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夫の弔いと泣く子供1
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「シード神様の下へと旅立つ魂よ、この世の苦しみや悲しみから解き放たれ、安らかなる眠りにつく。この世の父偉大なるシード神様、どうかあなたの子をあなたの園へお導きください」
この日の為に王都から呼び寄せた大神官長と王都の中央神殿の神官長、領地にある神殿を管理する神官長と神官達がステンドグラスを背にしたシード神の像の前で聖句を唱えピーターの魂の安らかな眠りを祈って下さっています。
領地に戻ってから数日が経ちましたが、あの夜ディーンと二人だけの誓いをした後これと言った変化は二人の間にはありません。
変化と言っていいのか微妙な程度で言うなら、ディーンの表情が少しだけ穏やかになっている様に見えるといぐらいでしょうか。
元々ディーンと交流が頻繁にあったわけではありませんから、本当はこれが彼の常なのかもしれません。
私の記憶にあるのが、ピーターの前で無表情ながらどこか不機嫌に見える彼の顔だけなので判断が付きません。
つまり私とディーンの関係はその程度の筈でした。
「でも、彼は」
黒いベールで覆った顔を俯かせ、ハンカチで口元を隠しながら考えるのは、ディーンは何故あんなにも私に執着しているのかということです。
私にとって彼は夫の弟でしかありませんでした。
けれど、自惚れでなければ彼は私をずっと思ってくれていた様に思えます。
私はディーンがゲームの様にヤンデレ化しない様に、そしてその場の雰囲気に流されてあんな事を言ってしまいましたが、では彼を愛しているのかと聞かれたらきっと違うと答えるでしょう。
今彼に持っている感情は、愛情ではなく同情の方が強いのですから。
でも、彼は? 彼は本当に私が好きなのでしょうか。
「ピーター・ネルツはその生をシード神様の教えを守り全うしました。彼は勤勉で誠実でした、妻を愛し真摯に仕事に取り組み貴族としての誇りある人生を送りました。どうか神の園で穏やかな眠りをお与え下さい」
神官達の弔いの言葉に、私は現実に引き戻されました。
政略結婚でしかなかったとはいえ、夫は夫なのですからせめて葬儀の間だけでも次の夫になる相手を考えるのは止めた方がいい気がしました。
彼にされた仕打ちはとても酷いものでしたが、それでもここは弔いの場です。
ディーンのことを考えるのは不謹慎過ぎるでしょう。
「妻ね」
妻帯していた男性が亡くなった時の常套句を神官達は弔いの言葉として紡いでいますが、『妻を愛し』のところでつい反応してしまいました。
妻、名前を言っていないのですからそれは私ではなく彼女のことだと、そう思えばいいのですが上手く自分の中で消化出来ません。
シード神の教えでは浮気は大罪ですが、私と彼女の場合どちらが浮気になるのか、今の私には分かりません。
妻というのが書類上だけを言うのなら、私は確かにピーターの妻ですが、結婚前に子供を生みピーターに愛されていたのは彼女なのですから、そうすると二人の間に割り込んだのは私ということになってしまうのです。
こんな考え方は一般的ではないと思いますが、この考えのせいで私は彼女を恨めないどころか罪悪感を感じでしまっています。
勿論夫には憎しみというか、恨みというか、恨めしいという感情があります。
夫がもっと色々頑張ってくれていたら、誰も不幸にはならなかった筈だからというのがその理由です。
少なくとも、ロニーが不本意に戸籍を変える事態には陥ったりはしなかったでしょう。
今日ロニーは、リチャードの息子でピーターの親族として葬儀に参列しています。
まだネルツ侯爵家の養子になっていないロニーは、白ではない生成色の服を喪服の上から着て、同じく生成色の服を喪服の上から着ているリチャードの隣に座っています。
生成色の服は、故人から少し血統が離れている親族を意味します。
本来であれば白い服を着るべきですが、そう出来ないのは二人とも理解してくれました。
それが、本心かどうかは分かりませんが。
