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番外編
ほのぼの日常編2 くもさんはともだち24(蜘蛛視点)
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「ダニエラ顔色が悪いな。食欲が無いのか」
不安そうな主も気になるが、ダニエラの元気が無いのも気になって蜘蛛は体を最小限に小さくしてダニエラのベッドに上った。
勿論つけていたリボンはほどいて箪笥にしまってから空間収納に仕舞ってからだ。
リボンは大切な宝物だから、無くさない様に十分に気を付けている。
「何か飲むか。メイドを呼んでくるか」
ダニエラに仕えている者達や子供達の乳母達は、蜘蛛を怖がるものはいない。
人は魔物を怖がる者が殆どだが、蜘蛛が大きかろうが小さかろうがこの屋敷の者も公爵家の者も蜘蛛が普通の客人の様に接する。
「欲しい物があるならすぐに呼んでくるぞ」
「大丈夫よ、くぅちゃん……? あら、くぅちゃんどこなの?」
「ここだ、ダニエラ。蜘蛛はこんなに小さくなれる様になった」
つい誇らしく胸を張ってしまう。
蜘蛛は体を小さくしている時は薄い緑色で、大人の握りこぶし二つ位の大きさでいる事が多かったが、ちぃと特訓している内に蜘蛛はとうとうダニエラの爪位の大きさまで縮まる事が出来る様になった。
今の蜘蛛の大きさがまさにそれだ。
これは快挙だ、これならいつか人型になることも出来る様になるかもしれない。
いいや、マチルディーダが入学する頃までには絶対に蜘蛛は人型になると決めている。
出来る様になるかもでは無い。出来る様になるのだ。
これは決定だ、絶対に蜘蛛は人型になって、主とダニエラが心配しなくて済む様に子供達を守る。
「まあ、くぅちゃん。どうしてそんなに小さくなっているの」
苦しそうに眉をしかめながら、ダニエラは体の向きを変えるとベッドの端いる蜘蛛に視線を向けた。
「小さくなれる様になったのだ。どうだこれならいつでもマチルディーダやアデライザの側にいられるぞ。マチルディーダの使役獣になった蜘蛛の子はまだ大きさを変えられないから森に置いて来たが、同じ様に大きさを変えられる様に今特訓しているからな。楽しみに待っていて欲しい」
ダニエラが蜘蛛に手を伸ばしてきたから、蜘蛛は慎重にゆっくりと動きダニエラの指に近付く。
ダニエラは主と違い繊細だから、蜘蛛は彼女に気を遣う事を忘れないのだ。
「くぅちゃん、子供達の事を考えてくれてありがとう。くぅちゃんとくぅちゃんの子が子供達を守ってくれるなら安心していられるわ」
蜘蛛の前足に触れながら、ダニエラが笑う。
だが、笑う顔が儚げで蜘蛛は何だが心配になってしまう。
「ダニエラ何かあったのか」
「くぅちゃん、ディーンに内緒にしてくれる? あの、私の体に不安がある場合なのだけど、お願いできる?」
「蜘蛛は主の使役獣だが、ダニエラが秘密にしたいと思う事を他言したりはしない」
「ありがとう。ねえ、くぅちゃんは私のお腹の中にいる子供達の事何か分かる?」
子供達とダニエラは言った。
子供達、それは子供が一人では無いと言う事か。
「蜘蛛の魔力を流してみてもいいか」
「ええ、勿論よ」
ダニエラはそっと毛布をめくり、寝間着を着た体を蜘蛛に見せたから、蜘蛛はいつもの大きさに体を戻し両前足で寝間着の上からダニエラの腹に触れた。
「魔力を流すぞ。痛みは無い筈だが何か感じたら遠慮せずに言って欲しい」
「分かったわ。くぅちゃんお願いね」
初めて会った時ダニエラは大きくなった蜘蛛を見て気を失った。今の蜘蛛の大きさはあの時より幾分小さいとしても、それでも魔物でしかない蜘蛛の前足に触れても動揺すらしないのだから凄いと思う。
蜘蛛の体の上を滑り落ちたり、体の上で寝ころぶマチルディーダは特殊だが、あれは赤子の頃から蜘蛛を見ているからだと思う。
