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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑13(デルロイ視点)
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「まあ、デルロイ様どうかなさいましたの?」
ボナクララを馬車まで送った後兄上の執務室に戻る途中で、急に名前を呼ばれた。
「サデウス嬢、あなたに名前を呼ぶ許しは与えていませんよ」
「将来の義弟となるというのに、まだお許し頂けないなんて寂しい限りですわね」
エマニュエラ・サデウス。公にはボナクララと双子の姉妹としている彼女は、その実母親が違う。
婚外子をこの国の宗教は許さない。それなのにボナクララの両親はエマニュエラを実子として届けた。
エマニュエラの母親は無理矢理に母となったそうだが、なぜ生まれた子を外に出さずに実子としたのか私は理由を知らないが、私は初めて会った時からエマニュエラが嫌いだった。
「まだ義弟ではありませんし、そうなったとしても兄上が許さないでしょう」
「ダヴィデ様の独占欲は困ったものですわね」
ダヴィデ、つまり兄上の独占欲と言いたいのだろうが、その独占欲は誰に対してなのか彼女は理解しているのか理解していないのか分からない。
「第二王子殿下、これからどちらにいらっしゃいますの?」
「兄上のところに。執務の手伝いに向かう」
執務の手伝いを強調して言うと、あからさまに興味を失った表情を見せる。
この人は本当に貴族令嬢の教育を受け優秀なのだろうか、こんなに感情を露骨に外に出す人間が? と疑問を覚える。
「ダヴィデ様はお忙しい様ですわね」
「そうだな。父上の執務をかなり引き継いでいるから、常にお忙しそうではあるな」
父上の体調が思わしくないのは、周囲には話していない。
あまりお体が丈夫ではないとは知っていても、今すぐ問題になるほどだとは誰も考えていない筈だ。
両親と兄上と私と父上専任の治癒師以外は。
「ダヴィデ様は私との約束を守って下さいませんの。初日からこうでは悲しくなってしまいます」
「約束?」
約束とは王太子妃教育の後に二人で会うという、あれだろうか。
他にも約束しているとは聞いていないが、エマニュエラが勝手にそうだと思い込んでいることもあるのかもしれない。
「お茶の時間を一緒に過ごして下さると。私だって本当は学校に通いたかったのです、でも早く王太子妃教育を終わらせて正式な婚約者となって欲しいと強く望まれたから、私は我慢しているというのに約束を破るなんて酷いと思われませんか」
「兄上が私に手伝いを頼んでくる位だからかなり急ぎの執務が出来たのだろう。あなたは優しいから兄上の忙しさを理解出来る筈だ」
優しいと一言付け加えるだけで、露骨に表情を変える。
褒められるのは誰もが嬉しいものだが、この人は自分への賛辞を大袈裟に喜ぶ傾向にある気がする。
「まあ、ほほほ。勿論王太子殿下の婚約者候補の私があの方を理解するのは当然ですわ。ですからお邪魔等せずにこうして帰ろうとしているのですもの」
「そうか、さすが兄上の婚約者候補だけのことはある。あなたは兄上を良く理解しているのだな」
「勿論です。でもボナクララはどうでしょう? あの子は凡庸ですから第二王子殿下にご迷惑をお掛けてしているのではないかしら。心配していますのよ、私」
心配ではなく、失敗すればいいと願っているのではないか? そう疑いたくなる程エマニュエラは露骨にボナクララを馬鹿にしている。
あの子は凡庸だ。勉強が苦手で気が利かないから、等言いながら心配だと言うが、本当に心配しているならこんな言い方はしないだろう。
「彼女はおっとりしているが、私もどちらかと言えばのんびりしているし、問題はないよ」
彼女を褒めるとエマニュエラが荒れる。
これから屋敷に戻るエマニュエラが何をしでかすか分からないから、上手く宥めようと誤魔化す。
「そうですか? でも何か不満がありましたら教えて下さいませね。私からボナクララに言い聞かせますわ」
言い聞かせる等、同じ年のエマニュエラがなぜボナクララにするというのだろう。
両親が甘やかすのならともかく、公爵達は自分の子供達を厳しく教育している。
「不満があれば私が直接彼女へ言うから良いよ。姉妹に言われるよりその方が効くだろう」
「でもあの子は素直に聞く振りが得意なのです。ですから性格を良く知っている私が嫌われ役を致しますわ」
「そんな辛い役目をさせるわけにはいかないよ。どうしても目に余ることがあれば、母上から言って貰う」
「まあ、そうですわね。王妃様から言って頂けるのが一番ですわね。ふふ、ではその様にお願いいたします。私はこれで失礼致しますわね」
機嫌良くエマニュエラは軽い礼をして去って行った。
どこが優秀な令嬢だ。
仮にも王子の前から去ると言うのに、あんな礼だけで終わる令嬢のどこが。
「レモ、母上に手紙を書く後で届けてくれ」
気配を殺して私の背後にいたレモにそう告げると、心得たとばかりに頷いた。
エマニュエラのあの様子では、明日母上に何を言い出すか分からない。
母上がそれを真に受けるとは思わないが、先に心配を伝えるのは必要だろう。
