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番外編
ほのぼの日常編2 くもさんはともだち57(ロニー視点)
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「ダニエラ様! お会い出来て光栄ですっ。何とお美しい。ネルツ侯爵は幸せ者ですなっ!!」
お義父様とお義母様そしてマチルディーダと一緒に応接室に入ると、大きな人が勢いよくソファーから立ち上がって大声をだすから、僕とマチルディーダは驚いて立ち止まってしまった。
「ブレガ侯爵、今日は態々御足労頂きありがとう」
「おお、ディーン殿久しぶりだな。元気そうじゃないか」
お義父様と挨拶している人は体だけじゃなく声も大きくて、僕は隣に立つマチルディーダの前に一歩踏み出そうとしかけて思い止まった。
双子が産まれたあの日、辺境伯がマチルディーダを無理矢理抱き上げようとした時の事を思い出してつい動きそうになったけれど、今はあの時とは違ってお義父様がいる。
それに、この大きな人は僕の養父となる人なんだ。
「ブレガ侯爵は娘と話すのは初めてだったかな」
「はい閣下、婚姻の儀式の時は領地にいたもので参列出来なかったのが今だに悔やまれます」
ブレガ侯爵はお義父様と話す時はびっくりする位大声なのに、公爵様へはまるで主人に従う使用人みたいな態度で話しているのが不思議だった。
礼儀作法を習った時、大声を出さない感情を大袈裟に表に出さないと習ったけれど、この人の話し方は礼儀作法から外れている様に見える。
「ダニエラ様、初めましてエベラルド・ブレガと申します。この度閣下のお孫様の婚約者候補殿の養育という大役を賜りました」
「ダニエラ・ネルツです。お会い出来て嬉しいわ。こちらがロニーと娘のマチルディーダです」
名前を呼ばれて僕は丸くなりそうな背中をピンと伸ばして、僕を見下ろしている大きな人を見つめた。
「ロニーと申します。よろしくお願い致します」
「マチルディーダ・ネルチュでしゅ」
「おおっ、何と愛らしい。初めまして」
頑張って名前を言ったマチルディーダは、ネルツが言えずに恥ずかしそうにしている。
それを横目で見ながら、可愛いマチルディーダを見られるのは今日が最後なんだと泣きたくなった。
「ロニーか、私はエベラルド・ブレガだ。これからは父と呼んでくれるかな」
「はい、お義父様」
緊張しながら頷くと、満足そうに笑った後でブレガ侯爵はマチルディーダに視線を向けた。
「マチルディーダ様、なんと愛らしい。ニール様の御小さい頃にとても良く似ておいでだ」
大きな体が僕達の目の前に近付いてきて、急にしゃがみ込んだ。
「マチルディーダ様」
「エベラリュド・ビュレガおじしゃま?」
こてんと首を横に傾げてマチルディーダがブレガ侯爵の名前を言っている。
ちゃんと名前を聞き取ったマチルディーダは偉いって、僕はなんだか誇らしくなる。
「おおっ。私の名前を呼んで頂けるとは嬉しいですな。どうかエベとお呼び下さい。マチルディーダ様」
「エベおじしゃま? おとおさまぁ、いい?」
「ああ、いいよ」
「エベおじしゃま、マチルディーダはね、おとおさまぁとおかあさまぁの娘なのよぉ」
「はい、存じておりますよ」
「エベおじしゃまは、おじぃちゃまのおともだち?」
マチルディーダは賢いから、ブレガ侯爵の外見から公爵様に一番年齢が近いと予想したのだろうけれど、ブレガ侯爵は大袈裟に首を横に振った。
「お友達など恐れ多い。私めは閣下の忠実な僕ですぞ」
「しもべ?」
意味が分からずマチルディーダは首をこてんと横に傾げる。
その途端、ぐらりと体が傾いで僕は慌てて両手で抱きかかえる。
「ブレガ侯爵、マチルディーダが混乱するだろう」
頭痛を堪える様に額に手を当てながら、公爵様はブレガ侯爵に注意するけれど「ですが本当の事です。私の忠義は閣下へ捧げております故」と胸を張っている。
この人が僕の養父になるのだろうか、何だか不安だ。
「ディーダ。ブレガ侯爵はロニーの義父になるのだよ」
説明しながらマチルディーダに近付くと、公爵様はひょいっと彼女を抱き上げてソファーに戻ってしまった。
「立ち話も何だから座りなさい」
「はい、父上。ダニエラ、ロニーこちらに」
お義父様、ディーンお義父様の手招きで僕は二人の間に挟まれる様にソファーに腰を下ろした。
「やれやれ、暑苦しい男だ」
お義母様の背中に隠れている、ディーンお義父様の使役獣のくぅちゃんが小さな声で呟くのが聞こえて来た。
小指の爪程の大きさまで小さくなったくぅちゃんは、こっそりとお義母様の背中に隠れて様子を窺っているんだ。
「ロニー、ブレガ侯爵はこう見えて優しい男だから安心しているといい」
「はい」
優しい男と言われても、そう簡単に信用出来る筈がない。
でもこの人と上手くなっていかないといけないんだ。
「私の孫は今年五歳になる男子ともうすぐ二歳になる女子がいる。仲良くやってもらえると良いんだが」
「二歳というと、次女のアデライザと同じ年になりますわね。ロニーはアデライザとも仲が良いから、きっとお孫さんとも仲良く出来るかと。ね、ロニー」
「はい、きっと仲良くなれると思います」
