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戸惑う未亡人は義理の弟に求婚される
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「こんなところで会うとは思いませんでした」
兄が自宅へと戻り、夕食を済ませた後私は皇帝の薔薇の花びらをたっぷりと浮かべた湯船に身を沈めこれからの事を考えていました。
皇帝の薔薇の咽かえる様な芳醇な香りに包まれながらの入浴は、公爵令嬢時代からの習慣です。
私はこの薔薇の香りが大好きで、薔薇の花が咲いている間は常に湯船にこの薔薇を浮かべ入浴し、紅茶にも薔薇の花びらを浮かべていました。
それが解毒に繋がっていた等知りもせず、そうしていたのです。
「ディーン、まだ眠っていなかったのですか」
入浴後、火照った体を冷ます為私は一人庭に出ていました。
髪はメイナの魔法で乾かした後緩く一つに三つ編みしただけ、寝間着に薄いガウンを羽織っただけの頼りない装いです。
寝間着は公爵領の産業の一つ、魔絹糸で織った魔絹で作られたものです。
魔絹は、透けるように薄い布地を織ることもドレスに使う様なハリのあるしっかりした布地を織ることも出来る使い勝手のいいものです。
とろりとした手触りと、光によって輝きが変わる布面がとても贅沢で私のお気に入りです。
夫との閨事に限らず、私は魔絹の寝間着を愛用していました。
前世で着ていたパジャマの様な形は、この世界にはありません。
女性は基本足首までの丈のネグリジェの様な物を着ていて、今私が着ているのもそうです。
「ええ。少し考えたくて、夜の散歩をと」
「そうですか」
この姿は少しはしたないでしょうか。
前世の記憶でも、さすがに庭に出ていい格好ではありません。
でもガウンを羽織ってしっかり前を閉めていますし、この庭の主人は私ですから、堂々としていていいはずです。
この世界では、かなり大胆な恰好ですがそんなこと知りません。
「あなたはそんな無防備な姿でも、美しいのですね」
熱に浮かされた様に言うディーンに、私は冷ややかな目をして答えました。
「私は夫を亡くしたばかりの未亡人ですが、あなたは私の尊厳をどうでもいいと考えているのかしら」
夫を愛していたわけではありません。
彼は政略婚の相手で、それ以上でもそれ以下でもない。
それを私は今日、嫌と言う程に思い知った筈です。
「それは。申し訳ありません。私は貴女の夫になれる可能性に、みっともなくも浮かれていました」
素直に心を吐露するディーンは、次の夫とするには好ましい相手だと思います。
これが本心なのだとしたら、ですが。
「浮かれる? 私は夫に嘘をつかれて、誓いを破り愛人を作られて、子の存在を隠されて、毒の避妊薬を使われていた女ですよ。偽造した離縁状を使われていたら私の尊厳などあってない様なもの。嫁いで五年、私は心の底から夫を信頼していたというのに、そんな仕打ちをされていたことにも気が付かない、愚かな女なのです。そんな女があなたに相応しいのかしら」
憐れを誘う様にそう言えば、ディーンは痛ましい物を見る様な目で私を見た後その場に跪きました。
「私はそんな風には思いません」
「ディーン?」
「あなたが兄と婚約した時、私は自分が母に疎まれる次男でしかない己を悔いました。どうして自分は自分でしかないのか、そう悔やんで諦めました」
跪き私を見上げる目には、はっきりとした情欲の炎が浮かんでいました。
夫に五年もの間蔑ろにされていた私にも、ディーンの目に浮かぶ情欲は本物だと理解できます。
蔑ろにされ続けていたからこそ、これが本物だと分かるです。
「ディーン」
「兄の事故は不幸な事故です。でも、そのお陰で俺にはこんな夢の様な機会が巡ってきました。義姉さんとしか呼べなかったあなたの名前を呼ぶ許可を下さいますか。私にあなたを求める許可をどうか」
「私は夫に愛されなかった。求められなかったどころか、邪魔にされ疎まれて毒を使われていたのよ。それを愚かにも気が付かなった女よ」
言葉にするとなんと情けないことでしょう。
それでもそう口にすればディーンはゆっくりと首を横に振りました。
