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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
緩やかで確かな変化
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結構ガチなトーンで意見を否定したからか、マリス嬢が「えー」と不満そうな声を上げた。
「ないでしょ」
「ありますよ」
「あるでしょ」
「多数決反対。数の暴力はんたーい」
面倒臭そうにマリス嬢が言う。
二対一という極めて小規模な対決であったが、それは友情はあります派の完全勝利──って、いやいや勝負じゃないですからね?
「マリスじょー・・・・・・私たちが今から始めるのは卒業パーティーなんですけど、一応、友情とかそんな感じの集大成! って感じなんですけど」
「何そのふわふわした感じ。別にいいけど」
「えー。良くないと思うんですけど」
「何が?」
「そんなんでマリス嬢、今日のパーティー楽しめるんですか?」
「ギーシャ王子がいるなら、いつでもどこでも楽しめるわ」
いい笑顔で答えられてしまった。
個人的には罰云々は置いといて、ギーシャたち含む全員に楽しんで貰いたいっていうのが私の目標なんだけど。
「貴女──」
「ん?」
「友達いないの?」
「げほっ!」
リンス嬢────!!!
まさか、その台詞をストレートに言っちゃう人がいるなんて! 思わず噎せたわ!!
しかも、心底憐れむような表情してる!!
嫌味とか煽りとか一切ない、純粋な憐憫の目だよ!
「いなくて何か問題が?」
こっちはこっちで本気で友情の必要性に首傾げてるし! 何だコレ!?
「マリス嬢、それ、ミカさんに言っちゃダメですよ? ひっぱたかれますよ」
「何でよ?」
・・・・・・ヤバい。ここに来てマリス嬢がミカさんを友人認定してない疑惑が浮上してきたぞー?
いや、ミカさんは一昨日ちらりと会っただけだから、実際二人がどれくらいの仲かは知らないけど少なくとも、あっちは友人だと思ってると思う。
「と・に・か・く! ダメです!」
強く言うと、マリス嬢はわかったわと渋々頷いた。
マリス嬢とミカさんの親密さは置いといて、普通に友情なんてありませんなんて、人間関係に亀裂を生みかねない発言だ。
ここにいたのが私とリンス嬢だけでよかった。
正直、現状私たちに友情があるかないかっていったら多分ない。あくまで転生者仲間ってところだ。
しかも、端から見たら、二人は犬猿、二人と私は加害者と被害者。うーん、ほんとなんなんだろね。
「にしても、ミリア嬢はともかく、アンタも友情信じるタイプなのね」
「当然。私が『祝愛のマナ』に出会ったのも友人の勧めだもの」
「あ、リンス嬢は友達に勧められて始めたんですね!」
「ええ。ゲームは家で禁止されてたから、友人の家でやらせて貰ってたわ」
「へー! 私はたまたま見かけた動画広告がきっかけでしたよ~。マリス嬢は?」
ここは話を明るい方へ持っていこう!
『祝愛のマナ』の話題なら、マリス嬢もテンション上がるはず!
「現実逃避にいい方法をネットで検索したら出てきて、そこからズップリだったかしらね」
「ん"んん──────!!!!!」
「「ど、どうしたの!?」」
明るい話題にならねぇ! と、うっかり蹲って床に拳を叩きつけてしまった。
今度はマリス嬢とリンス嬢がハモる。
「・・・・・・オーケー。マリス嬢」
「は、はい」
「話を戻しましょう。主にイクス辺りに」
「イクスって言っても、もう魔法管理局にはいない。このパーティーに現れることはないってことしか分からないわよ。ま、それでよかったのかもだけど」
「いいんですかね?」
「イシュアン卿の目論見を邪魔するって点ではいいんじゃない? あの人の計画的に私とイクスが必要っぽいし」
「ランカータ侯爵の計画って?」
「さぁ?」
「はぁあああ・・・・・・」
前途多難な状況に私は溜め息をついた。
闇魔法。呪術師。鍵。レイセン王国の茨の魔王。白の魔力。魔法管理局。聖魔法団。ランカータ侯爵。
耳慣れないワードのオンパレードだ。
ここら辺はもう、ゲームとは関係ないっぽいし、かと言って放置するのもヤな予感するんだよなぁ。
「正直、イシュアン卿の思惑は分からないけど、要は私がそれに乗らなければいいだけの話でしょ? そこまで深刻になる必要はないわ」
「そうかしら? 貴女の力試しの為に王族に刺客を差し向けるような輩を懐に抱えてるような人なのでしょう? いざとなったら人質戦法とか卑劣な手に打って出られるかもしれないわよ」
