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義母の怒りと義父の戸惑い1
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「ああっ、ピーターなんていうことなのっ。神様何故私から大事な息子を奪うような真似をっ!」
数日の馬車旅を終え領地の屋敷に辿り着くと、玄関前に横付けした馬車から石棺を屋敷の中に運び入れようとした使用人達の動きを止め、お義母様が大袈裟に石棺に縋り付き大声をあげました。
「お義父様、お義母様、ピーター様をお連れ致しました」
私の存在など見えていないかの様なお義母様の態度に呆れながら、私は二人に向け挨拶するとお義父様だけが反応してくれました。
「長旅で疲れただろう、ダニエラよく戻った。ピーターの仮葬儀を執り行ってくれた事もありがとう。ディーンも手数を掛けたな」
「ピーター! 私の可愛い息子が、なんて神様は残酷なのでしょうっ」
私達の会話等聞こえていないかのように、お義母様は泣き叫んでいます。
一瞬ですがその姿を冷ややかな目で見た後、お義父様は私の後ろに立っていたディーンに近寄り彼の体を抱きしめました。
「ディーンよく戻った」
「お久し振りです父上」
「ああ、中で話そう。お前達、棺を広間に運びなさい」
ディーンの肩を抱き歩きながら、お義父様は使用人達に指示を出しました。
「お義母様」
お義母様を無視して屋敷の中へ入っていくお義父様達に呆れながら、仕方なくお義母様に声を掛けると、涙など浮かんですらいない目が私を睨みました。
「子供は出来ていなかったの?」
「ふっ」
無神経極まりない台詞につい笑ってしまうと、お義母様は先程とは違う種類の声で私の名前を叫びました。
「ダニエラ! いくらあなたが格上の家の出だからとは言っても、私はあなたの義母なのよ。お前の夫の母に敬いの心を持ちなさいっ!」
「失礼致しました。お義母様は何もご存知無かったのだと分かり安心したもので」
屋敷の中に運ばれていく石棺を見つめながら、笑顔でそう言うと、お義母様の目は面白いくらいに釣り上がりました。
「安心? どういうことかしら?」
「それはお義父様を含めた席でお話し致しますわ。私の父だけでは無く、兄も大層ご立腹ですのよ。二人から手紙を預かって参りましたけれど、お義父様の体調は問題ございませんか?」
「どういうことなの」
「手紙を読まれたらお倒れになるかもしれないと、私心配ですの」
扇を開き口元を隠しながらお義母様の様子を伺うと、今度は顔色を青くしました。
この方は上位貴族の妻とは思えない程、感情が表に出て来ます。
私を家族だからと思い油断しているのではなく、常日頃誰にでもそうなので呆れてしまうのです。
特に癇癪を起こした時の使用人達への八つ当たりは、眉をひそめたくなってしまう程で、とても下品です。
「そんな、公爵のご機嫌を損ねる様なこと私達にある筈がないわ」
「お義父様達はそのつもりだったのでしょうね。ですが父はそう感じていない様ですけれど」
完全に歩みが止まってしまったお義母様に、中へ入るよう促しながら私は二通の手紙の内容を思い出し憂鬱になっていました。
今この場にはいませんが、手紙にはロニーと彼の母親についても書かれています。
ロニーの母親が入っているとして、空の棺を葬儀をした神殿の墓地とは別の平民用の墓地に埋葬したのは、王都の屋敷を出る前日でした。
墓地の埋葬記録は、リチャードの妻として記載していますから、戸籍だけ言えば前世で言うところのダブル不倫の末に彼らは亡くなった様に見えるのかもしれません。
彼女は、リチャードの妻として葬られることを望んではいなかった筈です。
それどころか埋葬の記録だけでも、ピーターの妻になりたかったでしょう。
そう考えると、私は彼女に相当な恨みを持たれてしまった気がします。
この世に未練を残した魂が幽霊になるとしたら、私は彼女の幽霊に取り殺されることでしょう。
霊なんて前世の私は信じてはいませんでしたが、こうして転生している私がいるのですから、幽霊の類も存在しているのかもしれないと、最近思うようになりました。