「そんなことは愚かな兄のせいです。兄はあなたが素晴らしい女性だと気が付かないまま終わってしまった。だからこそ俺に幸せを残してくれたのです」
「幸せ?」
そんなもの、私が望んでいいのでしょうか。
誰も知らない話ですが、私は悪役令嬢の母親なのです。
私が産んだ子がゲームの攻略対象者であるロニーに恋をし、主人公の前に悪役として立ちはだかるのです。
そうした末に私と娘は悪役として断罪されるのです。
「あなたは本当に本心から私を妻として、女として愛して下さると言うの?」
それはなんていう甘美な未来でしょうか。
現実世界で夫には求められずにいた私、ゲームで悪役でしかない私が妻として求められるなんて。
「許されるなら、私の妻として生涯一緒に生きていきたいのです。どうか私の手を取って頂けませんか。あなたを愛し、あなたを守る幸福を私に与えてくれませんか」
兄様の言う通り彼は善良な人なのでしょう。
ディーンが夫なら私は幸せになれるのでしょうか、ゲームの現実は、起こりえない未来なのでしょうか。
「私は子が産めないかもしれないのよ」
兄様の話を信じるなら、私の体は皇帝の薔薇によって守られていた筈です。
でも、それは口に出来ませんし、ディーンには生涯伝えません。
「そんな事どうでもいい。子が生まれないならあなたの望み通りロニーを養子にし跡継ぎにすればいいだけだ」
「お義母様が許さないわ。子を産めない女も、平民の母親を持つ跡継ぎもお義母様は認めない」
「そんな事、俺が気にしない。兄が亡き後家を継げるのは俺だけなのだから、俺は貴女を俺の妻となるダニエラを全力で守るだけだ。あなたはさっき言ってくれただろう、兄が決断して平民になっていれば、私と結婚して幸せになっていた筈だったと。私はそれを現実にしたい、あなたを私の手で幸せにしたい」
それは、ピーターに望んでいたセリフでした。
私を妻として守る、そう彼に望んでしたのです。
「それ程まであなたが私を望んでくれるのなら、私はあなたの、ディーンの妻になります。ディーン、生涯私だけを愛すると誓ってくれますか?」
皇帝の薔薇が咲きほこる庭で、私は跪くディーンに尋ねました。
「誓います。私は生涯あなただけを愛し守ると誓います」
未亡人になったばかりの私は、夫の弟からの愛の告白を受け入れたのです。
兄が自宅へと戻り、夕食を済ませた後私は皇帝の薔薇の花びらをたっぷりと浮かべた湯船に身を沈めこれからの事を考えていました。
皇帝の薔薇の咽かえる様な芳醇な香りに包まれながらの入浴は、公爵令嬢時代からの習慣です。
私はこの薔薇の香りが大好きで、薔薇の花が咲いている間は常に湯船にこの薔薇を浮かべ入浴し、紅茶にも薔薇の花びらを浮かべていました。
それが解毒に繋がっていた等知りもせず、そうしていたのです。
「ディーン、まだ眠っていなかったのですか」
入浴後、火照った体を冷ます為私は一人庭に出ていました。
髪はメイナの魔法で乾かした後緩く一つに三つ編みしただけ、寝間着に薄いガウンを羽織っただけの頼りない装いです。
寝間着は公爵領の産業の一つ、魔絹糸で織った魔絹で作られたものです。
魔絹は、透けるように薄い布地を織ることもドレスに使う様なハリのあるしっかりした布地を織ることも出来る使い勝手のいいものです。
とろりとした手触りと、光によって輝きが変わる布面がとても贅沢で私のお気に入りです。
夫との閨事に限らず、私は魔絹の寝間着を愛用していました。
前世で着ていたパジャマの様な形は、この世界にはありません。
女性は基本足首までの丈のネグリジェの様な物を着ていて、今私が着ているのもそうです。
「ええ。少し考えたくて、夜の散歩をと」
「そうですか」
この姿は少しはしたないでしょうか。
前世の記憶でも、さすがに庭に出ていい格好ではありません。
でもガウンを羽織ってしっかり前を閉めていますし、この庭の主人は私ですから、堂々としていていいはずです。
この世界では、かなり大胆な恰好ですがそんなこと知りません。
「あなたはそんな無防備な姿でも、美しいのですね」
熱に浮かされた様に言うディーンに、私は冷ややかな目をして答えました。
「私は夫を亡くしたばかりの未亡人ですが、あなたは私の尊厳をどうでもいいと考えているのかしら」
夫を愛していたわけではありません。
彼は政略婚の相手で、それ以上でもそれ以下でもない。
