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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

キリの夢

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「王子というのはそのまま王の子、王の息子という意味だが──そうだな。王子の仕事は──」
「あ、違います。王子様についてじゃなくて、ギーシャ王子様について知りたいんです」

 淡々と王子について説明し始めたギーシャにキリくんが待ったをかける。

「俺について?」

 キリくんが何故自分について知りたがるのか分からない様子のギーシャは顎に手を当て、しばらく黙り込んだ。

「キリくん、どうしてギーシャが気になるの?」

 基本、人懐っこそうに見えて、その実他人に関心の薄いキリくんがギーシャにそう訊ねたのは驚きだった。

「そりゃ、気になりますよ。何せ、王子様は兄騎士様のご主人様なんですから」
「ああ、そういうこと」

 なるほど。そりゃそっか。
 キリくんの質問の意図の裏にはギルハード様がいるのか。納得だわ。
 キリくん的には兄騎士の主だものね。

「俺がどういう人間か知って、キリはどうするんだ?」
「別に。どうこうする気はないですよぉ。ただ、知りたいんです。兄騎士様が選んだ人を。それで将来の参考にします」
「将来って──キリくんは誰かの専任騎士になりたいの? あ、ひょっとしてギーシャの?」

 ギルハード様がギーシャの騎士である以上、キリくんもギーシャの騎士になりたいと言い出しても不思議じゃない。

「んー。兄騎士様と一緒にいる時間が増えるなら、それもいいですけどー。そんな理由じゃ兄騎士様は絶対に認めてくれませんから、今のところご主人様は未定です。そもそも、こんな厄介な体質持ちを騎士にしたいなんて変わり者がいるかどうか」
「騎士団に所属するという道もあるだろう。ギルハードもまだ籍が残っているはずだ」

 騎士は基本的に誰かの専任騎士になるか、国のために動く騎士団に入るかの道がある。極稀にそのどちらにも進まないで、所謂フリーの騎士になっちゃう人もいるけど。ここら辺は騎士は兄騎士から認められて剣を与えられれば、騎士の称号を得られるというレイセン特有のシステムによる選択の幅だろう。
 帝国とか、家督を継がない男の人は問答無用で戦士に育て上げられるって訊いたから、レイセンは職業選択の自由がそれなりに認められている方だとは思う。階級制度があるからか、完全に自由とは言えないけど。後は、まぁ魔法を生業をする人が多いからかなぁ。
 まあ、とにかく。騎士になった人は基本専任か騎士団に就く。中にはギルハード様のように専任やりつつ、騎士団に籍だけ置いてるって人もいるだろう。
 その場合は専任の仕事が優先だけど、有事の際には主君の許可の元、騎士団として動くって感じかな。ギルハード様はギーシャの騎士になる前から騎士団所属だったから、単に籍をそのままにしただけかもしれないけど。

「兄騎士様にも言われましたけど、やっぱり僕は兄騎士様と同じがいいので~。流石に兄騎士様の騎士にはなれませんし」
「騎士の騎士になるのは無理だろう」

 うん。それは無理だね。そもそもギルハード様強すぎるから、護衛の必要性とか全くないし。

「ですよね。というか、僕は兄騎士様から剣を貰えるんでしょうか」

 キリくんがしょんぼりと顔を落とす。
 騎士が騎士候補生に剣を与えるというのは、そう簡単なことではない。授与自体は騎士本人に決定権がある。条件も人それぞれ。
 ギルハード様はあの剣聖から剣を授けられた。そんな方が早々キリくんに剣はあげないだろう。

「騎士とは主君を、国を守る存在だ。ギルハードの性格からしても、その危険な体質を何とかしない限り、恐らく剣は与えられないだろう」

 ギーシャがばっさりと言い放った。

「そうですよねぇ。やっぱり、それが一番の障害かぁ」
「・・・・・・何故、そこまで騎士に拘るんだ?」

 ふと、疑問に思ったらしく、ギーシャがキリくんに訊ねる。

「ギルハードとの経緯は聞いている。だが、故に分からない。ギルハードはお前に望むのは闘いに身を置くことではなく、日々を安寧に過ごすことではないのか?」

 ギーシャは言葉を続けた。そっか。ギーシャもギルハード様とキリくんが出会った経緯を知ってるんだ。
 その問いに、キリくんは笑って答えた。
 それは年不相応な、とても落ち着いていて、けれど夢心地な表情で。

「だって、初めてだったんです。初めて見て、救われた。だから大好きになって、憧れたんですよ」

 暗闇の中で初めて見た光。
 それがキリ・セイゾーンを唯一生かす動力源なのだ。
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