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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

容疑者

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 とまれかくまれ、私の前世の成績表については置いといて。
 私は手紙に目を通した。浮かび上がった文字はこうだった。

『イシュアン卿』

「いしゅあん・・・・・・? って、魔法管理局を取りまとめる三大臣の一人の名前ですよね?」
「イシュアン・ランカータ。ランカータ侯爵家の当主だね。あの家は少し過激な思想を持ってるけど、反帝国主義とは関係なかったはずなのだけど」

 お父様の言う通りだ。
 ランカータ家は魔法犯罪に対してとても厳しい。魔法を神聖視し過ぎていて、魔法を犯罪に使うなんてもっての他という考えだ。魔法犯罪を批難することが問題じゃない。むしろ、それは批難されるべきことだし。ただ、ランカータ家は魔法犯罪者は死刑にすべきという極端な意見を唱えている。
 魔法犯罪にだって重犯罪と軽犯罪と呼ばれるものがある。罪は罪だし、犯罪自体ダメなことだけど、だからって例えば飢えて死ぬ寸前で盗みを働いた者と快楽のために殺人を犯した者を一括りにすればそれはどうなんだって意見も出てくる。罪は罰せられなくてはいけないけど、贖わなければいけないものでもある。よくわからないし、考えても結論出ないけど。まぁ、そういうのは法律家や裁判官とか専門の人に任せよう。今は闇魔法だ。

「魔法犯罪を憎むイシュアン卿が闇魔法を使うとも考えにくいですけど」
「いや、イシュアン卿が憎んでいるのは魔法犯罪であって、闇魔法じゃない。むしろ、魔法崇拝者にとっては闇魔法も等しく崇拝対象だよ」
「あくまで許せないのは魔法犯罪者か」

 お父様もギーシャも難しい顔をしている。
 う~ん。パーティー準備が何故こんなことに・・・・・・?

「あ、ミリア。ちょっと不味いかも」

 腕を組んでうんうん唸っている私に、お父様が言った。お父様が不味いというなんて、よっぽどのことかもしれない。

「何かあったんですか?」
「うん。マリス嬢から手紙が来たって訊いて、今、シーエンス家付近にいる子と『接続』してるんだけど、マリス嬢たち襲われてるみたい」

 ──!?

「闇魔法ですか?」

 ギーシャの問いかけには少し、焦りが滲んでいた。

「ミリアたちが言ってたものと特徴は一致しているよ。ただ、一体や二体じゃない」

 複数の闇魔法で作り上げられた疑似生物に襲撃されてるってこと?

「ギーシャ! 今すぐにシーエンス家に行こう!」
「ミリア、そこは窓だ」
「こぉら、足を出さないの。少し落ち着きなさい。いくらライゼンベルトの血でも、訓練も受けずに飛行魔法を使うのは危険だよ」

 お父様の言うことは至極最もだ。私は気が動転していたようで、窓を開け放ち、飛行魔法でシーエンス家にまで飛ぼうとした。だが、お父様の言う通り、今の私じゃシーエンス家に着く前に墜落している可能性が高い。

「でも、何で? ギーシャはここにいるし、マリス嬢たちだって警戒してるだろうに襲って来たの?」

 相手の狙いがさっぱりわからない。いや、それは後でいい。とにかく、シーエンス家に。

「ミリア、落ち着け。深呼吸」
「すーはー・・・・・・やっぱ無理~! 落ち着けるわけないよ!」
「無理でも落ち着け。焦っても何もならないどころか、判断ミスなどを招くこともある。シーエンス家には向かうが、情報も欲しい。叔父上、まだ目は繋がってるんですよね? 他に何か見えますか?」
「ん~? ん、お? おおー!」
「お父様?」
「叔父上?」

 何故か急にお父様が目を輝かせ始めた。え? マリス嬢たちが襲撃されてるんだよね? 何が見えてるの?

「わっ、後ろ後ろ─避けた! それ気づくんだ。凄いね。あ、今の綺麗!」

 まるで面白い映画のDVDを家で観賞しているように何かの感想を述べている。えー、本当に何が起こってるの・・・・・・?

「お父様ー?」
「ああ、ごめんね? つい見いっちゃった。とりあえず、二人を迎えに行ってあげなさい。あんまり心配はいらなそうだけど」

 くすくす笑うお父様の意図が分からなくて、ギーシャを見たら、ギーシャもよくわからないといった顔でこちらを見ていた。
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