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番外編

ほのぼの日常編1 再婚を祝う人々16(ダニエラ視点)

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「おめでとう。ダニエラ」
「ドレスとても良く似合っているわ。本当なら私達がダニエラに贈りたかったけれど」
「陛下からの贈り物を身にまとい婚姻の儀式を受けられるのは誉れだ。我慢しなさい」

 陛下から贈られたドレスを着た私は、家族に見守られながら大神殿の聖殿の間近くにある控室にいました。
 お兄様の妻はここにはいません、すでに聖殿の間の中に向い式の始まりを待っています。

「誉れとは言うものの、なぜ陛下がダニエラのドレスを用意するのか、それは母親の役目だろうに。いつもの事だがあの人は自分勝手が過ぎる」

 お父様の言い方は不敬ですが、私も自分のドレスは陛下から贈られるよりお母様と一緒に選びたかったのが本音ですから苦笑いで誤魔化します。

 今日は私とディーンの婚姻の儀式の日です。
 先日ウィンストン公爵家の秘密の部屋に転移の魔法陣を設置したディーンは、無事に蜘蛛さん改め、くぅちゃんを連れてネルツ領に向かい次の日遅くに戻ってきました。
 くぅちゃんと名付けたのは、私です。
 蜘蛛さん達が大勢いるのなら、せめて今日知り合った蜘蛛さんだけでも親しくなった証に愛称で呼びたいと我儘を言ったところ、ため息を付きながらくぅちゃんは許してくれました。
 小さい見た目になったとはいえ、大魔女郎蜘蛛の魔物のため息なんてレアかもしれません。
 でも、仲良くなるには互いを名前で呼ぶのはとても大事だと思うのです。
 なので、私は蜘蛛さんをくぅちゃんと呼び、くぅちゃんは私をダニエラと呼ぶことになりました。
 ちなみに、ディーンはあの日私にくぅちゃんを会わせるつもりは無かったそうです。
 ウーゴ叔父様から、貴族令嬢が蜘蛛を見た気絶すると聞いたディーンは、自分が気軽に会わせようとしたことを後悔し反省して、そっとネルツ領にくぅちゃんを連れていくつもりだったそうです。
 それなのに私が突然部屋にやってきてしまった為、どこにも逃げられなかったディーンは、カーテンに張り付いてくぅちゃんを隠していたのだと聞いて、私は感動で胸が一杯になりました。
 自分の意見を否定された途端瞳から光が消えるヤンデレが、自分の考えを変えてまで私が怖い思いをしなくて済む様にしようとしてくれたのですから、感動して当然だと思います。
 考えを否定するが、気持ちを疑うに直結する人なのに私の気持ちを優先しようとしてくれたのです。
 その話を聞いた時、私はディーンと上手くやっていけそうな気がしました。
 ディーンはヤンデレですし、私は世間知らずの箱入りです。
 でも、世間を知らないならこれから知ればいいだけですし、ヤンデレだってディーンが私を信頼する様になれば少しずつでも良い方に変化していくかもしれません。
 だから私は明るい未来があると信じて、婚姻の儀式に臨むと決めたのです。

「ありがとうございます。お父様お母様お兄様」

 社交に忙しいお母様にお会い出来る機会はとても少ないですし、お仕事が忙しいお父様はそれ以上です。
 ピーターが亡くなってから、お兄様にお会いする機会が増えたことは嬉しいですが、私とディーンがネルツ領に行ってしまえば会うのは難しくなるでしょう。

「ディーンは少し難しいところがあるが、あれは良い子だ安心してダニエラを任せられる」
「ダニエラ、幸せになるのよ」
「はい、お父様、お母様」

 お父様とお母様は私を代わる代わる抱きしめた後、部屋を出て行きました。

「ダニエラ、ディーンと幸せになりなさい」
「ありがとうございます。お兄様」
「あのディーンが義弟になる日がくるとはな。さて、私はディーンの緊張した顔でも見てくるとしよう」

 ディーンには、ウーゴ叔父様が付き添って下さっています。
 お義父様は聖殿の間の方にいらっしゃると、タオから聞きました。お義母様の参列はありません。
 リチャードとロニーの参列は、お父様が許しませんでした。残念ですが仕方ありません。

「ディーンは不安がっているかもしれません。お兄様よろしくお願いします」
「親代わりに蜘蛛が付いているだろう、あれ以上の付き添いはいない」
「くぅちゃんが居てもです。お兄様はディーンの特別で唯一無二の友ではありませんか」

 何となく、お兄様もディーンも互いを特別に思っている様に感じます。
 愛ではなく、信頼で友愛です。
 私には生憎そんな人は一人もいませんが、お兄様にはディーンという友がいるのです。

「ふん。あれは頼りない義弟だから、緊張しすぎて失敗しない様に忠告してこなくてはいけないだろうな。全くおまえもあいつも手がかかる」
「ディーンはお兄様を信頼しているのです。優しくしてあげて下さいませ」
「私はいつも優しいだろう」

