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番外編
ほのぼの日常編2 くもさんはともだち16(ダニエラ視点)
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「お父様やお兄様それにディーンも過保護だから、私や子供達に害がありそうなものは最初から排除するわ。そう判断されたらロニーがいくら望んでも三人が許可しないわ。すでにネルツ家はウィンストン公爵家の寄子みたいなものなのよ。ネルツ家の恥はウィンストン公爵家の恥になる。恥になる可能性があるものをネルツ家の娘に近付けるような真似は絶対にしない。私が望んでも許されないわ」
お父様達の場合、色々思惑があって期間限定で見逃している場合があるので『許されているから大丈夫』ではありあせんが、ロニーの場合はマチルディーダから引き離す方が心配なので今のままが一番いいのでしょう。
それに私は実の子の様とは言えませんが、マチルディーダが将来ロニーを伴侶に選んだら二人の関係を祝福できる程度にはロニーを大切に思っています。
自信はありませんが、ディーンもそこは同じ筈です。
彼はロニーと幼い頃のピーターの姿を重ねて見てしまうのが苦しいと、以前私にこぼしていました。
それはロニー自身に悪いところは無いのだと理解しているからなのでしょう。
私はお義母様の事もピーターの事も許さなくていいと思っています。
家族だから、血が繋がっているから彼らがディーンにした行いを許さなくてはいけないなんて、私は絶対にディーンに言いませんし思った事もありません。
彼らにも事情があるとか、そんなの考える余地も無いと思っています。
だって彼らは酷い事をディーンにし続け、彼を心底傷つけて来たのですから。
そんな人間を許す必要はありません。
死んで尚不幸になれと念じても良い位です。
私は自分にされた事より、ピーターがディーンした仕打ちについて憤りを感じているのです。
私のはある意味自分が間抜けだっただけ、信用出来るかどうか分からない相手に油断した自分に非があるのです。
でも、ディーンは違います。
幼かったディーンに逃げ場はなく、母親に罵られ鞭打たれる事はただただ悲しく辛かったでしょう。
それを兄は自分を守ろうとはせずに、指さし嗤っていたのです。
私が幼いディーンと共に居たら、か弱すぎる私が出来る事など限られていたと思いますが、せめて悲しむディーンを抱きしめてあげたかったと思います。
お義母様やピーターがディーンにしたことを、私は決して許すことは出来ません。
でも、お義母様は自分の罪により奴隷に堕とされ、ピーターはすでに亡くなっています。
でも私達は子供達と幸せに生きている。
これこそが二人に対する一番の復讐だと思っています。
だって、二人が蔑んでいたディーンが当主になり、ピーターが害してもいいと馬鹿にしていた私は侯爵夫人として子供達と幸せに生きているのですから。
自分勝手で傲慢だった彼は、きっと神の園で悔しがっていることでしょう。
いえ、人を害したものは神の園に行けないとシード神の教えにありますから、もしかするとピーターは安らかな眠りを得てはいないのかもしれません。
神の存在を本気で信じてはいませんが、日本で生きていた私がこの世界に生まれ変わっているのですから、もしかすると本当にシード神がいらっしゃる神の園もあるかもしれません。
「お義母様?」
「ああ、ごめんなさい。あなたがずっと自分を罪の子だと信じ込んで苦しんでいたのかと思うと、なんだか辛くて気が付いて上げられなくてごめんなさいね」
ピーターの罪について考えていた私は、ついロニーを忘れて黙り込んでしまっていました。
慌てて取り繕うと、じわりとロニーの瞳に涙の膜が張りました。
「ロニー?」
「謝らないで下さい。お義父様が仰る通り、お義母様は天の御使いの様に優しい方です。僕の父はお義母様に酷い事をしたと、お義母様を害そうとしたとリチャードから聞きました。それなのに、僕を心配して謝って下さるなんて」
え、今なんて言いました?