それを私は今日、嫌と言う程に思い知った筈です。
「それは。申し訳ありません。私は貴女の夫になれる可能性に、みっともなくも浮かれていました」
素直に心を吐露するディーンは、次の夫とするには好ましい相手だと思います。
これが本心なのだとしたら、ですが。
「浮かれる? 私は夫に嘘をつかれて、誓いを破り愛人を作られて、子の存在を隠されて、毒の避妊薬を使われていた女ですよ。偽造した離縁状を使われていたら私の尊厳などあってない様なもの。嫁いで五年、私は心の底から夫を信頼していたというのに、そんな仕打ちをされていたことにも気が付かない、愚かな女なのです。そんな女があなたに相応しいのかしら」
憐れを誘う様にそう言えば、ディーンは痛ましい物を見る様な目で私を見た後その場に跪きました。
「私はそんな風には思いません」
「ディーン?」
「あなたが兄と婚約した時、私は自分が母に疎まれる次男でしかない己を悔いました。どうして自分は自分でしかないのか、そう悔やんで諦めました」
跪き私を見上げる目には、はっきりとした情欲の炎が浮かんでいました。
夫に五年もの間蔑ろにされていた私にも、ディーンの目に浮かぶ情欲は本物だと理解できます。
蔑ろにされ続けていたからこそ、これが本物だと分かるです。
「ディーン」
「兄の事故は不幸な事故です。でも、そのお陰で俺にはこんな夢の様な機会が巡ってきました。義姉さんとしか呼べなかったあなたの名前を呼ぶ許可を下さいますか。私にあなたを求める許可をどうか」
「私は夫に愛されなかった。求められなかったどころか、邪魔にされ疎まれて毒を使われていたのよ。それを愚かにも気が付かなった女よ」
言葉にするとなんと情けないことでしょう。
それでもそう口にすればディーンはゆっくりと首を横に振りました。
「そんなことは愚かな兄のせいです。兄はあなたが素晴らしい女性だと気が付かないまま終わってしまった。だからこそ俺に幸せを残してくれたのです」
「幸せ?」
そんなもの、私が望んでいいのでしょうか。
誰も知らない話ですが、私は悪役令嬢の母親なのです。
私が産んだ子がゲームの攻略対象者であるロニーに恋をし、主人公の前に悪役として立ちはだかるのです。
そうした末に私と娘は悪役として断罪されるのです。
「あなたは本当に本心から私を妻として、女として愛して下さると言うの?」
それはなんていう甘美な未来でしょうか。
現実世界で夫には求められずにいた私、ゲームで悪役でしかない私が妻として求められるなんて。
「許されるなら、私の妻として生涯一緒に生きていきたいのです。どうか私の手を取って頂けませんか。あなたを愛し、あなたを守る幸福を私に与えてくれませんか」
兄様の言う通り彼は善良な人なのでしょう。
ディーンが夫なら私は幸せになれるのでしょうか、ゲームの現実は、起こりえない未来なのでしょうか。
「私は子が産めないかもしれないのよ」
兄様の話を信じるなら、私の体は皇帝の薔薇によって守られていた筈です。
でも、それは口に出来ませんし、ディーンには生涯伝えません。
「そんな事どうでもいい。子が生まれないならあなたの望み通りロニーを養子にし跡継ぎにすればいいだけだ」
「お義母様が許さないわ。子を産めない女も、平民の母親を持つ跡継ぎもお義母様は認めない」
「そんな事、俺が気にしない。兄が亡き後家を継げるのは俺だけなのだから、俺は貴女を俺の妻となるダニエラを全力で守るだけだ。あなたはさっき言ってくれただろう、兄が決断して平民になっていれば、私と結婚して幸せになっていた筈だったと。私はそれを現実にしたい、あなたを私の手で幸せにしたい」
それは、ピーターに望んでいたセリフでした。
私を妻として守る、そう彼に望んでしたのです。
「それ程まであなたが私を望んでくれるのなら、私はあなたの、ディーンの妻になります。ディーン、生涯私だけを愛すると誓ってくれますか?」
皇帝の薔薇が咲きほこる庭で、私は跪くディーンに尋ねました。
「誓います。私は生涯あなただけを愛し守ると誓います」
未亡人になったばかりの私は、夫の弟からの愛の告白を受け入れたのです。
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