グリモワールと文芸部

夢草 蝶

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第一章 紫炎のグリモワール

16.ひまわりとガルランド

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 あの後すぐにホームルームの予鈴が鳴ってしまい、遅れるわけには行かず、私は学園長室を後にした。
 教室にギリギリ本鈴までに駆け込むと、いつもの日常が待っていた。

「ひまわりー、おはよー」
「ギリギリセーフ!」

 挨拶をしてくれる友達。

「八瀬さんが遅刻ギリギリなんて珍しいわね。早く席に着きなさい」
「はい」

 教壇に立つ担任の先生。
 いつも通りの日常がそこにあった。

 ホームルームを恙無く終え、一時間目の授業が始まる。一時間目は現国の授業だったけれど、現国の先生は授業の進行速度が早く、すでに範囲を終えていたため、中間テストのための自習になった。
 私は最初は友達と一緒に勉強していたけれど、参考書を忘れていたことに気づき、図書館に借りに行くことにした。自習時間はトイレと図書館に行くのは許可されている。

「私ちょっと図書館に行ってくるね」
「え? つき合おうか?」
「ううん、参考書借りたらすぐ戻ってくるから待ってて」
「分かった。いってらっしゃーい」
「いってきまーす」

 私は手を振り、教室を出た。
 本校舎から図書館に続く長い渡り廊下を歩く。
 授業中だからか人気がない。クラスメイトたちは図書館に行く人は授業が始まってすぐに図書館に向かったから誰もいないのだ。

「レムガさん、大丈夫かな……?」
「気になる?」
「うん……ん?」

 ぽつりと独り言を呟くと、誰かの声がした。ぼーっとして思わず答えちゃったけど、誰?
 振り返ると目に痛いほど鮮烈な赤が映った。

「~~~~っ!!!??」

 その人物が誰か分かった瞬間、反射的に数歩後退した。

「ガ、ガルランド!」
「こんにちは~」

 袖をぶらぶらさせながらガルランドが呑気に挨拶をしてくる。私の方は警戒心マックスだ。

「な、なにか用ですか?」
「お前、あの鈴乃の孫なんだって?」

 ガルランドがずいっと顔を近づけてくる。それから私の周りをくるくる回り、不躾にじろじろ見てきた。これは、さすがにちょっと失礼じゃないかな?

「なんで知って……」
「レムガから訊いた」

 素直なレムガさんなら訊かれれば答えそう。って、そうだ! この人、さっきまで学園長室でレムガさんと一緒にいたんだった!

「ガルランド!」
「うおっ、なんだよ。すげー顔してるぞ」

 私はガルランドの肩を逃がすまいと力一杯掴んだ。

「ちょ、お前見かけに寄らず、握力あるな。痛い痛い!」

 ガルランドが騒ぐが、そんなのはお構い無しだ。私はガルランドを問い詰めた。

「貴方、知ってるのよね? おばあちゃんのこと」
「鈴乃のこと……? ああ、鈴乃が死んでることか?」
「……話したの? レムガさんに」

 恐る恐る訊ねる。もし、このガルランドを通しておばあちゃんの死がレムガさんに伝わっていたとしたら……。
 最悪の仮定に血の気が引いた。

「ああ、言おうとしたらトガリに追い出されたんだよ。なに? お前ら鈴乃のことレムガに隠してんの?」

 私はほっとした。学園長ナイスです。

「おーい、聞いてる?」
「聞いてる」

 私は正直、困ってしまった。このガルランドという悪魔は苦手だ。何せ、ファーストインプレッションが最悪だった。正直関わりたくない。
 ガルランドの横を素通りして図書館に行こうとしたが、そうは問屋が卸さず私はガルランドに腕を捕まれた。
 
「おい、鈴乃の孫」
「八瀬ひまわりです」
「じゃ、ひまわり。ちょっとつき合えよ」

 嫌です。
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