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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

突進少女

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「香水は種類分けて下から三段目の棚。大きい鉢植えは重ねて端に置いて。ハンカチーフも刺繍の種類別にチェストに閉まって」
「はぁい」

 私はマリス嬢の指示に従って、開けた小箱から香水の瓶を取り出し、棚に入れた。隙間なく、多めに仕舞えるように均一に並べてっと。
 マリス嬢も小箱を開けてポプリやら小さい植木鉢やら花の詩集などを棚に仕舞っている。

「五箱持って来ました。空いた箱はありますか?」
「そこに空になったのが三箱あります」

 大きめの木箱を三箱持ったギルハード様と二箱持ったギーシャが部屋に入ってくる。
 今は私とマリス嬢、ギーシャとギルハード様の二手に別れての作業中だ。
 木箱や小箱は夕方に業者が回収しにくるのもあるけど、なりよりこの量は裏倉庫に入りきらないから、開けられるものは開けて仕舞うというのを繰り返している。
 私とマリス嬢が収納係、ギーシャとギルハード様が運ぶ係だ。

「後、何箱あります?」
「十二箱だな」
「まだ開けてないのはアクセサリーとかの小物と防枯魔法材とかの薬品類と如雨露と土。小物と薬品類は出して仕舞って、如雨露と土は積んどくしかないですね」

 マリス嬢がとんとんとペンで納品書を挟んだクリップボードを叩いて言った。

「じゃあ、そっちを先に持ってくる」
「お願いします」

 ギーシャとギルハード様が外に出ると、マリス嬢は黙々と作業に戻る。

「何?」

 私がじーっとマリス嬢を見ていたからだろう。マリス嬢がむっとした表情でこちらに視線を寄越す。

「ああ、いえ。ギーシャの前なのに大人しいなーって思って」
「別に。今この状況で何かするのは得策じゃないと思ってるだけよ。下手やって本当にギーシャ王子と一緒にいられなくなっても困るし。それより手を動かして」
「はぁ」

 意外な程に淡々としているマリス嬢に返事をして、私も作業に戻る。

「そういえば、モモ以外にはどんな花を購入したんですか?」

 黙って作業するのも飽きてきて、私はマリス嬢に訊ねた。

「え? そうね。チューリップとか水仙とか季節の花やピンクとか白の花よ。ただ、濃い色の花がチューリップくらいしかないのよね。もうちょっと欲しいのだけれど」
「じゃあ、出来たらうちの一年薔薇を持っていきましょうか?」
「ほんと?」
「お姉様に訊いてみないとですけど、多分花瓶数個分なら譲って頂けると思います」

 お姉様はガーデニングが趣味で、メイアーツ家の庭の四分の一は姉が全て管理している花園と化している。お姉様は薔薇の栽培が特に好きで、年始に咲き、年末に散るという一年薔薇という薔薇を育てている。他の薔薇はまだ蕾だけど、この花は今日も生き生きと咲いていた。
 お姉様は育てた花をプレゼントしたり、配ったりするのも好きだから快く分けてくれると思う。

「一年薔薇か。色は?」
「濃い色ですと、赤、青、紫、黄色、橙などがありますね」
「ふんふん。だとすると、小ぶりの花と合わせて、あのリボン掛けたらいいかも」

 花の飾り付けについた何やらぶつぶつと思案しているマリス嬢。その際も手は止まってない。口と頭と手を同時に動かせるタイプのようだ。
 作業を続けていると、がちゃりと倉庫の扉が開かれた。てっきり、ギーシャたちが在庫を持ってきたんだと思ったけど、入ってきた人は勢いよくマリス嬢へと突進していった。

「マ・リ・ス~!」
「うひゃあっ」

 マリス嬢が悲鳴を上げて尻餅を着く。

「もー、帰ってたんなら一声かけなさいよ!」
「こんな狭い場所で突進してこないでよ、ミカ」

 橙色の大きなリボンで結われた焦げ茶色のポニーテールが本人の動きに合わせてふさふさと左右に揺れ、ぱっちりとした若々しい花の芽のような緑の瞳がマリス嬢を見つめる。

 明るく活発そうで、春の風のような少女が突如として現れた。
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