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番外編
ほのぼの日常編2 くもさんはともだち36(ダニエラ視点)
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「……ディーン、私達心が通じ合っているのね。さっき目を覚ましたばかりでディーンの顔が見たいと思っていたところなのよ」
マチルディーダの様子を尋ねようと口を開きかけ、ディーンの表情に気が付き変えました。
私に近づいて来たディーンの顔は、くしゃりと歪んでいて今にも泣きだしそうだったのです。
双子が生まれてすぐ私の顔を見ていても、心配だったのでしょう。
「ダニエラ、もし体調がいいなら義父上達と……」
「ディーン、こちらに来て」
お父様達と話すのも大事ですが、今はそれよりもディーンです。
私が毛布をめくり手招きすると、ディーンは上着を脱いでベッドの上に上がってきました。
「ディーン」
「ダニエラ、双子達はとても元気だよ。私にまた家族を授けてくれてありがとう。本当にありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
私が両手を伸ばすとディーンは私を包み込むように抱きしめた後で、ひょいと私の体を持ち上げて自分の太腿の上に横抱きに乗せてしまいました。
すりすりと頬を私の頭に擦り寄せながら何度も「ありがとう」と「心配した」を繰り返すディーンに、心配し過ぎとは言えませんでした。
なにせ予定より三か月も早い出産ですし、双子だったのですから心配するなという方が無理でしょう。
二度と離れないと言わんばかりに私を抱きしめているディーンの様子に、愛おしさが込み上げて来ました。
産後はホルモンバランスが乱れて気持ちが不安定になりやすいと前世で聞いた事がありましたが、今の私はまさにその通りで少し感情が高ぶっている気がします。
これはいいのか悪いのか、でも夫に触れられたくないと思う方向に気持ちが向いていないのですから良い事と考えたいと思います。
「ディーン、愛しているわ」
込み上げる気持ちのままそう言えば、ディーンはぎゅううと私を抱き締めながら「私の方が愛しています」と告白してくれました。
子供達を見ていてくれていた間、きっとディーンはこんな不安そうな素振りはお父様達や子供達に見せてはいなかったでしょう。
それでも内心ずっと不安でたまらなかった筈です。
何せ彼は、私が子供を産む度に私を失うかもしれない恐怖に震えているのですから。
「心配しました。三ヶ月も出産が早まるとは思いませんでした」
「私もよ、でもとても楽なお産だったわ。それよりもマチルディーダは大丈夫? 酷い事を言われて傷付いているでしょうね」
辺境伯に傷付けられた直後に産気づいてしまい、私はあの子をまともに慰めることも出来ませんでした。
本当は私が側にいてあげたかったのに、そうするわけにはいかずマチルディーダを皆に託してしまいました。
くぅちゃん達がいたとはいえ、私はあの子の目の前で倒れたのですから心細かったでしょう。
「それは……あの、実は」
「え」
部屋に入ってきたばかりの時より若干落ち着いた様子のディーンに、マチルディーダについて尋ねると彼は想定外の出来事を教えてくれました。
ジェリンドがロニーとマチルディーダに八つ当たりをして、紆余曲折を経てジェリンドとロニーが友達になったというのですから驚きです。
「ジェリンドがロニーと友達に」
ジェリンドはお兄様の子供だけあって、とても賢い子供です。
アデライザの事以外で我儘を言った事はありません。
自分はアデライザと一緒に居たくても我慢するしかないのに、ロニーはネルツ家に暮らしマチルディーダといつも一緒にいられるのを羨ましく感じても当然かもしれません。
それにお兄様は気持ちに寄り添う等しない人ですから、ジェリンドは自分の気持ちを理解して貰えない歯痒さをずっと感じていたのかもしれません。
「ディーンありがとう、マチルディーダを守るためにジェリンドを諭してくれたのね」
「私はマチルディーダの父ですから。兄上から不興をかっても娘を守れる存在でありたかった。でも思うだけで力不足です。マチルディーダがいなくなるのは自分がマチルだからかとロニーに向かい言った時、自分の不甲斐なさに胸が張り裂けそうでした」
「マチルディーダの心の傷になってしまったかしら」
