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番外編

おまけ 愛のかたち12 (蜘蛛視点)

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「ボナクララ、君に伝えなければいけないことがあるんだ」

 父上殿は屋敷に戻るなり母上殿のいる寝室に直行し、ベッドに足音も無く近付いた。
 大きな枕を背もたれにしてベッドの上に座っていた母上殿は、そっと右手を父上殿に差し出しながら口を開いた。

「旦那様、お帰りなさいませ。お出迎えせずに申し訳ありません」
「それはいいんだよ。君は今起き上がれ……ボナクララ、何だか君の顔がダニエラを産む前の様に見えるんだが、私の目はどうかしてしまったのだろうか」

 父上殿の目は確かだ、それは全く間違っていない。
 だが蜘蛛はそれをどう説明しようかと悩んでいるし、母上殿は蜘蛛と父上殿を交互に見て「旦那様の記憶している私と私の記憶が一致している様で安堵致しました」とおっとりとした笑みを浮かべている。
 ダニエラは母上殿よりも父上殿に似ていると思っていたが、今の母上殿を見るとダニエラは母上殿にそっくりだと思う。今まで毒の後遺症で年齢より上に見えていたのが原因なのだろうか。
 今の母上殿はとても孫がいる様には見えない。

「どういう事だい、ボナクララ」
「私の体のことよりも、旦那様が私に伝えなければいけないと言う事を教えて頂けませんか」

 父上殿が何を言いたいのか、蜘蛛には予想がついている。
 王妃のところに寄生していた蜘蛛の分身が、今王妃の体から吹き飛ばされている事に関係しているからだ。

「ああ、そうだ。……ボナクララ君が衝撃を受けるだろう事が起きた」

 蜘蛛はそれを母上殿に伝えてはいない。
 魔法師団にニール様と共に出掛けている主には、念話で『王妃様が倒れ、蜘蛛の分身体が弾き飛ばされた』とだけ伝えた。
 主はダニエラ関係の荒事には特に神経質になるが、それはウィンストン公爵家関係も当然含まれる。
 だから、これ以上の話は外では聞かせられないと判断した。
 
「衝撃」
「……ボナクララ、王妃様が倒れた」
「え、王妃様が」

 父上殿はどのように話すつもりなのか、蜘蛛は母上殿に考えを悟られない様に(蜘蛛の形の今表情を読むのは出来ないだろうが母上殿はあなどれない)気を付けながら父上殿に場所を譲る様にベッドの隅に移動した。

「陛下と話をしている時に王妃様が倒れたと侍従が伝えに来たから、二人で王妃の宮に向かったのだが、意識が無く治癒師の回復薬も全く効かなかった」
「王妃様は病だったのですか」
「いいや、まだ確定ではないが……第一王子妃に毒を盛られたのではないかと」

 そうか、事実は伝えないのか。
 陛下と父上殿の秘密にするつもりなのだな。
 蜘蛛は沈黙を守りながら、この後の話を予想する。事実は伝えずどこまで話すのだろうと考える。

「毒、王子妃の? それは何故判明したのでしょう」
「倒れたのが王子妃と二人でいた時で、使われていたのが彼女の祖国でしか手に入らない毒だったと判明したから陛下が影に命じて王子妃の宮を調べさせたのだが……」

 父上殿はどう話そうか考えている様だが、陛下が作ろうとしていた事実と侍従と影が見つけてきた事実が近い様で遠く、事実の方が陛下の考えより更に酷かったから悩んでいるのかもしれない。

「旦那様、私は何を聞かされても驚きません。私の大切な家族を守る為なら強くなります」
「……だが、君は先日の夜会の一件が原因で倒れた様なものだろう」

 父上殿は顔色が良い今の母上殿を見ても不安なのだろう。
 ダニエラを気遣う主の様に、そっと母上殿の手を両手で包み込みながらベッドの端に座り母上殿の表情の変化を少しでも見逃さない様にとしている。
 これは……もしかして父上殿、蜘蛛の存在を忘れているのではないか?

「それでも私は母親です。ダニエラを守る為なら、何でもします。私の命に代えても娘を守ります」

 母上殿の決心は尊いものだ。
 彼女はそうやって今までずっとダニエラを守って来たのだろう。
 蜘蛛は父上殿が何を話そうとしているか、分身の蜘蛛の目で見て知っているが知らぬ振りで黙っている。

「……分かった。王子妃の宮にある彼女の私室には王妃に使われたものと同じ毒があった。しかも大量に」
「大量、それは嫁いで来る時に持って来た?」
「それは出来ないだろう。王子妃の荷物はすべて陛下の配下が確認しているから、そんな物騒な物は持ち込めない」