リンス嬢から不穏な言葉が飛び出した。
人質かぁ。今回のテロール子爵の凶行を考えると、ないとは言い切れない気がする。
「・・・・・・それは有り得るわね。ギーシャ王子や両親を人質に取られたら不味いわ」
「魔法管理局の大臣なら、王宮内にも息のかかった人がいても不思議じゃありませんからね。けど、ギーシャは自衛手段ありますし、ギルハード様もついているので大丈夫だと思いますよ」
「うちの両親は二人ともレイセン出身だから、魔法使えるけど、主に料理方面に特化してるのよね。それにイシュアン卿の手駒を仕掛けられたら一般人じゃ太刀打ち出来ないし・・・・・・一応、家と店の結界強化しておこうかしら」
マリス嬢、実家に結界張ってるんだ。
まぁ、白の魔力はレア度で言えばSSRみたいなものだから、魔法管理局以外にも欲しがるところは多くあるのだろう。
『祝愛のマナ』でも白の魔力を狙う闇組織やら非合法の研究所やらあったし。
ルートによってはヒロイン誘拐されるけど、このマリス嬢ならその心配はなさそうだ。
「ほら、出来たわよ」
「わー! リンス嬢、大人っぽい!」
「よく分からないけど・・・・・・ミリア嬢の感想からして、おかしくはないみたいね」
黒髪に近い深緑の髪が優雅に波打って、ゆらりと右胸に流れている。
シックで体のラインを強調する感じのロングドレスと相まって、まるでセレブ女優さんみたいな感じ。
同級生なのに、ここまで変わるものなのかぁ。
リンス嬢はファッションに対する関心が薄いのか、不思議そうに鏡に映る自身を見つめ、その背後では一仕事終えたマリス嬢がどや顔を浮かべていた。
「そういえば、今時間は──」
私が時計を確認しようとした時、化粧室のドアがノックされ、キリくんがひょっこりと顔を出した。
「あ! ミリア先輩たちいたいたー」
「キリくん、どうしたの?」
「王子様がそろそろ時間だからってミリア先輩たち探してたから、お手伝いしてたんです」
「そっか。って、わ! 確かにもう始まっちゃう!」
時計の針は開始時間ギリギリを指しており、急いでここを出なければ不味い。
「わっ! ミリア先輩、頭にお花咲いてるー!」
「え? ああ、これ? マリス嬢にやって貰ったんだよ~。すごいね~」
「マリス先輩?」
そう言ってキリくんがマリス嬢を見ると、二人の目が合い、キリくんは私の後ろに隠れてしまった。
そういえば、キリくん、マリス嬢苦手って言ってたっけ?
突然のキリくんの態度に、マリス嬢は気にした素振りもなく、
「ミリア嬢、私はデザートの順番の変更を厨房と給仕に伝えてくるから、先に行ってて。キリくん、呼びにきてくれてありがとうね」
「・・・・・・」
「どうかした?」
キリくんが目を丸くして固まっている。
困惑しているというより、純粋に驚いているようだけど、どうしたのだろう。
「マリス先輩、ちょっと変わりました?」
「え? ──そうね、原点回帰したわ!」
「げんてん・・・・・・?」
言葉の意味が分からない様子でキリくんは首を傾げている。教えて? と言いたげにこちらを見てくるので私は簡潔に答えた。
「初心に返るって意味だったかな」
確か、そんな感じの四字熟語だったよね?
「しょしんってなんですか?」
「んー、一番最初の考えとか、目標?」
「へー! ミリア先輩、物知りですね!」
「そうでもないよー」
知らないことはまだまだたくさんです。
キリくんは新しい言葉を覚えてご機嫌だった。
きっと、この後嬉々としてギルハード様に報告しに行くんだろうなぁ。
二年前まで言葉を知らず、悲しいや痛いも分からないと言っていたキリくんは結構知識欲が強いらしい。
そして覚えたものをギルハード様に伝えたいのだろう。ちっちゃい子が外で教えてもらったり、習ったりしたことを親に見せるように。
見せてもらったギルハード様は、触れることはしなくても、キリくんをいっぱい褒めてあげるんだろうなぁ。
「でも、マリス先輩は何をゲンテンカイキしたんですか?」
キリくんの質問に、マリス嬢は堂々と答えた。
「もちろん! 恋よ! やっぱり、妨害工作はよくなかったわ! 初心に戻ってひたすら自分磨きと正攻法のアタックをするわ! 今度こそ初志貫徹! 目指せ! ゴールインよ!」
「こい・・・・・・? 魚釣り?」
「んー、キリくんには少し早いかなぁ」
「兄騎士様に聞けば分かります?」
「多分、無理」
経歴的にギルハード様に恋が何かなんて考える理由も余裕もなかったと思う。
てゆーか、乙女ゲームの割りに『祝愛のマナ』ってなんか恋愛ムードに移行しにくいんだよね。すぐ甘々になったのってギーシャルートくらいじゃない?