誰が私に何をしたと、ロニーは言ったのはまさか。
「リチャードがそう言ったの」
「はい、さっきお義母様に話があると彼が言っていたので、何を話すのだと聞いたら。罪を謝罪したいと」
あの男は、なんでこう余計な事ばかりこんな小さな子に吹き込むんでしょうか。
「僕は、マチルディーダが大好きで、大切で。ずっとずっと側にいたいと夫になんて望まないから、従者として側にいたいと願っていました。その為の努力ならなんでもするつもりだったし、努力してきました。でも、僕には従者として側にいる資格すら無かった。お義母様は罪の子ではないと言ってくれたけれど、僕は、僕は、父とリチャードがお義母様に酷い事をしてきたのに、父の息子の僕がお義母様の近くに、マチルディーダとアデライザの近くに居ていい筈が無いんです。それでも側にいたいと願ってしまう。僕は僕は愚か者です」
ぽたぽたと涙の雫を落としながら、ロニーは涙を拭う事もせずに自分は愚かだと言い続けていました。
胎教に全く良く無いけれど、私はリチャードへの怒りでどうにかなりそうでした。
何が謝罪でしょう、こんな子供に自分ではどうしようもない過去に起きた父の罪を教えるなんて、一体彼は何がしたいのでしょう。
「ロニーこちらにいらっしゃい」
「お義母様」
「ほら、いらっしゃい」
「はい」
のろのろと立ち上がり、ロニーは私のすぐそばまでやって来ました。
「ロニー、あなたは悪くないわ。あなたはちっとも悪くないの」
お腹が辛いですが、私は両手をロニーに伸ばし小さな体をそっと抱きしめました。
「あなたのお父様とリチャードがしたことは確かに悪い事よ、私を害そうとしたのだから」
「はい」
「でもね、それはあなたのお父様が悪いのであって、あなたの罪では無いのよ」
それなのにどうしてリチャードはロニーにそれを教えたのでしょうか。
お兄様達もタオ達もロニーにその話をすることは決してない筈です、だからリチャードさえ口にしなければ一生ロニーは知らずに済んだ筈だというのに。
「僕の罪ではない?」
「ええ、少なくとも私自身そう思っている。ピーターに害されそうになった当事者が違うというのだから、あなたに罪はない。分かる?」
「分からないです。でも、そうであったらと思います。本当にそうであったら良いのに、でも……」
ロニーは私の腕の中で、グズグズと鼻を鳴らしながら小さく何度も首を横に振りました。
「お義母様は父に酷い事をされたのに、僕の母の体を綺麗にしてくれたのは何故ですか。一緒の棺に入れて下さったのはどうしてですか」
「この世で正式に夫婦になれなかった二人が、神の園で幸せに暮らせたらいいと思ったからよ。太陽の下を二人が手を繋いで歩けるように。そう思ったからよ」
何となく日本人的な感覚で、死んでしまえば仏様というか。
そういう考えがあったのかなと、今思えばそれが彼女の傷を修復し二人を同じ棺に入れた理由だったのかもしれません。勿論リチャードとロニーから変な恨みを買いたくなかったというのもありますけれど、あの時彼女に恨みも何も私は無かったから出来た事です。
ピーターの為というより、多分彼女の為だったのでしょう。
「お義母様はやっぱり優しい、優し過ぎて心配になります」
「ふふ、私の事はディーンが守ってくれるから大丈夫よ」
片手でロニーを抱きしめたまま、もう片方の手で小さな頭を撫でながら笑うと、ロニーは涙を流しながらやっと笑顔になりました。
「あの時、お義母様が母に優しくして下さったから。僕はお義母様を信じたいと思う様になりました。父と母を一緒の棺に入れてくれた意味を考えて、お義母様だけはきっと僕を両親の様に愛してくれると」
「ええ、勿論よ。あなたはマチルディーダやアデライザと同じ、私とディーンの大切な子よ」
「お義母様が愛して下さり、優しくして下さるから僕は甘えていました。マチルディーダの、僕の大切なお姫様の側に今の自分でもいていいと、甘えていました」
ロニーの言葉が何か不穏な物を含んでいる様に感じるのは、気のせいでしょうか。
「お義母様、僕はお義母様が許して下さっても、それでも自分を許せない。だから僕は自分に罰を与えます」
「ロニー何を言うの」
「ニール様は僕がマチルディーダの側にいたいと願った時、ネルツ家に居続け自分を高める事の他にもう一つの選択肢を下さいました」
お兄様、そんな事一言も言っていませんでいた。
一体もう一つの選択肢というのは。
