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番外編
おまけ 兄の寵愛弟の思惑5(デルロイ視点)
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「私の守りの魔法がもっと強ければ、デルロイ様の不安を減らせたのでしょうけれど」
ボナクララは自分の魔法が強ければと言うけれど、そうしたらボナクララを兄上が選んだかもしれない。
もしそうなったら、私はどうしただろう。
兄上がボナクララを選んでいたら、私は諦めるしかなかった。
婚約者選びは兄上が最優先、未来の王妃に相応しい者を選ぶためという理由はあるがそれよりも重責を担う陛下の唯一の安らぎを得るため。だから王太子である兄上の婚約者は、兄上が好きな相手を選べた。
もしも私と兄が望む相手が同じだったとしても、兄上が望んだら私は諦める様にと父上から言われていたのだ。
だが、私はボナクララを諦められただろうか。
王家の血は執着の血だ。
誰かを執着するか、誰かに執着されるか、相手を慈しみ守るか、とことん追い詰めるか、執着の度合いは違っても唯一と決めた相手を思い続けその為に生きる。
兄上の婚約者となったボナクララを、きっと私は思い続けただろう。
他の者なんてきっと選べなかった。ボナクララ以外の女性と婚約したら、もしそうなったら私は私の婚約者を不幸にしてしまっただろう。
「ボナクララ」
「はい」
「私は酷い人間だ。兄上の幸せを誰より願っているのに、君が彼女より守りの魔法の力が上で無くて良かったと今思ってしまったのだから」
兄上は国のために自らの安らぎを捨て、幸いを捨て彼女を選ぶと決めたのに。
最愛を見つける事を諦め、国の為に相手を選んだと言うのに、私は己の幸いに貪欲で、ボナクララを望んでしまう。兄上がボナクララを望まなくて良かったと、心から安堵してしまうんだ。
「デルロイ様」
「すまない。こんな酷い考えを持つ私を軽蔑するだろうけれど、もし兄上が君を望んでも私は……」
情けない。
私は兄上に守られて生きてきたのに、仮の話でも兄上にボナクララを譲れないなんて。
国を思うなら、エマニュエラよりボナクララの方が王妃として相応しい性格を持っていると思う。
ボナクララは母上とも仲が良い。というより、母上は狡猾なエマニュエラを嫌っている。
「デルロイ様を軽蔑するなんてことありません」
「……ありがとう」
「それに王太子殿下が私を望むなんて、そんな事ありえませんわ。……こんな事言ってしまうと、デルロイ様の趣味が悪いと言っている様なものかもしれませんが」
ふふふとボナクララは笑って私と視線を合わせる。
気落ちした私を慰めようとしているのだと思うと、それだけで胸が一杯になってしまう。
「ありがとう、ボナクララ。君は優しいね」
「優しくなんてありませんわ。事実を言っているだけですもの」
くすくすと笑い合いながら、私達はやっと講堂の前までやって来た。
「第二王子殿下だ」
「第二王子殿下がいらっしゃった。ああ、こんなに近くで第二王子殿下のご尊顔を拝することが出来るなんて」
「なんと凛々しく美しいのだろう。あの艶やかな髪、なめらかな肌、本当に同じ男なのか」
「何を言う、男性としては細身だが剣の腕は騎士団長と並ぶ程だと言うぞ。それに攻撃魔法の腕も、今すぐ魔法師団に入り活躍できる程だと」
「いいや、第二王子殿下の素晴らしさは剣の腕でも魔法の腕でもない。美しい歌声だ。昨年の建国記念の祭典で神の声と言われる素晴らし歌声をシード神に捧げていらっしゃったのを知らないのか」
「そうだあの歌声は素晴らしかった。王太子殿下があの時のお姿を絵師に描かせたと聞いたが、公開しては下さらないのだろうか」
私達の姿を見た者達がざわざわとし始める。
残念ながら耳が良い私は話している内容までしっかりと聞こえてしまうが、彼らは少し距離があるからと油断しているのだろう。
「あの歌は素晴らしかったですものね、王太子殿下に絵を見せて頂きました」
「兄上はすぐに絵師を呼ぶのだ。どれだけの絵を兄上が所有されているか分からない」
ボナクララとダンスを練習している時、乗馬や弓の練習、剣の訓練、魔法の訓練、庭園に咲いた薔薇を見ているだけ、兄上が所有する私の絵はありとあらゆる場面を切り取っている。
それが幼い頃から続いているのだから、呆れるほどだ。
「デルロイ様の成長を残しておかれたいのでしょう」
「……帰ったらきっと兄上が絵師と共に待ち構えているだろうな」
げんなりと呟きながら後ろを見ると、レモがうんうんと頷いている。
「……まあ入学の記念とするならいいのか。そうだ、兄上にも制服を着て貰おう。同じ学校に通う事は出来なかったが、絵なら兄上と……さすがに出来ないか」
絵師に描かせている間私を見て喜ぶ兄上に付き合うのは面倒だが、一緒に描かれるなら大人しいだろう。
演技でしょんぼりとして見せれば、レモは「第二王子殿下、すぐに王宮に連絡を致します」と言い始め、その目は期待できらきらと輝いていた。
「レモ、兄上に無理を言ってはいけないよ」
「無理だなんて、王太子殿下は第二王子殿下のご希望をきっと喜ばれると思います!」
声高に言うレモを見て呆れる私をボナクララはくすくすと笑っていた。
※※※※※※
ダニエラ父、まだ十五歳なのでだいぶ幼い感じです。
