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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

誘い

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「あっはっはっはっはっ!」

 Xがお腹を抱えて笑い転げている。
 いや、笑い飛んでいる? Xの体は宙に浮いていた。
 あれは、飛行魔法というより、位置情報を書き換えた浮遊魔法だろうか? 随分と高度な魔法を使う。かなり訓練されてるのだろう。どのみち、宙で笑いながら転がるとか、器用だな・・・・・・って! それは問題じゃない!

「何笑ってるの! 言っとくけど、大事な話なんだからね!」

 だって、これあやふやにしちゃったら最悪私たちが支払うことになるかもじゃん! まさか、何の関係もないシーエンス家に自腹切らせるわけにもいかないし。

「はーっ! 笑った笑った。でもまー、確かに大事だよね、お金の話は。どーすんの?」

 Xが仮面の人に訊ねる。

「それは私の考えるべきことではない。上に確認しなくては」
「だってさー」
「ふざけないで! まさか、責任こっちに押しつけて逃げる気じゃないでしょうねぇ! それなら、こっちにも考えがあります!」
「考え?」

 本当はこの手は使いたくないんだけど、こっちの責任になると、またギーシャたちの処分を再検討されちゃうかもしれない。それは避けなくちゃ!
 だから私は鬼札を切ることにした。

「ちゃんとそっちで支払ってくれないのなら、陛下にランカータ家に酷いことされたって言いつけます」
「あー」
「そういえば、貴女はメイアーツの──」
「はい。王兄・・の娘のミリア・メイアーツです」
「でしたね」

 どうやら、彼らは私のことも分かってるらしい。

「貴方たちが闇魔法で最初に襲おうとしたのが第三王子であることは知ってましたか?」
「はい。存じておりました」

 王家、公爵家の人間と知りながら襲撃を?
 ますます、この人たちが分からない。

「知っていながら? 何故?」
「我々は与えられた任務を果たすだけ。理由など必要ありませんし、考える必要もありません」
「なら、その理由がある者は? ランカータに追従する者ならば、魔法管理局の関係者か?」
「答えかねます」

 ギーシャの質問にも仮面の人は淡白に答え、ローブを翻して歩き出す。

「あ! こら!」
「ごめんねー? もう帰る時間なんだわ」
「修繕費!」
「やっぱりそこなんだ。面白い子だねー」

 何故そこで私の頭を撫でる、X。

「触んないでくれる? X」
「えっくすって俺のこと?」
「そうだけど」

 肯定するとXはまたけらけら笑う。

「何してる。行くぞ」
「はいほーい。ねぇ、ミッちゃん」
「み、みっちゃん?」
「だってミリアちゃんでしょ? だからミッちゃん♪ 俺の名前はイクスだよ。笑わせてくれたお礼に一つ協力してあげる」

 X改め、イクスは私の耳元に口を寄せ、小さな声で言った。

「明日、魔法管理局においで。ヒントくらいあげるからさ」
「は!? なん──ちょ!」
「どのみち、そっちの白の魔力の使い手さんは来るだろうからね。天敵たる彼女に協力するのは嫌だけど、ミッちゃんならいいよー。じゃ、今度こそバイビー」

 一方的に喋ってイクスは去って行った。なんなの・・・・・・。私が呆然としてると、背後から薄ら寒さを感じる。

「あいつ・・・・・・ぶん殴りたい」
「この私相手に喧嘩を売るとはいい度胸」
「もー! 動けないし、最悪! やっぱ骨折っとけばよかったー!」

 ぶつぶつと呟くマリス嬢、闘気纏ったリンス嬢、怒って喚くキリくん。各々が別ベクトルでキレている。怖!

「申し訳ありません。殿下。私の力量不足のせいで
す」
「いや、呪術師がいるのは流石に想定外だ。気に病むことはない」
「ギーシャの言う通りです。何も出来なかったのは皆一緒ですよ」

 レイセン王国は魔法の国。呪術はほとんど馴染んでいない。突然呪術師が現れて対処しろというのが無理な話だ。
 呪術を扱う貴族の家だって一つしかない。
 とはいえ、あの家が今回の件に関わっているとは思えないんだけど・・・・・・。あの呪術師は何者なんだろう? ランカータ家はどこであの人を?
 疑問は尽きない。
 動けない体で、頭だけが目まぐるしく働いている。

 ──魔法管理局においで。ヒントくらいあげるからさ。

 ようやく体が動くようになるまでの五分弱、私はイクスの思惑について考えていた。
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