「ネルツ家の嫡女であるマチルディーダの夫になりたいと本当に望むにしても、従者として仕えるにしてもそれなりの家の子でなければならない。だからウィンストン公爵家に連なる家の養子になりその家で相応しい教育を受ける」
「ウィンストン公爵家に連なる家の養子? お兄様がそう言ったの?」
「はい。ニール様はブレガ侯爵家に話をしてあるから、僕の心が決まったら申し出る様にと仰いました。でも、僕はマチルディーダの側を離れたくなくて、どうしても辛くて」
ブレガ侯爵家、ブレガ、そこはゲームの私がピーターが亡くなって嫁いだ家です。
他に同じ家名の家が無い事は、記憶を取り戻してから貴族年鑑を確認したので分かっています。
「ブレガ侯爵家には私より少し年上の女性がいるわ。その女性の養子になるというの」
「そこまでは分かりません。でも僕への一番の罰はマチルディーダから離れる事です。ですから、ニール様の提案がまだ有効であれば、僕はブレガ侯爵家の養子になります。そこで誠心誠意努力してマチルディーダに相応しいと誰もが言ってくれる人間になります。どうか僕にディーダの隣に立つための努力をしていいと、許して頂けませんか。罪深き父の血が流れる僕でもディーダを思い続けて良いと、希望を頂けませんか」
ぎゅっと目を瞑り、辛そうにしながらロニーは私に心の内を打ち明けましたが、私はそれどころではありませんでした。
なぜここでブレガ侯爵家が出て来るのでしょう。
ゲーム開始まで、ロニーとマチルディーダは一緒に育つ筈だったというのに。
ロニー自ら去っていくなんて、そんな展開想像もしていませんでした。
「本当にいいのね、養子の手続きをしたら簡単には戻って来られないわ」
「はい。マチルディーダが大きくなるまで僕はネルツ家に近寄りません」
それは、ロニーにとってどれだけ辛い事でしょう。
昼間マチルディーダの側にいるために、睡眠時間を削って勉強していたロニーがこの家を出ていくなんて。
「あなたの気持ちは良く分かったわ。私はあなたの気持ちを受け入れる、認めるわ。だからその決意を、お兄様に伝える。でもこれだけは覚えていて、ピーターの罪はあなたの罪ではないということを。私はあなたを自分の子として愛しているということを。決して忘れないで」
「はい、お義母様。ありがとうございます。僕はお義母様の優しさを決して忘れません」
私を見つめ笑うロニーの瞳の奥に暗い闇を見た様な気がして、私は不安を隠す様にぎゅっとロニーを抱きしめました。
回避出来たと思っていたロニーのトラウマを、私はこの手で作ってしまったのではないか。
その不安が胸の中に渦巻いていたのです。
※※※※※※
屑と評判のリチャードですが、自分の心を軽くするためだけにロニーに自分の罪を打ち明けました。
リチャードの屑具合レベルが爆上がり中です。
お父様達の場合、色々思惑があって期間限定で見逃している場合があるので『許されているから大丈夫』ではありあせんが、ロニーの場合はマチルディーダから引き離す方が心配なので今のままが一番いいのでしょう。
それに私は実の子の様とは言えませんが、マチルディーダが将来ロニーを伴侶に選んだら二人の関係を祝福できる程度にはロニーを大切に思っています。
自信はありませんが、ディーンもそこは同じ筈です。
彼はロニーと幼い頃のピーターの姿を重ねて見てしまうのが苦しいと、以前私にこぼしていました。
それはロニー自身に悪いところは無いのだと理解しているからなのでしょう。
私はお義母様の事もピーターの事も許さなくていいと思っています。
家族だから、血が繋がっているから彼らがディーンにした行いを許さなくてはいけないなんて、私は絶対にディーンに言いませんし思った事もありません。
彼らにも事情があるとか、そんなの考える余地も無いと思っています。
だって彼らは酷い事をディーンにし続け、彼を心底傷つけて来たのですから。
そんな人間を許す必要はありません。
死んで尚不幸になれと念じても良い位です。
私は自分にされた事より、ピーターがディーンした仕打ちについて憤りを感じているのです。
私のはある意味自分が間抜けだっただけ、信用出来るかどうか分からない相手に油断した自分に非があるのです。
でも、ディーンは違います。
幼かったディーンに逃げ場はなく、母親に罵られ鞭打たれる事はただただ悲しく辛かったでしょう。
それを兄は自分を守ろうとはせずに、指さし嗤っていたのです。
私が幼いディーンと共に居たら、か弱すぎる私が出来る事など限られていたと思いますが、せめて悲しむディーンを抱きしめてあげたかったと思います。
