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後悔は、良識ある人がするものなのです
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「ふふふ。お義母様、ご理解頂けましたかしら」
ワラウ余裕など髪の毛一本程もないというのに、私は笑顔で言いながらお義母様に向け虚勢を張り続けました。
イバンは意識を取り戻しているものの、考えて自ら行動するまでには至っていない様に見えます。
ロニーは背中に鞭打たれた後が痛々しい状態で、意識がないまま横たわっています。
お義母様は錯乱状態、でも私を害しイバンの子を私に宿させようとしていて、私はそれを笑顔で拒絶している。
そんな泥沼の状態です。
「ダニエラ、お前は最初から気に入らなかったのよ。生まれがいいだけで、私の可愛い息子はお前の家の言いなりになるしかなかった。それがどれだけ屈辱だったか」
お義母様は驚く程に心情を吐露し、私への嫌悪感を口にします。
私が嫁いでから五年の歳月がありますが、私はお義母様と二人だけでこんなに長い時間過ごすことはありませんでした。
お義父様はお義母様が領地から出ることを嫌っていましたし、私とピーターはほぼ王都で過ごしていました。
ですからお義母様と私が話す機会も無かったのですが、その短い期間で、いいえ最初から私は嫌われていた様です。
「ピーターが私の実家の言いなりになっていたとは思えませんわ。あの人は仕事仕事で、家には殆ど帰っていませんでした。今思えば彼は愛人の家に帰っていたのでしょうね。私との結婚契約に記してあった、愛人を作らないという項目を彼は破っていたのですよ。それでも私の家の言いなりますの?」
前世の記憶を取り戻している私は、ピーターの行動にさほど関心はありません。
結婚というのはこの世界の貴族に取っては、契約と同じだというのにそれを破って愛人を作り(正確には結婚前からの関係を隠していたのですが)妻に内緒で子供を育てていたピーターは、結婚契約を破った大罪人です。
でも、前世の記憶を取り戻した私にとって、ピーターはただの情けない夫に過ぎません。
恋人との関係を守りたいのなら、ピーターは貴族の嫡男という立場を捨て平民として生きる道を選ぶべきでした。
それが出来ず、恋人と別れることもせず、ただのらりくらりと日々を過ごしながら最終的には貴族の妻を娶り、平民の恋人と子供とはそのまま関係を続ける。
それは誰にとっても良く無い事でした。
良く無いどころかピーターは、妻に毒を用いて避妊を続け自分は解毒剤を服用し、妻の体だけを害し続けました。
一方で愛人の子には貴族の子なら受けなければいけない筈の教育を受けさせずに、貴族の子供なら必ず行う筈の六歳時の陛下への謁見を行わずに過ごしてしまったのです。
それはその子が平民の婚外子の立場で一生生きるという、そう言う未来でいいと思っていたとしか思えません。
そうでなければ、ピーターはただの考えなしです。
「それは、あの子のせいではないわ。お前がピーターの思いを理解していれば」
「理解していればなんだと言うのですか? ご存知ですか、子供は一人では授かれないのですよ。私との子を望まなかったのは彼自身ですわ。私は彼に毒を使われていたのですよ。そして偽の離縁状を作り届け出る準備をしていたのです。その彼が私の家の言いなり? 笑わせないでくださいませ」
私の言葉にお義母様は無言になり、私はただ呆れました。
ピーターはただ何も考えずにロニーを産ませ、ロニーにろくな教育も与えないまま、私に内緒で侯爵家にその存在を認めさせようとしました。
私の偽の署名を使い、離縁状を作成し受理させた後はどうにでもなると考えていたのでしょう。
貴族の結婚も、貴族の子の出生証明書もそんなに簡単な物ではないというのに。
私の夫ピーターの中でだけ、どちらもとても簡単なものになっていたのでしょう。
「あの人の短絡的な考え方はお義母様そっくりです。吐き気がするほどよく似ているわ」
私の声をお義母様は俯いたまま聞いていました。
頬から血の雫を床へと落としながら、怒りと屈辱に震えていたのです。
ワラウ余裕など髪の毛一本程もないというのに、私は笑顔で言いながらお義母様に向け虚勢を張り続けました。
イバンは意識を取り戻しているものの、考えて自ら行動するまでには至っていない様に見えます。
ロニーは背中に鞭打たれた後が痛々しい状態で、意識がないまま横たわっています。
お義母様は錯乱状態、でも私を害しイバンの子を私に宿させようとしていて、私はそれを笑顔で拒絶している。
そんな泥沼の状態です。
「ダニエラ、お前は最初から気に入らなかったのよ。生まれがいいだけで、私の可愛い息子はお前の家の言いなりになるしかなかった。それがどれだけ屈辱だったか」
お義母様は驚く程に心情を吐露し、私への嫌悪感を口にします。
私が嫁いでから五年の歳月がありますが、私はお義母様と二人だけでこんなに長い時間過ごすことはありませんでした。
お義父様はお義母様が領地から出ることを嫌っていましたし、私とピーターはほぼ王都で過ごしていました。
ですからお義母様と私が話す機会も無かったのですが、その短い期間で、いいえ最初から私は嫌われていた様です。
「ピーターが私の実家の言いなりになっていたとは思えませんわ。あの人は仕事仕事で、家には殆ど帰っていませんでした。今思えば彼は愛人の家に帰っていたのでしょうね。私との結婚契約に記してあった、愛人を作らないという項目を彼は破っていたのですよ。それでも私の家の言いなりますの?」
前世の記憶を取り戻している私は、ピーターの行動にさほど関心はありません。
結婚というのはこの世界の貴族に取っては、契約と同じだというのにそれを破って愛人を作り(正確には結婚前からの関係を隠していたのですが)妻に内緒で子供を育てていたピーターは、結婚契約を破った大罪人です。
でも、前世の記憶を取り戻した私にとって、ピーターはただの情けない夫に過ぎません。
恋人との関係を守りたいのなら、ピーターは貴族の嫡男という立場を捨て平民として生きる道を選ぶべきでした。
それが出来ず、恋人と別れることもせず、ただのらりくらりと日々を過ごしながら最終的には貴族の妻を娶り、平民の恋人と子供とはそのまま関係を続ける。
それは誰にとっても良く無い事でした。
良く無いどころかピーターは、妻に毒を用いて避妊を続け自分は解毒剤を服用し、妻の体だけを害し続けました。
一方で愛人の子には貴族の子なら受けなければいけない筈の教育を受けさせずに、貴族の子供なら必ず行う筈の六歳時の陛下への謁見を行わずに過ごしてしまったのです。
それはその子が平民の婚外子の立場で一生生きるという、そう言う未来でいいと思っていたとしか思えません。
そうでなければ、ピーターはただの考えなしです。
「それは、あの子のせいではないわ。お前がピーターの思いを理解していれば」
「理解していればなんだと言うのですか? ご存知ですか、子供は一人では授かれないのですよ。私との子を望まなかったのは彼自身ですわ。私は彼に毒を使われていたのですよ。そして偽の離縁状を作り届け出る準備をしていたのです。その彼が私の家の言いなり? 笑わせないでくださいませ」
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私の偽の署名を使い、離縁状を作成し受理させた後はどうにでもなると考えていたのでしょう。
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私の夫ピーターの中でだけ、どちらもとても簡単なものになっていたのでしょう。
「あの人の短絡的な考え方はお義母様そっくりです。吐き気がするほどよく似ているわ」
私の声をお義母様は俯いたまま聞いていました。
頬から血の雫を床へと落としながら、怒りと屈辱に震えていたのです。
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