ディーンの説明で一時的にあの子が納得したとしても、周囲の名前による差別は続くかもしれません。
私達が常に側にいられればいいですが、大人には大人の子供には子供の社交があります。
攻撃されるのが嫌なら表に出さないという事も出来ますが、あの子はこの家の跡継ぎです。
弱い跡継ぎだと世間に見せるわけにはいきませんから、外に出さずに育てるわけにはいきません。
「あの子を強く育てないといけないのね」
「あの子は、強い子です。蜘蛛から聞いていませんか。魔力の暴走を起こす前、執事にお客様がお帰りだと言ったらしいですよ。義父上がマチルディーダに以前教えていたそうです。失礼な行いをするものを許す必要はないと」
少しでも離れたら息が止まるとでも言うように、ディーンは私に密着しながらマチルディーダの勇姿も教えてくれました。
お客様がお帰りだ、つまり追い出せと執事に命令したわけです。
何ていう事でしょう、何だが頭痛がしてきました。
「お父様はそれについて何か仰っていた?」
「さすが我が孫だ、よく覚えていたとマチルディーダを褒めていました。でもそれを教えた……実は冗談だった様なんですが、義父上が言ったのは一年程前だったそうなんです。だから良く覚えていたと驚いていらっしゃいました」
「あの子記憶力が良いのよ。あなたに似たのね」
小柄な上舌足らずな話し方をするので年齢よりも幼く見られがちですが、あの子も頭は良い方だと思います。
お父様が戯れに言った事までしっかりと覚えているのですから、私達も子供の前だからと油断出来ません。
「……ふふ」
「ダニエラ?」
「あの辺境伯を前にしてそんな事言える幼児はあの子位だわ」
僅か三歳の幼児にそんな事を言われて、辺境伯は何を感じたでしょうか。
マチルディーダを侮辱した辺境伯には、私だって親として憤りを感じているのです。
「辺境伯に何か嫌がらせをしたいわ。報復では無く嫌がらせ、何がいいかしら」
「ダニエラ?」
「あそこは国境の重要な守りだから、今すぐ力を削ぐわけにはいかないから嫌がらせ。お父様が陛下と睦まじく視察に行くなんていうのが一番効きそうだけれど、陛下を喜ばせるのも嫌なのよね」
ぶつぶつと考えていると、ディーンが声を上げて笑いだしました。
「なあに、ディーン」
「同じ事をニール兄上も仰っていたので、やはり兄妹ですね」
「それを言うならあなただってお兄様の義弟よ」
「はい、ダニエラ。あなたの夫になり、ニール様の義弟になり、その上四人の子供を授かり私はとても幸せです」
本当に幸せそうに笑いながら言われたら、私だって笑顔になります。
だって私も幸せなのですから。
「私だって幸せよ、ディーン。私の夫になってくれてありがとう」
夢の中で泣いていた私は、ディーンを思い狂っていました。
最後の最後までディーンに会いたいと、離れた事を後悔し続けていました。
それを思えば私は何て幸せなのでしょう。
「愛してるわ、ディーン」
「愛しています。ダニエラ」
夢の中のダニエラの悲しみを忘れる事は出来ませんが、私は今とても幸せなのです。
※※※※※※
おまけ(ディーン視点)
ダニエラと会った後公爵家に帰るという義父上達を見送ろうとしたら、ニール兄上がジェリンドを義父上に預けて後から戻ると言い始めた。
先程の件だろうか、私が余計な事をジェリンドに向け言った事を咎められるのかもしれない。
私は覚悟を決めて、兄上に対峙した。
「ディーン」
「は、はい」
兄上の背後に見えるのは、公爵家と繋がる転移の魔法陣だ。
応接室に案内するべきだろうか考えながら、言葉に出来なかった。
兄上はもう私の顔など見たくないと考えているかもしれないと、そう思うだけで体が動かなくなっていた。
「ありがとう。ジェリンドを諭してくれて」
「え」
今ありがとうと言われたのか? でも何故礼を言われたのだろう。
私は余計な事をしたのだ、ジェリンドは兄上の子供なのだから彼の躾は兄上の役目だ。
でも、マチルディーダに狡いと八つ当たりするジェリンドをそのままにしてはいられなかった。
娘を傷つけられたのだ、彼女を守るのは父親の私の役目なのだから、それで兄上から不興を買っても言うべき事は言わなければならないと判断したのだ。
「あの子を面と向かって叱るのではなく、自ら自覚する様に仕向けてくれた事感謝する」
「あの、余計な事だと思われなかったのですか」
兄上が不快に思うどころか機嫌良さげに笑っているから、私は驚いてその美しい顔を見つめてしまう。
