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雷の魔法
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「うわあっあぁっ!!」
私の指輪から発した雷の魔法は、一瞬イバンの体を発光させた後すぐに消えました。
たった一瞬だけの魔法です。
威力は人が死なない程度だと、お兄様には説明を受けていましたが目の前のイバンは叫び声を上げた後床に倒れてしまいました。
「イ、イバンッ。お前、何をしたの。武器になるようなものは身に着けていなかった筈よっ!」
倒れたイバンに駆け寄りながら、お義母様は私に向かい大声をあげました。
「イバン、イバンッ! 目を覚まして、あぁなんて事なの。悪魔の様な女ねっ! 私のイバンに何をしたのっ!」
倒れているイバンを乱暴に揺すりながら、お義母様は癇癪を起こしています。
この方の癇癪は見慣れてきましたが、今日のそれは今迄以上に激しい様に感じます。
「イバンッ! 私を一人にしないでっ、あなたがいなければ生きていけないわっ!!」
お兄様の言葉を信じるなら彼は気を失っているだけの筈ですが、お義母様にはそれは分からないでしょう。
彼女がイバンに気を取られて私を忘れている間に、なんとか拘束出来ないでしょうか。
そろりそろりとお義母様から距離を取りながら、呑気に次の手を考え始めました。
指輪の魔道具はもう役目を終えてしまったので、雷の魔法は使えません。
刃が出たままなので攻撃しようと思えば可能ですが、慣れないことをするよりは、今のうちに逃げた方が得策でしょうか。
「んんっ」
イバンは意識を取り戻しかけているのか、小さなうめき声が聞こえました。
良かった、生きてはいるようです。
ジリジリと扉のすぐ前まで移動しながらも、二人の様子から視線は外せません。
私に残されているのは、まだ発動していない腕輪の魔道具の雷魔法と指輪から出ている小さな刃先のみです。
早く逃げなければ。
私は二人の様子を見ながら後ろ手に扉を開き始めたその瞬間、私は恐ろしい物を見つけてしまったのです。
「ロニー?」
なんて言うことでしょう、私が床に転がされていた場所から少し離れて置かれていたソファーの側にロニーが倒れていたのです。
「そんな」
ロニーは上半身裸で、うつ伏せに倒れています。
背中には無数の鞭打った痕、血が流れている箇所すらあるのです。
私は衝撃のあまり力が入らなくなった足を必死に動かしながら、ロニーに近づきました。
「ロニー。あぁ、神様」
床に膝を付きロニーの口元に手をかざすと、かすかに空気の動きを感じました。
ピクリともしない姿に既に手を掛けられていたのかと危惧しましたが、さすがにそこまでのことはされていなかったようです。
「早く手当しなければ、でもどうやって運んだらいいの」
小さいとはいってもロニーは七歳になる子供です。
剣すら重くて持てない私の細腕では、とてもロニーを抱き上げ運ぶことは出来ません。
「運ぶ必要はないわ。それはここで死ぬのだから」
「お、お義母様?」
声に振り返ると、ナイフを持ったお義母様が立っていました。
間抜けな事に、ロニーに気を取られてお義母様達を忘れてしまっていたのです。
幸いイバンはまだ起き上がっていません。
お義母様だけなら私でも対処出来るでしょうか?
「それから離れなさい。お前はイバンの子を生むのよ、穢れた子供に近付くなど以ての外です」
「イバンはお義母様の大切な人なのではないのですか、そんな人を私に子を授けるためとはいえ、それでいいのですか?」
「いいのよ。イバンは私のものだから何だって私の願いを叶えてくれるのよ」
それは愛なのでしょうか?
目的の為に自分以外の女を抱く、それをお義母様自身が命令するなんて、それで愛していると言えるのでしょうか。
「恋した相手になら何をさせてもいいと? こんな小さな子供の背中に酷い傷を付けるほど鞭打たせ、次は私を犯させようと? ふざけるのも程々にして頂けませんか」
ふらりと立ち上がり、私は怒りのままお義母様へと近づきました。
倒れているロニーがディーンの姿に重なりました。
幼い頃のディーンも、同じ様に傷付けられていた筈です。体にも心にも傷を付けられ、一人耐えていた。
その傷を付けたのは、自分を産んだ母親だったのです。
「ロニーの傷、ディーンの傷、その辛さをあなた自身で味わうといいわっ!」
私の剣幕に驚き動けずにいるお義母様の頬へ、私は思い切り右手で叩きつけました。
「ひっ! い、嫌っ。何をするの? え、血? どうしてっ!」
左手にしていた指輪を右手の人差し指に歩きながら移動させ、刃先がお義母様の頬に当たる様に指輪を嵌める位置を調整し、その上で叩いたのです。
思っていたより切れ味が良かったのか、お義母様の頬にはくっきりと二本の赤い筋が付きました。
「私の顔、私の顔に傷がっ!」
壁際に置かれた姿見に駆け寄り、顔の傷を確認するお義母様の姿は滑稽で、私はわざと大声を上げ指差しながら笑いました。
「醜い心根通りの醜い顔にしてあげたのよ。お義母様にお似合いの傷だわっ!」