それにしても、エマニュエラはなぜあんなにもボナクララを馬鹿にするのか、彼女の気持ちが理解できないまま私は兄上の執務室に向かうのだった。
ボナクララを馬車まで送った後兄上の執務室に戻る途中で、急に名前を呼ばれた。
「サデウス嬢、あなたに名前を呼ぶ許しは与えていませんよ」
「将来の義弟となるというのに、まだお許し頂けないなんて寂しい限りですわね」
エマニュエラ・サデウス。公にはボナクララと双子の姉妹としている彼女は、その実母親が違う。
婚外子をこの国の宗教は許さない。それなのにボナクララの両親はエマニュエラを実子として届けた。
エマニュエラの母親は無理矢理に母となったそうだが、なぜ生まれた子を外に出さずに実子としたのか私は理由を知らないが、私は初めて会った時からエマニュエラが嫌いだった。
「まだ義弟ではありませんし、そうなったとしても兄上が許さないでしょう」
「ダヴィデ様の独占欲は困ったものですわね」
ダヴィデ、つまり兄上の独占欲と言いたいのだろうが、その独占欲は誰に対してなのか彼女は理解しているのか理解していないのか分からない。
「第二王子殿下、これからどちらにいらっしゃいますの?」
「兄上のところに。執務の手伝いに向かう」
執務の手伝いを強調して言うと、あからさまに興味を失った表情を見せる。
この人は本当に貴族令嬢の教育を受け優秀なのだろうか、こんなに感情を露骨に外に出す人間が? と疑問を覚える。
「ダヴィデ様はお忙しい様ですわね」
「そうだな。父上の執務をかなり引き継いでいるから、常にお忙しそうではあるな」
父上の体調が思わしくないのは、周囲には話していない。
あまりお体が丈夫ではないとは知っていても、今すぐ問題になるほどだとは誰も考えていない筈だ。
両親と兄上と私と父上専任の治癒師以外は。
「ダヴィデ様は私との約束を守って下さいませんの。初日からこうでは悲しくなってしまいます」
「約束?」
約束とは王太子妃教育の後に二人で会うという、あれだろうか。
他にも約束しているとは聞いていないが、エマニュエラが勝手にそうだと思い込んでいることもあるのかもしれない。
「お茶の時間を一緒に過ごして下さると。私だって本当は学校に通いたかったのです、でも早く王太子妃教育を終わらせて正式な婚約者となって欲しいと強く望まれたから、私は我慢しているというのに約束を破るなんて酷いと思われませんか」
「兄上が私に手伝いを頼んでくる位だからかなり急ぎの執務が出来たのだろう。あなたは優しいから兄上の忙しさを理解出来る筈だ」
優しいと一言付け加えるだけで、露骨に表情を変える。
褒められるのは誰もが嬉しいものだが、この人は自分への賛辞を大袈裟に喜ぶ傾向にある気がする。
「まあ、ほほほ。勿論王太子殿下の婚約者候補の私があの方を理解するのは当然ですわ。ですからお邪魔等せずにこうして帰ろうとしているのですもの」
「そうか、さすが兄上の婚約者候補だけのことはある。あなたは兄上を良く理解しているのだな」
「勿論です。でもボナクララはどうでしょう? あの子は凡庸ですから第二王子殿下にご迷惑をお掛けてしているのではないかしら。心配していますのよ、私」
心配ではなく、失敗すればいいと願っているのではないか? そう疑いたくなる程エマニュエラは露骨にボナクララを馬鹿にしている。
あの子は凡庸だ。勉強が苦手で気が利かないから、等言いながら心配だと言うが、本当に心配しているならこんな言い方はしないだろう。
「彼女はおっとりしているが、私もどちらかと言えばのんびりしているし、問題はないよ」
彼女を褒めるとエマニュエラが荒れる。
これから屋敷に戻るエマニュエラが何をしでかすか分からないから、上手く宥めようと誤魔化す。
「そうですか? でも何か不満がありましたら教えて下さいませね。私からボナクララに言い聞かせますわ」
言い聞かせる等、同じ年のエマニュエラがなぜボナクララにするというのだろう。
両親が甘やかすのならともかく、公爵達は自分の子供達を厳しく教育している。
「不満があれば私が直接彼女へ言うから良いよ。姉妹に言われるよりその方が効くだろう」
「でもあの子は素直に聞く振りが得意なのです。ですから性格を良く知っている私が嫌われ役を致しますわ」
「そんな辛い役目をさせるわけにはいかないよ。どうしても目に余ることがあれば、母上から言って貰う」
「まあ、そうですわね。王妃様から言って頂けるのが一番ですわね。ふふ、ではその様にお願いいたします。私はこれで失礼致しますわね」
機嫌良くエマニュエラは軽い礼をして去って行った。
どこが優秀な令嬢だ。
仮にも王子の前から去ると言うのに、あんな礼だけで終わる令嬢のどこが。
「レモ、母上に手紙を書く後で届けてくれ」
気配を殺して私の背後にいたレモにそう告げると、心得たとばかりに頷いた。
エマニュエラのあの様子では、明日母上に何を言い出すか分からない。
母上がそれを真に受けるとは思わないが、先に心配を伝えるのは必要だろう。
それにしても、エマニュエラはなぜあんなにもボナクララを馬鹿にするのか、彼女の気持ちが理解できないまま私は兄上の執務室に向かうのだった。
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