69 / 183
第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」
ライゼンベルト side:ナルク
しおりを挟む
「ミリア、おかわりを持ってきてくれる?」
「はーい。ギーシャもおかわりいる?」
「いや、俺は十分だ」
「そっか」
手元のティーカップが空になったのを機に、ミリアにおかわりを頼んで席を外してもらった。そのままギーシャに向き合う。
「ギーシャ、恋をしたの?」
「こい?」
ギーシャがきょとりとする。好きな子が出来たと訊いたけど、やっぱりこの子の中では好きの定義や種類が曖昧になっているっぽい。
「好きな子が出来たんでしょう?」
「マリスのことですか?」
「そうそう。マリス嬢」
白の魔力を持つ平民の女の子。白の魔力を持つ者が見つかったというのは王宮でも話題になっていた。今は確か、魔法管理局で指導を受けてるようだ。
「恋ばなしようか」
「こい、ばな・・・・・・? 花か何かですか?」
「恋のお話だよ。ギーシャはマリス嬢のどんなところが好きになったのかな?」
「マリスは、周囲に馴染めていない者にも笑いかけてて、マリスといるとほっとするんです」
「なるほど。僕はね、奥さんのエネルギッシュなところが大好きなんだ」
この子の性格からして、分け隔てなく他者に好意を向ける子なら、憎悪を向けられる恐怖を感じずに済むと考えたってところかな?
ライゼンベルトの人間は愛されたがりだから。
じっとギーシャを観察してみた。銀の髪と紫の瞳。それ自体はとても美しいと思うけど、どうにもあの人たちがちらついてしまう。けど、顔立ちは割りとレヴェル似だよねぇ。
頭の中で可愛い異母弟の顔を浮かべる。愛情に対して歪んだ考えや価値観を持ってしまうのは血の宿命のようなものだから仕方ないとは思うけど。
「あの・・・・・・」
「なぁに?」
「陛下は怒ってましたか?」
「ミリアが怪我したからねぇ。ぷんぷんしてたけど、大分落ち着いたよ」
「そうですか。ミリアの怪我の件、申し訳ありませんでした」
「別にギーシャが怪我を追わせた訳じゃないし、ミリアは許したんでしょう。だったら、僕から言うことはないよ」
そう答えたら、ギーシャは黙り込んでしまった。多分、次の言葉を考えているのだろう。昔は快活な子だったけど、今は口数が少なくなって、お喋りも苦手になってしまったようだ。
普段、あまり顔を合わせてないけど、やっぱり父親の反応は気になるらしい。
ギーシャはあの件で他者と距離を置くようになってしまった。その際、レヴェルはギーシャに対して何もしなかった。いや、どのみち何も出来なかったんだろうけど。
ギーシャは可哀想だったけど、レヴェルも責められない。もし、あの状態のギーシャとレヴェルが顔を合わせたら取り返しのつかないことになっていただろうから。ある意味、懸命な判断ではあったのだろう。
代わりに、ミリアが頑張ってくれたのも大きい。
あの子が何も知らずに毎日のようにギーシャに会いに行ってくれたことは、我が娘ながらいい子に育ってくれたと思う。何故か、急に距離を取った時は驚いたけど、今回の件で完全にとは言わないまでも、元通りに近い関係には戻れたようだし。
でも、新たな問題が浮上しているのは間違いない。鳥たちからの報告でミリアたちの状況は大体把握している。
闇魔法に空気を壊してしまったパーティーのやり直し。
後者はまぁ、形式的であっても王族の人間が謝罪すれば貴族は黙って受けとるだけだろう。けど、それだけじゃダメ。ギーシャにとって得るものがなくては。それはミリアもわかってるだろう。
僕が手伝うべきは闇魔法の方だね。
「叔父上」
「ん?」
「叔父上から見て、俺とミリアはどう見えますか?」
「仲良しに見えるよ」
ギーシャの顔が少し綻ぶ。まだ、元通りに戻ったばかりだものね。色々不安なのだろう。
ライゼンベルトの人間は愛して、愛されないと酷く欠けてしまうから。
この子も欠けている。レヴェルも。
僕は愛する人と出会えて、欠けたものを埋めることが出来たけど、レヴェルは欠けたままだった。それは僕がレヴェルの一番になってしまったせいだけど。だから、この子には歪なもので欠けた部分を埋めてほしくないと願う。
「お父様、お待たせしました!」
ミリアが戻ってきた。
いつものように笑顔で。
「どうぞ」
「ありがとう」
カップを受け取る。
「何のお話してたの?」
「こいばなだ」
「恋ばな!? ギーシャとお父様が!? すっごい気になるんだけど!」
並んでいる娘と甥。なんだか懐かしい光景だ。
「お父様? どうしました?」
「ううん。何でもない」
大切なものを取り戻した可愛いこの子たちの先行きに不安の種は不要だ。なるべく排除しておきたい。
「じゃあ、闇魔法の件の対策を考えようか」
そのために、ちょっと頑張ろうかな。
「はーい。ギーシャもおかわりいる?」
「いや、俺は十分だ」
「そっか」
手元のティーカップが空になったのを機に、ミリアにおかわりを頼んで席を外してもらった。そのままギーシャに向き合う。
「ギーシャ、恋をしたの?」