だがダニエラのこの状態は、貴族女性としても人としても特殊な事だと蜘蛛は思う。
主は、ダニエラは優しく素晴らしい人だからですませてしまうが、これはダニエラが主の気持ちを考えて無理矢理に蜘蛛に慣れてくれた結果だと知っている。
主の言う、優しく素晴らしい人だと言うのは、だからある意味間違ってはいない。
ダニエラが率先して蜘蛛に慣れようとしていたから、この屋敷の者も公爵家の者も蜘蛛を恐れないのだから。
「魔力が二つあるな。これは男児と女児だと思う」
「やっぱり双子なのね」
「ああ、生まれる前の子としては魔力量が多い。だが二人とも健やかに育っている」
むしろ育ちすぎと言えるかもしれない、それほどに魔力量が多いし動きが活発だ。
あまり胎児に蜘蛛の魔力を向けるのは好ましくないだろうと、なるべく魔力を近づけない様にしていたが前回ダニエラと会った時こんなに魔力量が大きかっただろうか。
魔力をダニエラの腹の子に向けていなかったせいで、二人いることに気が付かなかったのは蜘蛛の失態だ。
「そう健やかに、良かったわ」
「ダニエラ、辛いだろう。ダニエラの魔力はどうだ」
人間の母親は、自分が食べた物の栄養と自分の魔力で子供を育てるそうだ。
魔力が少ない者は食べた物の栄養だけで育てるが、母親に魔力があれば胎児は魔力から多く栄養を取ろうとするらしい。
蜘蛛などの魔物はそもそも魔力の塊の様なものだから、自分の魔力だけで子を生み育てる。
だから人間の母親が、胎児に自分の魔力を与えるというのは理にかなっていると知っている。
父親である主は魔力量が膨大な人だから、その血を継いだ子も魔力量は多くなる。
そうなると大変なのは、腹の中の子に魔力を与えなければいけないダニエラだ。
マチルディーダの時、あの子が小さく生まれたのはダニエラが妊娠中殆ど食事を取れなかったからだ。
あの時、主の魔力でダニエラは生きていた様なものだし、マチルディーダに与えられた魔力も主のものだ。
魔力量の器は胎児の内に育つと言われているらしい、それを考えるとマチルディーダの魔力量が多いのが理解出来る。
主はあの頃常時ダニエラに弱い魔力を与え続けたと言っていたが、主の弱いは常人の最強を超える。
つまりちっとも弱くない。
あの頃、ダニエラが衰弱していたから彼女の魔力消費も多かったのだろうが、それでも主の魔力の殆どはマチルディーダに流れていた筈だ。
だから、マチルディーダが生まれた時、強力な魔力を彼女に流せたのだ。
受け取れるだけの魔力の器があるから、マチルディーダは魔力を受け取れたし命をつなげた。
アデライザの時は、ダニエラは普通に食事が出来ていたし、主はマチルディーダの時と同じ様にダニエラに魔力を流していた。
まだ幼いから分からないが、アデライザの魔力量もかなり多いと思う。
そしてこの分だと、この双子の魔力量も相当に多い筈だ。
つまり、この子達が産まれる頃母親であるダニエラは魔力が枯渇しかねないと言う事だ。
「最近、この子達が育ってきて動く様になってきたせいで、眠りが浅くて。特にここ数日の動きが凄くて痛みを感じる程なの」
「これだけ動くならそうだろうな」
正直、人の子がこんなに腹の中で動くとは知らなかった。
「マチルディーダの時は殆ど胎動が無くて不安な程で、アデライザの時は時々動いて安心という程度だったけれど、この子達は交代で動いているのか、頻繁で」
「主は知っているのか?」
「ディーンに魔力を流して貰いながらお腹を撫でて貰うと何だか楽なの。だから彼は最近寝ずに私のお腹を撫でてくれていて、彼の寝不足が心配なの。仕事が忙しいのに睡眠時間を削らせてしまうのが心苦しくて」
自分の体の辛さより、主を心配するダニエラが健気過ぎて蜘蛛はダニエラが心配になる。
