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第一章 公爵令嬢曰く、「好奇心は台風の目に他ならない」

似てる? 似てない?

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「おや、どうしたの? 顔が引きつっているよ」
「元からこういう顔ですので。用件がないのなら失礼していいでしょうか? 少し急いでますので」

 私はさっさと切り上げてしまおうと、素っ気なく答えた。
 だが、テルファ様は仮面のような笑みを張りつけたままじりじりと距離を詰めてくる。ちょ、怖いって。

「偶然見かけた従妹に話しかけるのに、いちいち理由がいるの? 用がなければ話しかけちゃダメ?」
「ダメではないですけど・・・・・・」

 そうこうしているうちにテルファ様は目の前にいた。長身だから、近づくと見下ろされる格好になってしまう。
 なんだか自分が威圧されている小動物にでもなった気分だ。
 私を見下ろしているテルファ様は眉を下げていて、親の機嫌を窺う子供のような顔をしている。なんだ、この状況・・・・・・。

 端的に言うと、私はテルファ様が苦手である。
 テルファ様は『祝愛のマナ』の第一作目から登場してたけど、その時は普通の脇役だった。
 乙女ゲームの続編やファンディスクでよくある既存、新キャラの攻略対象追加現象でファンディスクでは第二王子と一緒に攻略対象として追加されていた。

 けど、ゲームをプレイしてもこの王子の内面はよくわからなかった。
 なんというか、言っていることが間違ってないけど、胡散臭いというか、模範解答だけど、薄っぺらいというか・・・・・・。
 転生して、この人と従兄妹という関係になってはっきりと自覚した。私はこの人がめっちゃ苦手だ。
 よくわからないけど、この人はなんか良くない。テルファ様と話している時はいつも脳内危険信号がちかちかと点滅して、警戒音が鳴り響いている。
 なんだろ? 女の勘? 野性の勘? 何故そう思うのかがわからないのも不安を煽られる。とにかく、あまりこの人とは一緒にいたくない。

 私がどうやってこの場から逃げるか考えていると、私をじっと見ていたテルファ様にいきなり顎を掬われた。

「はい?」

 これは、いわゆる顎くいとかいうやつでは?
 乙女ゲームのスチルで見たな。いや、テルファ様ではなかったけど。いや、そうじゃなくて、何で私はテルファ様に顎くいされてるんだ?

「あのー、テルファ様?」
「こうやってよく見ると、存外叔父上に似ているんだね」
「へ?」

 いや、離して欲しいんですけど。
 マジでなんだこれ・・・・・・。
 似てるって言葉からして、叔父上ってお父様のことだよね?

「そりゃあ、親子ですから似てても不思議ではないでしょう」

 女の子は父親に似やすいっていうし。あ、でもお姉様はお母様似だな。
 それに似てるって言っても、髪の色や目元くらいだろう。お父様は少したれ目で、私は丸目だけど、伏し目の時は似てるって言われるし。

「んー、でもやっぱ、アルクの方が似てるかな」

 アルクというのはうちの長兄だ。確かにお父様とアルクお兄様は顔立ちはよく似ている。性格は正反対だけど。

「そうですね。もういいですか? 離してください」

 私がむすっとした顔でで睨むと、テルファ様は苦笑しながら手を離してくれた。あーびっくりした。

「ごめんね? 怒った?」
「怒ってませんけど」
「そうよかった。ミリアは笑った方がかわいいよ」

 なんだか、お父様が言いそうな台詞でぞわぞわする。なんでこの人、お父様に似てるのかな。叔父と甥だから? まさか寄せてるってことはないだろうけど。

「メイアーツの兄妹は皆どこか似てるよね。うちとは違うなぁ」
「腹違いだからでは?」

 王家の四人の子供は第二王子と第一王女以外は腹違いなため、容姿があまり似ていない。いや、第二王子と第一王女もあまり似てないけど、あれは性別も性格も違うから印象も変わってくるのだろう。
 特にギーシャ王子は・・・・・・。

「そうだね。特にギーシャは帝国の方の血が濃く出たから、僕と並んでても兄弟だろうとは思われないだろうね」

 その言葉に、ギーシャ王子の姿が脳裏に浮かぶ。
 銀糸の髪と淡い紫の瞳。
 大陸の覇王たるエーデルグラン帝国王家の色。

 ギーシャ王子が、エーデルグラン帝国の王女だったお母さんから受け継いだ、色。
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