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1章 勇者、現代日本の洗練を受ける

勇者、ヒモになる 1

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「あんら!お兄さん!今日もお買い物かい?」

「こんにちは、おばさん。今日はジャガイモを買いに来ました。蒸してバターと一緒に食べたら美味しいってネットで見つけて…良さそうな物は有りますか?」

「じゃがバターかい?それならこの芋がオススメだよ。お兄さんいつもウチで買い物してくれるし、イケメンだからサービスしちゃうよ。他の種類のジャガイモも何種類か付けとくから食べ比べしてみておくれ」

すっかり顔馴染みになった八百屋のおばさんにお礼を言って店を後にする。

俺がこの世界…地球と呼ばれる星の、日本と言う国に異世界転移して30日ほどの時間が経っていた。

思えば最初からおかしかった。途轍もなく文明が発達しているが共通言語が通じず、世界中で流通している筈のガルク通貨も使えない。
未開の小国ならまだしも、こんなに文明の発達した人口も多い国を世界中旅した俺が知らない筈は無い。

何か不自然さを覚えながら、見知らぬ国にやって来たと考えていたが、見知らぬ国では無く見知らぬ世界の間違いだった。

この世界の勝手が分からず、巨大な石柱の様な建築物…『ビル』と呼ばれるもの達が無数にそびえ立つ場所から少し歩いた場所に有った『公園』と呼ばれる場所で野宿をしていた時に彼女に出会った。

真夜中の公園で暴漢に乱暴をされそうになっていたミヤモト=アスカ。彼女は暴漢達から救ってくれたお礼にと、俺を自宅に招き入れ食事をご馳走してくれた。
その後俺の話から今の状況…異世界へ転移してしまったのでは無いかと推測したのもアスカだ。

この世界の常識を教えてくれた彼女は、俺にしばらく自分の家に住まないかと話を持ち掛けてくれた。

一人暮らしをしている同年代の女性であるアスカにそこまで世話になるのもどうかと思ったが、俺にはこの世界の事を何も知らない。結局アスカの申し出に甘え、一緒に生活をする事となった。

「おばさんがオマケしてくれたおかげで、安く大量にジャガイモが手に入った…あっ、そういえばアスカからバターも買って来る様に頼まれていたな。少し足を伸ばして隣町の激安スーパーまで行ってみるか…ってハァ…情け無い…」

元の世界…パロ・ブランジュではそれなりに資産を持っていた方だと思う。

世界各地で倒した魔物の素材を売った代金や、邪神討伐の為にと世界中の国から多くの資金援助を受けていたからだ。俺の次元収納の中には、パロ・ブランジュでなら恐らく一生遊んで暮らしていけるだけの資産が眠っているだろう。

「そう言えば『マーガリン』ってバターに良く似た物が有るから買う時に気を付けろってアスカが言ってたな。一体何が違うんだ?帰ったらネットで調べてみよう」

しかしこの世界で俺は、金も無ければ常識も無い、ただの無職になってしまっていた。

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