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心は誰にも明かさない
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「変ね、目覚める気配もないわ」
私は上半身を起こすと、眠るディーンの肩に手を添えました。
ベッドの側ギリギリに椅子を置き、ディーンは私を見守っていてそのまま眠ってしまった様に見えますが、声を掛けても肩に手で触れても起きないのは異常です。
「メイナ? あなた何かした?」
「はい、興奮しておいででしてので、心が落ち着く薬草茶をお持ちしました」
「それはディーンに説明したのかしら」
「はい。奥様は大奥様に殺されかけ心身共に疲労されていますので、ディーン様が興奮されたまま看病されてもお体はお休みになれないと申し上げました。それでもお側から離れたくないと仰られましたので、心が落ち着く薬草茶をお飲み下さるならと」
「そう、納得して飲んでいるのね」
思うところはあるものの、それならば妥協点はあるかと胸を撫で下ろしていると。
「ただ、口をつけて終わりにされる事を危惧し、濃度は一口飲まれただけで朝までお休みになれる濃さにしておりましたが、ディーン様は一気にすべて飲み干してしまわれまして、この様な状態におなりです」
なんていうことでしょう。
メイナは私には忠実な侍女ですが、まさか堂々と主人の立場になるディーンに薬を盛るとは。
「メイナ、あなた」
「奥様、荷物は纏めてございます」
「何を言っているの」
なんでしょう、今私の頭の中に映像が浮かび上がりました。
「この家は終わりです。奥様、いいえダニエラ様を危険な目に合わせようとしたあの女も、それを補助した者達も、すべて処罰します。ダニエラ様はこれから馬車で公爵領に向かいましょう」
「何故、そんな。お義母様とイバンは拘束してあるしなんの問題も」
チラチラと映像、これはゲームの記憶の様です。
悪役令嬢ダニエラの娘の独白です。
『本当は私はネルツ家の娘に生まれる筈だったわ。でも、ネルツ侯爵夫人の策略で望まぬ子を、私を妊娠した母は、祖父の命令で妊娠を隠して他の家に嫁ぐしか無かったのよ。私の母はね、あなたを人質に取られて侯爵夫人の言う事に逆らえなかったのよ。あなたを守るために母は不幸になったのよ』
悪役令嬢は自分は望まれず生まれた子なのだと、そう攻略対象者のロニーに告白するのです。
今迄忘れていましたが、確かに私の子となる悪役令嬢は、私がネルツ侯爵夫人の策略で妊娠したと告げていました。
ネルツ侯爵夫人、つまりお義母様の策略、そうこれはゲームの設定と同じだったのです。
「ダニエラ様」
「その話はお兄様の指示?」
「はい、もし何かあればダニエラ様を公爵領に逃がすようにと仰せでした」
私はディーンの肩に手を添えたまま、天を仰ぎました。
ゲームでは語られないエピソードですが、きっとゲームの中のディーンも私に求婚していたのでしょう。
そして自分の母親の策略で、私は穢され結婚できなくなった。
幸せになると誓った相手は自分が眠る間に去ってしまったのですから、それは愛なんて言葉を信じられないヤンデレになっても仕方ないでしょう。
そしてディーンはロニーを憎んだのでしょう。
ゲームの私がロニーを守ろうとした結果、自分から離れるしか無くなったと知っていた為にロニーを憎み虐待したのでしょう。
だとしたら、ゲームの展開通りに進む未来はそのまま私の破滅に繋がってしまいます。
「駄目よ」
「ダニエラ様」
「私はディーンと約束したのよ。彼の妻になると」
「でも、状況が変わりました」
「状況は公爵家にとって良い方に変わったのだと伝えて、今ならネルツ家に好きなだけ介入出来るわ」
破滅を避けるには私はこの家に残らなければなりません。
ロニーを虐待せずに、ディーンの妻としてロニーの母として生きる。
そして子を授かるならその父親はディーンでなければいけないのです。
