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二つの違いとは ヴィクト視点

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 クリスに結婚の申し出を断られた。
 まぁ、これ自体は別にどちらでも良かったのだが、断られた理由がよくわからなくて、気づいたら俺は伯父上の部屋を訪れていた。

「伯父上、少しお時間よろしいですか?」

「いいぞ。入れ」

 許可を得て入室すると、伯父上は執務机で書簡と睨み合いをしていた。何か面倒な案件なのだろう。

「ご相談したいことがありまして」

 そう言うと、伯父上は書簡を置いて、眉間を親指と人差し指で揉んでから、俺の方へ椅子ごと体を向けた。

「何だ。わからないことでもあるのか?」

「はい。伯父上、「好き」と「愛してる」は違うのですか?」

「──はい?」

 伯父上が「何の話?」と訊ねて来たので、帰って来た時のクリスとの一連のやり取りを伝えると、何故だか伯父上は頭を押さえて俯いてしまった。

「あまりにも情緒がない」

 長い沈黙の後の、伯父上の第一声だった。

「何がです?」

「何がじゃないわ。全体的に情緒が死んでんだよ。何その全く雰囲気のないプロポーズは!? 星空の下っつーシチュエーションは最高なのに、何か、こう、もっと言い方あっただろ!!」

 クリスといい、伯父上といい、やっぱり言ってる意味がわからない。俺はただ、自分の意見と感情を率直に言葉にしているというのに、何故こんな風に言われなくてはならないのだろう。

「気心の知れた相手ですし、今更畏まった言い方をする必要なないと思ったのですが」

「そういう意味の言い方じゃねーわ・・・・・・」

「訳わからんこと言ってないで、わかるならとっとと「好き」と「愛してる」の違いを教えてくださいよ」

「ほんと、お前のそーゆーとこ、昔のリアそっくり・・・・・・あー、「好き」と「愛してる」ね。まぁ、大雑把に言えば「親愛」と「恋愛」の違いってクリス嬢は言いたかったんじゃないか?」

 親愛と恋愛・・・・・・。
 言葉の意味はわかる。
 親愛とは相手に対し、親しみを抱く感情。主に家族や友人が対象だ。俺とクリスの間にある感情もこれに該当するだろう。
 恋愛は主に男女間に生じる愛情のこと。物語の一大ジャンルでもあるし、クリスが読んでいたものを読まされたこともあるから、ニュアンスは理解している筈だ。
 なるほど。確かに家族や友人に好意を伝える際に「好き」という言葉は使っても、「愛してる」は滅多には使わないだろう。
 逆に、恋人同士は好意を伝える際に「愛してる」の言葉を使っている印象がある。
 クリスが言いたかったのは、このことか?

「つまり、クリスは夫婦関係に恋愛感情を求めていると?」

「そうじゃないか? まぁ、政略結婚が常の貴族とは言え、年頃の女の子なんだ。それくらい普通のことだろ」

 クリスに恋愛に対する憧れがあったとは以外だった。
 親が決めた婚約を粛々と受け入れていた様子から、そういったものはないと思っていた。

 ──だったら尚更、あの侯爵の息子とは結婚するべきじゃない。

 貴族が自由恋愛は難しいのはわかっている。
 それは出来て公然の秘密の不貞と名のつく関係が大半だ。
 母さんみたいに、それこそ全部捨てる覚悟で動き回った場合は別だろうが、それが出来る者は少ない。
 だとしても、それがクリスの幸せになるなら、俺はクリスには自由恋愛をして欲しいと思う。

「なら、問題は相手ですね・・・・・・クリスの性格からして、婚約者がいる状態で他の男に恋慕を抱くことはないでしょうし。伯父上、恋愛関係に至る男女ってどうやって出会うんですか? 何かそういった会合の場所でもあるんでしょうか。あるなら教えていただきたいのですが」

 とにかく、クリスが「愛してる」と思える相手が必要なことは理解した。
 だからその相手を用意するために必要なことを訊ねようとしたら、何故か伯父上が今度は引き気味の顔をしている。

「いや、うん。まぁ、辺境伯家から条件の良い相手を紹介してやることは出来るけど・・・・・・お前、それでいいの?」

「いいも何も望んでいるから頼んでいるのですが」

「そうじゃなくて! お前、クリス嬢のことが好きなんじゃないの?」

「好きですよ?」

 それは最初から言ってるじゃないですか。
 もしや、伯父上は俺の話を聞いていないんじゃ、と疑いを持ち始めるが、背凭れに身を預けた伯父上は、予想外のことを言った。

「オーケー。俺の言い方が悪かった。今の話に添って聞き直す。お前、クリス嬢を「愛してる」んじゃないのか?」

 ・・・・・・・・・・・・俺が、クリスを──愛してる?
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