「ディーンは双子だと知らないの。魔力が二つというのはディーンでは分からないかしら」
「多分主は腹の中の様子を探る事をしていないのだろう。探知の能力は持っていた筈だから主がその気になれば子供の魔力が二つある位は察せられる筈だが」
普通、お腹の子に魔力を流し状態を見るなんて考えはしないものだ。
ダニエラに魔力を流しても、それは母から子に力が流れる様にと行うだけで、腹の中の子に直接にはやらない。
さすがの蜘蛛も、ダニエラに言われなければ生まれるまで双子だと分かる事は無かっただろう。
「今回ダニエラが魔力を大量に必要としている気がして、蜘蛛は主に魔力を多く含む魔物肉や迷宮で育てた果物を託したのだが」
「雪の魔鹿を頂いたら、体が凄く楽になったの。だからディーンが魔力が足りないのかもしれないと、食事に気を遣って魔力を多く流してくれる様になったの。それから体がだいぶ楽になったのだけれど」
それでも腹の中で子が動き回るのは、どうしようもない。
どうしようもないどころか、主が魔力を流す度に子達は力がついて活発に動いているのかもしれない。
「何となく、一人じゃない気がして、双子じゃないかと思っていたのだけれど、やっぱり二人なのね」
「そうだな。人は複数子を孕むことは少ないのだったか」
「ええ、出産の危険は大きくなるわね。どうしましょう、くぅちゃん。私、耐えられるかしら」
子を二人産んでもダニエラの体は細いし、立て続けの出産はダニエラの体に負担になっているのは確かだ。
不安になるのも分かる。
「生まれるのは三か月後だったか」
「予定ではそうね。でももしかすると早まるかもしれないわ。アデライザを産んだ時より余程今のお腹は大きい気がするの。普通双子はそんなに月齢が満ちていても小柄に生まれる事が多いと聞くけれど、何だかこの子達って」
「どうみても普通に育っているな。多分、マチルディーダが生まれた時より今のこの子達の方が大きいと思うぞ」
あの子が小さすぎたのか、この子達が大きいのか、多分後者だろうと思う。
「分かった。暫く蜘蛛が屋敷に常駐する。いつ生まれても蜘蛛が対応出来る様にな。だからダニエラは少量ずつでも魔物肉を毎食食べる様にするのだぞ」
「ありがとう、くぅちゃん。……でも、もしもの事があったらディーンをお願いね。私子供達を残していくことも心配だけれど、ディーンを残していくのも心配なの」
腹の子と自分の事だけでも大変なのに、ダニエラは主の心配までするのか。
本当にダニエラは主を大切にし過ぎている。
「ダニエラ、安心しろ。主の体は類を見ない程に頑丈だ。必要ならダニエラに魔力を大量に流してくれるだろう。出産の危険など無い。必ず主と蜘蛛がダニエラと子を守るから。蜘蛛を信じろ」
主は体は頑丈だし、竜が踏んでもきっと強い魔力で耐えきるだろうけれど、ダニエラが主の前から消えてしまったらそれだけで主の心は死んでしまうだろう。
子供が居ても蜘蛛がいても、駄目なのだ。
ダニエラがいなければ、主は主では無くなってしまうのだから。
「心強いわ、くぅちゃん。じゃあ私しっかり魔物肉を食べてこの子達に魔力をあげないといけないわね」
くすりとダニエラが笑う。
そうして笑ってから、ぎゅううと両手で蜘蛛の前足を握った。
「くぅちゃん、あなたがいてくれて良かったわ。私と子供達と仲良くなってくれてありがとう。マチルディーダはくぅちゃんの子供の主になったけれど、私達皆ずっとくぅちゃんとお友達よ」
友達、蜘蛛の友達。
「子供達が生まれたら、また子供達の名前を刺繍したリボンを蜘蛛にくれるか」
「ええ、勿論」
「嬉しい。蜘蛛はダニエラと友達になれて本当に嬉しい。ダニエラは蜘蛛の生涯の友だ」
魔物の蜘蛛は涙を流したりしない。
だけど、今蜘蛛の目から見えない涙が流れたかもしれない。
※※※※※※※※
