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戸惑いながら

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「今なんて?」

 聞き間違いでしょうか。
 混乱する表情を扇を開いて口元を隠し取り繕いながらディーンを見れば、彼は貴族らしく無表情で紅茶を口にしています。

 聞き間違いというよりも、私の反応を見たかっただけなのでしょうか。
 仮にも私は、今日夫の葬儀を行ったばかりの未亡人なのですが。

「あなたが私の妻になるのなら、彼を我が養子にしてもいいと言ったのですよ」
「夫を亡くしたばかりの女に言うことではありませんね」

 兄は面白そうに私達を見ています。
 と、言うことは反対ではないのでしょう。

 まあ、私の新たな嫁ぎ先を吟味するよりも、この家の嫁としていた方が簡単ですし面倒もありません。
 そもそもこの家は、お父様が王妃が生まれるに相応しい血筋と判断して私を嫁がせた家です。
 兄から弟に夫が代わるより、未亡人になって別な家に嫁ぐ方が、私の産む子が王妃になる確率は減るでしょう。
 もっとも、娘が生まれても待っているのは破滅なのかもしれませんが。

「そもそも結婚について私は意見が言える立場ではありません。兄に聞いてくださいませ」

 実家に戻るにしろ、この家に残るにしろ私の気持ちではなく、公爵家の考えが重要なのですから私にそんな事を言っても意味がありません。

「あなたのお兄様は、あなたの意見を尊重すると仰っていますが」
「あなたの大嫌いな兄の使い古しで、子が産めない可能性のある女より、もっと若く愛らしい人を望むべきではありませんか?」

 この二人の兄弟仲など実際は把握していませんが、夫は彼を馬鹿にしていましたし、ゲームではディーンは兄を憎んでいた様な台詞が出てきます。
 それ故ロニーは義父であるディーンから愛されなかったのです。

 思えばゲームのロニーは被害者です。

 愛人の子として生まれたせいで、祖母から嫌われ虐待され、ディーンからも愛されずむしろ憎まれて、リチャードからは呪いの様に私への恨みつらみを吹き込まれるのですから、真っ当な精神が育つ筈がありません。

「自分を卑下するものではないぞ」
「卑下ではなく事実ですわ」

 解毒薬を飲んでいても、あれは用心の為の弱い薬です。
 あの避妊薬に効いていたかどうかは分かりませんし、ゲームで私が女の子を産んでいるから産めるだろうと、そんな楽観は出来ません。

「まあ、あの薬はかなり強い、薄めていたとしてもどの程度か分からない今可能性は否定できないだろうな」
「つまり、政略の駒にもなれません」

 私をどこかの後妻にして家同士の繋がりを持ちたいのではなく、お父様は私が産んだ娘が必要なのですから、子が産めない私等お父様には価値がないのです。
 兄様は従兄妹と結婚していますから、血の濃さは変わりませんから私の産んだ娘が必要なのです。

「それならこの家で骨を埋めるのだな。薬の件を侯爵に話す、それで納得するだろう」
「お義父様達は納得しませんわ」
「政略結婚だというのに、それを息子に納得させられないだけでなく嫁いできたお前を害そうとしたのだ。向こうの意見など不要だ」

 これが確定してしまえば、ゲームの設定が崩れてしまいます。
 あぁ、でも私が娘を産めば変わらないのでしょうか。

「そうですか」
「いいのだなそれで」
「私はお兄様のご命令に従うのみです」

 実質的な決定権はお父様にありますが、兄がここで決定するということは、事前に二人で話をしてきたのでしょう。

「あなたはそれでいいのですか?」
「ええ。結婚に関しては自分の意見など関係ないと決めていますの。大事なのは経緯ではなく結果ですから。少なくとも今回は当人が望んでくれたのですから、私は兄の命令に従うのみです。あなたの兄とは違い、あなたは私を望んでくれるのでしょう?」

 一度目よりはマシ、なんて言うのは流石に死者に失礼なのでしょうね。
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