にしても、マリス嬢が燃えてる。
「言っておくけど、私も退いたつもりはないし、退くつもりもないわよ」
「・・・・・・いいわよ。上等よ。ま、アンタなら寝取りに走るような性悪女よりはマシでしょう。けど、最後に勝つのは私だから」
「喧嘩上等? もちろん、いつでも相手になるわ」
「待ちなさい。止めなさい。キャットファイトはもういいのよ。だから、拳を握らないで」
背後にメラメラと燃える大火と龍と虎を背負い、マリス嬢とリンス嬢が視線の間だでバチバチと火花を散らす。
こうなると焦っちゃう私だが、今は咄嗟にキリくんの耳を塞いだ自分のファインプレーを褒め称えたい。
「マリス嬢──! 中学生の前で寝取るとか言わない! リンス嬢も直ぐに戦闘態勢に入らない!」
「ミリア先輩ー、時間いいんですかー?」
「ああぁあああ! そうだった────!!!」
本当に開始直前まで慌ただしくて、騒がしい。
にしても、あの二人の前世って一体・・・・・・。
慌てて会場へ向かう最中、私はマリス嬢とリンス嬢のことを考えていた。
あの二人は多分、もう大丈夫かな?
結構な大騒ぎを起こしたとはいえ、互いが転生者と知って、協力しあったりしてたし。
これからは普通に恋のライバルとしてあって欲しいものだ。
傍観者。
恋愛至上主義。
戦闘狂。
転生という奇縁で結ばれた私たちのことは今は置いておいて、いよいよだ。
──いよいよ、待ちに待った仕切り直しの卒業パーティーが始まる。
「ないでしょ」
「ありますよ」
「あるでしょ」
「多数決反対。数の暴力はんたーい」
面倒臭そうにマリス嬢が言う。
二対一という極めて小規模な対決であったが、それは友情はあります派の完全勝利──って、いやいや勝負じゃないですからね?
「マリスじょー・・・・・・私たちが今から始めるのは卒業パーティーなんですけど、一応、友情とかそんな感じの集大成! って感じなんですけど」
「何そのふわふわした感じ。別にいいけど」
「えー。良くないと思うんですけど」
「何が?」
「そんなんでマリス嬢、今日のパーティー楽しめるんですか?」
「ギーシャ王子がいるなら、いつでもどこでも楽しめるわ」
いい笑顔で答えられてしまった。
個人的には罰云々は置いといて、ギーシャたち含む全員に楽しんで貰いたいっていうのが私の目標なんだけど。
「貴女──」
「ん?」
「友達いないの?」
「げほっ!」
リンス嬢────!!!
まさか、その台詞をストレートに言っちゃう人がいるなんて! 思わず噎せたわ!!
しかも、心底憐れむような表情してる!!
嫌味とか煽りとか一切ない、純粋な憐憫の目だよ!
「いなくて何か問題が?」
こっちはこっちで本気で友情の必要性に首傾げてるし! 何だコレ!?
「マリス嬢、それ、ミカさんに言っちゃダメですよ? ひっぱたかれますよ」
「何でよ?」
・・・・・・ヤバい。ここに来てマリス嬢がミカさんを友人認定してない疑惑が浮上してきたぞー?