「そんな……」
「長旅で疲れていますの、お話は着替えを済ませてからと言うことでよろしいですね」
呆然と立ち竦むお義母様を一人残し、私は中へ入ると領地屋敷の自分の部屋に足を進めたのです。
数日の馬車旅を終え領地の屋敷に辿り着くと、玄関前に横付けした馬車から石棺を屋敷の中に運び入れようとした使用人達の動きを止め、お義母様が大袈裟に石棺に縋り付き大声をあげました。
「お義父様、お義母様、ピーター様をお連れ致しました」
私の存在など見えていないかの様なお義母様の態度に呆れながら、私は二人に向け挨拶するとお義父様だけが反応してくれました。
「長旅で疲れただろう、ダニエラよく戻った。ピーターの仮葬儀を執り行ってくれた事もありがとう。ディーンも手数を掛けたな」
「ピーター! 私の可愛い息子が、なんて神様は残酷なのでしょうっ」
私達の会話等聞こえていないかのように、お義母様は泣き叫んでいます。
一瞬ですがその姿を冷ややかな目で見た後、お義父様は私の後ろに立っていたディーンに近寄り彼の体を抱きしめました。
「ディーンよく戻った」
「お久し振りです父上」
「ああ、中で話そう。お前達、棺を広間に運びなさい」
ディーンの肩を抱き歩きながら、お義父様は使用人達に指示を出しました。
「お義母様」
お義母様を無視して屋敷の中へ入っていくお義父様達に呆れながら、仕方なくお義母様に声を掛けると、涙など浮かんですらいない目が私を睨みました。
「子供は出来ていなかったの?」
「ふっ」
無神経極まりない台詞につい笑ってしまうと、お義母様は先程とは違う種類の声で私の名前を叫びました。
「ダニエラ! いくらあなたが格上の家の出だからとは言っても、私はあなたの義母なのよ。お前の夫の母に敬いの心を持ちなさいっ!」
「失礼致しました。お義母様は何もご存知無かったのだと分かり安心したもので」
屋敷の中に運ばれていく石棺を見つめながら、笑顔でそう言うと、お義母様の目は面白いくらいに釣り上がりました。
「安心? どういうことかしら?」
「それはお義父様を含めた席でお話し致しますわ。私の父だけでは無く、兄も大層ご立腹ですのよ。二人から手紙を預かって参りましたけれど、お義父様の体調は問題ございませんか?」
「どういうことなの」
「手紙を読まれたらお倒れになるかもしれないと、私心配ですの」
扇を開き口元を隠しながらお義母様の様子を伺うと、今度は顔色を青くしました。
この方は上位貴族の妻とは思えない程、感情が表に出て来ます。
私を家族だからと思い油断しているのではなく、常日頃誰にでもそうなので呆れてしまうのです。
特に癇癪を起こした時の使用人達への八つ当たりは、眉をひそめたくなってしまう程で、とても下品です。
「そんな、公爵のご機嫌を損ねる様なこと私達にある筈がないわ」
「お義父様達はそのつもりだったのでしょうね。ですが父はそう感じていない様ですけれど」
完全に歩みが止まってしまったお義母様に、中へ入るよう促しながら私は二通の手紙の内容を思い出し憂鬱になっていました。
今この場にはいませんが、手紙にはロニーと彼の母親についても書かれています。
ロニーの母親が入っているとして、空の棺を葬儀をした神殿の墓地とは別の平民用の墓地に埋葬したのは、王都の屋敷を出る前日でした。
墓地の埋葬記録は、リチャードの妻として記載していますから、戸籍だけ言えば前世で言うところのダブル不倫の末に彼らは亡くなった様に見えるのかもしれません。
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それどころか埋葬の記録だけでも、ピーターの妻になりたかったでしょう。
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「そんな……」
「長旅で疲れていますの、お話は着替えを済ませてからと言うことでよろしいですね」
呆然と立ち竦むお義母様を一人残し、私は中へ入ると領地屋敷の自分の部屋に足を進めたのです。
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