仲良くなんてしたくないけれど、そんな事言えない。
行儀よく、礼儀良く、僕はお義母様が望む答えを口にするんだ。
お義父様とお義母様そしてマチルディーダと一緒に応接室に入ると、大きな人が勢いよくソファーから立ち上がって大声をだすから、僕とマチルディーダは驚いて立ち止まってしまった。
「ブレガ侯爵、今日は態々御足労頂きありがとう」
「おお、ディーン殿久しぶりだな。元気そうじゃないか」
お義父様と挨拶している人は体だけじゃなく声も大きくて、僕は隣に立つマチルディーダの前に一歩踏み出そうとしかけて思い止まった。
双子が産まれたあの日、辺境伯がマチルディーダを無理矢理抱き上げようとした時の事を思い出してつい動きそうになったけれど、今はあの時とは違ってお義父様がいる。
それに、この大きな人は僕の養父となる人なんだ。
「ブレガ侯爵は娘と話すのは初めてだったかな」
「はい閣下、婚姻の儀式の時は領地にいたもので参列出来なかったのが今だに悔やまれます」
ブレガ侯爵はお義父様と話す時はびっくりする位大声なのに、公爵様へはまるで主人に従う使用人みたいな態度で話しているのが不思議だった。
礼儀作法を習った時、大声を出さない感情を大袈裟に表に出さないと習ったけれど、この人の話し方は礼儀作法から外れている様に見える。
「ダニエラ様、初めましてエベラルド・ブレガと申します。この度閣下のお孫様の婚約者候補殿の養育という大役を賜りました」
「ダニエラ・ネルツです。お会い出来て嬉しいわ。こちらがロニーと娘のマチルディーダです」
名前を呼ばれて僕は丸くなりそうな背中をピンと伸ばして、僕を見下ろしている大きな人を見つめた。
「ロニーと申します。よろしくお願い致します」
「マチルディーダ・ネルチュでしゅ」
「おおっ、何と愛らしい。初めまして」
頑張って名前を言ったマチルディーダは、ネルツが言えずに恥ずかしそうにしている。
それを横目で見ながら、可愛いマチルディーダを見られるのは今日が最後なんだと泣きたくなった。
「ロニーか、私はエベラルド・ブレガだ。これからは父と呼んでくれるかな」
「はい、お義父様」
緊張しながら頷くと、満足そうに笑った後でブレガ侯爵はマチルディーダに視線を向けた。
「マチルディーダ様、なんと愛らしい。ニール様の御小さい頃にとても良く似ておいでだ」
大きな体が僕達の目の前に近付いてきて、急にしゃがみ込んだ。
「マチルディーダ様」
「エベラリュド・ビュレガおじしゃま?」
こてんと首を横に傾げてマチルディーダがブレガ侯爵の名前を言っている。
ちゃんと名前を聞き取ったマチルディーダは偉いって、僕はなんだか誇らしくなる。
「おおっ。私の名前を呼んで頂けるとは嬉しいですな。どうかエベとお呼び下さい。マチルディーダ様」
「エベおじしゃま? おとおさまぁ、いい?」
「ああ、いいよ」
「エベおじしゃま、マチルディーダはね、おとおさまぁとおかあさまぁの娘なのよぉ」
「はい、存じておりますよ」
「エベおじしゃまは、おじぃちゃまのおともだち?」
マチルディーダは賢いから、ブレガ侯爵の外見から公爵様に一番年齢が近いと予想したのだろうけれど、ブレガ侯爵は大袈裟に首を横に振った。
「お友達など恐れ多い。私めは閣下の忠実な僕ですぞ」
「しもべ?」
意味が分からずマチルディーダは首をこてんと横に傾げる。
その途端、ぐらりと体が傾いで僕は慌てて両手で抱きかかえる。
「ブレガ侯爵、マチルディーダが混乱するだろう」
頭痛を堪える様に額に手を当てながら、公爵様はブレガ侯爵に注意するけれど「ですが本当の事です。私の忠義は閣下へ捧げております故」と胸を張っている。
この人が僕の養父になるのだろうか、何だか不安だ。
「ディーダ。ブレガ侯爵はロニーの義父になるのだよ」
説明しながらマチルディーダに近付くと、公爵様はひょいっと彼女を抱き上げてソファーに戻ってしまった。
「立ち話も何だから座りなさい」
「はい、父上。ダニエラ、ロニーこちらに」
お義父様、ディーンお義父様の手招きで僕は二人の間に挟まれる様にソファーに腰を下ろした。
「やれやれ、暑苦しい男だ」
お義母様の背中に隠れている、ディーンお義父様の使役獣のくぅちゃんが小さな声で呟くのが聞こえて来た。
小指の爪程の大きさまで小さくなったくぅちゃんは、こっそりとお義母様の背中に隠れて様子を窺っているんだ。
「ロニー、ブレガ侯爵はこう見えて優しい男だから安心しているといい」
「はい」
優しい男と言われても、そう簡単に信用出来る筈がない。
でもこの人と上手くなっていかないといけないんだ。
「私の孫は今年五歳になる男子ともうすぐ二歳になる女子がいる。仲良くやってもらえると良いんだが」
「二歳というと、次女のアデライザと同じ年になりますわね。ロニーはアデライザとも仲が良いから、きっとお孫さんとも仲良く出来るかと。ね、ロニー」
「はい、きっと仲良くなれると思います」
仲良くなんてしたくないけれど、そんな事言えない。
行儀よく、礼儀良く、僕はお義母様が望む答えを口にするんだ。
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