「こい?」
ギーシャがきょとりとする。好きな子が出来たと訊いたけど、やっぱりこの子の中では好きの定義や種類が曖昧になっているっぽい。
「好きな子が出来たんでしょう?」
「マリスのことですか?」
「そうそう。マリス嬢」
白の魔力を持つ平民の女の子。白の魔力を持つ者が見つかったというのは王宮でも話題になっていた。今は確か、魔法管理局で指導を受けてるようだ。
「恋ばなしようか」
「こい、ばな・・・・・・? 花か何かですか?」
「恋のお話だよ。ギーシャはマリス嬢のどんなところが好きになったのかな?」
「マリスは、周囲に馴染めていない者にも笑いかけてて、マリスといるとほっとするんです」
「なるほど。僕はね、奥さんのエネルギッシュなところが大好きなんだ」
この子の性格からして、分け隔てなく他者に好意を向ける子なら、憎悪を向けられる恐怖を感じずに済むと考えたってところかな?
ライゼンベルトの人間は愛されたがりだから。
じっとギーシャを観察してみた。銀の髪と紫の瞳。それ自体はとても美しいと思うけど、どうにもあの人たちがちらついてしまう。けど、顔立ちは割りとレヴェル似だよねぇ。
頭の中で可愛い異母弟の顔を浮かべる。愛情に対して歪んだ考えや価値観を持ってしまうのは血の宿命のようなものだから仕方ないとは思うけど。
「あの・・・・・・」
「なぁに?」
「陛下は怒ってましたか?」
「ミリアが怪我したからねぇ。ぷんぷんしてたけど、大分落ち着いたよ」
「そうですか。ミリアの怪我の件、申し訳ありませんでした」
「別にギーシャが怪我を追わせた訳じゃないし、ミリアは許したんでしょう。だったら、僕から言うことはないよ」
そう答えたら、ギーシャは黙り込んでしまった。多分、次の言葉を考えているのだろう。昔は快活な子だったけど、今は口数が少なくなって、お喋りも苦手になってしまったようだ。
普段、あまり顔を合わせてないけど、やっぱり父親の反応は気になるらしい。
ギーシャはあの件で他者と距離を置くようになってしまった。その際、レヴェルはギーシャに対して何もしなかった。いや、どのみち何も出来なかったんだろうけど。
ギーシャは可哀想だったけど、レヴェルも責められない。もし、あの状態のギーシャとレヴェルが顔を合わせたら取り返しのつかないことになっていただろうから。ある意味、懸命な判断ではあったのだろう。
代わりに、ミリアが頑張ってくれたのも大きい。
あの子が何も知らずに毎日のようにギーシャに会いに行ってくれたことは、我が娘ながらいい子に育ってくれたと思う。何故か、急に距離を取った時は驚いたけど、今回の件で完全にとは言わないまでも、元通りに近い関係には戻れたようだし。
でも、新たな問題が浮上しているのは間違いない。鳥たちからの報告でミリアたちの状況は大体把握している。
闇魔法に空気を壊してしまったパーティーのやり直し。
後者はまぁ、形式的であっても王族の人間が謝罪すれば貴族は黙って受けとるだけだろう。けど、それだけじゃダメ。ギーシャにとって得るものがなくては。それはミリアもわかってるだろう。
僕が手伝うべきは闇魔法の方だね。
「叔父上」
「ん?」
「叔父上から見て、俺とミリアはどう見えますか?」
「仲良しに見えるよ」
ギーシャの顔が少し綻ぶ。まだ、元通りに戻ったばかりだものね。色々不安なのだろう。
ライゼンベルトの人間は愛して、愛されないと酷く欠けてしまうから。
この子も欠けている。レヴェルも。
僕は愛する人と出会えて、欠けたものを埋めることが出来たけど、レヴェルは欠けたままだった。それは僕がレヴェルの一番になってしまったせいだけど。だから、この子には歪なもので欠けた部分を埋めてほしくないと願う。
「お父様、お待たせしました!」
ミリアが戻ってきた。
いつものように笑顔で。
「どうぞ」
「ありがとう」
カップを受け取る。
「何のお話してたの?」
「こいばなだ」
「恋ばな!? ギーシャとお父様が!? すっごい気になるんだけど!」
並んでいる娘と甥。なんだか懐かしい光景だ。
「お父様? どうしました?」
「ううん。何でもない」
大切なものを取り戻した可愛いこの子たちの先行きに不安の種は不要だ。なるべく排除しておきたい。
「じゃあ、闇魔法の件の対策を考えようか」
そのために、ちょっと頑張ろうかな。
0
お気に入りに追加
3,268
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
うろ覚え乙女ゲームの世界に転生しました!モブですらないと思ってたのに……。
みなみ ゆうき
恋愛
家も家族も身分さえも失い、身売り同然で親子以上に年の差がある辺境伯の後妻となった元子爵令嬢メリンダ。しかし一ヶ月も経たないうちに夫が急死。夫の葬儀に現れたのは、ほぼ絶縁状態だと聞いていた辺境伯の息子のアーネストだった。
「父がいなくなった以上、貴女がここに留まることは許さない」
冷たい表情でそう告げるアーネストを見ているうちに突如前世の記憶が蘇る。
あれ? この顔絶対どっかで見たよね……?
