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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

包装会話

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「さて、と」
「何をしてるんですか?」

 テルファ様が屈むと、食器棚の下の引戸を開け、何かを探すようにごそごそとやりだした。

「箱を探してるんだよ。後、緩衝材。確か、ここら辺に・・・・・・あ、あった」

 テルファ様が小箱と緩衝材が入っているであろう袋を取り出して立ち上がる。

「ティーカップを包むんですか?」
「そうだよ。陶器をそのまま持って帰る訳にはいかないでしょう。貸して」

 促されるまま、ティーカップをテルファ様に手渡した。テルファ様は慣れた手つきでティーカップを緩衝材で包む。

「なんなら、ラッピングもしようか? 贈り物用の綺麗な包み紙とリボンもあるよ」
「いえ。すぐに使うので結構です」
「そうだったね」

 何が愉快なのか、テルファ様はくすくすと笑う。どうにもこの人の笑いのツボがわからない。

「そういえば、叔父上が倒れたそうだね」
「え?」
「あれ? 違うの?」
「お父様なら先程、血を吐かれましたが、倒れてはいませんね。王様が連れてきたカルム先生が応急措置をしてくれて、その後リッカ先生にも診ていただいたので」
「サティア医師じゃなくて、ベアテル医師?」

 お父様の主治医のリッカ先生ではなく、カルム先生の名前が先に出てきたのが少し意外だったのだろう。テルファ様が不思議そうな顔をしているので私はつけ足した。

「王様が医務塔にリッカ先生を呼びに行く途中でカルム先生を見つけたそうで、時短目的でカルム先生を連れて来られたんです」
「ああ、そういうこと」

 テルファ様は納得したように頷いて、緩衝材に包んだティーカップを箱に仕舞う。それから蓋をして、私に箱を差し出した。

「王自ら医師を呼びに行くなんて、困ったものだね。陛下は。はい、どうぞ」
「ありがとうございます。確かに陛下の行動には時々驚かされますが、感謝していますよ。おかげでお父様は健康を維持出来ていますから」

 王様は生まれつき体の弱いお父様を気遣って──王様がお父様と離れたくないのもあるのだろうけど──王宮に滞在させているけど、そのことは感謝している。王宮なら医療設備も整っているし、お父様にとっても生まれ育った場所だから安静に出来る。
 なかなかうちに帰って来られないのは寂しいけど、会いに来ればいつでも会えるから、我慢出来る。
 重度のブラコンだからこそ、安心してお父様を任せられるのだ。そのせいか王様はうちのお母様との折り合いが悪いけど・・・・・・。

「そう。まぁ、公務を疎かにしてる訳でもないし、王としては完璧な方だから、文句のつけようがないんだけどね。どうも、叔父上のこととなると、ネジが飛ぶから」
「それには同意します」

 私は苦笑して頷いた。

「でも、叔父上の症状がそこまで酷くないみたいでよかったよ。お大事にって伝えておいて」
「それは構いませんけど・・・・・・ご自分で伝えられたらいかがですか? お父様、テルファ様に会いたがっていましたよ」
「・・・・・・うん、時間があったらね」

 一瞬、テルファ様が困惑したように見えた。しかも、適当にはぐらかされた気がする。
 少しもやもやしたが、ギーシャ王子を待たせっぱなしなのを思い出し、私は慌ててテルファ様に会釈した。

「私、そろそろ戻らないと。ティーカップありがとうございました。失礼します」
「大丈夫? 一人で戻れる?」
「はい。ここから出口までの道は覚えてますので、迷うことはないと思います」
「そう。ギーシャによろしく」

 ・・・・・・ん?

「あの、私、ギーシャ王子の名前出しましたか?」

 ギーシャ王子の話はしたけど、これからギーシャ王子と一緒にお茶するとは言ってないはず・・・・・・なんで、わかったんだろ?

「ああ、簡単だよ。ミリアがわざわざ王族の居住空間である蕾宮まで来て一人でお茶する訳ないし、蕾宮にいる人間でミリアが一緒にお茶をするのはギーシャがエミアくらい。エミアは今日、知り合いのサロンに行っているらしいから消去法でギーシャだと思ったんだよ。それにミリアが先日の件を色々任されたって訊いて、お茶でもしながらギーシャと話すんじゃないかなって」

 ・・・・・・うん。
 正解だし、昨日リンス嬢とマリス嬢のキャットファイトを意気揚々と観察していた私が言えた義理もないけど、人を観察しても分析はしないで欲しい!

 やっぱり、この人は苦手だ。
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