 そう、王子妃の部屋には陛下が王妃に使ったのと同じ北の国の毒があった。
 侍従は陰にそれを用意させ、王子妃の部屋に置いておく筈だったというのに、そんな用意は不要だったのだ。
 そして、それを使うのは第一王子が王太子になってから半年程経過してから、陛下と王妃に使用するという計画書まであったのだ。

「なんてこと」
「王子妃がどうやってその毒を持ち込んだのか、それはまだこれから調べることになるだろうが。陛下と王妃にそれを使う予定だったようだ。私をその犯人にして」
「旦那様を? 旦那様が陛下を狙う等ありえませんわ。旦那様は陛下を心から慕っておいでではありませんか」

 意外な事を母上殿は言った。
 父上殿は陛下を慕っているのか? 心から? 困っているのではなく?
 思わず確認するように母上殿を見れば、悪戯がバレた時のマチルディーダみたいに慌てた顔で蜘蛛を見て「くぅちゃん今のは聞かなかった事にして頂戴ね」と片目を閉じた。

「くぅ? ああ、蜘蛛がいたのか」
「父上殿。王妃様はどうなったのだ」

 今の蜘蛛は姿を見逃す程小さくはないが、父上殿はそれだけ慌てていたのだろう。
 母上殿の失言は無かった事にして、続きを話し始めた。
 そう言えば王妃の宮で蜘蛛は陛下に見つからない様に姿を隠していたから、父上殿も蜘蛛の分身があの場に居たと気が付いていないのかもしれない。

「王妃は意識が戻っていない、おそらくこのまま戻らないだろう。北の国の毒は解毒薬が無いのだ」
「解毒薬がないのか、つまり」
「このまま亡くなるまで何も出来ないということだ」

 毒は陛下が王妃に与えた。
 その事は父上殿と陛下だけの秘密で、母上殿には知らせないと決めたのだろう。
 だが、第一王子妃の計画を話すのは、これがまだこれからの計画だったからだ。

「私、王宮に」
「いや、まだ王妃が倒れたとしか周囲は知らない。だから私も屋敷に戻って来られた。王子妃の宮から毒と計画書が見つかったことで、第一王子と王子妃は拘束されて陛下の影に尋問を受けている」

 顔色が良くなっていた母上殿は、ベッドの上に座っているというのに意識を失いそうに青白くなってしまった。その母上殿の手を父上殿は握ったまま離さない。
 優しい母上殿には酷な話だったのだろう。
 まさか王子妃が王妃の命を狙うとは想像もしていなかっただろうから。

「なぜ王妃様を」
「計画を変更した理由は分からない。この間の夜会の件で、邪魔になりそうな王妃を先に排除しようとしたのかもしれない」
「邪魔になりそう。第一王子殿下を王妃様が止めるかもしれない?」
「……かもしれない」

 父上殿が返事をして、そこで二人は黙り込んでしまった。

 夜会の件というのは、母上殿か偶然王子妃と第一王子が『マチルの名が付いた恥知らずを次期当主にしようとしている愚か者達を王家は見逃していてはいけない』と東の辺境伯と話しているのを聞いてしまった件だろう。
 先程蜘蛛はそれを母上殿から聞いた。
 東の辺境伯はまだダニエラとマチルディーダを諦めていなかったのだ。
 母上殿が動揺し、心労から床に着いてしまったのは当然だと思う。
 ただでさえ過去に受けた毒の後遺症で体調を崩しやすかったというのに、そんな心労を抱えては元気でいられる方が不思議だ。

「王妃様が……そう」
「ボナクララ」
「旦那様、心配なさらないで下さい。私は大丈夫です」
「無理はしないでいい。陛下も案じておられた」

 王妃の体から吹き飛ばされてしまった蜘蛛の分身は、王妃がいた寝室の隅に隠れ様子を窺っていた。
 その場で見えたのは、陛下と父上殿が躊躇いながら王妃に毒を盛った。それだけだ。
 陛下は「第一王子を親子の情で今見逃せば裁く機会を失うことになり、そうなればダニエラが害されるかもしれない」と言い王妃に毒を盛った。
 父上殿は夜会での一件を陛下に相談しに行っていたらしい、その結果の決断なのだろう。
 丁度王妃が倒れたから、それを王子妃の行いのせいにしてしまおうと決めたのだと思う。

「私はこの通り何も心配はありませんわ。旦那様が先程仰った様にダニエラを産む前の様な私になったのですから」
「それは、どういうことなのだ」
「私も自分で体験していながら、現実とは思えていないのです。後でディーンとダニエラに確認しようと思っていましたのよ」

 母上殿はゆっくりとした口調で父上殿へ説明しているが、これでは全く分からないだろう。
 ダニエラものんびりというかゆったりとしたところがあるが、母上殿も同じなのだな。