お義母様やピーターがディーンにしたことを、私は決して許すことは出来ません。
でも、お義母様は自分の罪により奴隷に堕とされ、ピーターはすでに亡くなっています。
でも私達は子供達と幸せに生きている。
これこそが二人に対する一番の復讐だと思っています。
だって、二人が蔑んでいたディーンが当主になり、ピーターが害してもいいと馬鹿にしていた私は侯爵夫人として子供達と幸せに生きているのですから。
自分勝手で傲慢だった彼は、きっと神の園で悔しがっていることでしょう。
いえ、人を害したものは神の園に行けないとシード神の教えにありますから、もしかするとピーターは安らかな眠りを得てはいないのかもしれません。
神の存在を本気で信じてはいませんが、日本で生きていた私がこの世界に生まれ変わっているのですから、もしかすると本当にシード神がいらっしゃる神の園もあるかもしれません。
「お義母様?」
「ああ、ごめんなさい。あなたがずっと自分を罪の子だと信じ込んで苦しんでいたのかと思うと、なんだか辛くて気が付いて上げられなくてごめんなさいね」
ピーターの罪について考えていた私は、ついロニーを忘れて黙り込んでしまっていました。
慌てて取り繕うと、じわりとロニーの瞳に涙の膜が張りました。
「ロニー?」
「謝らないで下さい。お義父様が仰る通り、お義母様は天の御使いの様に優しい方です。僕の父はお義母様に酷い事をしたと、お義母様を害そうとしたとリチャードから聞きました。それなのに、僕を心配して謝って下さるなんて」
え、今なんて言いました?
誰が私に何をしたと、ロニーは言ったのはまさか。
「リチャードがそう言ったの」
「はい、さっきお義母様に話があると彼が言っていたので、何を話すのだと聞いたら。罪を謝罪したいと」
あの男は、なんでこう余計な事ばかりこんな小さな子に吹き込むんでしょうか。
「僕は、マチルディーダが大好きで、大切で。ずっとずっと側にいたいと夫になんて望まないから、従者として側にいたいと願っていました。その為の努力ならなんでもするつもりだったし、努力してきました。でも、僕には従者として側にいる資格すら無かった。お義母様は罪の子ではないと言ってくれたけれど、僕は、僕は、父とリチャードがお義母様に酷い事をしてきたのに、父の息子の僕がお義母様の近くに、マチルディーダとアデライザの近くに居ていい筈が無いんです。それでも側にいたいと願ってしまう。僕は僕は愚か者です」
ぽたぽたと涙の雫を落としながら、ロニーは涙を拭う事もせずに自分は愚かだと言い続けていました。
胎教に全く良く無いけれど、私はリチャードへの怒りでどうにかなりそうでした。
何が謝罪でしょう、こんな子供に自分ではどうしようもない過去に起きた父の罪を教えるなんて、一体彼は何がしたいのでしょう。
「ロニーこちらにいらっしゃい」
「お義母様」
「ほら、いらっしゃい」
「はい」
のろのろと立ち上がり、ロニーは私のすぐそばまでやって来ました。
「ロニー、あなたは悪くないわ。あなたはちっとも悪くないの」
お腹が辛いですが、私は両手をロニーに伸ばし小さな体をそっと抱きしめました。
「あなたのお父様とリチャードがしたことは確かに悪い事よ、私を害そうとしたのだから」
「はい」
「でもね、それはあなたのお父様が悪いのであって、あなたの罪では無いのよ」
それなのにどうしてリチャードはロニーにそれを教えたのでしょうか。
お兄様達もタオ達もロニーにその話をすることは決してない筈です、だからリチャードさえ口にしなければ一生ロニーは知らずに済んだ筈だというのに。
「僕の罪ではない?」
「ええ、少なくとも私自身そう思っている。ピーターに害されそうになった当事者が違うというのだから、あなたに罪はない。分かる?」
「分からないです。でも、そうであったらと思います。本当にそうであったら良いのに、でも……」
ロニーは私の腕の中で、グズグズと鼻を鳴らしながら小さく何度も首を横に振りました。
「お義母様は父に酷い事をされたのに、僕の母の体を綺麗にしてくれたのは何故ですか。一緒の棺に入れて下さったのはどうしてですか」
「この世で正式に夫婦になれなかった二人が、神の園で幸せに暮らせたらいいと思ったからよ。太陽の下を二人が手を繋いで歩けるように。そう思ったからよ」
何となく日本人的な感覚で、死んでしまえば仏様というか。
