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番外編
おまけ 愛のかたち7 (陛下視点)
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東の辺境伯、あやつは余の敵と言ってもいい男だ。
あやつはデルロイの年齢が一桁の頃から心酔し、デルロイの宮である蒼の王子宮に用事も無く侵入しようとしてその度余と末の弟ウーゴに阻止されていた。
年齢は余の一つ下、デルロイとは二つしか違わない。
だというのに、デルロイが結婚して娘が生まれたら自分と結婚するのだと言って誰の言う事も聞かずに独身を貫いていた。
幸いデルロイとボナクララの間には娘は一人しか生まれず、その娘ダニエラは第一王子の婚約者候補となったためあやつの毒牙にかかる事は無かったが、それでも万が一婚約者候補から外れたらと独身のままだった。
今は東の辺境伯家に婿入りしたというのにそれでもダニエラを諦めていなかったのかと知り、胸の奥がむかむかとして気分が悪くなる。
まあ辺境伯家に婿入りしたのは余の策略の結果だから納得してはいないのだろうが、それでもデルロイに心酔するあまりダニエラに執着し続けるのは許せるものではない。
「それはボナクララが寝込むのも分かるというものだ」
王妃と姉妹とは思えぬほど、ボナクララは繊細で善良だ。
辺境伯と第一王子のそんな会話を聞いたら、心労でおかしくなって当然だろう。
「兄上、私は恐ろしいのです。王妃様がやっと妻とダニエラを狙わなくなったというのに、今度は第一王子と王子妃に東の辺境伯までなんて」
微かにデルロイの手が震えているのを、余は見逃さなかった。
そっとその手に触れると、デルロイは一瞬体を震わせた後「みっともない姿を兄上に見せてしまいました」と呟いた。
「よい。そなたが家族を大切に思っている事は理解している」
「兄上」
余の息子第一王子の馬鹿な発言で、余はデルロイの孫娘の顔をまだ一度も見ていない。
ダニエラより、その夫ディーンに似ているというだけで、第一王子は孫娘マチルディーダを拒絶し婚約を取りやめてしまった。
マチルと名のついた娘は王家に迎えられない。という断り方も愚かならデルロイに聞かせるように「ダニエラの夫に似た顔の娘などいらない」と暴言を吐くなど愚か以前の問題だ。
おかげでデルロイは激怒し、これから先ダニエラに娘が生まれても王家とは縁づかせないと宣言してしまった。
それだけでなく、余程の用が無い限りダニエラも孫たちも呼び出しには応じないとまで決めてしまったのだ。
デルロイが本当は激怒したわけではなく、第一王子からダニエラや孫が害される事を恐れていると知っているから余はどれだけ顔が見たくても呼び出せずにいる。
ダニエラの夫、ディーン・ネルツに顔が似ていると言っても、デルロイの愛する孫娘に会えぬのは悲しい。
デルロイが愛する存在は、すなわち余が愛する者だというのに。
今回の第一王子と王子妃、そして東の辺境伯の件で、ダニエラ達が今まで以上に王宮から足が遠のいたとしたら、余はいつデルロイの孫に会えるか分からないではないか。
「ダニエラの子達は、きっとデルロイに似て愛らしいのだろう。それに幼いながら賢いのだろう?」
「兄上、はい、長女のマチルディーダはまだ三歳ですが、とても賢いのです。次女も三女も長男も皆可愛いくて自慢の孫たちです」
「そうか、一度顔をみたいものだ」
だが、我慢しなければならない。
余が会いたいと我儘を言った結果、幼い体を害されでもしたら、余は自分を許せない。
「皆愛らしいのだろうな。皆ダニエラの夫に似ているのだったか?」
「はい。長女も次女も目が大きくとても愛らしいのです。それにとても賢いのです。生まれたばかりの双子は早産でしたが、お乳を沢山飲んですくすくと育っています」
不安そうな顔が、孫の話を始めた途端幸せそうに目元が緩む。
ニールの子はジェリンド一人だけだが、ダニエラは四人の子を生んだ。
あの細くか弱いダニエラが四人の母とは驚くばかりだが、さすがデルロイの血を引くだけあって賢いのだろう。
「そうか。早産と聞いて心配していたが健やかに育っているのなら良い」
「はい。兄上にも顔を見て頂きたいのですが。何かあったらと思うと」
「顔を見たくはあるが、子供達の安全が第一だ」
「……兄上ならそう言って下さると思っていました。兄上はいつも私を案じて下さいますから」
「そんな事当たり前ではないか」