「余計な事ではないな。私なら叱るだけだ。だからあの子は意地になってしまう。私はな、ディーン理解出来ないんだよ。自分の感情のまま我儘を通そうとするのは、例え幼くても愚かだと感じてしまう。私は自分が体験し感じて来た事を基準にあの子を見てしまっているのかもしれない」
「それは、誰しもそうなのではないでしょうか」
私は自分に自信がない。
誰に褒められても、誰に認められても、私なんてという感情が消えない。
その最たるものが、ダニエラの存在だ。
彼女が私を夫として愛してくれているのが奇跡の様に感じてしまう、いつか私に失望し離れていくのではないかと考えて恐怖に体が震えてしまうんだ。
「でも、ディーンは子供達の気持ちに寄り添って考えられている様に思うが」
「そうでしょうか」
「ああ、私も少し見習いたいと思う。ディーン、私の息子がマチルディーダとロニーに八つ当たりをした事申し訳なかった。あの子を諭してくれてありがとう」
ニール兄上が父親の顔で、私に謝罪し礼を言って下さった。
綺麗なお顔は、私に初めて声を掛けた時とそう変わらないというのに年を重ね凄みを増したけれど、それでも神の御使いの様に綺麗な顔で見とれる程だというのに、彼は父親の顔をしていると感じた。
私はどうだろう、子供達の父親の顔をしているだろうか。
自信の無い、頼りない男の顔をしてはいないだろうか。
「ディーン、これからもジェリンドが何かしたら今日の様に諭してやってくれ」
「いいのですか」
「ああ、頼りにしている。今日は良くやってくれた」
なぜか兄上は、私の頭に手を伸ばしくしゃりと撫でた。
「あに、うえ?」
「練習だ。ジェリンドが頑張った時褒めてやらねばならぬからな」
少しだけ照れた様子で、でもすぐ真顔になって兄上は魔法陣を発動し帰って行った。
「撫でられてしまった。良くやったと褒めて下さった」
いい大人が、同じ年の方に頭を撫でられて嬉しいと感じるなんて。
「これはダニエラには言えないな」
仕方ない、ニール兄上は私が尊敬する方なのだから、これは嬉しいと思っても仕方が無い。
でも、ダニエラには内緒にしよう。
ニール兄上に頭を撫でられ褒められて嬉しいなんて、ちょっと恥ずかしくて彼女には言えない。
その姿を蜘蛛が見ていて呆れていたなんて、舞い上がっていた私は少しも気が付いていなかったのだ。
※※※※※※
BLではありません(笑)
リクエストありがとうございます。
誰を書こうかなあとニマニマ考えています。
マチルディーダの様子を尋ねようと口を開きかけ、ディーンの表情に気が付き変えました。
私に近づいて来たディーンの顔は、くしゃりと歪んでいて今にも泣きだしそうだったのです。
双子が生まれてすぐ私の顔を見ていても、心配だったのでしょう。
「ダニエラ、もし体調がいいなら義父上達と……」
「ディーン、こちらに来て」
お父様達と話すのも大事ですが、今はそれよりもディーンです。
私が毛布をめくり手招きすると、ディーンは上着を脱いでベッドの上に上がってきました。
「ディーン」
「ダニエラ、双子達はとても元気だよ。私にまた家族を授けてくれてありがとう。本当にありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
私が両手を伸ばすとディーンは私を包み込むように抱きしめた後で、ひょいと私の体を持ち上げて自分の太腿の上に横抱きに乗せてしまいました。
すりすりと頬を私の頭に擦り寄せながら何度も「ありがとう」と「心配した」を繰り返すディーンに、心配し過ぎとは言えませんでした。
なにせ予定より三か月も早い出産ですし、双子だったのですから心配するなという方が無理でしょう。
二度と離れないと言わんばかりに私を抱きしめているディーンの様子に、愛おしさが込み上げて来ました。
産後はホルモンバランスが乱れて気持ちが不安定になりやすいと前世で聞いた事がありましたが、今の私はまさにその通りで少し感情が高ぶっている気がします。
これはいいのか悪いのか、でも夫に触れられたくないと思う方向に気持ちが向いていないのですから良い事と考えたいと思います。
「ディーン、愛しているわ」
込み上げる気持ちのままそう言えば、ディーンはぎゅううと私を抱き締めながら「私の方が愛しています」と告白してくれました。
子供達を見ていてくれていた間、きっとディーンはこんな不安そうな素振りはお父様達や子供達に見せてはいなかったでしょう。