「ダニエラ様、本心をお聞かせください。本当にディーン様を夫には望んでおいでですか」
「ええ、そうよ。私はディーンと結婚するわ」
「理由をお聞かせください。私が納得できる理由を」
メイナは私に忠実な侍女です。
でも、兄にもその忠実さを持って仕えています。
「それはディーンが私を愛してくれているからよ。簡単な話よ。メイナ、私は幸せになりたいの。勿論家の繁栄は大切だし私がお父様とお兄様の駒であることを忘れたりはしないわ。でも駒は駒なりに幸せになりたいの、許される範囲の中だけでいいから幸せに」
「そうしてくださるのがディーン様だと?」
「そうよ。正直な話をするならまだ私はディーンを本心から愛しているとは言えないわ。でもね、いつかきっと私はディーンを愛するわ、だって彼は真っ直ぐに私だけを見てくれる。愛してくれる。私みたいな夫に何年も裏切られ続けた女を、心の底から愛してくれている。こんな愛情を向けられて嬉しくない女がいるかしら」
これは嘘です。
私はディーンのこの真っ直ぐな愛情が怖いのです。
きっと私はいつか本心から彼を愛するでしょう。
そして、ゲームの主人公がディーンを奪いに来て、彼が彼女を愛し始めるのが怖いのです。
ゲームとは違う展開でも、彼が主人公を愛した瞬間から私の破滅は始まるのでしょう。
「私はね彼に必要とされるのが嬉しいの。損得無しの愛情を信じたいのよ」
「ディーン様なら信じられると?」
「ええ。だから、ネルツ家のことはお兄様達の良いようにしてかまわないから、私をディーンの妻にして欲しいの」
ゲーム通りに他の人に嫁いでも破滅。
ゲーム通りではなく、ディーンに嫁いでも、破滅の可能性は残るのであれば、私はディーンの側にいることを選びます。
「畏まりました。旦那様にはその様にお伝えいたします」
メイナはそう言うと足音すら立てずに部屋を出ていきました。
「これでいいのよ。私はディーンの側で生きるの。それがきっと幸せになれる道なんだわ」
そう自分に言い聞かせ、私は目を閉じたのです。
私は上半身を起こすと、眠るディーンの肩に手を添えました。
ベッドの側ギリギリに椅子を置き、ディーンは私を見守っていてそのまま眠ってしまった様に見えますが、声を掛けても肩に手で触れても起きないのは異常です。
「メイナ? あなた何かした?」
「はい、興奮しておいででしてので、心が落ち着く薬草茶をお持ちしました」
「それはディーンに説明したのかしら」
「はい。奥様は大奥様に殺されかけ心身共に疲労されていますので、ディーン様が興奮されたまま看病されてもお体はお休みになれないと申し上げました。それでもお側から離れたくないと仰られましたので、心が落ち着く薬草茶をお飲み下さるならと」
「そう、納得して飲んでいるのね」
思うところはあるものの、それならば妥協点はあるかと胸を撫で下ろしていると。
「ただ、口をつけて終わりにされる事を危惧し、濃度は一口飲まれただけで朝までお休みになれる濃さにしておりましたが、ディーン様は一気にすべて飲み干してしまわれまして、この様な状態におなりです」
なんていうことでしょう。
メイナは私には忠実な侍女ですが、まさか堂々と主人の立場になるディーンに薬を盛るとは。
「メイナ、あなた」
「奥様、荷物は纏めてございます」
「何を言っているの」
なんでしょう、今私の頭の中に映像が浮かび上がりました。
「この家は終わりです。奥様、いいえダニエラ様を危険な目に合わせようとしたあの女も、それを補助した者達も、すべて処罰します。ダニエラ様はこれから馬車で公爵領に向かいましょう」
「何故、そんな。お義母様とイバンは拘束してあるしなんの問題も」
チラチラと映像、これはゲームの記憶の様です。
悪役令嬢ダニエラの娘の独白です。