そういう考えがあったのかなと、今思えばそれが彼女の傷を修復し二人を同じ棺に入れた理由だったのかもしれません。勿論リチャードとロニーから変な恨みを買いたくなかったというのもありますけれど、あの時彼女に恨みも何も私は無かったから出来た事です。
ピーターの為というより、多分彼女の為だったのでしょう。
「お義母様はやっぱり優しい、優し過ぎて心配になります」
「ふふ、私の事はディーンが守ってくれるから大丈夫よ」
片手でロニーを抱きしめたまま、もう片方の手で小さな頭を撫でながら笑うと、ロニーは涙を流しながらやっと笑顔になりました。
「あの時、お義母様が母に優しくして下さったから。僕はお義母様を信じたいと思う様になりました。父と母を一緒の棺に入れてくれた意味を考えて、お義母様だけはきっと僕を両親の様に愛してくれると」
「ええ、勿論よ。あなたはマチルディーダやアデライザと同じ、私とディーンの大切な子よ」
「お義母様が愛して下さり、優しくして下さるから僕は甘えていました。マチルディーダの、僕の大切なお姫様の側に今の自分でもいていいと、甘えていました」
ロニーの言葉が何か不穏な物を含んでいる様に感じるのは、気のせいでしょうか。
「お義母様、僕はお義母様が許して下さっても、それでも自分を許せない。だから僕は自分に罰を与えます」
「ロニー何を言うの」
「ニール様は僕がマチルディーダの側にいたいと願った時、ネルツ家に居続け自分を高める事の他にもう一つの選択肢を下さいました」
お兄様、そんな事一言も言っていませんでいた。
一体もう一つの選択肢というのは。
「ネルツ家の嫡女であるマチルディーダの夫になりたいと本当に望むにしても、従者として仕えるにしてもそれなりの家の子でなければならない。だからウィンストン公爵家に連なる家の養子になりその家で相応しい教育を受ける」
「ウィンストン公爵家に連なる家の養子? お兄様がそう言ったの?」
「はい。ニール様はブレガ侯爵家に話をしてあるから、僕の心が決まったら申し出る様にと仰いました。でも、僕はマチルディーダの側を離れたくなくて、どうしても辛くて」
ブレガ侯爵家、ブレガ、そこはゲームの私がピーターが亡くなって嫁いだ家です。
他に同じ家名の家が無い事は、記憶を取り戻してから貴族年鑑を確認したので分かっています。
「ブレガ侯爵家には私より少し年上の女性がいるわ。その女性の養子になるというの」
「そこまでは分かりません。でも僕への一番の罰はマチルディーダから離れる事です。ですから、ニール様の提案がまだ有効であれば、僕はブレガ侯爵家の養子になります。そこで誠心誠意努力してマチルディーダに相応しいと誰もが言ってくれる人間になります。どうか僕にディーダの隣に立つための努力をしていいと、許して頂けませんか。罪深き父の血が流れる僕でもディーダを思い続けて良いと、希望を頂けませんか」
ぎゅっと目を瞑り、辛そうにしながらロニーは私に心の内を打ち明けましたが、私はそれどころではありませんでした。
なぜここでブレガ侯爵家が出て来るのでしょう。
ゲーム開始まで、ロニーとマチルディーダは一緒に育つ筈だったというのに。
ロニー自ら去っていくなんて、そんな展開想像もしていませんでした。
「本当にいいのね、養子の手続きをしたら簡単には戻って来られないわ」
「はい。マチルディーダが大きくなるまで僕はネルツ家に近寄りません」
それは、ロニーにとってどれだけ辛い事でしょう。
昼間マチルディーダの側にいるために、睡眠時間を削って勉強していたロニーがこの家を出ていくなんて。
「あなたの気持ちは良く分かったわ。私はあなたの気持ちを受け入れる、認めるわ。だからその決意を、お兄様に伝える。でもこれだけは覚えていて、ピーターの罪はあなたの罪ではないということを。私はあなたを自分の子として愛しているということを。決して忘れないで」
「はい、お義母様。ありがとうございます。僕はお義母様の優しさを決して忘れません」
私を見つめ笑うロニーの瞳の奥に暗い闇を見た様な気がして、私は不安を隠す様にぎゅっとロニーを抱きしめました。
回避出来たと思っていたロニーのトラウマを、私はこの手で作ってしまったのではないか。
その不安が胸の中に渦巻いていたのです。
※※※※※※
屑と評判のリチャードですが、自分の心を軽くするためだけにロニーに自分の罪を打ち明けました。
リチャードの屑具合レベルが爆上がり中です。
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