このイケメン、もしかしてアイツじゃね?
自分が昔やったことのある乙女ゲームの世界らしいことに気付いたものの、内容どころかタイトルすらもうろ覚え。
覚えている事はというと、攻略対象者が全員トラウマ持ちという設定と、攻略対象者の誰一人として好意を持てなかったという記憶のみ。
ゲーム開始まで後三年。
出来れば関わりたくないと思っているのに、何故か攻略対象者達と関わることになってしまった上に、このゲームでの自分の役割を知り、運命から逃れるために全力で抗おうとする主人公の話。
【完結】痛いのも殺されるのも嫌なので逃げてもよろしいでしょうか?~稀代の悪女と呼ばれた紅の薔薇は二度目の人生で華麗に返り咲く~
黒幸
恋愛
『あなたに殺されたくないので逃げてもよろしいでしょうか?~悪妻と呼ばれた美しき薔薇は二度目の人生で華麗に返り咲く~』の改訂版となります。
大幅に加筆修正し、更新が分かりにくくなる原因となっていた闇堕ちルートがなくなります。
セラフィナ・グレンツユーバーは報われない人生の果てに殺され、一生を終えた。
悪妻と謗られた末に最後の望みも断たれ、無残にも首を切られたのだ。
「あれ? 私、死んでない……」
目が覚めるとなぜか、12歳の自分に戻っていることに気付いたセラフィナ。
己を見つめ直して、決めるのだった。
「今度は間違えたりしないわ」
本編は主人公であるセラフィナの一人称視点となっております。
たまに挿話として、挟まれる閑話のみ、別の人物による一人称または三人称視点です。
表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。
悪役令嬢はヒロインの幼なじみと結ばれました
四つ葉菫
恋愛
「シャルロッテ・シュミット!! お前に婚約破棄を言い渡す!」
シャルロッテは婚約者である皇太子に婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には『ヒロイン』の姿が。
理由はシャルロッテがヒロインを何度も虐めたためだ。
覚えのない罪ではあるが、ここまでの道のりはゲームの筋書き通り。悪役は断罪される運命なのだろうと、諦めかけたその時――。
「ちょっと待ってくださいっ!!」
ヒロインの幼なじみであり、ゲームのサポートキャラであるカイル・ブレイズが現れた――。
ゆる〜い設定です。
なので、ゆる〜い目でご覧下さい。
この国の王族に嫁ぐのは断固拒否します
鍋
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢?
そんなの分からないけど、こんな性事情は受け入れられません。
ヒロインに王子様は譲ります。
私は好きな人を見つけます。
一章 17話完結 毎日12時に更新します。
二章 7話完結 毎日12時に更新します。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
道産子令嬢は雪かき中 〜ヒロインに構っている暇がありません〜
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「レイシール・ホーカイド!貴様との婚約を破棄する!」
……うん。これ、見たことある。
ゲームの世界の悪役令嬢に生まれ変わったことに気づいたレイシール。北国でひっそり暮らしながらヒロインにも元婚約者にも関わらないと決意し、防寒に励んだり雪かきに勤しんだり。ゲーム内ではちょい役ですらなかった設定上の婚約者を凍死から救ったり……ヒロインには関わりたくないのに否応なく巻き込まれる雪国令嬢の愛と極寒の日々。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる