上 下
26 / 183
第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

物置部屋のティータイム

しおりを挟む
 なんとかティーカップを入手出来た私は、テルファ様と別れ、物置部屋へと戻った。

「大分遅くなっちゃったな・・・・・・ギーシャ王子、お待たせしました」
「お帰り」

 部屋に入ると、ギーシャ王子がティーポットを持って待っていた。
 何をしているのかと思ってよく見ると、ティーポットが少し赤みを帯びている。これは、魔法を使った時に現れる魔法光だ。赤ということは炎とか熱系だな。

「温め直してくれたんですか?」
「ああ。冷めてきたから。遅かったが、何かあったのか?」
「いえ、ちょっと道に迷ってボスキャラに遭遇しただけです」
「は?」

 ギーシャ王子が目をぱちくりさせてるが、私は気にせず持っていた小箱から先程テルファ様に譲渡されたティーカップとソーサーを取り出した。
 ギーシャ王子はそれをトレイの上に起き、温め直した紅茶を注ぐ。トクトクという音と一緒に紅茶の香りが鼻腔を擽った。

「砂糖はいくつ入れる?」
「二つで」

 私が手をピースの形にして言うと、ギーシャ王子がシュガーポットからちっちゃな角砂糖用のトングで角砂糖を挟み、ぽとんぽとんと二つカップの中に落とした。
 それからティースプーンでかき混ぜる。角砂糖が完全に溶けきったのを確認すると、ギーシャ王子はソーサーを持って、私に紅茶を差し出した。

「ありがとうございます。いただきます」

 取っ手に指をかけ、カップを音を立てないように持ち上げて一口啜る。
 さすが、王族が飲む紅茶。とても芳醇だ。
 角砂糖のおかげでほんのり甘い紅茶は疲れた体に染み渡るようだった。はぁ~うんまい。

「美味しいです!」
「ギルハードは紅茶を淹れるのが上手いからな」
「え!? これ、ギルハード様が淹れたんですか?」
「そうだぞ」

 そういえば、持ってきたのはギルハード様って言ってたような・・・・・・。でも、てっきり淹れたのは侍女さんか誰かだと思ってた。
 思わずまじまじと手元の紅茶を見つめてしまう。

「どうした?」
「いえ。少し意外だったもので」
「そうなのか?」
「なんというか、ギルハード様はあまり生活感を感じない方なので・・・・・・」

 The・騎士! といったギルハード様の姿が頭に浮かぶ。あ、でもキリくんの面倒を見ている時のギルハード様はちょっとお父さんっぽいかも?
 ギーシャ王子は空になった自分のティーカップにおかわりを注ぐと、角砂糖を三つ落とす。

「相変わらず、甘党なんですね」
「ああ。茶菓子があったら一つしか入れないんだがな」
「私も甘いものを食べる時は入れませんね」
「知ってる」

 甘いものに甘い飲み物は合わないもんね。
 それから私たちはしばらく無言で紅茶を味わった。ギーシャ王子はさっきのように入念に紅茶に息を吹きかけて冷ましていたから、私のカップが先に空になった。

「おかわりいるか?」
「そうですね・・・・・・いただきます」

 再び、透き通った紅に満たされたカップを両手で包み込み、その中に映り込んだ自分の顔を見つめる。
 そこにいる私の顔には逡巡が浮かんでいた。

 迷っているのね、ミリア。
 けど、ギーシャ王子と話さなきゃ。

 心を決め、私は不安を飲み込むように紅茶を一気飲みした。

「──っ!? あつっ!? あっつ!!! ゲホッゴホッ!」
「ミリア!?」

 ろくに冷ましていなかった紅茶を一気飲みしたせいで、熱いやら噎せたやらで咳き込んでしまった。
 けほけほしてる私の背中をギーシャ王子が優しく擦ってくれた。しばらくそうして貰い、ようやく呼吸が落ち着いた私は大きく深呼吸して、姿勢を直した。

「すみません」
「大丈夫か?」
「ええ。もう落ち着きました」

 これから結構真面目な話をするというのに、格好つかないなぁ。いや、紅茶を吐き出さなかっただけ良かったと思うべき?

「ギーシャ王子」
「何だ?」

 隣で私を覗き込んでいるギーシャ王子の名前を呼ぶ。

「あのね、少し私の話を聞いてくれる?」

 昔のような口調でそう言うと、ギーシャ王子の指先がぴくりと動いたような気がした。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

処理中です...