私の笑い声は部屋に虚しく響いたのです。
私の指輪から発した雷の魔法は、一瞬イバンの体を発光させた後すぐに消えました。
たった一瞬だけの魔法です。
威力は人が死なない程度だと、お兄様には説明を受けていましたが目の前のイバンは叫び声を上げた後床に倒れてしまいました。
「イ、イバンッ。お前、何をしたの。武器になるようなものは身に着けていなかった筈よっ!」
倒れたイバンに駆け寄りながら、お義母様は私に向かい大声をあげました。
「イバン、イバンッ! 目を覚まして、あぁなんて事なの。悪魔の様な女ねっ! 私のイバンに何をしたのっ!」
倒れているイバンを乱暴に揺すりながら、お義母様は癇癪を起こしています。
この方の癇癪は見慣れてきましたが、今日のそれは今迄以上に激しい様に感じます。
「イバンッ! 私を一人にしないでっ、あなたがいなければ生きていけないわっ!!」
お兄様の言葉を信じるなら彼は気を失っているだけの筈ですが、お義母様にはそれは分からないでしょう。
彼女がイバンに気を取られて私を忘れている間に、なんとか拘束出来ないでしょうか。
そろりそろりとお義母様から距離を取りながら、呑気に次の手を考え始めました。
指輪の魔道具はもう役目を終えてしまったので、雷の魔法は使えません。
刃が出たままなので攻撃しようと思えば可能ですが、慣れないことをするよりは、今のうちに逃げた方が得策でしょうか。
「んんっ」
イバンは意識を取り戻しかけているのか、小さなうめき声が聞こえました。
良かった、生きてはいるようです。
ジリジリと扉のすぐ前まで移動しながらも、二人の様子から視線は外せません。
私に残されているのは、まだ発動していない腕輪の魔道具の雷魔法と指輪から出ている小さな刃先のみです。
早く逃げなければ。
私は二人の様子を見ながら後ろ手に扉を開き始めたその瞬間、私は恐ろしい物を見つけてしまったのです。
「ロニー?」
なんて言うことでしょう、私が床に転がされていた場所から少し離れて置かれていたソファーの側にロニーが倒れていたのです。
「そんな」
ロニーは上半身裸で、うつ伏せに倒れています。
背中には無数の鞭打った痕、血が流れている箇所すらあるのです。
私は衝撃のあまり力が入らなくなった足を必死に動かしながら、ロニーに近づきました。
「ロニー。あぁ、神様」
床に膝を付きロニーの口元に手をかざすと、かすかに空気の動きを感じました。
ピクリともしない姿に既に手を掛けられていたのかと危惧しましたが、さすがにそこまでのことはされていなかったようです。
「早く手当しなければ、でもどうやって運んだらいいの」
小さいとはいってもロニーは七歳になる子供です。
剣すら重くて持てない私の細腕では、とてもロニーを抱き上げ運ぶことは出来ません。
「運ぶ必要はないわ。それはここで死ぬのだから」
「お、お義母様?」
声に振り返ると、ナイフを持ったお義母様が立っていました。
間抜けな事に、ロニーに気を取られてお義母様達を忘れてしまっていたのです。
幸いイバンはまだ起き上がっていません。
お義母様だけなら私でも対処出来るでしょうか?
「それから離れなさい。お前はイバンの子を生むのよ、穢れた子供に近付くなど以ての外です」
「イバンはお義母様の大切な人なのではないのですか、そんな人を私に子を授けるためとはいえ、それでいいのですか?」
「いいのよ。イバンは私のものだから何だって私の願いを叶えてくれるのよ」
それは愛なのでしょうか?
目的の為に自分以外の女を抱く、それをお義母様自身が命令するなんて、それで愛していると言えるのでしょうか。
「恋した相手になら何をさせてもいいと? こんな小さな子供の背中に酷い傷を付けるほど鞭打たせ、次は私を犯させようと? ふざけるのも程々にして頂けませんか」
ふらりと立ち上がり、私は怒りのままお義母様へと近づきました。
倒れているロニーがディーンの姿に重なりました。
幼い頃のディーンも、同じ様に傷付けられていた筈です。体にも心にも傷を付けられ、一人耐えていた。
その傷を付けたのは、自分を産んだ母親だったのです。
「ロニーの傷、ディーンの傷、その辛さをあなた自身で味わうといいわっ!」
私の剣幕に驚き動けずにいるお義母様の頬へ、私は思い切り右手で叩きつけました。
「ひっ! い、嫌っ。何をするの? え、血? どうしてっ!」
左手にしていた指輪を右手の人差し指に歩きながら移動させ、刃先がお義母様の頬に当たる様に指輪を嵌める位置を調整し、その上で叩いたのです。
思っていたより切れ味が良かったのか、お義母様の頬にはくっきりと二本の赤い筋が付きました。
「私の顔、私の顔に傷がっ!」
壁際に置かれた姿見に駆け寄り、顔の傷を確認するお義母様の姿は滑稽で、私はわざと大声を上げ指差しながら笑いました。
「醜い心根通りの醜い顔にしてあげたのよ。お義母様にお似合いの傷だわっ!」
私の笑い声は部屋に虚しく響いたのです。
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