何を当たり前の事を言っているのだろう。
余がデルロイの気持ちを無視して無理強いする事などあるわけがないのだから。
あやつはデルロイの年齢が一桁の頃から心酔し、デルロイの宮である蒼の王子宮に用事も無く侵入しようとしてその度余と末の弟ウーゴに阻止されていた。
年齢は余の一つ下、デルロイとは二つしか違わない。
だというのに、デルロイが結婚して娘が生まれたら自分と結婚するのだと言って誰の言う事も聞かずに独身を貫いていた。
幸いデルロイとボナクララの間には娘は一人しか生まれず、その娘ダニエラは第一王子の婚約者候補となったためあやつの毒牙にかかる事は無かったが、それでも万が一婚約者候補から外れたらと独身のままだった。
今は東の辺境伯家に婿入りしたというのにそれでもダニエラを諦めていなかったのかと知り、胸の奥がむかむかとして気分が悪くなる。
まあ辺境伯家に婿入りしたのは余の策略の結果だから納得してはいないのだろうが、それでもデルロイに心酔するあまりダニエラに執着し続けるのは許せるものではない。
「それはボナクララが寝込むのも分かるというものだ」
王妃と姉妹とは思えぬほど、ボナクララは繊細で善良だ。
辺境伯と第一王子のそんな会話を聞いたら、心労でおかしくなって当然だろう。
「兄上、私は恐ろしいのです。王妃様がやっと妻とダニエラを狙わなくなったというのに、今度は第一王子と王子妃に東の辺境伯までなんて」
微かにデルロイの手が震えているのを、余は見逃さなかった。
そっとその手に触れると、デルロイは一瞬体を震わせた後「みっともない姿を兄上に見せてしまいました」と呟いた。
「よい。そなたが家族を大切に思っている事は理解している」
「兄上」
余の息子第一王子の馬鹿な発言で、余はデルロイの孫娘の顔をまだ一度も見ていない。
ダニエラより、その夫ディーンに似ているというだけで、第一王子は孫娘マチルディーダを拒絶し婚約を取りやめてしまった。
マチルと名のついた娘は王家に迎えられない。という断り方も愚かならデルロイに聞かせるように「ダニエラの夫に似た顔の娘などいらない」と暴言を吐くなど愚か以前の問題だ。
おかげでデルロイは激怒し、これから先ダニエラに娘が生まれても王家とは縁づかせないと宣言してしまった。
それだけでなく、余程の用が無い限りダニエラも孫たちも呼び出しには応じないとまで決めてしまったのだ。
デルロイが本当は激怒したわけではなく、第一王子からダニエラや孫が害される事を恐れていると知っているから余はどれだけ顔が見たくても呼び出せずにいる。
ダニエラの夫、ディーン・ネルツに顔が似ていると言っても、デルロイの愛する孫娘に会えぬのは悲しい。
デルロイが愛する存在は、すなわち余が愛する者だというのに。
今回の第一王子と王子妃、そして東の辺境伯の件で、ダニエラ達が今まで以上に王宮から足が遠のいたとしたら、余はいつデルロイの孫に会えるか分からないではないか。
「ダニエラの子達は、きっとデルロイに似て愛らしいのだろう。それに幼いながら賢いのだろう?」
「兄上、はい、長女のマチルディーダはまだ三歳ですが、とても賢いのです。次女も三女も長男も皆可愛いくて自慢の孫たちです」
「そうか、一度顔をみたいものだ」
だが、我慢しなければならない。
余が会いたいと我儘を言った結果、幼い体を害されでもしたら、余は自分を許せない。
「皆愛らしいのだろうな。皆ダニエラの夫に似ているのだったか?」
「はい。長女も次女も目が大きくとても愛らしいのです。それにとても賢いのです。生まれたばかりの双子は早産でしたが、お乳を沢山飲んですくすくと育っています」
不安そうな顔が、孫の話を始めた途端幸せそうに目元が緩む。
ニールの子はジェリンド一人だけだが、ダニエラは四人の子を生んだ。
あの細くか弱いダニエラが四人の母とは驚くばかりだが、さすがデルロイの血を引くだけあって賢いのだろう。
「そうか。早産と聞いて心配していたが健やかに育っているのなら良い」
「はい。兄上にも顔を見て頂きたいのですが。何かあったらと思うと」
「顔を見たくはあるが、子供達の安全が第一だ」
「……兄上ならそう言って下さると思っていました。兄上はいつも私を案じて下さいますから」
「そんな事当たり前ではないか」
何を当たり前の事を言っているのだろう。
余がデルロイの気持ちを無視して無理強いする事などあるわけがないのだから。
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