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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

申請書マジック

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「茶葉の申請? 第三王妃か王女殿下がティーパーティーでも開くのか? 量は?」
「はい。こちらに書かれている銘柄の物を一缶」
「茶葉一缶の申請をわざわざ陛下に?」

 それくらいならわざわざレヴェルに申請する必要はない。或いは、凄まじく値の張る高級茶葉かもしれないが。
 もし、馬鹿高い茶葉だった場合、レヴェルの機嫌がますます下降しかねない。レイセンの財政は安定しているが、合理主義のレヴェルは無駄を嫌う。
 ベルクは横目にレヴェルの反応の確かめたが、意外にもレヴェルは満面の笑みを浮かべていた。

「そうか、そうか。で? 備考欄には何か書かれているか?」
「取り寄せが出来たら、陛下御自ら届けて頂きたいとのことです」
「陛下自ら!? って、あー。お前は聖羽宮の者か」
「はい。こちら、ナルク様からの申請書となります。どうぞお受け取り下さい」
「うむ」

 喜色満面に申請書を受け取ったレヴェルは、鼻歌でも歌い出しそうなほど意気揚々とサインをした。
 ベルクは申請者がナルクと知って納得した。というより、レヴェルにそんな申請を出来るのはナルクとその子供たちくらいだ。
 レヴェルはこの官吏が入って来た時から、聖羽宮の者だと気づいていたのだろう。聖羽宮の人材は全てレヴェルが決めている。兄の側にいる者をこのブラコン王が把握してない訳がなかった。

「これはしっかりと預かったぞ! 手土産を持って届けると伝えてくれ」
「かしこまりました」
「ところで、お前名前は?」
「ティムです。ティム・ターリックと申します」
「そうか。聖羽宮は陛下の管轄だから把握してなかった。ティム・ターリックだな。覚えた」
「是非ともお見知りおきを。サービス残業以外でしたら何でも引き受けますので、必要であればお呼びください」
「官職をブラックみたいに言うんじゃない」
「そうよー。ブラックなのは王と聖女だけよー」
「聖女様」

 シャーロットは軽いノリで言っているようだが、国王と聖女の仕事量は常軌を逸しているのは確かだ。

「それでは、私はこれで失礼します」
「ああ、ご苦労」

 ティムは会釈をして退室する。レヴェルは兄からの申請書を掲げて、子供のようにはしゃいでいる。

「ああ、手土産の茶菓子は何がいいだろうか? 兄様が選んだ茶葉に合うものにしなくては。この銘柄ならフルーツを使用したものが合うな。今ならイチゴか? うん! イチゴは体にもいいからな。イチゴをふんだんに使ったタルトを作らせよう!」

 さっきとは打って変わってレヴェルはご機嫌だ。その変わり様を眺めていたベルクの肩に天幻鳥が止まる。

「流石、ナルク様。タイミングばっちりね」
「あ、やっぱこれ狙い通りですか?」
「ええ。シーエンス家の件はナルク様は既にご存知だし、そもそも申請事態はする予定だったんでしょう。わざわざ王にする必要のない申請をして、それを届けさせるってことは、一緒にお茶しようって誘ってるってことだもの」
「陛下のモチベーションも上がって、プラス自分から休まない陛下に息抜きさせるって寸法か・・・・・・相変わらず、タイミングが神憑ってますね」

 今なら、シーエンス家の話で頭に血の上ったレヴェルを落ち着ける鎮静剤の役割まで果たしている。茶葉を申請するだけで、ここまでの効果を発揮するというのもなかなかだが、それを自覚して絶妙のタイミングで官吏を仕向けてくるナルクもかなり強かだ。
 あの官吏が入室の許可を出す前に入って来たのも、恐らくはナルクの指示だろう。丁度、レヴェルの怒りが最も高かった時だった。とりつく島もないようだったら、勝手に入室していいとでも言われたのだろう。本来なら不敬に当たるが、相手がナルクからの使いであればレヴェルが咎めることはない。

「今日は、あの方のはなかった筈なんですけどね」
「時折、未来を見る魔法でも使えるのかって疑いたくなるわよね。あり得ないけど」

 未来視の魔法は初代国王の手で禁忌魔法として封印された。だからナルクが未来を見ることが出来るというのはあり得ない話だが、そう疑いたくなるほどの手際のよさだった。

「で。ランカータだったな。シャーロット、魔法管理局については最高責任者であるお前に全て任せているが、今はどんな状況だ」

 レヴェルは申請書を丁寧に処理済みの書類箱にいれると、先程よりいくらか軟化した態度でシャーロットに問い掛けた。

「う~ん。何て言うか、細胞分裂した──みたいな?」
「はぁ?」
「つまりね、元々三大臣の派閥で三つに割れてたんだけど、ランカータで更に派閥が二つに分かれちゃったのよ」
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