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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

ライゼンベルト side:ナルク

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「ミリア、おかわりを持ってきてくれる?」
「はーい。ギーシャもおかわりいる?」
「いや、俺は十分だ」
「そっか」

 手元のティーカップが空になったのを機に、ミリアにおかわりを頼んで席を外してもらった。そのままギーシャに向き合う。

「ギーシャ、恋をしたの?」
「こい?」

 ギーシャがきょとりとする。好きな子が出来たと訊いたけど、やっぱりこの子の中では好きの定義や種類が曖昧になっているっぽい。

「好きな子が出来たんでしょう?」
「マリスのことですか?」
「そうそう。マリス嬢」

 白の魔力を持つ平民の女の子。白の魔力を持つ者が見つかったというのは王宮でも話題になっていた。今は確か、魔法管理局で指導を受けてるようだ。

「恋ばなしようか」
「こい、ばな・・・・・・? 花か何かですか?」
「恋のお話だよ。ギーシャはマリス嬢のどんなところが好きになったのかな?」
「マリスは、周囲に馴染めていない者にも笑いかけてて、マリスといるとほっとするんです」
「なるほど。僕はね、奥さんのエネルギッシュなところが大好きなんだ」

 この子の性格からして、分け隔てなく他者に好意を向ける子なら、憎悪を向けられる恐怖を感じずに済むと考えたってところかな?

 ライゼンベルトの人間は愛されたがりだから。

 じっとギーシャを観察してみた。銀の髪と紫の瞳。それ自体はとても美しいと思うけど、どうにもあの人たちがちらついてしまう。けど、顔立ちは割りとレヴェル似だよねぇ。
 頭の中で可愛い異母弟の顔を浮かべる。愛情に対して歪んだ考えや価値観を持ってしまうのは血の宿命のようなものだから仕方ないとは思うけど。

「あの・・・・・・」
「なぁに?」
「陛下は怒ってましたか?」
「ミリアが怪我したからねぇ。ぷんぷんしてたけど、大分落ち着いたよ」
「そうですか。ミリアの怪我の件、申し訳ありませんでした」
「別にギーシャが怪我を追わせた訳じゃないし、ミリアは許したんでしょう。だったら、僕から言うことはないよ」

 そう答えたら、ギーシャは黙り込んでしまった。多分、次の言葉を考えているのだろう。昔は快活な子だったけど、今は口数が少なくなって、お喋りも苦手になってしまったようだ。
 普段、あまり顔を合わせてないけど、やっぱり父親の反応は気になるらしい。
 ギーシャはあの件・・・で他者と距離を置くようになってしまった。その際、レヴェルはギーシャに対して何もしなかった。いや、どのみち何も出来なかったんだろうけど。
 ギーシャは可哀想だったけど、レヴェルも責められない。もし、あの状態のギーシャとレヴェルが顔を合わせたら取り返しのつかないことになっていただろうから。ある意味、懸命な判断ではあったのだろう。
 代わりに、ミリアが頑張ってくれたのも大きい。
 あの子が何も知らずに毎日のようにギーシャに会いに行ってくれたことは、我が娘ながらいい子に育ってくれたと思う。何故か、急に距離を取った時は驚いたけど、今回の件で完全にとは言わないまでも、元通りに近い関係には戻れたようだし。

 でも、新たな問題が浮上しているのは間違いない。鳥たちからの報告でミリアたちの状況は大体把握している。
 闇魔法に空気を壊してしまったパーティーのやり直し。
 後者はまぁ、形式的であっても王族の人間が謝罪すれば貴族は黙って受けとるだけだろう。けど、それだけじゃダメ。ギーシャにとって得るものがなくては。それはミリアもわかってるだろう。
 僕が手伝うべきは闇魔法の方だね。

「叔父上」
「ん?」
「叔父上から見て、俺とミリアはどう見えますか?」
「仲良しに見えるよ」

 ギーシャの顔が少し綻ぶ。まだ、元通りに戻ったばかりだものね。色々不安なのだろう。

 ライゼンベルトの人間は愛して、愛されないと酷く欠けてしまうから。
 この子も欠けている。レヴェルも。

 僕は愛する人と出会えて、欠けたものを埋めることが出来たけど、レヴェルは欠けたままだった。それは僕がレヴェルの一番になってしまったせいだけど。だから、この子には歪なもので欠けた部分を埋めてほしくないと願う。

「お父様、お待たせしました!」

 ミリアが戻ってきた。
 いつものように笑顔で。

「どうぞ」
「ありがとう」

 カップを受け取る。

「何のお話してたの?」
「こいばなだ」
「恋ばな!? ギーシャとお父様が!? すっごい気になるんだけど!」

 並んでいる娘と甥。なんだか懐かしい光景だ。

「お父様? どうしました?」
「ううん。何でもない」

 大切なものを取り戻した可愛いこの子たちの先行きに不安の種は不要だ。なるべく排除しておきたい。

「じゃあ、闇魔法の件の対策を考えようか」

 そのために、ちょっと頑張ろうかな。
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