁度良くやって来た馬車に乗り込んだ。
生徒会長が学校内の王だとは、私は思わない。
仮にそうだとしても、私はそれになりたいと思わない。
それに学生のやることとはいえ、私への支持者を無理矢理増やそうというような行いをするべきではない。
兄上との仲を自ら悪くするような真似はしたくない。
私は大人になるまでの残り時間を、自由に過ごしたいだけなのに、なぜあんな考えになるのか。
はっきりと拒絶したのだから、さすがに諦めるだろう。
その考えが甘かったと、後々悔やむことになるのだ。
剣術の授業のため、エベラルド達と鍛錬場に向かっていると男に突然声を掛けられた。
教室内ならともかく外での挨拶にいちいち応えているときりが無いから、軽くうなづく程度で通り過ぎようとしたが男はそのまま私の横に並び歩こうとする。
「何かご用がおありでしょうか。殿下は次の授業に向かわれるところでお忙しいのですが」
ちらりと視線を向ける間もなく、レモが私と男の間に割って入る。
「第二王子殿下を煩わせるつもりはありません。先日お願いしました話のお返事を頂ければと」
「それはすでにお断りしたはずです」
「私は直接殿下からお返事を頂きたいのです」
レモの言葉を無視して私に返事を求めているこの男、入学式でも私に話しかけてきた。名をアルティエロ・ビンダールというこの学校の生徒会長だ。ビンダール侯爵家の嫡男、成績優秀で生徒からの人望もあるらしい。
「……何度聞かれても断り以外の返事はないが」
「何故ですか、入学したばかりとはいえ第二王子殿下程優秀な方が生徒会に来てくださればこれほど心強いことはありません」
「生徒会の役員はすでに揃っていると聞いた。それに王族は役員にはなれないのは校則で決まっている。それを会長である君が知らないとは思えない。だから、これ以上話す必要を感じない」
役員以外生徒会室には入ることは出来ないという決まりもあるのに、先日この男は「是非生徒会に入って欲しい」と言い出したから、呆れながらレモが即座に断っていた。
「殿下どうかお考え直し下さい」
「会長個人の考えで役員を追加するのは、そもそもおかしな話ではないのか」
「会長だなんて、アルティエロとお呼び下さい」
「……話が通じないようだな。皆行くぞ」
エベラルドとテレンスはすぐにでも飛びかかろうと身構えている様子に、こういうのを番犬というのだったかと昔読んだ本を思い出す。
何代か前の国王陛下が昔犬を飼っていたのだそうだ。隣国からの贈り物で常に父上の側にいて守っていたが、ある時毒見が気付かなかった遅延性の毒が盛られた菓子にその犬が気が付き陛下が食べようとした菓子を奪って食べたそうだ。
人には後から効く毒でも、体の小さな犬には早く毒の症状が出てその場で倒れてしまった。
そのお陰で陛下の生命は守られた。そんな話だった。
「あれは役員として招きたいだけじゃないな」
「私もそう思う」
まだ騒いでいる男が護衛に止められている間に歩みを進めていると、私の後ろを歩いていたエベラルド達はテレンスがヒソヒソと話をしているのが耳に入ってきた。
「名前を呼べなど図々しいものだ」
「そうだな、それは王太子殿下からお許しがあって初めて叶うもの。それを自ら申し出るとは」
兄上の許しがなければいけないと言うことはない。少なくともエベラルドとテレンスの名を呼ぶのは私が決めた。
彼らは時々暑苦しい程の熱量で接してくるが、それだけだ。私に害を及ぼすことは決してないし、己を真摯に鍛えようとする姿は素晴らしいと思っている。
「殿下いかが致しますか」
「続くようであれば、生徒会の顧問に抗議を入れておけ」
「畏まりました」
レモが小声で聞いてくるからそう指示を出せば、私が不快だと護衛達にも通じる。
好き嫌いを露骨に見せるのは、人だろうと物だろうと褒められることではないが、あの者は少し問題があるように思うから早目に周囲にも知らせておいた方がいい。
『第二王子殿下、聡明なあなたに是非生徒会でそのお力を示して頂きたいのです』
先日馬車乗り場で彼に生徒会入りを頼まれた。許してもいないのに手を握られそう告げられた瞬間、嫌悪感から鳥肌がたった。
相手が害のない相手だと油断していたが、精神的な害は十分にあった。
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仮にそうだとしても、私はそれになりたいと思わない。
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