いや、ミカさんは一昨日ちらりと会っただけだから、実際二人がどれくらいの仲かは知らないけど少なくとも、あっちは友人だと思ってると思う。
「と・に・か・く! ダメです!」
強く言うと、マリス嬢はわかったわと渋々頷いた。
マリス嬢とミカさんの親密さは置いといて、普通に友情なんてありませんなんて、人間関係に亀裂を生みかねない発言だ。
ここにいたのが私とリンス嬢だけでよかった。
正直、現状私たちに友情があるかないかっていったら多分ない。あくまで転生者仲間ってところだ。
しかも、端から見たら、二人は犬猿、二人と私は加害者と被害者。うーん、ほんとなんなんだろね。
「にしても、ミリア嬢はともかく、アンタも友情信じるタイプなのね」
「当然。私が『祝愛のマナ』に出会ったのも友人の勧めだもの」
「あ、リンス嬢は友達に勧められて始めたんですね!」
「ええ。ゲームは家で禁止されてたから、友人の家でやらせて貰ってたわ」
「へー! 私はたまたま見かけた動画広告がきっかけでしたよ~。マリス嬢は?」
ここは話を明るい方へ持っていこう!
『祝愛のマナ』の話題なら、マリス嬢もテンション上がるはず!
「現実逃避にいい方法をネットで検索したら出てきて、そこからズップリだったかしらね」
「ん"んん──────!!!!!」
「「ど、どうしたの!?」」
明るい話題にならねぇ! と、うっかり蹲って床に拳を叩きつけてしまった。
今度はマリス嬢とリンス嬢がハモる。
「・・・・・・オーケー。マリス嬢」
「は、はい」
「話を戻しましょう。主にイクス辺りに」
「イクスって言っても、もう魔法管理局にはいない。このパーティーに現れることはないってことしか分からないわよ。ま、それでよかったのかもだけど」
「いいんですかね?」
「イシュアン卿の目論見を邪魔するって点ではいいんじゃない? あの人の計画的に私とイクスが必要っぽいし」
「ランカータ侯爵の計画って?」
「さぁ?」
「はぁあああ・・・・・・」
前途多難な状況に私は溜め息をついた。
闇魔法。呪術師。鍵。レイセン王国の茨の魔王。白の魔力。魔法管理局。聖魔法団。ランカータ侯爵。
耳慣れないワードのオンパレードだ。
ここら辺はもう、ゲームとは関係ないっぽいし、かと言って放置するのもヤな予感するんだよなぁ。
「正直、イシュアン卿の思惑は分からないけど、要は私がそれに乗らなければいいだけの話でしょ? そこまで深刻になる必要はないわ」
「そうかしら? 貴女の力試しの為に王族に刺客を差し向けるような輩を懐に抱えてるような人なのでしょう? いざとなったら人質戦法とか卑劣な手に打って出られるかもしれないわよ」
リンス嬢から不穏な言葉が飛び出した。
人質かぁ。今回のテロール子爵の凶行を考えると、ないとは言い切れない気がする。
「・・・・・・それは有り得るわね。ギーシャ王子や両親を人質に取られたら不味いわ」
「魔法管理局の大臣なら、王宮内にも息のかかった人がいても不思議じゃありませんからね。けど、ギーシャは自衛手段ありますし、ギルハード様もついているので大丈夫だと思いますよ」
「うちの両親は二人ともレイセン出身だから、魔法使えるけど、主に料理方面に特化してるのよね。それにイシュアン卿の手駒を仕掛けられたら一般人じゃ太刀打ち出来ないし・・・・・・一応、家と店の結界強化しておこうかしら」
マリス嬢、実家に結界張ってるんだ。
まぁ、白の魔力はレア度で言えばSSRみたいなものだから、魔法管理局以外にも欲しがるところは多くあるのだろう。
『祝愛のマナ』でも白の魔力を狙う闇組織やら非合法の研究所やらあったし。
ルートによってはヒロイン誘拐されるけど、このマリス嬢ならその心配はなさそうだ。
「ほら、出来たわよ」
「わー! リンス嬢、大人っぽい!」
「よく分からないけど・・・・・・ミリア嬢の感想からして、おかしくはないみたいね」
黒髪に近い深緑の髪が優雅に波打って、ゆらりと右胸に流れている。
シックで体のラインを強調する感じのロングドレスと相まって、まるでセレブ女優さんみたいな感じ。
同級生なのに、ここまで変わるものなのかぁ。
リンス嬢はファッションに対する関心が薄いのか、不思議そうに鏡に映る自身を見つめ、その背後では一仕事終えたマリス嬢がどや顔を浮かべていた。
「そういえば、今時間は──」
私が時計を確認しようとした時、化粧室のドアがノックされ、キリくんがひょっこりと顔を出した。
「あ! ミリア先輩たちいたいたー」
「キリくん、どうしたの?」
「王子様がそろそろ時間だからってミリア先輩たち探してたから、お手伝いしてたんです」
「そっか。って、わ! 確かにもう始まっちゃう!」
時計の針は開始時間ギリギリを指しており、急いでここを出なければ不味い。
「わっ! ミリア先輩、頭にお花咲いてるー!」
「え? ああ、これ? マリス嬢にやって貰ったんだよ~。すごいね~」
「マリス先輩?」
そう言ってキリくんがマリス嬢を見ると、二人の目が合い、キリくんは私の後ろに隠れてしまった。
そういえば、キリくん、マリス嬢苦手って言ってたっけ?