それでも内心ずっと不安でたまらなかった筈です。
何せ彼は、私が子供を産む度に私を失うかもしれない恐怖に震えているのですから。
「心配しました。三ヶ月も出産が早まるとは思いませんでした」
「私もよ、でもとても楽なお産だったわ。それよりもマチルディーダは大丈夫? 酷い事を言われて傷付いているでしょうね」
辺境伯に傷付けられた直後に産気づいてしまい、私はあの子をまともに慰めることも出来ませんでした。
本当は私が側にいてあげたかったのに、そうするわけにはいかずマチルディーダを皆に託してしまいました。
くぅちゃん達がいたとはいえ、私はあの子の目の前で倒れたのですから心細かったでしょう。
「それは……あの、実は」
「え」
部屋に入ってきたばかりの時より若干落ち着いた様子のディーンに、マチルディーダについて尋ねると彼は想定外の出来事を教えてくれました。
ジェリンドがロニーとマチルディーダに八つ当たりをして、紆余曲折を経てジェリンドとロニーが友達になったというのですから驚きです。
「ジェリンドがロニーと友達に」
ジェリンドはお兄様の子供だけあって、とても賢い子供です。
アデライザの事以外で我儘を言った事はありません。
自分はアデライザと一緒に居たくても我慢するしかないのに、ロニーはネルツ家に暮らしマチルディーダといつも一緒にいられるのを羨ましく感じても当然かもしれません。
それにお兄様は気持ちに寄り添う等しない人ですから、ジェリンドは自分の気持ちを理解して貰えない歯痒さをずっと感じていたのかもしれません。
「ディーンありがとう、マチルディーダを守るためにジェリンドを諭してくれたのね」
「私はマチルディーダの父ですから。兄上から不興をかっても娘を守れる存在でありたかった。でも思うだけで力不足です。マチルディーダがいなくなるのは自分がマチルだからかとロニーに向かい言った時、自分の不甲斐なさに胸が張り裂けそうでした」
「マチルディーダの心の傷になってしまったかしら」
ディーンの説明で一時的にあの子が納得したとしても、周囲の名前による差別は続くかもしれません。
私達が常に側にいられればいいですが、大人には大人の子供には子供の社交があります。
攻撃されるのが嫌なら表に出さないという事も出来ますが、あの子はこの家の跡継ぎです。
弱い跡継ぎだと世間に見せるわけにはいきませんから、外に出さずに育てるわけにはいきません。
「あの子を強く育てないといけないのね」
「あの子は、強い子です。蜘蛛から聞いていませんか。魔力の暴走を起こす前、執事にお客様がお帰りだと言ったらしいですよ。義父上がマチルディーダに以前教えていたそうです。失礼な行いをするものを許す必要はないと」
少しでも離れたら息が止まるとでも言うように、ディーンは私に密着しながらマチルディーダの勇姿も教えてくれました。
お客様がお帰りだ、つまり追い出せと執事に命令したわけです。
何ていう事でしょう、何だが頭痛がしてきました。
「お父様はそれについて何か仰っていた?」
「さすが我が孫だ、よく覚えていたとマチルディーダを褒めていました。でもそれを教えた……実は冗談だった様なんですが、義父上が言ったのは一年程前だったそうなんです。だから良く覚えていたと驚いていらっしゃいました」
「あの子記憶力が良いのよ。あなたに似たのね」
小柄な上舌足らずな話し方をするので年齢よりも幼く見られがちですが、あの子も頭は良い方だと思います。
お父様が戯れに言った事までしっかりと覚えているのですから、私達も子供の前だからと油断出来ません。
「……ふふ」
「ダニエラ?」
「あの辺境伯を前にしてそんな事言える幼児はあの子位だわ」
僅か三歳の幼児にそんな事を言われて、辺境伯は何を感じたでしょうか。
マチルディーダを侮辱した辺境伯には、私だって親として憤りを感じているのです。
「辺境伯に何か嫌がらせをしたいわ。報復では無く嫌がらせ、何がいいかしら」
「ダニエラ?」
「あそこは国境の重要な守りだから、今すぐ力を削ぐわけにはいかないから嫌がらせ。お父様が陛下と睦まじく視察に行くなんていうのが一番効きそうだけれど、陛下を喜ばせるのも嫌なのよね」
ぶつぶつと考えていると、ディーンが声を上げて笑いだしました。
「なあに、ディーン」
「同じ事をニール兄上も仰っていたので、やはり兄妹ですね」
「それを言うならあなただってお兄様の義弟よ」
「はい、ダニエラ。あなたの夫になり、ニール様の義弟になり、その上四人の子供を授かり私はとても幸せです」