「蜘蛛どういうことだ」

 案の定父上殿は蜘蛛に説明を求めて来た。
 蜘蛛も上手く説明できる自信は無いのだが、どうしたものだろう。

「ダニエラのまじないをニール様と共に検証したのだが、マチルディーダがジェリンドに使った時、アデライザは何も知らずに、拙い言葉で同じように言った。それで使えてしまった。魔法使いの才能が高いのかどうかまでは分からないのだが、アデライザは間違いなく自分の意思でまじないが使えると思う」
「まじないは分かる。それがボナクララにどうつながる」

 どう話せばいいのだろう。
 そのまま伝えるしかないのだろうが、悩むな。

「今日蜘蛛はアデライザを連れて母上殿の様子を見にやって来て、母上殿から夜会の一件を聞いた」
「ああ、蜘蛛はダニエラ達の側に常にいるから、それは知らせた方がいいと思っていた。だから蜘蛛と話せるなら話しておこうと二人で決めていたんだ」

 父上殿が蜘蛛を信頼してそう考えてくれた事は誇らしい。
 誇らしいのだが、ここからは結果しか伝えられないのが情けない。

「話の途中、母上殿は心労からだろう顔色が酷く悪くなって、アデライザがそれを見て泣いたのだ」
「アデライザが、あの子はまだ幼いが……そうだな。あの年の頃ニールやダニエラは周囲の行いを良く理解していたから、アデライザも分かっているのかもしれないな」

 そうだ、子供達は言葉使いが拙いからつい忘れてしまいそうになるが、かなり賢いのだ。
 記憶力もいいし、判断力もそれなりにある。

「アデライザが、おばあさま痛い痛いなの? と聞いて、母上殿はおばあさまの体の中に悪いものがいてそれがおばあさまに意地悪をしているのだと話したのだ」
「悪いものがいて、意地悪を」

 母上殿の体調不良は、過去に受けた毒のせいだ。
 つまり悪いものは毒で、後遺症が毒からの意地悪。そういう意味で母上殿は話をした。

「あの子は賢いから、変な誤魔化しはしてはいけない気がして。毒の後遺症についてそう伝えたの」
「そうか、それで」
「アデライザは、悪いの悪いの飛んでいけ。意地悪するの駄目! 出て行って! そう大声で言った途端アデライザの魔力が母上殿に向かって飛んでいき、母上殿の体から黒いものがどこかへ飛んで行ってしまったのだ」

 アデライザは魔力切れ間近になる程の魔力を一度に使い、母上殿にまじないを使った。使ってしまったのだ。
 その結果、母上殿の体の悪いものはすべて体内から消えて、飛んで行ってしまったのだ。
 母上殿に意地悪をして悪いものを体に入れた王妃の元へ。

「それはいつ頃の話だ」
「蜘蛛は、その黒いものは王妃のところに飛んで行ったのではないかと、父上殿の今の話から考えたのだが」

 嘘だ。蜘蛛は分身の蜘蛛の目で見ていたから知っていただけだ。
 ただ母上殿には言わなかった。
 アデライザのまじないで母上殿の体から飛びだした悪いものは、王妃の体に入り分身体の蜘蛛を吹き飛ばしたそして王妃は倒れた等母上殿にはとても言えなかった。
 黒いものが何なのか、蜘蛛には分からない。
 毒だけでは無い気がする。
 アデライザは毒とは限定しなかった。悪いのを母上殿から飛ばし、意地悪は駄目だと怒ったのだ。

「アデライザはどうしている?」
「その後すぐに元気になった私を見て嬉しそうにした後眠ってしまったから、子供部屋へ連れて行かせたわ」

 そう、アデライザは魔力を殆ど使い切り眠ってしまったから、母上殿の侍女を呼びジェリンドとマチルディーダが勉強している部屋の隣で休ませている。
 勉強が終ったらジェリンドは絶対にアデライザに会いたがるから、ジェリンドがいる部屋の近くで休ませるほうが互いに都合がいいのだ。

「そうか。では信じられないがそのまじないが……」

 呻く様な声を上げながら、父上殿は母上殿から手を離し片手を額に当てて小さく首を横に振った。
 信じられないのだろう、それは蜘蛛も同じだ。
 だが、それが事実なのだからどうしようもない。

「父上殿、ダニエラが幼い頃使っていた魔力封じの魔道具を至急四つ用意して欲しい」
「四つ。まさか子供達全員につけるのか」
「ああ、マチルディーダとアデライザは当然必要だし、双子は必要になったらすぐに使える様にしておかないと駄目だと思う。双子の魔力量はマチルディーダとアデライザ以上だ」

 蜘蛛の声に二人は絶句して、互いを見つめたのだった。
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