 特別も友も否定せず、自分は優しいとお兄様は真面目な顔で仰いますが、そこは同意出来ません。
 お兄様の優しさは分かり難いのです。
 腕輪の事も、ディーンから教えられるまで癒しの守り石の存在を知らなかったのですから。
 ずっと私は守られていたというのに。

「お兄様はいつだって私を守って下さいました。私がのほほんとした箱入りでいられたのは、お兄様が側で守って下さっていてくれたからこそです」

 これは本心からの言葉です。
 お兄様と両親がいてくれたからこそ、私はのんびりと箱入りでいられたのです。

「ふん。私にはもう自分の子と家を守る義務がある。これから先はおまえは夫に守られ生きればいい。いいか、不幸になるなんて許さないからな」
「それはディーンがいますから大丈夫です。ディーンと子供と幸せになります」

 胸を張り、お兄様にそう答えます。
 私は絶対に幸せになります。
 夫のディーン、義息子のロニー、そして生まれて来る筈の娘と共に絶対に幸せになるのですから。

「当たり前だ。おまえはウィンストン公爵家が守り育てた宝石花だ。誰よりも美しく輝き誰よりも幸せになる為に守り育てた。おまえが不幸になる未来など、私は決して許さない」

 ゾクリと背筋が冷えました。
 お兄様の暗い瞳は、ヤンデレのディーンよりも恐ろしい闇を持っている様に見えました。
 お兄様は何を思って許さないと言ったのでしょうか、私が誰かに不幸にされる未来があるのでしょうか。

「お兄様」
「忘れるな、おまえを不幸にするのなら例えそれがディーンだとしても私はそれを排除する」
「……お兄様、ディーンは私を愛しすぎる位に愛しているのですから。他の人なら兎も角ディーンはあり得ません」

 あり得ないと信じたい、それが私の願いです。

「分かっている、私はディーンを信じている。あれは私の期待を裏切ったことは一度も無い。私の期待に応え続けた男だからな。……もう行かなければ」

 お兄様は笑って、そして部屋を出て行きました。

「お嬢様、そろそろお時間です」

 控えていたタオとメイナが私に声を掛けて、私は静々と部屋を出ました。

「ダニエラ」

 控室を出てすぐのところで、私は声を掛けられて立ち止まりました。

「第一王子殿下、まさか式に参列下さるのですか」

 ピーターとの式には第一王子殿下の参列はありませんでした。
 今日の式は、恐れ多くも陛下が参列下さると聞いていましたが、第一王子殿下まで来て下さるとは知りませんでした。

「式に参列だと? 冗談じゃない、お前が誰かのものになる瞬間に立ち会うわけがないっ」
「まあ、私の幸を祝って頂けないのでしょうか。とても悲しくなりますわ」

 参列しないのなら、この人は何をしに来たというのでしょうか。
 私の警戒はタオとメイナにも伝わり、メイナはすぐに誰かを呼びに走りましたが第一王子殿下はそれを気にする素振りもありません。

「ダニエラ、私の妻はダニエラただ一人だけだと今でも思っている」
「シード神は重婚を認めてはいらっしゃいません。それは罪だと決められています」
「重婚では無い。私の妻はダニエラだけだ」
「第一王子殿下はすでに妻帯されていらっしゃいますし、私の夫はディーンでございます。彼以外の殿方に嫁ぐつもりはございません」

 視線を合わせない様に頭を下げ、タオが私を守るように前に立ち、最大限に警戒を表すと苛立った声が辺りに響きました。
 妻がいる身でこの人は、何をふざけたことを言っているのでしょうか。
 前世の記憶があろうと、私はシード神の教えを守る者です。
 私以上に、王家の人間である第一王子殿下は教えを守らなければならないというのに、自分の妻を認めず私を妻だなんて恥知らずもいいところです。
 ここまで酷い人だとは思いませんでした。
 今迄、愛は無くても従兄として親しい気持ちはあったというのに、それすら消え果ててしまいました。
 こんな人の息子に、私の娘を差し出したくありません。
 絶対に嫌です。

「そんなの分かっている。だが、だがっ! 私の妻はダニエラだった筈だ。幼い頃からそう決められて、私だってずっとそう信じていた。今更認められるか、私のものだったのに他の男のものになると。おまえは、ダニエラは私の為だけに生きていればいいっ。何故なんだ。どうして私のものにならない。血が濃いなんて、そんなの今更じゃないか私達は夫婦になる為に生まれて来たはずだ。おまえは私のものになる為に生まれて来たんだ!」

 第一王子殿下の為に、私が生まれて来た?
 そんな事実はありません。
 もし仮に第一王子殿下の妻になっていたとしても、私は私の人生を生きるだけ、第一王子殿下のものになるつもりも第一王子殿下の為に生きるつもりもありません。
 私の人生は私のものなのですから。

「ダニエラ!」

 ディーンとお兄様が駆け寄って来る姿が見えて、私はホッとして息を吐きました。
 私の前には、私を守るべく盾になっているタオの背中が見えます。
 私の手首には、私を守る為の守り石を付けた腕輪があります。
 私は一人ではありません、第一王子殿下ではなく夫になるのはディーンです。
 私は彼と幸せになるのですから。