突然のキリくんの態度に、マリス嬢は気にした素振りもなく、
「ミリア嬢、私はデザートの順番の変更を厨房と給仕に伝えてくるから、先に行ってて。キリくん、呼びにきてくれてありがとうね」
「・・・・・・」
「どうかした?」
キリくんが目を丸くして固まっている。
困惑しているというより、純粋に驚いているようだけど、どうしたのだろう。
「マリス先輩、ちょっと変わりました?」
「え? ──そうね、原点回帰したわ!」
「げんてん・・・・・・?」
言葉の意味が分からない様子でキリくんは首を傾げている。教えて? と言いたげにこちらを見てくるので私は簡潔に答えた。
「初心に返るって意味だったかな」
確か、そんな感じの四字熟語だったよね?
「しょしんってなんですか?」
「んー、一番最初の考えとか、目標?」
「へー! ミリア先輩、物知りですね!」
「そうでもないよー」
知らないことはまだまだたくさんです。
キリくんは新しい言葉を覚えてご機嫌だった。
きっと、この後嬉々としてギルハード様に報告しに行くんだろうなぁ。
二年前まで言葉を知らず、悲しいや痛いも分からないと言っていたキリくんは結構知識欲が強いらしい。
そして覚えたものをギルハード様に伝えたいのだろう。ちっちゃい子が外で教えてもらったり、習ったりしたことを親に見せるように。
見せてもらったギルハード様は、触れることはしなくても、キリくんをいっぱい褒めてあげるんだろうなぁ。
「でも、マリス先輩は何をゲンテンカイキしたんですか?」
キリくんの質問に、マリス嬢は堂々と答えた。
「もちろん! 恋よ! やっぱり、妨害工作はよくなかったわ! 初心に戻ってひたすら自分磨きと正攻法のアタックをするわ! 今度こそ初志貫徹! 目指せ! ゴールインよ!」
「こい・・・・・・? 魚釣り?」
「んー、キリくんには少し早いかなぁ」
「兄騎士様に聞けば分かります?」
「多分、無理」
経歴的にギルハード様に恋が何かなんて考える理由も余裕もなかったと思う。
てゆーか、乙女ゲームの割りに『祝愛のマナ』ってなんか恋愛ムードに移行しにくいんだよね。すぐ甘々になったのってギーシャルートくらいじゃない?
にしても、マリス嬢が燃えてる。
「言っておくけど、私も退いたつもりはないし、退くつもりもないわよ」
「・・・・・・いいわよ。上等よ。ま、アンタなら寝取りに走るような性悪女よりはマシでしょう。けど、最後に勝つのは私だから」
「喧嘩上等? もちろん、いつでも相手になるわ」
「待ちなさい。止めなさい。キャットファイトはもういいのよ。だから、拳を握らないで」
背後にメラメラと燃える大火と龍と虎を背負い、マリス嬢とリンス嬢が視線の間だでバチバチと火花を散らす。
こうなると焦っちゃう私だが、今は咄嗟にキリくんの耳を塞いだ自分のファインプレーを褒め称えたい。
「マリス嬢──! 中学生の前で寝取るとか言わない! リンス嬢も直ぐに戦闘態勢に入らない!」
「ミリア先輩ー、時間いいんですかー?」
「ああぁあああ! そうだった────!!!」
本当に開始直前まで慌ただしくて、騒がしい。
にしても、あの二人の前世って一体・・・・・・。
慌てて会場へ向かう最中、私はマリス嬢とリンス嬢のことを考えていた。
あの二人は多分、もう大丈夫かな?
結構な大騒ぎを起こしたとはいえ、互いが転生者と知って、協力しあったりしてたし。
これからは普通に恋のライバルとしてあって欲しいものだ。
傍観者。
恋愛至上主義。
戦闘狂。
転生という奇縁で結ばれた私たちのことは今は置いておいて、いよいよだ。
──いよいよ、待ちに待った仕切り直しの卒業パーティーが始まる。
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