本当に幸せそうに笑いながら言われたら、私だって笑顔になります。
だって私も幸せなのですから。
「私だって幸せよ、ディーン。私の夫になってくれてありがとう」
夢の中で泣いていた私は、ディーンを思い狂っていました。
最後の最後までディーンに会いたいと、離れた事を後悔し続けていました。
それを思えば私は何て幸せなのでしょう。
「愛してるわ、ディーン」
「愛しています。ダニエラ」
夢の中のダニエラの悲しみを忘れる事は出来ませんが、私は今とても幸せなのです。
※※※※※※
おまけ(ディーン視点)
ダニエラと会った後公爵家に帰るという義父上達を見送ろうとしたら、ニール兄上がジェリンドを義父上に預けて後から戻ると言い始めた。
先程の件だろうか、私が余計な事をジェリンドに向け言った事を咎められるのかもしれない。
私は覚悟を決めて、兄上に対峙した。
「ディーン」
「は、はい」
兄上の背後に見えるのは、公爵家と繋がる転移の魔法陣だ。
応接室に案内するべきだろうか考えながら、言葉に出来なかった。
兄上はもう私の顔など見たくないと考えているかもしれないと、そう思うだけで体が動かなくなっていた。
「ありがとう。ジェリンドを諭してくれて」
「え」
今ありがとうと言われたのか? でも何故礼を言われたのだろう。
私は余計な事をしたのだ、ジェリンドは兄上の子供なのだから彼の躾は兄上の役目だ。
でも、マチルディーダに狡いと八つ当たりするジェリンドをそのままにしてはいられなかった。
娘を傷つけられたのだ、彼女を守るのは父親の私の役目なのだから、それで兄上から不興を買っても言うべき事は言わなければならないと判断したのだ。
「あの子を面と向かって叱るのではなく、自ら自覚する様に仕向けてくれた事感謝する」
「あの、余計な事だと思われなかったのですか」
兄上が不快に思うどころか機嫌良さげに笑っているから、私は驚いてその美しい顔を見つめてしまう。
「余計な事ではないな。私なら叱るだけだ。だからあの子は意地になってしまう。私はな、ディーン理解出来ないんだよ。自分の感情のまま我儘を通そうとするのは、例え幼くても愚かだと感じてしまう。私は自分が体験し感じて来た事を基準にあの子を見てしまっているのかもしれない」
「それは、誰しもそうなのではないでしょうか」
私は自分に自信がない。
誰に褒められても、誰に認められても、私なんてという感情が消えない。
その最たるものが、ダニエラの存在だ。
彼女が私を夫として愛してくれているのが奇跡の様に感じてしまう、いつか私に失望し離れていくのではないかと考えて恐怖に体が震えてしまうんだ。
「でも、ディーンは子供達の気持ちに寄り添って考えられている様に思うが」
「そうでしょうか」
「ああ、私も少し見習いたいと思う。ディーン、私の息子がマチルディーダとロニーに八つ当たりをした事申し訳なかった。あの子を諭してくれてありがとう」
ニール兄上が父親の顔で、私に謝罪し礼を言って下さった。
綺麗なお顔は、私に初めて声を掛けた時とそう変わらないというのに年を重ね凄みを増したけれど、それでも神の御使いの様に綺麗な顔で見とれる程だというのに、彼は父親の顔をしていると感じた。
私はどうだろう、子供達の父親の顔をしているだろうか。
自信の無い、頼りない男の顔をしてはいないだろうか。
「ディーン、これからもジェリンドが何かしたら今日の様に諭してやってくれ」
「いいのですか」
「ああ、頼りにしている。今日は良くやってくれた」
なぜか兄上は、私の頭に手を伸ばしくしゃりと撫でた。
「あに、うえ?」
「練習だ。ジェリンドが頑張った時褒めてやらねばならぬからな」
少しだけ照れた様子で、でもすぐ真顔になって兄上は魔法陣を発動し帰って行った。
「撫でられてしまった。良くやったと褒めて下さった」
いい大人が、同じ年の方に頭を撫でられて嬉しいと感じるなんて。
「これはダニエラには言えないな」
仕方ない、ニール兄上は私が尊敬する方なのだから、これは嬉しいと思っても仕方が無い。
でも、ダニエラには内緒にしよう。
ニール兄上に頭を撫でられ褒められて嬉しいなんて、ちょっと恥ずかしくて彼女には言えない。
その姿を蜘蛛が見ていて呆れていたなんて、舞い上がっていた私は少しも気が付いていなかったのだ。
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