まだロニーはお義父様に会っていません。
領内の宿屋に宿泊していたロニー達は今朝直接神殿に来た為、お義父様に会う時間が取れなかったのです。
この日の為に王都から呼び寄せた大神官長と王都の中央神殿の神官長、領地にある神殿を管理する神官長と神官達がステンドグラスを背にしたシード神の像の前で聖句を唱えピーターの魂の安らかな眠りを祈って下さっています。
領地に戻ってから数日が経ちましたが、あの夜ディーンと二人だけの誓いをした後これと言った変化は二人の間にはありません。
変化と言っていいのか微妙な程度で言うなら、ディーンの表情が少しだけ穏やかになっている様に見えるといぐらいでしょうか。
元々ディーンと交流が頻繁にあったわけではありませんから、本当はこれが彼の常なのかもしれません。
私の記憶にあるのが、ピーターの前で無表情ながらどこか不機嫌に見える彼の顔だけなので判断が付きません。
つまり私とディーンの関係はその程度の筈でした。
「でも、彼は」
黒いベールで覆った顔を俯かせ、ハンカチで口元を隠しながら考えるのは、ディーンは何故あんなにも私に執着しているのかということです。
私にとって彼は夫の弟でしかありませんでした。
けれど、自惚れでなければ彼は私をずっと思ってくれていた様に思えます。
私はディーンがゲームの様にヤンデレ化しない様に、そしてその場の雰囲気に流されてあんな事を言ってしまいましたが、では彼を愛しているのかと聞かれたらきっと違うと答えるでしょう。
今彼に持っている感情は、愛情ではなく同情の方が強いのですから。
でも、彼は? 彼は本当に私が好きなのでしょうか。
「ピーター・ネルツはその生をシード神様の教えを守り全うしました。彼は勤勉で誠実でした、妻を愛し真摯に仕事に取り組み貴族としての誇りある人生を送りました。どうか神の園で穏やかな眠りをお与え下さい」
神官達の弔いの言葉に、私は現実に引き戻されました。
政略結婚でしかなかったとはいえ、夫は夫なのですからせめて葬儀の間だけでも次の夫になる相手を考えるのは止めた方がいい気がしました。
彼にされた仕打ちはとても酷いものでしたが、それでもここは弔いの場です。
ディーンのことを考えるのは不謹慎過ぎるでしょう。
「妻ね」
妻帯していた男性が亡くなった時の常套句を神官達は弔いの言葉として紡いでいますが、『妻を愛し』のところでつい反応してしまいました。
妻、名前を言っていないのですからそれは私ではなく彼女のことだと、そう思えばいいのですが上手く自分の中で消化出来ません。
シード神の教えでは浮気は大罪ですが、私と彼女の場合どちらが浮気になるのか、今の私には分かりません。
妻というのが書類上だけを言うのなら、私は確かにピーターの妻ですが、結婚前に子供を生みピーターに愛されていたのは彼女なのですから、そうすると二人の間に割り込んだのは私ということになってしまうのです。
こんな考え方は一般的ではないと思いますが、この考えのせいで私は彼女を恨めないどころか罪悪感を感じでしまっています。
勿論夫には憎しみというか、恨みというか、恨めしいという感情があります。
夫がもっと色々頑張ってくれていたら、誰も不幸にはならなかった筈だからというのがその理由です。
少なくとも、ロニーが不本意に戸籍を変える事態には陥ったりはしなかったでしょう。
今日ロニーは、リチャードの息子でピーターの親族として葬儀に参列しています。
まだネルツ侯爵家の養子になっていないロニーは、白ではない生成色の服を喪服の上から着て、同じく生成色の服を喪服の上から着ているリチャードの隣に座っています。
生成色の服は、故人から少し血統が離れている親族を意味します。
本来であれば白い服を着るべきですが、そう出来ないのは二人とも理解してくれました。
それが、本心かどうかは分かりませんが。
まだロニーはお義父様に会っていません。
領内の宿屋に宿泊していたロニー達は今朝直接神殿に来た為、お義父様に会う時間が取れなかったのです。
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