『本当は私はネルツ家の娘に生まれる筈だったわ。でも、ネルツ侯爵夫人の策略で望まぬ子を、私を妊娠した母は、祖父の命令で妊娠を隠して他の家に嫁ぐしか無かったのよ。私の母はね、あなたを人質に取られて侯爵夫人の言う事に逆らえなかったのよ。あなたを守るために母は不幸になったのよ』
悪役令嬢は自分は望まれず生まれた子なのだと、そう攻略対象者のロニーに告白するのです。
今迄忘れていましたが、確かに私の子となる悪役令嬢は、私がネルツ侯爵夫人の策略で妊娠したと告げていました。
ネルツ侯爵夫人、つまりお義母様の策略、そうこれはゲームの設定と同じだったのです。
「ダニエラ様」
「その話はお兄様の指示?」
「はい、もし何かあればダニエラ様を公爵領に逃がすようにと仰せでした」
私はディーンの肩に手を添えたまま、天を仰ぎました。
ゲームでは語られないエピソードですが、きっとゲームの中のディーンも私に求婚していたのでしょう。
そして自分の母親の策略で、私は穢され結婚できなくなった。
幸せになると誓った相手は自分が眠る間に去ってしまったのですから、それは愛なんて言葉を信じられないヤンデレになっても仕方ないでしょう。
そしてディーンはロニーを憎んだのでしょう。
ゲームの私がロニーを守ろうとした結果、自分から離れるしか無くなったと知っていた為にロニーを憎み虐待したのでしょう。
だとしたら、ゲームの展開通りに進む未来はそのまま私の破滅に繋がってしまいます。
「駄目よ」
「ダニエラ様」
「私はディーンと約束したのよ。彼の妻になると」
「でも、状況が変わりました」
「状況は公爵家にとって良い方に変わったのだと伝えて、今ならネルツ家に好きなだけ介入出来るわ」
破滅を避けるには私はこの家に残らなければなりません。
ロニーを虐待せずに、ディーンの妻としてロニーの母として生きる。
そして子を授かるならその父親はディーンでなければいけないのです。
「ダニエラ様、本心をお聞かせください。本当にディーン様を夫には望んでおいでですか」
「ええ、そうよ。私はディーンと結婚するわ」
「理由をお聞かせください。私が納得できる理由を」
メイナは私に忠実な侍女です。
でも、兄にもその忠実さを持って仕えています。
「それはディーンが私を愛してくれているからよ。簡単な話よ。メイナ、私は幸せになりたいの。勿論家の繁栄は大切だし私がお父様とお兄様の駒であることを忘れたりはしないわ。でも駒は駒なりに幸せになりたいの、許される範囲の中だけでいいから幸せに」
「そうしてくださるのがディーン様だと?」
「そうよ。正直な話をするならまだ私はディーンを本心から愛しているとは言えないわ。でもね、いつかきっと私はディーンを愛するわ、だって彼は真っ直ぐに私だけを見てくれる。愛してくれる。私みたいな夫に何年も裏切られ続けた女を、心の底から愛してくれている。こんな愛情を向けられて嬉しくない女がいるかしら」
これは嘘です。
私はディーンのこの真っ直ぐな愛情が怖いのです。
きっと私はいつか本心から彼を愛するでしょう。
そして、ゲームの主人公がディーンを奪いに来て、彼が彼女を愛し始めるのが怖いのです。
ゲームとは違う展開でも、彼が主人公を愛した瞬間から私の破滅は始まるのでしょう。
「私はね彼に必要とされるのが嬉しいの。損得無しの愛情を信じたいのよ」
「ディーン様なら信じられると?」
「ええ。だから、ネルツ家のことはお兄様達の良いようにしてかまわないから、私をディーンの妻にして欲しいの」
ゲーム通りに他の人に嫁いでも破滅。
ゲーム通りではなく、ディーンに嫁いでも、破滅の可能性は残るのであれば、私はディーンの側にいることを選びます。
「畏まりました。旦那様にはその様にお伝えいたします」
メイナはそう言うと足音すら立てずに部屋を出ていきました。
「これでいいのよ。私はディーンの側で生きるの。それがきっと幸せになれる道なんだわ」
そう自分に言い聞かせ、私は目を閉じたのです。
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