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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

リラックスアイテム

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「・・・・・・? ・・・・・・?」

 ギーシャはどうしたらいいのか分からず、疑問符を飛ばしながら目で助けを求めてくる。

「人を食べたらいい」という私の言葉を言い方のもんだいでカニバリズム的意味合いで捉えてしまったらしい。

 うん、私が悪かったです。

「いや、そうじゃなくて! 実際に食べるわけじゃないから! 文字! 文字だから! おまじない!」

 このままでは私の思考回路が猟奇的だと誤解されかねないので、慌てて説明を補足する。

「文字? 紙を食べるのか? ああ、だから山羊は穏やかなんだな」

 上手く伝わらない。
「ペンならあるが」と言って、上着のポケットから万年筆を取り出したギーシャの手を押さえる。
 このままじゃ、本気で紙を食べかねない。

「そうじゃなくてね。えーと、手のひらに『人』って字を三回書いて、書いたところを口に押し当ててこう飲み込むの」

 私は試しにお手本を見せてみる。

「それは、空気を吸っているだけでは?」
「まぁ、まぁ、いいから。おまじないなんてそんなものよ。こうすれば上手くいくって思えればいいんだから」
「なるほど。自己暗示みたいなものか」

 ギーシャはそう言って、私が見せたように手のひらに人を書いて飲み込んだ。

(人の字って・・・・・・大陸の言葉グランドロゴスでもいいのかな?)

 当然ながら、ギーシャが自分の手に書いたのは、レイセンの公用語である大陸の言葉だった。
 国によって言語が違ったり、発音が違ったりするけど、大陸の言葉はいわゆる共通語であり、大陸では広く使われている。
 レイセンはお国柄、他国との交流が多いので、会談や交渉をスムーズに行うために大陸の言葉を公用語に採用している。
 ちなみに、古代に使われていた大地の言葉ゲイアロゴスという言語体系も存在するが、近代では魔法関連でしか使用されなくなっている。そもそも、魔法的に特別な意味合いのある言語なので、もともと日常的に使うには向いていなかったとかそういう話を授業で聞いた。

 この世界にも一応漢字に似た文字はあるらしいが、当然大陸では使われていない。
 このおまじないでは、普通なら支え合う形と言われる人の字を使うんだけど、そこに意味はあるのだろうか。
 まぁ、ギーシャの言う通りこれは呪術的な意味合いもないただの自己暗示だしなぁ。言っちゃえばプラシーボ効果に過ぎない。けど、効く人には効くって言うし、気休めにはなるだろう。

 ギーシャはごくりと喉を鳴らして、人を書いた手のひらを見つめている。

「どう?」
「あまり変わらない」

 どうやら、ギーシャには効果が見込めなかったようだ。
 私はガックリと肩を落とした。

「そっかぁ。落ち着くのに必要なものってルーティンとか? でも時間ないし・・・・・・あ、お守りとか」
「お守り?」
「そう。お守りっていうか、安心出来るアイテム。ちっちゃい子が手放そうとしないぬいぐるみとか毛布とか。これがあれば大丈夫ってものない?」

 これも自己暗示っぽいけど、形がある分、拠り所としての役目は果たせるだろう。持ち歩けるサイズなら尚良し。

「何か、今すぐ用意出来るもので、ギーシャが持っていたら安心できるようなものない? あったら言って。ダッシュで持ってくるから」
「安心できるもの・・・・・・」

 ギーシャは人差し指の背で唇を押さえ思案顔だ。
 思いつかなかったらどうしよう。
 とりあえず、甘いものとかギーシャの好きなもの持ってくればいいかな?

 そう考えていると、ギーシャが私の顔を見て「あ」と呟いた。

「なになに? 思いついた?」
「ああ」

 ギーシャが頷いて、私に指を向けた。

「それ」

「え? これ?」

 ギーシャが示したのは、私の頭の両サイドで揺れている、今朝ユリアお姉様に結ってもらった淡いピンクのリボンだった。
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