くぅちゃんからの魔物肉のと果物でダニエラの魔力が満たされてお腹の子供が数日で動きが活発になってしまった為、ダニエラは睡眠不足になってます。
不安そうな主も気になるが、ダニエラの元気が無いのも気になって蜘蛛は体を最小限に小さくしてダニエラのベッドに上った。
勿論つけていたリボンはほどいて箪笥にしまってから空間収納に仕舞ってからだ。
リボンは大切な宝物だから、無くさない様に十分に気を付けている。
「何か飲むか。メイドを呼んでくるか」
ダニエラに仕えている者達や子供達の乳母達は、蜘蛛を怖がるものはいない。
人は魔物を怖がる者が殆どだが、蜘蛛が大きかろうが小さかろうがこの屋敷の者も公爵家の者も蜘蛛が普通の客人の様に接する。
「欲しい物があるならすぐに呼んでくるぞ」
「大丈夫よ、くぅちゃん……? あら、くぅちゃんどこなの?」
「ここだ、ダニエラ。蜘蛛はこんなに小さくなれる様になった」
つい誇らしく胸を張ってしまう。
蜘蛛は体を小さくしている時は薄い緑色で、大人の握りこぶし二つ位の大きさでいる事が多かったが、ちぃと特訓している内に蜘蛛はとうとうダニエラの爪位の大きさまで縮まる事が出来る様になった。
今の蜘蛛の大きさがまさにそれだ。
これは快挙だ、これならいつか人型になることも出来る様になるかもしれない。
いいや、マチルディーダが入学する頃までには絶対に蜘蛛は人型になると決めている。
出来る様になるかもでは無い。出来る様になるのだ。
これは決定だ、絶対に蜘蛛は人型になって、主とダニエラが心配しなくて済む様に子供達を守る。
「まあ、くぅちゃん。どうしてそんなに小さくなっているの」
苦しそうに眉をしかめながら、ダニエラは体の向きを変えるとベッドの端いる蜘蛛に視線を向けた。
「小さくなれる様になったのだ。どうだこれならいつでもマチルディーダやアデライザの側にいられるぞ。マチルディーダの使役獣になった蜘蛛の子はまだ大きさを変えられないから森に置いて来たが、同じ様に大きさを変えられる様に今特訓しているからな。楽しみに待っていて欲しい」
ダニエラが蜘蛛に手を伸ばしてきたから、蜘蛛は慎重にゆっくりと動きダニエラの指に近付く。
ダニエラは主と違い繊細だから、蜘蛛は彼女に気を遣う事を忘れないのだ。
「くぅちゃん、子供達の事を考えてくれてありがとう。くぅちゃんとくぅちゃんの子が子供達を守ってくれるなら安心していられるわ」
蜘蛛の前足に触れながら、ダニエラが笑う。
だが、笑う顔が儚げで蜘蛛は何だが心配になってしまう。
「ダニエラ何かあったのか」
「くぅちゃん、ディーンに内緒にしてくれる? あの、私の体に不安がある場合なのだけど、お願いできる?」
「蜘蛛は主の使役獣だが、ダニエラが秘密にしたいと思う事を他言したりはしない」
「ありがとう。ねえ、くぅちゃんは私のお腹の中にいる子供達の事何か分かる?」
子供達とダニエラは言った。
子供達、それは子供が一人では無いと言う事か。
「蜘蛛の魔力を流してみてもいいか」
「ええ、勿論よ」
ダニエラはそっと毛布をめくり、寝間着を着た体を蜘蛛に見せたから、蜘蛛はいつもの大きさに体を戻し両前足で寝間着の上からダニエラの腹に触れた。
「魔力を流すぞ。痛みは無い筈だが何か感じたら遠慮せずに言って欲しい」
「分かったわ。くぅちゃんお願いね」
初めて会った時ダニエラは大きくなった蜘蛛を見て気を失った。今の蜘蛛の大きさはあの時より幾分小さいとしても、それでも魔物でしかない蜘蛛の前足に触れても動揺すらしないのだから凄いと思う。
蜘蛛の体の上を滑り落ちたり、体の上で寝ころぶマチルディーダは特殊だが、あれは赤子の頃から蜘蛛を見ているからだと思う。
だがダニエラのこの状態は、貴族女性としても人としても特殊な事だと蜘蛛は思う。
主は、ダニエラは優しく素晴らしい人だからですませてしまうが、これはダニエラが主の気持ちを考えて無理矢理に蜘蛛に慣れてくれた結果だと知っている。