2023年も本日で終わりですね。
皆様一年ありがとうございます。
来年もどうぞよろしくお願いします。
ボナクララは自分の魔法が強ければと言うけれど、そうしたらボナクララを兄上が選んだかもしれない。
もしそうなったら、私はどうしただろう。
兄上がボナクララを選んでいたら、私は諦めるしかなかった。
婚約者選びは兄上が最優先、未来の王妃に相応しい者を選ぶためという理由はあるがそれよりも重責を担う陛下の唯一の安らぎを得るため。だから王太子である兄上の婚約者は、兄上が好きな相手を選べた。
もしも私と兄が望む相手が同じだったとしても、兄上が望んだら私は諦める様にと父上から言われていたのだ。
だが、私はボナクララを諦められただろうか。
王家の血は執着の血だ。
誰かを執着するか、誰かに執着されるか、相手を慈しみ守るか、とことん追い詰めるか、執着の度合いは違っても唯一と決めた相手を思い続けその為に生きる。
兄上の婚約者となったボナクララを、きっと私は思い続けただろう。
他の者なんてきっと選べなかった。ボナクララ以外の女性と婚約したら、もしそうなったら私は私の婚約者を不幸にしてしまっただろう。
「ボナクララ」
「はい」
「私は酷い人間だ。兄上の幸せを誰より願っているのに、君が彼女より守りの魔法の力が上で無くて良かったと今思ってしまったのだから」
兄上は国のために自らの安らぎを捨て、幸いを捨て彼女を選ぶと決めたのに。
最愛を見つける事を諦め、国の為に相手を選んだと言うのに、私は己の幸いに貪欲で、ボナクララを望んでしまう。兄上がボナクララを望まなくて良かったと、心から安堵してしまうんだ。
「デルロイ様」
「すまない。こんな酷い考えを持つ私を軽蔑するだろうけれど、もし兄上が君を望んでも私は……」
情けない。
私は兄上に守られて生きてきたのに、仮の話でも兄上にボナクララを譲れないなんて。
国を思うなら、エマニュエラよりボナクララの方が王妃として相応しい性格を持っていると思う。
ボナクララは母上とも仲が良い。というより、母上は狡猾なエマニュエラを嫌っている。
「デルロイ様を軽蔑するなんてことありません」
「……ありがとう」
「それに王太子殿下が私を望むなんて、そんな事ありえませんわ。……こんな事言ってしまうと、デルロイ様の趣味が悪いと言っている様なものかもしれませんが」
ふふふとボナクララは笑って私と視線を合わせる。
気落ちした私を慰めようとしているのだと思うと、それだけで胸が一杯になってしまう。
「ありがとう、ボナクララ。君は優しいね」
「優しくなんてありませんわ。事実を言っているだけですもの」
くすくすと笑い合いながら、私達はやっと講堂の前までやって来た。
「第二王子殿下だ」
「第二王子殿下がいらっしゃった。ああ、こんなに近くで第二王子殿下のご尊顔を拝することが出来るなんて」
「なんと凛々しく美しいのだろう。あの艶やかな髪、なめらかな肌、本当に同じ男なのか」
「何を言う、男性としては細身だが剣の腕は騎士団長と並ぶ程だと言うぞ。それに攻撃魔法の腕も、今すぐ魔法師団に入り活躍できる程だと」
「いいや、第二王子殿下の素晴らしさは剣の腕でも魔法の腕でもない。美しい歌声だ。昨年の建国記念の祭典で神の声と言われる素晴らし歌声をシード神に捧げていらっしゃったのを知らないのか」
「そうだあの歌声は素晴らしかった。王太子殿下があの時のお姿を絵師に描かせたと聞いたが、公開しては下さらないのだろうか」
私達の姿を見た者達がざわざわとし始める。
残念ながら耳が良い私は話している内容までしっかりと聞こえてしまうが、彼らは少し距離があるからと油断しているのだろう。
「あの歌は素晴らしかったですものね、王太子殿下に絵を見せて頂きました」
「兄上はすぐに絵師を呼ぶのだ。どれだけの絵を兄上が所有されているか分からない」
ボナクララとダンスを練習している時、乗馬や弓の練習、剣の訓練、魔法の訓練、庭園に咲いた薔薇を見ているだけ、兄上が所有する私の絵はありとあらゆる場面を切り取っている。
それが幼い頃から続いているのだから、呆れるほどだ。
「デルロイ様の成長を残しておかれたいのでしょう」
「……帰ったらきっと兄上が絵師と共に待ち構えているだろうな」
げんなりと呟きながら後ろを見ると、レモがうんうんと頷いている。
「……まあ入学の記念とするならいいのか。そうだ、兄上にも制服を着て貰おう。同じ学校に通う事は出来なかったが、絵なら兄上と……さすがに出来ないか」
絵師に描かせている間私を見て喜ぶ兄上に付き合うのは面倒だが、一緒に描かれるなら大人しいだろう。
演技でしょんぼりとして見せれば、レモは「第二王子殿下、すぐに王宮に連絡を致します」と言い始め、その目は期待できらきらと輝いていた。
「レモ、兄上に無理を言ってはいけないよ」
「無理だなんて、王太子殿下は第二王子殿下のご希望をきっと喜ばれると思います!」
声高に言うレモを見て呆れる私をボナクララはくすくすと笑っていた。
※※※※※※
ダニエラ父、まだ十五歳なのでだいぶ幼い感じです。
2023年も本日で終わりですね。
皆様一年ありがとうございます。
来年もどうぞよろしくお願いします。
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