「第一王子殿下、あなたを夫にする未来がもしかしたらあったのかもしれません」
「そうだ、おまえの夫は私だ。私以外誰も認めないっ!」
「いいえ、私達はそうはならなかった。私はお父様でもお兄様でも陛下でもなく、自分の意思でディーンとの結婚を決めたのです」

 ディーンもお兄様達も側に居て、私を見守ってくれています。

「ダニエラが決めた……」
「第一王子殿下、私は自分の意思で未来を決めました。自分の意思で夫を選びました。私が選んだ道は、ディーンと共に生きる道です。私はディーンの妻としてこれから生きていきます。誰に強制されたものでも無く、自分の意思で未来を決めたのです。私が夫と幸せに生きるために」

 そう、これは自分で選んだ道です。
 ピーターとの結婚は、お父様に言われるまま従っただけでした。
 そこに自分の意思はなく、幸せでも不幸せでも、ただ従うだけの結婚でした。
 でも、ディーンとは違います。

「ディーンとの結婚は誰に強制され、そうしろと言われたわけではありません。私が自分で決めたのです。ディーンの妻になると」

 胸を張り、声を大きく張り上げて私は宣言します。
 神の前ではありませんが、私は自分自身に誓います。

「私はディーンの妻になり、彼を幸せにします。彼が幸せになる事が私の幸せです。彼を守り愛し、子供を生み育てる。そんな未来を想像するだけでこの上ない喜びを感じるのです。それはどんな相手とでも叶えられる未来ではありません、ディーンが夫になるからこそ実現できる幸せなのです」

 第一王子殿下の妻では駄目です。
 妻よりも私が良いなんて不誠実な事を言う人と、幸せになんてなれません。

「どこがいいんだ、おまえよりも遥かに年上の男だ」
「ディーンはとても素敵な人です。私の理想はお父様とお兄様ですけれど、それに匹敵するのはディーンだけですもの。それに、彼はどこかの誰かさんと違って誠実ですし優しい人です」
「なんだと、そんなの不敬だ」

 何をもって不敬だというのでしょうか。
 不敬なんてそんなもの、陛下からの寵愛を頂くお父様がいるのですから怖くありません。
 お父様に泣き付いたら、すべてが解決するのですから。

「不敬でも何でも怖くありません。私の夫はディーンただ一人です。彼以外の人に嫁ぐなんて私は絶対に嫌です。あなたの妻だなんて、絶対になりません。あなたは私が第一王子殿下のものだと昔から言っていましたけれど、私はあなたのものだなんて、ただの一度も考えたことはありません。王命で婚約が決まるなら、嫌だと思っていても逆らえないと諦めていただけです」

 実際のところは、そこまで考えてすらいませんでした。
 結婚はお父様が決めるもので、自分の思いなど不要だと信じていたのです。
 誰と結婚しようと、家の為になるのならそれに従う。それだけだったのですから。

「あなたを夫にする位なら、修道院に行きます」

 私が言い切ると殿下はへなへなと床に座り込み、いつの間にか側に居たお兄様の使用人に連れられてどこかへと行ってしまいました。

「ダニエラ」
「心配掛けてしまってごめんなさい、お兄様、ディーン」「ダニエラ、乱暴なことはされていませんか?」
「大丈夫。第一王子殿下には驚いたけれど、平気よ」

 心配そうにしているディーンと苦虫を潰した様な顔をしているお兄様に申し訳ない気持ちになりながら、第一王子殿下が何のためにここに来たのか考えました。
 私に気持ちを伝えたかった? それとも儀式の邪魔をするつもりだったのでしょうか。
 理由は分かりませんが、王子が去った今気になってもどうすること出来ません。

「行きましょうディーン」
「……はい」
「では私は先に中に行く」

 去って行くお兄様を見送った後、不安そうにしているディーンに手を伸ばすと、そっと冷たい手が握り返してくれました

「ねえ、ディーン」
「はい」
「魔法師団の礼服良く似合っているわ、素敵よ」
「ありがとうございます。ダニエラのドレスとても良く似合っています、おろした髪もとても綺麗です」
「ありがとう、くぅちゃんは一緒に?」

 顔色が悪いディーンの気分を変えようと、礼服を褒めた後くぅちゃんの姿を探しました。
 婚姻の儀式を前にして、第一王子殿下の乱心を見せられて私も動揺していますが、それはディーンも同じでしょうから、ここはくぅちゃんに場を和ませもらうしかありません。
 控室に留守番でしょうか、それとも服の中に隠れているのでしょうか。
 ディーンの礼服は魔法師団のものなので、礼服の上からフード付きのマントをつけていますから、小さな小さな蜘蛛の姿なら隠れられそうです。

「蜘蛛に用事かダニエラ」

 ヒョコリのくぅちゃんは、ディーンのフードの中から姿を現したのです。

※※※※※※
誤字のご連絡ありがとうございます。
誤字脱字病、結構重症です……。
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