主の言う、優しく素晴らしい人だと言うのは、だからある意味間違ってはいない。
ダニエラが率先して蜘蛛に慣れようとしていたから、この屋敷の者も公爵家の者も蜘蛛を恐れないのだから。
「魔力が二つあるな。これは男児と女児だと思う」
「やっぱり双子なのね」
「ああ、生まれる前の子としては魔力量が多い。だが二人とも健やかに育っている」
むしろ育ちすぎと言えるかもしれない、それほどに魔力量が多いし動きが活発だ。
あまり胎児に蜘蛛の魔力を向けるのは好ましくないだろうと、なるべく魔力を近づけない様にしていたが前回ダニエラと会った時こんなに魔力量が大きかっただろうか。
魔力をダニエラの腹の子に向けていなかったせいで、二人いることに気が付かなかったのは蜘蛛の失態だ。
「そう健やかに、良かったわ」
「ダニエラ、辛いだろう。ダニエラの魔力はどうだ」
人間の母親は、自分が食べた物の栄養と自分の魔力で子供を育てるそうだ。
魔力が少ない者は食べた物の栄養だけで育てるが、母親に魔力があれば胎児は魔力から多く栄養を取ろうとするらしい。
蜘蛛などの魔物はそもそも魔力の塊の様なものだから、自分の魔力だけで子を生み育てる。
だから人間の母親が、胎児に自分の魔力を与えるというのは理にかなっていると知っている。
父親である主は魔力量が膨大な人だから、その血を継いだ子も魔力量は多くなる。
そうなると大変なのは、腹の中の子に魔力を与えなければいけないダニエラだ。
マチルディーダの時、あの子が小さく生まれたのはダニエラが妊娠中殆ど食事を取れなかったからだ。
あの時、主の魔力でダニエラは生きていた様なものだし、マチルディーダに与えられた魔力も主のものだ。
魔力量の器は胎児の内に育つと言われているらしい、それを考えるとマチルディーダの魔力量が多いのが理解出来る。
主はあの頃常時ダニエラに弱い魔力を与え続けたと言っていたが、主の弱いは常人の最強を超える。
つまりちっとも弱くない。
あの頃、ダニエラが衰弱していたから彼女の魔力消費も多かったのだろうが、それでも主の魔力の殆どはマチルディーダに流れていた筈だ。
だから、マチルディーダが生まれた時、強力な魔力を彼女に流せたのだ。
受け取れるだけの魔力の器があるから、マチルディーダは魔力を受け取れたし命をつなげた。
アデライザの時は、ダニエラは普通に食事が出来ていたし、主はマチルディーダの時と同じ様にダニエラに魔力を流していた。
まだ幼いから分からないが、アデライザの魔力量もかなり多いと思う。
そしてこの分だと、この双子の魔力量も相当に多い筈だ。
つまり、この子達が産まれる頃母親であるダニエラは魔力が枯渇しかねないと言う事だ。
「最近、この子達が育ってきて動く様になってきたせいで、眠りが浅くて。特にここ数日の動きが凄くて痛みを感じる程なの」
「これだけ動くならそうだろうな」
正直、人の子がこんなに腹の中で動くとは知らなかった。
「マチルディーダの時は殆ど胎動が無くて不安な程で、アデライザの時は時々動いて安心という程度だったけれど、この子達は交代で動いているのか、頻繁で」
「主は知っているのか?」
「ディーンに魔力を流して貰いながらお腹を撫でて貰うと何だか楽なの。だから彼は最近寝ずに私のお腹を撫でてくれていて、彼の寝不足が心配なの。仕事が忙しいのに睡眠時間を削らせてしまうのが心苦しくて」
自分の体の辛さより、主を心配するダニエラが健気過ぎて蜘蛛はダニエラが心配になる。
「ディーンは双子だと知らないの。魔力が二つというのはディーンでは分からないかしら」
「多分主は腹の中の様子を探る事をしていないのだろう。探知の能力は持っていた筈だから主がその気になれば子供の魔力が二つある位は察せられる筈だが」
普通、お腹の子に魔力を流し状態を見るなんて考えはしないものだ。
ダニエラに魔力を流しても、それは母から子に力が流れる様にと行うだけで、腹の中の子に直接にはやらない。
さすがの蜘蛛も、ダニエラに言われなければ生まれるまで双子だと分かる事は無かっただろう。
「今回ダニエラが魔力を大量に必要としている気がして、蜘蛛は主に魔力を多く含む魔物肉や迷宮で育てた果物を託したのだが」
「雪の魔鹿を頂いたら、体が凄く楽になったの。だからディーンが魔力が足りないのかもしれないと、食事に気を遣って魔力を多く流してくれる様になったの。それから体がだいぶ楽になったのだけれど」
それでも腹の中で子が動き回るのは、どうしようもない。
どうしようもないどころか、主が魔力を流す度に子達は力がついて活発に動いているのかもしれない。
「何となく、一人じゃない気がして、双子じゃないかと思っていたのだけれど、やっぱり二人なのね」
「そうだな。人は複数子を孕むことは少ないのだったか」
「ええ、出産の危険は大きくなるわね。どうしましょう、くぅちゃん。私、耐えられるかしら」
子を二人産んでもダニエラの体は細いし、立て続けの出産はダニエラの体に負担になっているのは確かだ。
不安になるのも分かる。
「生まれるのは三か月後だったか」
「予定ではそうね。でももしかすると早まるかもしれないわ。アデライザを産んだ時より余程今のお腹は大きい気がするの。普通双子はそんなに月齢が満ちていても小柄に生まれる事が多いと聞くけれど、何だかこの子達って」
「どうみても普通に育っているな。多分、マチルディーダが生まれた時より今のこの子達の方が大きいと思うぞ」
あの子が小さすぎたのか、この子達が大きいのか、多分後者だろうと思う。
「分かった。暫く蜘蛛が屋敷に常駐する。いつ生まれても蜘蛛が対応出来る様にな。だからダニエラは少量ずつでも魔物肉を毎食食べる様にするのだぞ」
「ありがとう、くぅちゃん。……でも、もしもの事があったらディーンをお願いね。私子供達を残していくことも心配だけれど、ディーンを残していくのも心配なの」
腹の子と自分の事だけでも大変なのに、ダニエラは主の心配までするのか。
本当にダニエラは主を大切にし過ぎている。
「ダニエラ、安心しろ。主の体は類を見ない程に頑丈だ。必要ならダニエラに魔力を大量に流してくれるだろう。出産の危険など無い。必ず主と蜘蛛がダニエラと子を守るから。蜘蛛を信じろ」
主は体は頑丈だし、竜が踏んでもきっと強い魔力で耐えきるだろうけれど、ダニエラが主の前から消えてしまったらそれだけで主の心は死んでしまうだろう。
子供が居ても蜘蛛がいても、駄目なのだ。
ダニエラがいなければ、主は主では無くなってしまうのだから。
「心強いわ、くぅちゃん。じゃあ私しっかり魔物肉を食べてこの子達に魔力をあげないといけないわね」
くすりとダニエラが笑う。
そうして笑ってから、ぎゅううと両手で蜘蛛の前足を握った。
「くぅちゃん、あなたがいてくれて良かったわ。私と子供達と仲良くなってくれてありがとう。マチルディーダはくぅちゃんの子供の主になったけれど、私達皆ずっとくぅちゃんとお友達よ」
友達、蜘蛛の友達。
「子供達が生まれたら、また子供達の名前を刺繍したリボンを蜘蛛にくれるか」
「ええ、勿論」
「嬉しい。蜘蛛はダニエラと友達になれて本当に嬉しい。ダニエラは蜘蛛の生涯の友だ」
魔物の蜘蛛は涙を流したりしない。
だけど、今蜘蛛の目から見えない涙が流れたかもしれない。
※※※※※※※※
くぅちゃんからの魔物肉のと果物でダニエラの魔力が満たされてお腹の子供が数日で動きが活発になってしまった為、ダニエラは睡眠不足になってます。
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